2017年には全3部作にわたる新劇場版「ハイエボリューション」を始動。新たに生まれ変わった物語、これまで語られなかったストーリーを加えたリブートは多くのファンを唸らせた。
今回はそんな同作のBD/DVDリリースを記念し、『エウレカセブン』が大好きでたまらないというm-floの☆Taku Takahashiとシリーズ未鑑賞だったDÉ DÉ MOUSEという2人のアーティスト同士で対談を実施。
サウンドクリエイターたちが見る『交響詩篇エウレカセブン』の魅力、そして『ハイエボリューション』で新たに描き出されたものについて語り合ってもらった。
文:オグマフミヤ 編集:ふじきりょうすけ
2000年代を代表するアニメ『交響詩篇エウレカセブン』
『交響詩篇エウレカセブン』のはじまりは2005年のTVシリーズまで遡る。随所に細かなこだわりが見られるマニアックさと、それでいて王道なストーリー展開という魅力が評価され、2000年代を代表するアニメーションの1つとなった。
その後も劇場版『ポケットが虹でいっぱい』の製作や直接の続編となる『エウレカセブンAO』の放送など展開を続け、作品ごとに「今、何を描くべきか」を問い続けてきた。
そして新たに進化を遂げるべく、TVシリーズを再構築した新劇場版3部作「ハイエボリューション」を2017年にスタートさせた。
「ハイエボリューション」でも、ドイツのテクノユニット・Hardfloorが挿入歌を担当するなど、このアニメを語る上で音楽は欠かせない要素となっている。
そんな本作を最前線で活躍するアーティストたちはどう見るのか。☆Taku TakahashiとDÉ DÉ MOUSEの2名の対談をお届けする。
『交響詩篇エウレカセブン』はサンプリングに満ちている
☆Taku Takahashi(以下☆Taku) 僕が『エウレカセブン』が大好きで大好きでたまらなくて。だからこの対談は、『エウレカ』をまだ見てない、かつ音楽をやっている人と話すっていう企画だったんです。でも、もう見ちゃったんですよね?DÉ DÉ MOUSE(以下DÉ DÉ) ……このお話をいただいて見ちゃったんですよね。
☆Taku なんで見ちゃったんですか?(笑)
DÉ DÉ 話をするのに、ちゃんと作品を見てないとマズいなと思って、とりあえず触りだけ見ようと思ったんですよ。そしたら面白くてもう半分くらい。
☆Taku この話もらったの、ついこの間(3日前)ですよね。もうそんなに見ちゃったんだ。 ☆Taku それでは、TVシリーズの話からしていきましょうか。見始めてどうでした?
DÉ DÉ 出てくる固有名詞が、どこかで聞いたことあるものが多いんですよ。もしかして、これって色々音楽へのオマージュがあるのかなと。まずそこに食いつきましたね。
第1話のタイトル「ブルーマンデー」から始まって、主人公の名前がレントン・サーストン、お父さんの名前がアドロック・サーストンとか。
☆Taku それは最初の方で気づいた?
DÉ DÉ レントンのお父さんの名前が、アドロック・サーストンというところで何かおかしいなと思いました。アドロックはBeastie Boysのキング・アドロックからきてると思ったんですが、アドロックはニックネームなので、ニックネームが人物の名前になっているのは偶然じゃないだろうし。
サーストンはSONIC YOUTHのサーストン・ムーアから来ているだろうしと思って。そこで「これは確信犯なんだ」と気づきました。
DÉ DÉ KLFも80年代のハウスユニットですよね。
☆Taku 自分らが稼いだお金を全部燃やして解散ライブしたっていう伝説的な人達だね。 ☆Taku そうした様々な音楽に関係したものがモチーフとして使われているのは"カウンターカルチャーがオーバーグラウンドに対してどうやって戦っていくか"っていう裏テーマみたいなものと関係するんだろうね。
やっぱりDÉ DÉくんも今まで出たような音楽的なキーワードが引っ掛かりました?
DÉ DÉ 音楽的なオマージュというよりも、たぶんこの少年が成長していく話なんだろうなっていうのがグッと来ました。何でもない普通の、少し正義感の強い少年が突っ走るみたいな話すごい好きなんですよ。
今のアニメって、主人公が無気力だったり、最初からチートキャラだったりしますが、この作品には何者でもなかった少年が自分の意志で変わっていこうとする、そういう真っ直ぐさをすごく感じましたね。 ☆Taku よくロボットアニメである、第1話でロボット操縦できちゃったよー! みたいなね。レントンの場合は操縦できないし、乗り物酔いするし、ゲロ吐くし。全然何もできないところから始まって。
でも、そこから徐々に成長していく。そしてロボットに乗る動機が素晴らしいと思うんですよ。かわいいって思った娘に良いとこ見せたいっていうめちゃくちゃ不純な動機なんだけど、実は一番合点がいく。 DÉ DÉ 行動に起こそうとするところが、すごくいいなって思うし、レントンが真っ直ぐだからこそ、忘れていた感情を思い出させられるシーンがたくさんありますね。
台頭する若い才能との付き合い方
☆Taku レントンを見てて、自分とオーバーラップするところあります?DÉ DÉ ちょっと寂しいなって思うのが、ホランドの方がわかるようになってきちゃったんですよね。まだ素直になりきれない、大人になりきれない感じとか。 DÉ DÉ ホランドからするとレントンって脅威だと思うんですよ。僕らでいったら、すごく才能のある若いDJが出てきたみたいな。
☆Taku 「エウレカを守るのは俺だ」ってずっと言っていたホランドの前に、いきなり訳のわかんない男の子がやってきた。しかも元カノの弟だし、みたいな。 DÉ DÉ 僕はすごい才能あるDJが出てくると、嫉妬よりリスペクトの方が強く感じます。自分には自分のやり方、自分の世界があって、それとのバランスをどういう風にこの子と取っていこうかなって考えるんです。
若いDJたちっていうのは、ニュータイプ感というか……僕が持ってない価値観を持ってますよね。
☆Taku 僕の場合はずっとレントンのまんまなんですよね。いっぱいいっぱいで一生懸命、そしてエウレカが好きで好きでたまらない。そういった部分がすごく自分とオーバーラップして感じるんです。
あともう1つは、憧れが大きな動機になってるところですね。
TVシリーズの第1話で、レントンが『ray=out』っていうゲッコーステイトがつくってる雑誌を見て「かっけーなー。俺もゲッコーステイトに入りてーなー」みたいなシーンがあるんです。
僕も小さいころに『サウンド&レコーディング・マガジン』を読んで、「テイ・トウワさんとか大沢伸一さんかっけーなー、俺もこういったもの出せるようになりたいな」って思ってて。
☆Taku そう。でも入ってみてわかったんですけど、僕が憧れていた先輩たちも会うとみんな不完全なところがあって、人間らしいんですよ。別にホランドみたいにガーンって蹴られたりとかはないですよ(笑)。
人間味を知って、先輩クリエイター達の素晴らしさを改めて感じる。そういうところもレントンとオーバーラップするんですよね。
リブートではなく、思い切り原曲を変えたリミックス
☆Taku 『ハイエボリューション1』もご覧になったんですよね? どうでした?DÉ DÉ 僕が最初に感じたのは、アドロックが35歳……!? って。あとアドロックを演じたのが古谷徹さんなのでアムロの声だ! ってなって。ニュータイプが年を取っていったらこんな感じなのかなって思いました。
☆Taku TVシリーズで意味深に語られていたコーラリアンとの戦争「サマー・オブ・ラブ」が、はじめて描かれました。「サマー・オブ・ラブ」って何だかご存知ですか? DÉ DÉ 1967年から始まったフラワームーブメント(※)から取られてますよね。今回の映画を象徴するように感じたのが、「サマー・オブ・ラブ」のパートの挿入曲を提供したHardfloorなんです。
TVシリーズから作中で使われている「アクペリエンス」という言葉も彼らの楽曲から取られているものだし。
☆Taku そして挿入曲の「Acperience 7」をつくってくれたんですよね。(1から数えてきて)6がないのに。
脚本の佐藤大さんは、TVシリーズをつくったときは日本のクリエイターを少しでも世界に知ってもらいたいから、色んな日本のテクノクリエイターとかを誘ってたようです。ただ、今回の映画では、逆に世界のクリエイターを連れてきたいなってHardfloorをフィーチャーすることになった。
DÉ DÉ TVシリーズよりレントンが大人なんですよ。色々悟ってる感じがしてる。最初からビームス夫妻の養子になってて、レントン・ビームスって名乗るところからもTVシリーズと違うんだなって感じました。
それも時代性に合ったレントンというか、悟ってしまってる世代というか。
☆Taku つくり手の京田さん(総監督)も、吉田さん(キャラクターデザイン)も、佐藤大さんも、こだわっているのは、つくり直すんじゃなくて、今やるとしたらどうやってエウレカをつくるかということだと話していたらしいです。 ☆Taku 僕は大さんと仲良いので、一緒に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を観に行ったときに話したんですが──また僕ら「スター・ウォーズ」の話ができるようになりましたねっていうことと、みんなそれぞれにとっての「スター・ウォーズ」があって、全員が納得することはできないっていうことなんです。
ここからは僕の予測ですけど、だからこそ彼らは揃って、今ならどうつくるかってなったんだと思う。リブートってより、原曲思いっきし変えちゃったリミックスみたいな。
DÉ DÉ それは感じますね。何が言いたい映画なんだろうか、こういう意味があるんだろうなって考えさせられる映画でしたね。
フラワームーブメント……サンフランシスコのヘイト・アシュベリー周辺からはじまったヒッピー主導によるカウンターカルチャーの隆盛。1969年の「ウッドストック・フェスティバル」へと繋がっていく。
エウレカの話をできることが嬉しい
☆Taku さて、そんな『交響詩篇エウレカセブンハイエボリューション1』、いよいよ DVD/Blu-rayが出ますし 、今年は『ハイエボリューション2』が上映される予定です。 DÉ DÉ 『ハイエボリューション1』はTVシリーズを全く見てなくても、すごく続きが気になるし、見てると違いがわかるのが楽しい。あとは作画のクオリティが凄すぎますし、没入できるテンポ感とか、リズム感とかも素晴らしい。これから見る人も、スルッと『エウレカセブン』の世界の中にどっぷりと入り込めると思います。2にも期待です。
☆Taku 公開されることは佐藤大さんから聞いて知ってたんだけど、発表されたときわんわん泣きながら大さんに電話しちゃったんですよ、つくってくれてありがとうございますって。
こうやって、エウレカの話ができるって本当に嬉しいし、DÉ DÉさんみたいなクリエイター仲間が好きになってくれるっていうのもめちゃくちゃ嬉しい。『エウレカ』を語り合える人が少しでも増えたらいいなって思います。今日はありがとうございました!
DÉ DÉ ありがとうございました!
映画『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』へ!
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イベント情報
エウレカセブンPresents Blu-ray&DVD発売記念 ハイエボリューション1 スペシャルトーク&DJ!!!!
- 配信日時
- 2月22日(木)19時~24時
- URL
- http://www.dommune.com(外部リンク)
トークパート(19:00~21:00予定)には、総監督・京田知己、脚本・佐藤大、アニメ評論家・藤津亮太に加え、アニメーションやクラブシーンと積極的に交わり研究・批評を展開する異色の社会学者・上野俊哉が登場し、エウレカセブンを語り尽くします。12年を経て、ハイエボ1では何が描かれたのか。そして、新シリーズはどんな結末に向かうのか。DJパート(21:00~23:00予定)では、本作に「Get it by your hands HI-EVO MIX」を提供したHIROSHI WATANABEがスペシャルプレイを披露します。
☆Taku
m-flo, block.fm
DJ、プロデューサー。98年にm-floを結成。ソロとしても国内外アーティストのプロデュースやRemix制作を行う。「Incoming... TAKU Remix」で “beatport”の『beatport MUSIC AWARDS 2011 TOP TRACKS』を日本人として初めて獲得し、その実力を証明した。アニメ「Panty&Stocking with Garterbelt」、ドラマ・映画「信長協奏曲」、ゲーム「ロード オブ ヴァーミリオン III」など様々な分野でサウンドトラックも監修。また、国内外でのDJ活動でクラブシーンでも絶大なる支持を集め、LOUDの“DJ50/50"ランキング国内の部で3年連続1位を獲得し、日本を牽引する存在としてTOP DJの仲間入りを果たした。
自身が立ち上げた日本初のダンスミュージック専門インターネットラジオ&ポップカルチャーメディア「block.fm」は7周年に突入し、新たな音楽ムーブメントの起点となっている。2018年3月7日には、15年ぶりに初代メンバーLISAが復帰しリユニオンしたm-floのNEW EP「the tripod e.p.2」をリリース予定。
Twitter:http://twitter.com/takudj(外部リンク)
block.fm:http://block.fm/(外部リンク)
DÉ
作曲家
遠藤大介によるソロプロジェクト。作曲家、編曲家、プロデューサー、キーボーディスト、DJ。他作品のプロデュース / 楽曲提供 / remixも行う。メロディカットアップの手法とキャッチーで不思議なメロディ/和音構成は、国内外問わず多くのフォロアーを生み、以降のシーンに一つの発明とも呼べる功績をもたらす。トラックメイカー/プロデューサーとしてのライブの追求にも積極的であり、バンドシーンとクラブシーンの枠組みを超えた縦横無尽なライブパフォーマンスは人々を魅了し続ける。
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