そしてKAI-YOUが配信している、聴くと耳がポップになるラジオ「KAI-YOU Talks」の最新回も、「2017年最高の漫画を決めよう」というテーマでした。
筆者も含めて、みんなで好き勝手言い散らかしているので是非ご視聴ください。 ここでは、筆者個人が独断と偏見で選んだ、2017年に1巻が刊行されたオススメ漫画をまとめました。2017年に刊行が始まったばかりなので、現時点でまだ数巻しか出ていません。すでに仕事始めという人も、今週末には連休(のはず)なので、まだ間に合います。
なお、前半は万人受けしそうな作品が多めですが、後半にいくほど趣味性が高くなっていくのでご了承ください。
※巻数は記事執筆時のものとなります目次
1. 『BEASTARS』
2. 『映像研には手を出すな!』
3. 『Dr.STONE』
4. 『人形の国』
5. 『LIMBO THE KING』
6. 『我らコンタクティ』
7. 『不滅のあなたへ』
8. 『マイホームヒーロー』
9. 『凪のお暇』
10. 『十二人の死にたい子どもたち』
11. 『ソフトメタルヴァンパイア』
12. 『みくまりの谷深』
13. 番外編:2作品
2017年に1巻が刊行された名作漫画まとめ
『BEASTARS』[既刊6巻]
人からはうらやましがられるけれど、動物として備わった力や本能を持て余す主人公のハイイロオオカミ・レゴシ。肉食獣と草食獣が共存する世界。そこには、希望も恋も不安もいっぱいあるんだ。チェリートン学園の演劇部員レゴシは、狼なのにとっても繊細。そんな彼が多くの動物たちと青春していく動物群像劇が始まる!! Amazonよりあらすじ
言うならば、キャラを動物化させることで戯画的に社会を描いてその土台にある理性を信じたのが『ズートピア』なら、“動物としての本能”の部分に正面から向き合ったのが『BEASTARS』です。
「人は、自分のことさえわからないことがある」っていう、一番基本的で大事なところから目を逸らさずに右往左往する登場人物たちの行方から目が離せません。
『BEASTARS』を購入する
『映像研には手を出すな!』[既刊2巻]
『ハックス!』然り『アニウッド大通り』然り、“アニメ漫画もの”には外れが(少)ないと常々思っていましたが、その仮説(持論)は『映像研には手を出すな!』でより確立されました。アニメは「設定が命」の浅草みどり、カリスマ読者モでアニメーター志望の水崎ツバメ、金儲けが大好きな美脚の金森さやか。
ダンジョンへ、戦場へ、宇宙へ--想像の翼を広げて、電撃3人娘が「最強の世界(映像)」を創り出す! Amazonよりあらすじ
終わらない文化祭感、というか、実際の仕事では多分許されないんだけど、ただただ好きで集まっている同士だからこそ実現している特別な時間がずっと流れています。
作中作の設定とか、登場するメカの設計図とか、3人の憎めない女子たちのバランスとか、好きです。
『映像研には手を出すな!』を購入する
Dr.STONE[既刊3巻]
『アイシールド21』で天才・村田雄介とタッグを組んだもう一人の天才・稲垣理一郎さんが原作、そして『サンケンロック』で知られる韓国人漫画家・Boichiさんが漫画を手がける大型新連載、という触れ込みで『週刊少年ジャンプ』で始まったのが本作。一瞬にして世界中すべての人間が石と化す、謎の現象に巻き込まれた高校生の大樹。数千年後――。目覚めた大樹とその友・千空はゼロから文明を作ることを決意する!! 空前絶後のSFサバイバル冒険譚、開幕!!Amazonよりあらすじ
開始数ページで人類が滅ぶ1話からして相当ぶっ飛んでます。文明が巻き戻ってしまった世界で、主人公たちが駆け足で科学史を一からやり直す。
稲垣理一郎さんが生み出す過剰にキャラの立った登場人物たち。前作はアメフトものということでコートの中に収まっていたわけですが、『Dr.STONE』では壮大なスケールのSFサバイバルという設定のもと、さらに躍動しています。
ちなみに、BoichiさんはガチSFアクションものの『ORIGIN』もめちゃくちゃ面白いです。
『Dr.STONE』を購入する 『ORIGIN』を購入する
人形の国[既刊1巻]
とにかくぶっとい世界観が転がっていて、読者を置き去りにすることも厭わない漫画が多いハードSF作家という印象が強かった弐瓶勉さんですが、『シドニアの騎士』以降、SFでありなおかつキャラもストーリーもかなりエンタメに寄せています。遺跡層におおわれた巨大人工天体「アポシムズ」。危険な「自動機械」や「人形病」に侵された者たちが彷徨う極寒の地表で暮らすエオ、ビコ、エスロー達は行軍訓練のさなか、強大なリベドア帝国の兵士に追われる不思議な少女を助ける。少女から託された「コード」と「七つの弾丸」、それは世界の運命を大きく変えるものだった……!! 『BLAME!』『シドニアの騎士』の弐瓶勉が描くダーク・アドベンチャー・ファンタジー開幕!Amazonよりあらすじ
そしてアニメ化もされた名作『シドニアの騎士』が完結して、待望の新作が『人形の国』。今作もやっぱり広義のエクソダスものですが、物語のゴールはかなり明確に示されています。
少年漫画誌での長編連載は作者初だそうですが、主人公っぽい雰囲気のキャラがあっけなく死んだりいきなり村が壊滅したり、冒頭からハードな展開が待ち受けています。それでいて敵を倒すとエナ(エネルギーみたいなもの)を吸収してパワーアップできるみたいな王道の少年漫画的設定もあって、先が楽しみ。
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LIMBO THE KING[既刊2巻]
ある負傷兵が偏屈な天才と手を組んで、他人の夢の中に入りこんで眠り病に立ち向かう、という話。多大なる犠牲者を出した眠り病撲滅から8年――。任務中に瀕死の重傷を負い、退役の危機にあったアダムは、軍幹部から特殊任務を伝えられる。それは、なくなったはずの眠り病再発に絡む極秘ミッションで!? 不屈のNAVY男と伝説の元英雄が記憶を食い荒らす奇病“眠り病”に立ち向かう!!Amazonよりあらすじ
舞台が近未来のアメリカだし、どことなく『BANANA FISH』を想起させるなとひそかに思ってたら、普通にご本人もインタビューで認めてらっしゃいました。(外部リンク)
そもそも眠り病とは何なのか? 発生のトリガーは? おじさんバディものとしても楽しめるし、SFとしても先の展開が気になります。
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我らコンタクティ[全1巻]
いい感じに打算的なヒロインと、浮世離れしたかずきのコントラストが効いてる。冴えない会社員をしているカナエは、小学校時代の同級生中平かずきと再会する。彼はナゼか一人でロケット開発をしていた。かずきの驚くべき目的を知り、カナエは思わず脱力!だけど、二人は一緒にロケット開発をすることに!カナエとかずきが小学校の時に見たUFOも絡み、思いもよらぬ方向へ物語は進む!いくつかの短編漫画をアフタヌーン誌上に発表し好評だった森田るい氏が満を持して放つ初長編漫画!Amazonよりあらすじ
ごく個人的な理由でロケットを打ち上げるためだけに邁進してそのまま大人になった青年のひたむきさが、登場人物たちの人間関係も巻き込んでロケット打ち上げに収束されていくのも気持ちよかったです。
一部の人間は“ロケットの打ち上げ”にロマンを感じずにはいられないような脳みそになっているということを差し引いても、本作にはワクワクさせられます。
1巻でキッチリ終わるので、ちょっとした時間にオススメ。
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不滅のあなたへ[既刊5巻]
『聲の形』の大今良時さんの最新作。『マルドゥック・スクランブル』のコミカライズで商業デビューした方だったためSFの印象が強く、幻のデビュー作としてずっと封印されていた『聲の形』を読んだ時には、聴覚障害者のヒロインと周囲を通して“コミュニケーション(の不可能性)”を描くというテーマ設定に驚きました。何者かによって“球”がこの地上に投げ入れられた。その球体は、情報を収集するために機能し、姿をあらゆるものに変化させられる。死さえも超越するその謎の存在はある日、少年と出会い、そして別れる。光、匂い、音、暖かさ、痛み、喜び、哀しみ……刺激に満ちたこの世界を彷徨う永遠の旅が始まった。これは自分を獲得していく物語。Amazonよりあらすじ
なので、むしろ『不滅のあなたへ』には違和感がなかったのですが、正直、最初は「この話はどこに向かうんだろう?」と不思議でした。
ある日地上に放り出された、死なない何か、姿を変えられる何か。命が失われてしまったものを(単なる記憶ではなく)姿として保存することができる“そいつ”がどこに向かうのか今もわからないのですが、特に3-4巻は込み上げてくるものがありました。
命が滅びるのは、命を失った時なのか。「不滅のあなたへ」というタイトルの意味が徐々に腑に落ちてきました。
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マイホームヒーロー[既刊2巻]
愛する娘を犯罪組織から守るため、自分も犯罪に手を染めてしまったサラリーマンとその現場を目撃してしまった奥さん。後戻りできず、娘にも黙って夫婦2人で嘘に嘘を重ねていきます。頼れる妻と、ちょっと反抗期気味だけど可愛い高校生の娘。鳥栖哲雄の人生はそれなりに幸せだった。娘の顔に殴打の傷を見つけるまでは。「100万の命の上に俺は立っている」の山川直輝、「サイコメトラー」「でぶせん」の朝基まさしの異色コンビが描く、罪と罰、愛と戦いの物語、開幕!Amazonよりあらすじ
「小説家になろう」と思しきサイトでミステリーものを投稿するのが趣味という主人公が、妙に詳しい諸々の手口を駆使してかなりおぞましい行為も比較的淡々とこなしていきます。そこに罪悪感はあまりなくて、たびたび訪れる破滅の危機に対して、機転を利かせて切り開いていく様はクライムサスペンスとして読ませます。
ただ、「娘を守らなければ」という思いからその行為を正当化してきた主人公にも、徐々に、暴力で物事を解決しようとしたことの因果が巡ってくるかもしれないことが、2巻の後半で示唆されていました。
犯罪に手を染めてでも娘を自分の手で守ろうとした主人公の前に立ち塞がる最大の障害は、放蕩息子のどんなワガママも金と暴力で握りつぶしてきた犯罪組織の親玉であることもわかっています。どちらも「最愛の存在に幸せになってほしい」という親心に違いないという意味で、その衝突が今後どう描かれ、2者の対立が何を浮き彫りにしてくれるのか、楽しみです。
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凪のお暇[既刊2巻]
空気を読みすぎて潰れてしまって、あくせく働く生活からドロップアウトしたヒロイン。いくらでも深刻に描けそうなところだけど、そこそこの脱力感もあれば胸が痛む描写もあります。場の空気を読みすぎて、他人にあわせて無理した結果、過呼吸で倒れた大島凪、28歳。仕事もやめて引っ越して、彼氏からも逃げ出したけど…。元手100万、人生リセットコメディ!!Amazonよりあらすじ
息苦しさをテーマにした作品が最近特に多い気がしますが、主人公がどういう選択をするのか、気になってしまいます。
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十二人の死にたい子どもたち[既刊1巻]
冲方丁さん原作小説のコミカライズ。熊倉隆敏さんは、『もっけ』という妖怪ものがめちゃくちゃ良い漫画だったのでそれ以来ずっと追いかけてます。ネット上のホームページに導かれて、廃病院に集まった十二人の少年少女。初対面の彼らの目的は全員で「安楽死」をすること。だが、決行するための地下室にはすでに一人の少年が横たわっていた。彼は、自殺か、他殺か、そもそも誰なのか。少年少女たちは不測の事態に際し、この集いの原則「全員一致」に従い話し合いを始める──! 異才・冲方丁の直木賞候補作を、実力派・熊倉隆敏が渾身のコミカライズ!Amazonよりあらすじ
それぞれの理由で安楽死するために集まった男女。でもなぜか、そこには死体がすでに横たわっていて…という、設定としては真新しくはない展開から始まります。
淡々とした絵柄で丁寧に人物を描いて構成を転がす熊倉隆敏さんがミステリーに挑戦、というだけで買いです。原作は未読なので、今後の展開を楽しみにしながら続きを待っています。
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ソフトメタルヴァンパイア[既刊3巻]
『EDEN』『オールラウンダー廻』の作者の新連載。吸血鬼に支配された人類と、吸血鬼と人間の混血を中心に構成された組織との戦いを描くダークファンタジー……とだけ聞くとありそうな話ですが、この吸血鬼たちの特殊能力が特定の「元素」を自在に操る、というもの。人間の時代は終わり、世界は吸血族に支配されていた。人間の少女ミイカは16歳になった日、少年・アランと出会う。その後、突如襲いくる吸血族の無慈悲な無人機械。そこで彼女は吸血族の持つ恐るべき能力「元素使い」を知る!『EDEN』『オールラウンダー廻』の遠藤浩輝が放つ、「ネオ・セカイ系ダークファンタジー」ここに開幕!Amazonよりあらすじ
人類とそれ以外の支配者による生き残りをかけた戦い! みたいな設定に個人的に食傷気味だったので最初はあまりピンとこなかったのですが、2巻、3巻と続いていくほど「元素」という要素が物語と噛み合って面白いと感じるようになりました。
遠藤浩輝さんの描くリアルな格闘ものとしての『オールラウンダー廻』が好きなのですが、たぶんSF好きには『EDEN』の印象が強い漫画家で、今作はどちらかと言うとそっちの色合いが強いです。
壁を走れる、不死だけど銀でトドメを刺される、家主に招待されなければ部屋に入れない、みたいな吸血鬼にまつわる伝承と、文系の筆者にはちんぷんかんぷんな化学式を駆使して元素を抽出したり生成したりしながらド派手にやりあってます。
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みくまりの谷深[全2巻]
『エンブリヲ』の作者さんだ! と思って衝動買いした漫画。『エンブリヲ』というのは基本ホラーで、しかも相手が虫なので絵柄的にも無理な人にはとことん無理だと思います。けど、読み進めるとわかるんだけど、実はそのテーマは“人類以外のものとの共生”にあって、めちゃくちゃグロテスクなんだけど美しくて、特にヒロインの優しさが途方もない。「母性ってこういうこと?」って思ったのを覚えてます。
もともと絵柄に味がある方だったけど、別名義で美少女ものを描いてたことも影響してか、久しぶりに「小川幸辰」名義で描かれた『みくまりの谷深』では、今っぽいとも言い切れない絵柄の美少女と湿り気のある世界観が同居する、より奇妙なタッチに。もちろん、それはそれで民族ホラー的な物語に絶妙にマッチしてます。
今回のテーマもやっぱり“共生”なんだけど、個人的には『エンブリヲ』がものすごい衝撃だったので、気になった人がいたらまずはそちらから是非。「Kindle Unlimited」だと読み放題対象です。
『みくまりの谷深』を購入する 『エンブリヲ』を購入する
番外編
以下の2作品は、今年1巻が刊行されたわけではないのですが、番外編として紹介したいので書きました。『バイオーグ・トリニティ』[既刊13巻]
舞城王太郎さん原作、大暮維人さん漫画による『バイオーグ・トリニティ』。2013年の連載から、これと言って評価されることもないまま(?)ついに先日完結した(単行本派のため最終回は未読)。ヤバい、マジで榎本芙三歩のことが好き過ぎて俺死ぬ。 両掌に穴が空き、好きなものを吸い込んで融合できてしまう病気「バイオ・バグ」。あやういバランスで成り立つ世界で、恋心とか青春とかはどうなっちゃうのよ? まさかの二人が描き出すラジカルポップな青春群像劇、開幕なのだぜ。
人と物が融合する「バイオ・バグ」という病気の蔓延する近未来を舞台に、主に異能バトルが繰り広げられますが、同時に、世界に横たわっている大きな謎に立ち向かうミステリー?要素も強まっていきます。
正直読みづらい! 絵もストーリーもどんどん複雑化してって止まることなく突っ走るので、しがみついてるのがやっと。
ただ、舞城王太郎さんがこれまで主に小説でやってきた“世界と密室”というモチーフが、漫画として炸裂してて読者としてはアドレナリンがやばい。
世界を密室に閉じ込めたのは誰か? なぜ、世界に密室であってほしいと祈ったのか? 2017年に刊行された数巻は、さらに加速してます。もう連載は完結してて、次が最終巻!
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『Pumpkin Scissors』[既刊23巻]
冒頭のラジオでもかなり語りました(大体カットされてた笑)。過去にはアニメ化もされているので、名前だけ聞いたことある、という人も多いのではないでしょうか。それは、戦災という名の“もうひとつの戦争”!!帝国陸軍情報部第3課、“復興”を担うモノたち。通称――PumpkinScissors(パンプキン・シザーズ)!!永き戦乱により荒廃しきった帝国各地。停戦後の3年間を奔走(ほんそう)するパンプキン・シザーズだが、なかなか成果は挙がらぬまま……。しかしある日突然現れた、大重量の単発拳銃を片手で操る“巨漢の復員兵”が、この国の《運命》を変えていく――!!!!
たぶん「まだ終わってなかったの?」と驚く人もいるはずです。作者の岩永亮太郎さんは、2002年に本作でデビューして以来、「岩永亮太郎」名義では他の連載や読み切りを描くこともなく、現時点で16年間、ずっと『Pumpkin Scissors』だけを描き続けています。
戦争からの復員兵を主人公に、架空の世界を描いている『Pumpkin Scissors』。特に日本では、戦争で“死に遅れた”兵隊のその後は、映画でも小説でもあらゆるフィクションで何度も反復されてきたテーマです。
近年の漫画に絞っても、復員兵を主人公に据えた『ゴールデンカムイ』や『あれよ星屑』みたいな面白い漫画が次々生み出されていく中、ずっと、戦争及び戦災復興について描き続けています。
重たすぎるテーマでもあり、1年に1冊か2冊しか刊行されないのに構成が緻密すぎて毎回読み返さないと理解が追いつかなかったりで、特に人に薦めることもなく個人的に好きでずっと読んできました。
ただ、ここ数年、なんかもう「凄まじい」としか言いようがないくらいの展開を見せているのに、残念ながら漫画自体の話題は全く盛り上がってない。
対戦車用の特殊部隊という、その身を犠牲にすることでしか達成できない人を人として扱わない部隊の一員として戦争に従事した主人公が戦後に配属されたのが、戦災復興を目的とした陸情3課「パンプキンシザーズ」。本作では、“理想”を口にし続ける貴族出身の高潔な女性の隊長や、隊員たちを中心に描いています。
ぐちゃぐちゃに悩みながら「どう生きるべきか/死ぬべきか」を極限の状況で模索し続ける、それぞれの立場の人間がぐちゃぐちゃのまま登場します。そこに、かつて帝国に破れ吸収された小国の末裔で組織された反乱軍「抗・帝国軍(アンチ・アレス)」が登場して以来、さらに緊張感が跳ね上がっています。
連載初期から、武力とは別に「情報に価値を置く」不気味な秘密組織が描かれてきました。アンチ・アレスの手引きをしているのも彼らで、帝国を打倒するために反乱軍がとった手段も、暴力に覆い隠された「情報革命」でした。
そこで起きたあるパラダイムシフトをもって、何の罪も犯していない自分たちを先祖の因果で虐げてきた帝国の礎を崩すという周到な計画。武力戦と諜報戦が入り乱れて、これまで張り巡らされてきた伏線とともに徐々にその全容が明らかになっていく展開。血で血を洗う凄惨な暴力の応酬が加速していきます。
特に、2017年に刊行された21巻には度肝を抜かれました。1年に一回しか出ない単行本のほぼ1冊丸々が、パンプキンシザーズの隊長と、アンチ・アレスの一人との会話劇で構成されています。
戦災からの復興を掲げ、すべてに平等に正しくあるという信念を愚直に体現してきた隊長は、「戦争という“システム”に奪われてしまった個人の感情ーー憎しみや怒りーーを手放すな」と口にします。
武力を行使して罪に塗れたことと引き換えに、革命をほとんど成就させ、同時に明日を見ることがない自身の未来を全員が覚悟しているアンチ・アレスに対して、貴族出身の隊長が、最後に何を要求するのか。
ここですべてを説明することはできませんが、正義と復興、そして個人について、息苦しいほど緊迫した会話が交わされます。下手すると単に説教くさく聞こえて漫画として陳腐になってしまいかねない内容ですが、戦災復興部隊の働き、そして隊長の定義する「復興」の意味を21巻かけて理解してきた読者には、その会話劇が重たくのしかかってきます。
その手を汚していない無辜の国民や自分の家族をも巻き添えにして、ひたすら正しさを説く隊長の痛々しさ。そして、戦争が終わってもなお、自分の体を犠牲にし続けて戦闘を重ねてきた主人公がとった行動。
息つく暇もなく鬼気迫る展開がずっと続いている『Pumpkin Scissors』、まじで凄まじいです。
『Pumpkin Scissors』を購入する
編集部が選んだ各ジャンルごとのオススメ作品
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