ディレクターを担当するのは、福岡のクリエイティブチーム・TriFスタジオに所属するオカモトさん。『SUSHI POLICE』で美術監督をつとめた25歳の若手アニメーション作家だ。
オカモトさんが制作したPVがきっかけとなって、ゲーム開発会社・サイバーコネクトツーのほか、アーティストへの楽曲提供やロックバンド・COALTAR OF THE DEEPERSの活動でも知られるNARASAKIさんら、錚々たるメンバーがプロジェクトに加わった。
そして今回、作品の認知拡大とさらなる参加スタッフの増強・募集を目的に、CAMPFIREを通じて国内初のクラウドファンディングをスタートした。
プロジェクトメンバーとして、ニコニコ動画の活動を経てシンガーソングライター/デザイナーとして活動する・Eveさんが加わり、OP主題歌「アンビバレント」を担当する。Eveさんもオカモトさんの映像に魅せられた1人であり、自身の楽曲「あの娘シークレット」ではMV制作を依頼している。
KAI-YOU.netでは、プロジェクトを通じて巡り合った2人の対談を実施。海外で結果を残し、文字通り凱旋となる『メカウデ』にかける意気込みを聞いた。
さらに、Eveさんのアルバム『文化』に収録された楽曲で、オカモトさんと同様Eveさんの楽曲MVを担当したMahさん、Wabokuさんという2人をゲストに迎え、クリエイターが模倣から抜け出す方法も探っていく。
取材・文:須賀原みち 編集:恩田雄多 撮影:山下智也
Eveさんを魅了したオカモトさんの自主制作
──Eveさんは『メカウデ』で主題歌を担当しています。一方で、オカモトさんはEveさんの楽曲「あの娘シークレット」のMVを手がけていますね。2人の出会いからお聞きできますか?Eve 僕は短編アニメやアニメをつかったMVをつくっている人を発掘したいと思っていて、よくYouTubeやニコニコ動画を見てるんですよ。その中にオカモトさんの自主制作短編アニメがあって、見てみたら……すごかった!
オカモト 2012年につくった『11:08』という作品ですね。
ちょうど新しいアルバム『文化』(2017年12月13日発売)の収録曲のMVは、すべてアニメで制作したいと考えていたんです。当時はオカモトさんのホームページから、感じたことや「一緒につくりたい」っていう気持ちをブワッと書いてメールした覚えがあります。
オカモト 学生時代は個人で仕事を請けていたので、ミュージシャンの方から「MVをつくってくれませんか」っていう問い合わせはたまにありました。 オカモト でも、冷やかしも多いし、その頃はすでにTriFスタジオで『メカウデ』をつくり始めていたので、HPに「多忙のため、お仕事はお引き受けできません」って書いていたんです。そこからはぱったりと依頼もなくなりました(笑)。
Eve そんなこと書いてあったんですか!? おそらく僕は見てないですね(笑)。
オカモト 久しぶりに依頼があるなと思ったらEveさんで、すごい方から依頼されたなって。もともとニコニコ動画で動画を見たり歌を聴いたりするのが好きだったので、Eveさんのことも知っていたんです。
それこそ私くらいの世代だと、ニコニコ動画の文化に憧れて映像制作を始める人も多かったから、そういう意味では、以前からMV制作をやってみたいという気持ちもありましたね。
「あの娘シークレット」をはじめ『文化』に集ったクリエイター
──オカモトさんの自主制作や『メカウデ』のPVがきっかけで、「あの娘シークレット」のMVを依頼した、と。この曲が収録された『文化』では、Eveさんが「アニメを使いたい」と言ったように、ほかの曲のMVもアニメ作品となっています。今回は特別に「ナンセンス文学」と「ドラマツルギー」の監督・Mahさんと「お気に召すまま」の監督・Wabokuさんにもお越しいただきました。2人とも、オカモトさんと同じような形で出会ったんでしょうか?
Eve Mahさんは前のアルバム『OFFICIAL NUMBER』収録の「デーモンダンストーキョー」でMVをつくってもらいました。作曲家のMI8kさんと曲づくりの段階から「MVはMahさんに頼みたい」と話していたんです。そのときもMahさんにメールしました。
Mah 私は個人として自分で曲をつくって、それに映像を付けて投稿していたんです。特にお仕事を募集しているわけでもなく。普段は映像や絵とは全然関係ない仕事をしているので、(依頼があるまでは)平和に暮らしてました(笑)。
Eve 普段は映像の仕事をしてないって聞いて、びっくりしたんですよ!
Mah そんな中でMV制作の依頼が来たんですけど、まぁ「楽しそうならいいかな」って。
Eve Wabokuさんはオカモトさんと同じで、アニメ作家を探していた中で出会いました。ニコニコ動画でほかのクリエイターのボーカロイド曲のMVをつくっていたんです。
Waboku 僕は今、映像や音楽を制作するネネネユナイテッドに所属しているので、会社経由でお話をいただきました。会社に入る前は、自分の空いた時間に作品をつくって発表していました。
Eve ここまでそれぞれ個性にあふれた人たちと巡り会えたのは奇跡に近いと思います。MVの制作では、直接会ったり、SkypeやLINEでやり取りしたりして進めていったんですけど、皆さん良い意味で変わっているなと。
Mahさんは音楽もつくられてますけど、異なるジャンルの人と話したり、考えていることに触れたりすると、すごく面白いんですよ。そういう意味でも、今回のアルバムをつくれて良かったですね。
人外キャラクターのMVにあふれたアルバム『文化』
──オカモトさんは普段、スタジオの一スタッフとしてアニメ制作に関わっていますが、MVをつくってみて何か違いは感じましたか?オカモト 全然違いますね。「あの娘シークレット」のMVは仕事だけど、イメージ的には自主制作に近いですね。
そこまで自分でコントロールできたという意味では、どの作品よりも自分の作品みたいだなって。映像に登場するクマタローというキャラクターも、私のほうから提案させていただきました。 Eve 『文化』の収録曲のMVには、すべて人外キャラクター的な存在が出ているんですよね。基本的に僕が毎回お願いしているんですけど、オカモトさんはクマを提案してくれました。
オカモト もともと人間以外のキャラクターを出したかったので自然に生まれました。日常の中にある不思議を描きたいので、人外のキャラクターを出すっていうのはわかりやすいかな、と。 Eve 人外のキャラクターはアニメじゃないとできない表現じゃないですか。アニメの良さって、そういうところだと思うんです。
Mah 私はひょろ長い帽子のキャラを描いてますね。
Eve Mahさんには参考イメージを送って、「こういうキャラを出したい」って話した気がします。
Waboku 僕は事前に話してたかなぁ……。ただ、僕が担当する「お気に召すまま」のMVは、順番的には最後に公開されることになっていたんです。
もしかすると、Mahさんやオカモトさんの作品を見ていた影響があったのかもしれません。自分でも気づかないうちに、人外キャラを描いてしまったような。
王道に“見える”『メカウデ』にぴったりの主題歌「アンビバレント」
──「あの娘シークレット」のMVを経て、Eveさんは自身がオカモトさんに依頼するきっかけとなった作品の1つ『メカウデ』の主題歌を担当することになりました。Eve 話を聞いたときは、めちゃくちゃうれしかったです。今はデモ作業を進めています。
オカモト デモを聞かせてもらいましたが、本当にかっこいいです! 実は、『メカウデ』はパッと見ストレートな少年漫画っぽいんですけど、どこか暗い部分も秘めているんです。 オカモト 私自身もそういう作品が好きなので、「あの娘シークレット」のMVをつくるときも、最初は「毒のないストレートな歌なのかな?」って思っていたのに、Eveさんから「この曲はストーカーの曲なんです」って言われて、その潜んでいた毒気にすごいモチベーションが上がりました。
そういう意味でも、Eveさんの「アンビバレント」は、『メカウデ』の主題歌としてぴったりだと思います。 Eve まさかそんなところでモチベーションが上がっていたとは(笑)。オカモトさんの言う通り、僕なりのストレートな曲ではあるけど、ほかの人が聞いて「やっぱりひねくれてるね」と思われても、全然、異論はありません。
一同 笑。
オカモト 本当に純粋でストレートな作品って、引っかかるところがないのかなって思うんです。だから、デモ曲のこのままの雰囲気でお願いできればと思ってます。
『メカウデ』はTwitterのリプライから始まった
──少年漫画の王道的なストレートさを持ちながら、どこか暗い一面も残した『メカウデ』。そもそもはどのような経緯で生まれたんでしょうか?オカモト 学生時代に人からメカの腕が生えたイラストを描いてTwitterにアップしたら、「アニメ、楽しみにしてます!」という反応があったんです。正直アニメにするなんて考えていなかったんですけど、そのリプライをもらってから、自分で少しずつイメージを固めていったんです。 オカモト キャラクターのビジュアルがある程度できた段階で、TriFスタジオの代表・麻生秀一に見てもらいました。そしたらトントン拍子にアニメをつくることになり……。麻生が『トランスフォーマー』などのメカが大好きということが、大きく関係していると思います。
そこから、展開方法などを考える前に、まずは『メカウデ』のPVをつくろう、と。それをいろいろな人に見せて、意見をもらう中で、クラウドファンディングを使うことになりました。 Eve 日本じゃなくて、最初に海外で始めたのは理由があるんですか?
オカモト まだ実績もない無名な私が、日本でいきなり「アニメをつくります!」って言っても、誰も注目しないじゃないですか。だからまずは海外の人たちに見てもらって、そこで評価されて、話題になればいいなとは考えていました。
Eve 逆輸入みたいな感じですね。僕が最初にPVを見たときは、「これは自主制作のクオリティじゃないな!」って驚愕しました。 オカモト 正直、クラウドファンディングは資金集めという目的もあったんですけど、とにかくいろいろな人に知ってもらいたい、という気持ちが強かったです。最初から「何の計画もないし、お金は集まらなくてもつくる」というスタンスでした。
──その結果、『メカウデ』には音楽家のNARASAKIさんやゲーム会社・サイバーコネクトツーの松山洋社長といった錚々たるメンバーが参加することになりました。
オカモト 無名なクリエイターの作品に協力していただいて、本当にありがたいと思います。
特に松山さんはすごく興味を持っていただいていて、打ち合わせをしていても、松山さんの中で「俺のメカウデとはこういうものだ!」という持論があるのが伝わってくるんですよ。だから「私がちゃんとしないと、松山さんに乗っ取られちゃうぞ」って自分に言い聞かせてます(笑)。
──CAMPFIREでのクラウドファンディグでは、制作に参加するクリエイターも公募していますよね。
オカモト 最近、学生時代にすごいクオリティのオリジナルアニメをつくっていた人が、アニメ業界以外に就職するのを見て、個人的に残念に感じていたんです。今はデジタル作業なので住んでいる場所は関係ないですし、「やりたい」という気持ちがあれば、私たちの仲間になってもらえるとうれしいです。 ──ほかの業界に就職するというのも1つの判断ですが、最近では兼業で活躍しているクリエイターもいます。オカモトさんとしては、アニメ以外の業界という選択肢はなかったんですか?
オカモト 正直、一般の企業に就職しようと考えていた時期もあります。でも、インターンシップに行ったとき、声も小さいし、挨拶もできないし、散々で……。
「私は絵を描くことしかできないんだな」って痛感しました。それならアニメで食っていくしかないな、と。一般の企業で必要な仕事はできないかもしれないけど、アニメならつくれる。
「誰もやっていない組み合わせ」で模倣から抜け出す
──『メカウデ』のPVを見ていて気になったんですが、オカモトさん自身、以前からロボットが登場する作品が好きだったんでしょうか?オカモト 見た記憶があるロボットアニメは『ゾイド -ZOIDS-』くらい、実はあまり見てこなかったんです。ただ、絵描きとして、いろいろなものを描いていきたい。
だから、まだ描いたことのなかったメカに挑戦してみようと思ったんです。全身描くのは大変だけど、腕だけなら描けるかもしれないなって(苦笑)。 オカモト 今はメカデザインやCGを担当するデザイナーさんなど、周りにメカ好きな人たちがたくさんいます。実はメカウデは単なるロボットじゃなくて生き物なんだ、というコンセプトを伝えて膨らませてもらったり、かなり周囲に支えてもらっていますね。
──意外ですね。これは偏見かもしれませんが、自主制作アニメではロボットが登場する作品が多い印象があります。
オカモト それはあるかもしれません。自主制作のロボットアニメだと、人によっては「あのアニメを意識したんだな」ということが如実に伝わってくる作品もあります。
Waboku 学生向けのアニメーションのコンペなどでも、模倣でつくったものは見ている人に伝わるし、そういうのは得てして結果を残せない、という状況はあると思います。
──クリエイターとして、模倣から抜け出すためにはどうしたらいいのでしょうか?
オカモト 難しいですね。模倣から抜け出すと言っても、結局は自分の好きなものを組み合わせて、おそらくまだ誰もやっていない組み合わせをしているだけだと思うんです。 いろいろなものを見て、それが本当に好きかどうかを見極めて、好きな要素を抽出していくと、誰も見たことのないものに近づいていくんじゃないでしょうか。
Eve 僕も影響を受けてきたバンドやアーティストはたくさんいます。歌詞やメロディを考えていく中で、今まで聴いてきた音楽からは絶対に逃れられない。オカモトさんの言ったように、最終的には自分の好きな要素が様々な融合の仕方で生まれてきた曲ばっかりだな、と。
──オカモトさんがこれまでに吸収してきたたくさんの「好き」から生まれた『メカウデ』。この作品で、オカモトさんが一番伝えたいことは何ですか?
オカモト 私が思う「これが一番かっこいい」っていうのを見せたいですね。ストーリーとしても画としても、キャラクター同士の掛け合いやその関係性でも、すべてに自分のかっこいいを詰め込んでいます。
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作品情報
メカウデ-mechanical arms-
- 監督/原案
- オカモト
- 脚本
- TriF
- 脚本協力
- 中西やすひろ(シナリオ工房 月光)
- キャラクターデザイン/アニメーションディレクター
- オカモト
- アニメーションチーム
- 菅野 千愛、村田 充範
- プロダクションマネージャー
- 佐藤 謙次
- テーマ曲
- OP曲 Eve「アンビバレント」
- ED曲 AZLiGHTZ(アズライズ)「ALONE」
- 企画
- 麻生 秀一
- アニメーション製作
- TriFスタジオ
- 総監修(企画・脚本・設定・演出監修)
- 松山 洋(株式会社サイバーコネクトツー)
- 監修(企画・脚本・設定・演出監修)
- 新里 裕人(株式会社サイバーコネクトツー)
- アートディレクター&メカウデデザイン
- 塗壁
- CGI&コンポジットディレクター
- 河村 翔太
- 音楽
- NARASAKI
- 音響
- HALF H・P STUDIO
- キャスト
- 天束ヒカル役:豊永利行
- アルマ役:杉田智和
- 茈瑪アキ役:嶋村侑
関連リンク
オカモト
アニメーション作家
島根県出身。福岡で活動するアニメーション作家/イラストレーター
2012年 自主制作アニメ「11:08」を処女作として公開しYoutubeにて70万再生を獲得。
これをきっかけに様々な商業案件にて活動を開始。
福岡のクリエイティブチーム ”TriFスタジオ” に所属。
Eve
シンガーソングライター/デザイナー
これまでに2枚の自主制作アルバムを発売し、2016年10月19日に初の全国流通盤『OFFICIAL NUMBER』をリリース。本アルバムから本格的に自身による作詞・作曲中心の作品構成となる。
2017年12月13日に発売したインディーズアルバム『文化』は、全曲を自作曲で制作し、キー曲「ナンセンス文学」がYouTubeで400万再生され、オリコンインディーズチャート1位、総合デイリーチャート8位、iTunes2位などを記録し話題に。
一方では“はらぺこ商店”を立ち上げ洋服などのデザインを行い、2017年からは期間限定ショップを原宿にオープンさせ2,000人が列を成すなど活躍の幅を広げ、音楽を中心とした複合的視点で唯一無二の世界観を表現している。
Mah
ボカロP兼動画製作者
2013年頃から曲やら手描きMVやらを趣味で作り始める。
Waboku
アニメーション作家
2015年制作「EMIGRE」が数々の賞を受賞し、注目を集めている。
これまでにCREATIVE HACK AWARD 2015 ワコム特別賞、第21回学生CGコンテストエンターテインメント部門最優秀賞、
17th DigiCon6 JAPAN Regional JAPAN Z-axis Award、第27回CGアニメコンテスト佳作、
横濱インディペンデント・フィルム・フェスティバル2017 アニメーション部門最優秀賞など受賞。
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