炎上請負人ことプロインタビュアー吉田豪に聞く「芸能人とSNSの使い方」

SNSの登場でアイドルは逃げられるようになった

──ここからは、吉田さんから見た“SNSを使うアイドル”についてお話を伺っていければ、と。最近、タイムラインを見ていて、アイドルの女の子の自撮りが多くなった印象などはありますか?

吉田 ボクが一番興味のないジャンルですね。

ボクは、その人の人となりにしか興味がないんですよ。だから、ボクがアイドルの自撮りで「面白い」と思うとしたら、たまに写真に写り込んじゃう事故くらい。「自宅でくつろいでる写真なんだけど、置いてある新聞が聖教新聞だった」みたいな(笑)。そういうのを見ると、その子の家庭環境も見えてきてむしろ応援する気持ちになりますよ。貧乏キャラの子の自撮りに聖教新聞が写ってたりすると「……頑張れ!」って(笑)。

──吉田さんのタイムラインでは、「私を見て!」といったような承認欲求に溢れたアイドルのツイートを見る瞬間も多いのでは?

吉田 アイドルは自撮りが必須だから、承認欲求云々とは関係なく、やらなきゃいけないものとしてやってる人も多いと思うんですよ。だから、むしろいろいろこじらせて、自撮りができなくて悩んでいるタイプのほうが気になります。

あと、たまにアイドルの子から「これを拡散してください」とか頼まれることもあるんですけど、本当に面白いとか思えない限りは基本的にスルーしてます。ボクが【拡散希望】みたいなツイートをRTするわけなくて、むしろRTするとしたら拡散してほしくなさそうなやつ(笑)。

──SNSをやるのが当たり前の時代になって、女の子や女性アイドルに起こった変化などは感じますか?

吉田 アイドルは昔から病みやすい職業で、昔は病んでしまった時に逃げる場所もなかったのが、SNSやブログの登場で吐き出せる場所ができて、逃げ場ができたのはすごく良いことだと思っています。だから、昔は今よりアイドルの人口は少なかったはずなのに、アイドルの自殺が目についた

今はこれだけアイドルの人数が増えて病んでいる子も増えたのに、自殺という話はまず聞かないですよね。やっぱり、いろいろ吐き出せる場所が出来たのは大きいんだと思います。

──かつては中森明菜さんが自殺未遂を起こしたり、岡田有希子さんが自死を遂げるといった事件もありました。

吉田 一方で、批判なり悪口が嫌でも目に入るようになって、逃げ場もある分、昔より病みやすくなった部分もあると思います。ただ、今では病んでることもアイドルの個性になる時代になってきました。ボクが審査員をやっている「ミスiD」もほかのオーディションで嫌がられるような子を評価しよう、という企画なので、病んでいても居場所が見つかるっていうのは、良い時代だと思います。

──それでは、吉田さんから見て、SNSの使い方が上手い女性アイドルを教えてください。

吉田 絵恋ちゃんとか水野しずは能力が高いって思いますね。クソリプに対して、水野しずはやりすぎなくらい徹底的に「お前はクソリプ」だということを突きつけていく恐ろしいスタイルで、最高(笑)。絵恋ちゃんはうまくかわしながら、クソリプを晒していくスタイルです。 アイドルとファンのやり取りって大体どうでもよくて、「リプライ祭り」とかでタイムラインを埋めるのは本当に止めてくれ、って思ってます。ほとんどのアイドルがそうなんですけど熱心なファンのことしか見ていなくて、それ以外の人間が見ることを前提にしてないんです。でも、水野しずと絵恋ちゃんは客観的な視点を持って、Twitter上のやり取りをエンターテインメントとして笑いに落とす能力を持っています。

──つまり、今のアイドルには、SNSでも第三者の視点を持ってエンターテインメントとして、ツイートを提供する能力が必要?

吉田 いや、さすがにそこまで求めるのは酷ですよ。そこまで考えないからこそのアイドル、っていうのもあるし、これは特殊な例です。

ただ、表に出る職業で生きていくなら、何かしら自分の武器を色々探すわけじゃないですか。ボクがタレント本を集めてたりするのもそうですけど、それは素手で勝負できない人間が武器を探し求めた結果であって、素手で勝負ができるなら、それが一番正しいんです。

つまり、アイドルだったら何の武器もなく、ただご飯を食べてる光景だけで「最高!」って言われるのが理想のはずなんですよ。

「ミスiD」なんか武器コンテストみたいなものですからね(笑)。そういう意味でいうと、本当はそういう武器が必要なはずの側なのに「私はカワイイだけで勝負できる」って思ってそうな地下アイドルに対しては、「わかってないなー」と言いたくなります(笑)。

アイドルは刺激的なツイートを! SNSのススメ

──それでは、一概には言えないと思いますが、今、アイドルやタレントがSNSを使うメリット、デメリットはなんでしょう?

吉田 う〜ん、デメリットもあるけれどメリットのほうが確実にあるはずだから、アイドルのみんなは、どんどん自分を出していくべきだと思いますよ。

マンガ家の田中圭一さんとも話したんですけど、気圧や月の関係なのか、アイドルが一斉に“病みツイート”をする日とかがあって、深夜のタイムラインがすごいことになったりするんですけど(笑)。それが出せるようになったのは良いことで、出せずに病んでる子も多いと思うんですよ。縛りの厳しいメジャーアイドルならともかく、地下だったら「もっと自由にやればいいのに」と思ってて。

Twitterも含めて、SNSはいくらでも武器にできるものなのに、無難に怒られないような使い方しかしてない子が多くて、すごくもったいないと思います。メジャーなアイドルグループに入れない、最近流行りの可愛い子だけを集めたようなグループにも入れないぐらいの立ち位置の子とかだったら、もっと自分を出していかないと勝負にならないはずなんですよ。怒られてもいいから、もっと踏み込んだほうがいい。

だから、ボクは知り合いのアイドルが「Twitterを辞めようと思ってる」とかツイートしてたら、「続けるべきです!」って何度も説得しました。「面白いんだし、辞めたらもったいないですよ! 刺激的なことをつぶやいたら、ボクが拡散しますから!」って(笑)。

──面白かったら、拡散する、と。

吉田 それに尽きます。実際に知り合ったアイドルから「新曲が出来たので、豪さんRTしてください!」って言われても、良い曲じゃないと拡散しませんし。「あなたのことは面白いと思っているけど、あなたのグループや音楽性まで面白いと思っているわけじゃない」って。だって、なんでも拡散してたら今度はボクの信用が失われますから。

──反対に面白ければいいわけですよね。現在は芸能人やアイドルだけでなく、SNSにおいて芸能人以上にフォロワー数が多くて、存在感を発揮している人もいます。これまで一般人とされてきた人が、“インフルエンサー”と呼ばれたり。そういう意味で、芸能人と一般人の差が曖昧になってきてる部分もあるのかと。

吉田 芸能人か一般人かは全然関係ないですよ。ボク自身、会ったこともないけど毎日見てる面白い芸能人じゃなかったりするし、何の仕事をしている人なのかもわからなかったりしますからね。

──吉田さんはその状況を、どのように見ていらっしゃいますか?

吉田 正しいことだと思いますよ。Twitterは、どんな有名人であってもしくじったら総攻撃を受けるし、無名でも面白かったら拡散されて評価される世界。

ツイートの上では誰もが平等なんです。論争をして、知名度のある人に無名の人が平気で勝てる世界。InstagramやFacebookと比べたら面倒なことも多いのは確実だけれど、そこが面白いし刺激的だと思ってます。

──自分が面白いと思ったものをキュレーションして、拡散をするというスタンスはブレないわけですね。

吉田 ブレないです。ボクが頼まれて拡散を手伝うのは、自分の主演を降ろした監督を刺した後に倉本聰の自宅で切腹して、日本映画界に異議を唱えて松竹に車で突っ込んだ俳優・中山一也さんだけです。

ちょっと物騒な発言をした結果、中山さんのTwitterは永久凍結されちゃってるから、たまに拡散を頼まれるんですよ。ほかにも、炎上騒動の当事者から拡散を頼まれることもあって、そういうときは拡散してますね。自分はどういう立場なんだろうと思いながら(笑)。

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吉田豪

プロ書評家 / プロインタビュアー

1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』、『吉田豪の空手★バカ一代』などインタビュー集を多数手がけている。コラム集『聞き出す力』『続 聞き出す力』も話題を呼んだ。
最新著書に、『吉田豪の"最狂"全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』(白夜書房)がある。

1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1246)

「普段良い人なのにTwitterで荒ぶってたら、その人の本性は明らかにTwitterのほうで、普段は良い人を演じざるを得ないだけなんだろうな」わかる

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