『サクラクエスト』の音楽プロデュースを手がける「(K)NoW_NAME」インタビュー

『サクラクエスト』の音楽プロデュースを手がける「(K)NoW_NAME」インタビュー
『サクラクエスト』の音楽プロデュースを手がける「(K)NoW_NAME」インタビュー

(C)TOHO CO., LTD.

4月から放送中のTVアニメ『サクラクエスト』。『花咲くいろは』『SHIROBAKO』を手がけたP.A.WORKSによるお仕事シリーズ第3弾は、廃れた残念観光地・間野山市を舞台に、就職面接30社以上内定なしの主人公・木春由乃らが、町おこしに奮闘する物語だ。

本作の劇伴・オープニング(OP)・エンディング(ED)と、音楽周りを一挙に担当するのは、TOHO animation Recordsに所属するクリエイティブユニット・(K)NoW_NAME(ノウネイム)。

ユニットとして事実上のデビュー作となったアニメ『灰と幻想のグリムガル』では、主題歌や挿入歌、劇伴を手がけて注目を集める一方、メンバーの名前以外の情報が明らかにされておらず、その存在は謎に包まれていた。

KAI-YOU.netでは、いまだ未知の面が多い(K)NoW_NAMEにインタビューを敢行。

OP「Morning Glory」のボーカル・NIKIIEさんと、ED「Freesia」のボーカル・Ayaka Tachibanaさん、そしてOPと劇伴を担当した作曲家・Makoto Miyazakiさん、(K)NoW_NAMEと『サクラクエスト』のプロデューサーであり、ユニット立ち上げの中心人物である東宝の齋藤雅哉さんの4人に、誕生の経緯や「作品に寄り添う」という独自の制作体制などをうかがった。

ボーカリスト・作曲家・作詞家がそれぞれ3人ずつ、イラストレーターが1人、合計10人によって生み出されるのは、作品に関わるすべての音を担当することで可能になる、アニメの始めから終わりまで地続きの音楽。インタビューは、意外なアニメ制作秘話にも広がった。

取材・文:恩田雄多 編集:新見直

どんなジャンルの音楽もできる、作品に寄り添うユニット

──ボーカリスト、作曲家、作詞家がそれぞれ3人、そしてイラストレーター1人で構成される(K)NoW_NAMEは、アーティストとして珍しいかたちだと思います。どのような経緯で生まれたのでしょうか?

齋藤 前職のレコード会社時代から、どんな映像作品にも合うアーティストをつくれないかと思っていました。楽曲タイアップの場合、基本的にはアーティストがいて、作品があって「この作品に合うアーティストは誰だろう」と考えますよね。

でも僕としては、ひとつのユニットでどんなジャンルの音楽でも表現できて、なおかつ作品に寄り添えるユニットをつくりたかったんです。

自社で「TOHO animation RECORDS」という音楽レーベルを立ち上げたばかりの東宝に移ったのが4年前。音楽プロデューサーの三上(政高さん)と話し合いを重ねる過程で、現在のメンバー編成のイメージが固まっていきました。

その後、音楽作家事務所のVERYGOO(ベリーグー)さんにご相談して、所属されている宮崎誠(Makoto Miyazaki)さんやR・O・Nさん、睦月周平(Shuhei Mutsuki)さんといった作曲家と、ミズノゲンキ(Genki Mizuno)さん、eNuさん、瀬川浩平(Kohei by SIMONSAYZ)さんという作詞家の方々に参加していただきました。

ボーカリストについてはオーディションを行って、立花綾香さん(Ayaka Tachibana)さんとNIKIIEさん、AIJさんの3人が加わりました。

Miyazaki 僕自身、もうちょっと作品に寄り添ったかたちで音楽をつくりたいとは思っていたんです。だからコンセプトに共感できたし、自分以外のクリエイターも、友人であり尊敬できる人たちだったので、悩んだり迷ったりせず即決でしたね。

──NIKIIEさんとTachibanaさんが、ボーカリストとしてオーディション参加を決めた理由は?

NIKIIE 純粋に、作品に寄り添う音楽をつくるのが面白そうだと思って……面白そうだなって!

Miyazaki ちょっと、それだけ?(笑)

NIKIIE ちゃんと話すと(笑)、普段ソロで活動する中で、何度かタイアップの機会がありました。でも、どちらかというと「自分が持っている感性で作品に合う曲」──自分で完結するケースが多いというか、それがほとんどなんですよね。

映像制作チームの声や熱量を、もっとダイレクトに聞いて感じながら、音楽という面で作品に携われたら、今まで以上にやりがいがある。

作品に寄り添うために、求められるものに答えていくのは達成感があるというか、その過程で生まれる音楽は、作品があったからこその音楽という意味で内容が濃い。純度が高いんじゃないかなと思いました。
TVアニメ『サクラクエスト』ノンクレジットOP/「Morning Glory」(K)NoW_NAME
Tachibana 私のオーディションのときは、アニメと一緒に楽曲をつくり上げていくチーム、ということだけ聞いていました。それまでは私もソロ活動しかしてなかったので、単純にアニメの曲を歌えるのがうれしいと思っていて。

実際に内容を聞いたら、アニメの曲というものにとどまらず、むしろアニメからできてるといっても過言ではないくらいで、セリフの一環として歌詞がある、そういうユニットなんだと。

その第1弾から参加できるのはすごくうれしかったし、やってみたいと思いました。
TVアニメ『サクラクエスト』ノンクレジットED/「Freesia」(K)NoW_NAME
──楽曲のつくり手と歌い手に加えて、イラストレーターとしてso-binさんが参加されているのはなぜでしょうか?

so-binさんによる「Morning Glory」通常盤ジャケット (C)TOHO CO., LTD.

齋藤 実はユニット名が関係しているんです。最初は「名前がない」という意味で「NO_NAME」と名づけたんですけど、同じ名前がユニットとして存在していて、まずいなと(笑)。

僕の中では、その時点ですでに「ノーネイム」という音が馴染んでいたので、つづりを変えようと。

そこで、「名前だけを教える、知ってる」という「Know」と、その時々の作品に寄り添うという「Now」、そして以前の名前から「No」を残して、その3つが隠れていることがわかるような表記(K)NoW_NAME(ノウネイム)にしました。

そういった名前の由来もあって、ユニットとしてはアーティストの肖像も基本的に出さず、あくまでもクリエイティブを見てもらうというスタンスなんです。だから、いわゆるアーティストの写真もイラストにしたほうが、よりクリエイティブとして伝わるのではないかと思いました。

so-binさんによる「Freesia」通常盤ジャケット (C)TOHO CO., LTD.

──so-binさんがアニメ制作に関わるということはあるんでしょうか?

齋藤 現状は切り離して考えていますね。so-binさんには、楽曲の内容やコンセプトをラフに伝えて、あとはもう思うがまま描いてもらっています。

クリエイティブ以外の発信はしない

──お話をうかがうに、ユニットとして宣伝活動を大きく打ち出していかない、ということでしょうか?

齋藤 もともとのコンセプトとして、映像作品に合う音楽を、それぞれの個性を掛け合わせてつくる。つくった音楽を映像と合わせて聴いていただき、その結果「(K)NoW_NAMEっていいよね」と思ってもらうのが理想です。

言い換えると、クリエイティブ以外で何かこちらから発信しなくてもいいんじゃないかなと。作品と寄り添うためにつくったもので判断してもらえればいいと考えています。

NIKIIE 参加するうえで、その姿勢というか考え方が魅力的に感じたんですよ。あんまりがめつくないし、ギラギラしてない(笑)

もし商業チックな考え方だったら、受けてなかったかもしれない。個人的に、シンプルにいいものをつくって届けるというのが、純粋な音楽の成り立ちだなって思います。

広げていこうとか、大きくなろうとか、明確に高みを目指すより、つくり続けた積み重ねの先にそういう何かがある──という齋藤さんの哲学が素晴らしくて、それに心打たれて今ここにいます。

齋藤 あの……ちょっと、トイレで1回泣いてきていいですか

一同 (笑)。

NIKIIE 将来的にがめつくなるかもしれないですけど(笑)。

もちろん、作品に対してはくらいつく、というか表現しきるんですけど、それ以上のものはみんな求めていないスタンスがいいですね。

齋藤 でも本当にその通りで、継続していくことでユニットの価値が積み上がっていくような気がします。誰もやっていないことをやるのではなく、やりたくてもできないことを(K)NoW_NAMEはやる、そういう部分にこだわっていきたいです。

──一般的に、すべてがアニメありきでの音楽制作は聞いたことがありません。

齋藤 主題歌に関しては非常に珍しいと思います。NIKIIEが言ったように、アーティスト本人が表現したいことが前提にあって、それに対して、作品の要素を少し拾って曲づくりするのが従来のタイアップ。

まずは作品ありきで考え、楽曲のジャンルや歌詞の世界観も、その作品に完全に合わせようというのが(K)NoW_NAMEです。そういうユニットは、まだいないんじゃないですかね。

──作品にあわせて音楽をつくるという体制であるがゆえの難しさがあるんでしょうか?

齋藤 あると思います。本当に大変なんですよ。

監督と三上と僕とで、音楽ディレクションも含めた打ち合わせをかなり綿密に行っています。音楽と映像をいかにリンクさせるかという点は、すごく時間をかけるので、なかなかできないと思います。

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