いきなりですが、新書『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(2014)によれば、現代的なヤンキー(マイルドヤンキー)が好んでいるのは、「EXILE」だそうです。
EXILEのリーダー、そしてLDHの社長であるHIROが企画・プロデュースし、日本テレビとタッグを組んだ一大コンテンツ、それが『HiGH&LOW』。
かつてその土地で絶大な支持を集めていた伝説的な不良チーム「MUGEN」が解散して、5つの不良チームが台頭してきた「SWORD地区(これは後述しますが、不良チームの頭文字をとっています)」での不良たちのバトルと青春を描く──というのがおおまかなあらすじ。映画『HiGH&LOW THE MOVIE』予告
EXILEで不良モノ、つまりヤンキーが好きなものしか入っていません。
『HiGH&LOW』シリーズはドラマから始まり、7月16日には劇場版『HiGH&LOW THE MOVIE』が公開。
この劇場版が公開されてから、ヤンキー層やEXILEファン層だけでなく、なんと普段EXILEに興味を示さないオタク層からもじわじわと注目を集めつつあり、その人気はリピーターも出現するまでに及んでいます。
筆者は、この現象を年始から続いている『キンプリ(「KING OF PRISM by PrettyRhythm」)』に近いものを感じています。
見終わった後、不思議と「仲間を見捨てねぇ!」などと口に出したくなる『HiGH&LOW THE MOVIE』。
その背景や人物相関などを紹介しつつ、どこがそんなにすごいのか、僭越ながら魅力を解説したいと思います。
文/藤谷千明 編集/吉田雄弥
※多少のネタバレを含みますが、鑑賞前の人も是非読んでみてください
『HiGH&LOW』は、そんなEXILE TRIBEが満を持して送り出す、完全オリジナルの不良コンテンツというわけです。
『HiGH&LOW』の公式サイトには、こんな文言が踊っています。
まず最初の展開は、15年秋に日本テレビ系にてドラマ『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』シーズン1、16年春にシーズン2を放映。 その劇中でおきたエピソードは、Instagramと連動(登場人物が撮影した写メという設定で写真がアップされるのです)しています。
さらにドラマだけでは止まらず、漫画でも展開。不良漫画らしく(?)、秋田書店の『月刊少年チャンピオン』で連載し、コミカライズ担当は不良漫画『シュガーレス』で知られる細川雅巳です。
この情報だけで、「ヤンキー層」需要を本気でターゲットにしているのが伝わるのではないでしょうか。
この5チームの頭文字をとって「S.W.O.R.D.」。
彼らが跋扈する地域はまとめて「SWORD地区」と呼ばれています。
チームの間は危ういバランスで均衡を保っていたものの、ひょんなことから抗争が勃発していきます。
それに加えて山王のレディースチーム・苺美瑠狂、SWORD地区を狙うヤクザの家村会がストーリーに絡み、ドラマ版シーズン2からは湾岸地区の戦闘集団・MIGHTY WARRIORSが参戦。 そして伝説のチーム・MUGENの過去話も盛り込んでしまうと、ドラマ(30分)2クールと2時間強の映画では普通に考えたら時間が足りません。というか実際足りてないです。
同系統のジャンルと比較しますと、たとえば、架空の日本の不良たちの抗争を描いた『TOKYO TRIBE2』を実写化した映画『TOKYO TRIBE』では、基本的にはムサシノSARU、ブクロWU-RONZという2つのチームを中心に話が進み、そこにシンヂュクHANDSが参戦し、背後に蠢く海外マフィアと戦うことになります。
『池袋ウェストゲートパーク』ドラマ版も、話に絡んでくるチームはG-BoysとBlack Angelsの2つです。
この通り、他の作品とくらべても異常にチームや登場人物が多いのが特長なのです。
しかも「全員主役」と打ち出していて、かつ、全キャラチーム設定が過剰で、たとえばSOWRDのチームのひとつ、RUDE BOYSが拠点にしている「無名街」は無国籍風スラムです。
本作は日本円が流通し、石原さとみやアントニオ猪木が存在している世界なのですが、ふつうの商店街である「山王街」の隣に突然スラム「無名街」があるという状態。
リーダーのスモーキーも戦闘能力の高いキャラクターですが、持病を抱えているらしく、バトルの最中に突然血を吐いたりします。本当にこれは日本の話なのか。
一事が万事その状態で、『HiGH&LOW THE MOVIE』では、
大量の登場人物たちが大画面画いっぱいにめまぐるしく暴れまわるのを必死で追いかけることになります。
すると何が起きるか? なぜか心地よいグルーヴ感が生まれるのです。
映画を何度も見ていると「なんてことないシーンでもあのキャラがあんな動作を!」という発見にもつながり、リピーターが生まれる要因にもなっています。
ちなみに筆者は3回見ましたが、まだ見落としているシーンがあると思います。もちろん本来商業エンタメ映画としては欠点になる要素なのですが、『HiGH&LOW THE MOVIE』に関して言えば、この「とっちらかり感」が魅力に繋がっていると思います。
これがもっと整理されたものであれば、違った印象になっていたかもしれません。EXILE / Rising Sun -short version-
本作の監督、久保茂昭氏はEXILEのPVを多数手がけており。本作の魅力である多人数の見せ場をつくる技術はこれまでのEXILE TRIBEの撮影で培われたのではないでしょうか
不良漫画の金字塔・高橋ヒロシの『クローズ』1巻にこんな台詞があります。
「このカラ校はね! 不良のオリンピックみたいな所なんです!」
転校してきたばかりの主人公・坊屋春道に、クラスメイトのヤスがカラ校(カラスの学校)こと鈴蘭男子高校がどんな場所なのかを説明するシーンです。
90年に連載が開始された『クローズ』のヒット以降、不良漫画の喧嘩はスポーツ化したといっても過言ではありません(リアル路線の漫画もあるのですが、主流ではないと思います)。
そして実写映画版の『クローズZERO』で「現実味」よりも「爽快感」が勝るという傾向は顕著になります。
クライマックスである校庭を舞台にした大人数vs大人数の運動会のような集団バトルシーンを筆頭に、この映画の作風は後の不良映画、漫画に大きな影響を与えました。
もちろん『HiGH&LOW』も例外ではなく、その影響下にあり、映画『クローズEXPLODE』には、三代目J Soul BrothersのELLY、岩田剛典や、『HiGH&LOW』にも出演している早乙女太一、柳俊太郎らも出演しています。
劇場版の目玉である、SWORD連合100人vsMIGHTY WARRIORS・ダウト500人による大乱闘は、
Let's go!
Party Time!
でスタートする大運動会。
このシーンは各キャラクターの見せ場も満載で(達磨一家は赤いハッピ、White Rascalsは白い衣装と、多人数でも各チームがわかりやすいのも楽しい!)、映画館の大画面で何度でも繰り返して見たくなる爽快感と中毒性を持っています。
100人vs500人バトルがメインディッシュとすれば、映画冒頭の「商店街につっこむトラック」「勢い良く燃えるスラム街」と、前菜も常軌を逸した豪華さで、中盤のスモーキー(窪田正孝)と劉(早乙女太一)の一騎打ちも見逃せません。
これまでEXILE TRIBEのPVを多数手がけた久保茂昭監督と、映画『るろうに剣心』でアクションシーンが高く評価された大内貴仁アクション監督の実力がいかんなく発揮されており、エンドクレジットで100人以上のスタントマンの名前がズラーーーーーーッと並ぶさまは生身のアクションへのこだわりを感じされてくれます。EXILE「ふたつの唇」PV
EXILEの面々が警察に扮し銃撃戦を繰り広げる「ふたつの唇」PV。こちらも監督は久保茂昭氏
そして主人公の山王連合会総長コブラを演じるのは、三代目 J Soul Brothersの岩田剛典。彼はボーカルではなくてパフォーマーで、演技経験は少ないもののダンスで鍛えたであろう身体能力は折り紙つきです。 また、LDH所属ではない俳優たちの見せ場もふんだんに盛り込まれています。
とくにチームのリーダーを務める俳優たちは主役を食う勢いで見せ場満載、アメ車のボンネットに寝そべり啖呵を切る日向(林遣都)、育ったスラムを燃やされて怒りに震えるスモーキー(窪田正孝)、戦闘狂の番長の村山(山田裕貴)……。突飛な設定を全力で表現する若手俳優たちに尊敬の念を禁じえません。
このように、アクションも演技もこの映画でしかみることの出来ないものが満載なのです。
YouTubeに公式動画が予告も含め多数アップロードされていますので、是非一度その目で確かめて欲しいと思います。『HiGH&LOW THE MOVIE』Best Action Scenes Special Trailer
アクションをまとめた名場面集
「ROAD TO HiGH&LOW」 予告第2弾
「ROAD TO HiGH&LOW」はコブラ、ヤマト、ノボルの物語を再編集した映画
さて、「『HiGH&LOW』のアクションはすごいけどストーリーは……」という意見もあります。
ストーリーは”無い”わけではなく、やっぱり過剰なのです(過剰ゆえに時々破綻しています)。
骨幹となるストーリーは、シーズン1の山王連合会のコブラとヤマト、そしてある事件でヤクザになってしまった幼なじみのノボルを中心とした話、シーズン2から語られるMUGENの過去、総長の琥珀さん(どうしてもさん付けしたくなる)と龍也、九十九をとりまく話です。
本作のテーマはシーズン1から一貫しており、「コミュニティは変わっていくものであり、それでも人の絆は変わらない」ということ。
思い返してみると、EXILE TRIBE、LDHという組織はこの十数年で随分と巨大化しました。とはいえ、本質は変わっていないということをわかってほしいという、HIRO社長の願いが込められているように思えるのです。HiGH&LOW Special Trailer ♯10 「ムゲン」
MUGENのストーリーを中心に編集された予告編
劇場版のクライマックスでは、
「MUGENは仲間を見捨てない!」
「どうしてわかってくれないんですか琥珀さぁん!」
と、本作のラスボス琥珀さんを説得しながら、2人がかりでひたすらブン殴るというシーンが、彼らの思い出の回想とともに交互に続いていきます。
「説得しながら殴ると(何故か)トラウマが解消され改心する」は、バトルものではわりとありがちな説得方法ですし、不良漫画でも『ギャングキング』などでも頻繁にみられる手法です。
とはいえ、極上のアクションで脳を散々ぐらんぐらんに揺さぶられた我々観客にとって、この説得パンチと回想シーンが20分近く続く状態(体感的には多分1時間以上)は、ある種の自己啓発セミナー。
映画を見終わった観客の心はMUGENのメンバーと化し、口々に「MUGENは仲間を見捨てねえ!」「琥珀さぁん!」というセリフを真似したくなってしまう、それが『HiGH&LOW』マジックなのです。
MUGENは仲間を見捨てませんが、劇場の上映期間は有限です。
もう終了してしまった劇場も少なく無いのですが(地域によってはこれから上映という劇場もあります)、ソフト化を待つよりも是非劇場でこの映画を! 事件を! 目撃してほしいんですよ琥珀さぁん!
(C)2016「HiGH&LOW」製作委員会
※一部、表現を補足いたしました
EXILEのリーダー、そしてLDHの社長であるHIROが企画・プロデュースし、日本テレビとタッグを組んだ一大コンテンツ、それが『HiGH&LOW』。
かつてその土地で絶大な支持を集めていた伝説的な不良チーム「MUGEN」が解散して、5つの不良チームが台頭してきた「SWORD地区(これは後述しますが、不良チームの頭文字をとっています)」での不良たちのバトルと青春を描く──というのがおおまかなあらすじ。
『HiGH&LOW』シリーズはドラマから始まり、7月16日には劇場版『HiGH&LOW THE MOVIE』が公開。
この劇場版が公開されてから、ヤンキー層やEXILEファン層だけでなく、なんと普段EXILEに興味を示さないオタク層からもじわじわと注目を集めつつあり、その人気はリピーターも出現するまでに及んでいます。
筆者は、この現象を年始から続いている『キンプリ(「KING OF PRISM by PrettyRhythm」)』に近いものを感じています。
見終わった後、不思議と「仲間を見捨てねぇ!」などと口に出したくなる『HiGH&LOW THE MOVIE』。
その背景や人物相関などを紹介しつつ、どこがそんなにすごいのか、僭越ながら魅力を解説したいと思います。
文/藤谷千明 編集/吉田雄弥
※多少のネタバレを含みますが、鑑賞前の人も是非読んでみてください
ヤンキー層を本気で狙った総合エンタメプロジェクト
かねてからEXILE TRIBE(EXILEをはじめ、関連ユニットやグループなどが属しています)は、劇団EXILE所属の青柳翔主演『ろくでなしBLUES(舞台・ドラマ)』、EXILEのパフォーマー・AKIRA主演『GTO』、GENERATIONS・EXILEの白濱亜嵐や劇団EXILEの面々が主演をつとめた『シュガーレス』、三代目J Soul Brothersの登坂広臣と能年玲奈(現在は”のん”名義)の共演で話題になった『ホットロード』などなど……不良漫画の実写化に力を入れていました。『HiGH&LOW』は、そんなEXILE TRIBEが満を持して送り出す、完全オリジナルの不良コンテンツというわけです。
『HiGH&LOW』の公式サイトには、こんな文言が踊っています。
自ら「総合エンタメプロジェクト」を掲げるだけあって、ドラマ・映画・ライブ・漫画・Instagramなどなど、様々なメディアを股にかけためまぐるしい展開を見せています。EXILE TRIBEがかつてない新たなエンタテインメントに挑戦! 世界初の総合エンタテインメント・プロジェクト 『HiGH&LOW THE MOVIE』公式Webサイトより
作中に登場する「山王連合会のチハル」によるInstagram
まず最初の展開は、15年秋に日本テレビ系にてドラマ『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』シーズン1、16年春にシーズン2を放映。 その劇中でおきたエピソードは、Instagramと連動(登場人物が撮影した写メという設定で写真がアップされるのです)しています。
さらにドラマだけでは止まらず、漫画でも展開。不良漫画らしく(?)、秋田書店の『月刊少年チャンピオン』で連載し、コミカライズ担当は不良漫画『シュガーレス』で知られる細川雅巳です。
この情報だけで、「ヤンキー層」需要を本気でターゲットにしているのが伝わるのではないでしょうか。
過剰にキャラが立ちすぎているチームと登場人物たち
ではまずは、冒頭でも紹介した過剰なキャラ設定がクセになる5つのチームを説明させてください。S 山王連合会
山王街を守りたい、仲間の帰ってくる場所をつくりたいという気持ちから生まれた地元密着型チーム。地元愛、絆が大事というマイルドヤンキー的なメンタリティなものの、喧嘩の仕方はあまりマイルドではない。総長は元MUGENのメンバーであるコブラ(由来はアントニオ猪木を敬愛しているため)。山王連合会のメンバーは商店街にある元MUGENの龍也の立ち上げた洋食屋ITOKAN(龍也はある事件で死亡し、現在は妹が切り盛りしている)をたまり場にしている。W White Rascals
クラブ「heaven」を経営しているスカウト集団。その信条は男に傷つけられた女たちを守ること。やってることはスカウトというよりはバウンサー(用心棒)。リーダー・ROCKYは傷ついた女たちに「もう一度人を信じる勇気と生きる術を与える」ことがスカウトだと作中で語っており、将来の目標は恵まれない子供たちの施設をつくること。女子供に優しい世界を目指す。”セーフティーネットとしての水商売”という現代社会の一面を表現しているとかいないとか。O 鬼邪高校
読み方は「おやこうこう」。全国から不良が集まり、クローズZERO的喧嘩大運動会を毎日のように繰り広げている極悪高校。そのため極道組織からのスカウトが絶えず、より良い組織からのスカウトを待っているため留年を繰り返し生徒の平均年齢は23歳、「5留で1流」と言われるレベル。ちなみにドラマ、映画含めて教師の姿が画面に登場することはめったにない(筆者が確認したところ、シーズン2で1度きり)。番長は村山。R RUDE BOYS
捨て子や流れ者が集まる治外法権のスラム街「無名街」を守る守護神と呼ばれるチーム。街の住人は皆家族とし、家族を傷つけるものは許さない。アクロバティックな動き(パルクール)で敵を翻弄する。リーダーのスモーキーはものすごく強いけれどものすごく病弱。D 達磨一家
MUGENに潰された「日向会」というヤクザ4兄弟の末っ子、日向紀久を中心に結成されたチーム。「達磨」には「敵の手足を奪う」「やられても何度も起き上がる」という意味が込められている。メンバーは赤いハッピをまとい、喧嘩の時には和太鼓を持参するので和に対するこだわりがあるとおもいきや、移動手段はアメ車。この5チームの頭文字をとって「S.W.O.R.D.」。
彼らが跋扈する地域はまとめて「SWORD地区」と呼ばれています。
チームの間は危ういバランスで均衡を保っていたものの、ひょんなことから抗争が勃発していきます。
それに加えて山王のレディースチーム・苺美瑠狂、SWORD地区を狙うヤクザの家村会がストーリーに絡み、ドラマ版シーズン2からは湾岸地区の戦闘集団・MIGHTY WARRIORSが参戦。 そして伝説のチーム・MUGENの過去話も盛り込んでしまうと、ドラマ(30分)2クールと2時間強の映画では普通に考えたら時間が足りません。というか実際足りてないです。
同系統のジャンルと比較しますと、たとえば、架空の日本の不良たちの抗争を描いた『TOKYO TRIBE2』を実写化した映画『TOKYO TRIBE』では、基本的にはムサシノSARU、ブクロWU-RONZという2つのチームを中心に話が進み、そこにシンヂュクHANDSが参戦し、背後に蠢く海外マフィアと戦うことになります。
『池袋ウェストゲートパーク』ドラマ版も、話に絡んでくるチームはG-BoysとBlack Angelsの2つです。
この通り、他の作品とくらべても異常にチームや登場人物が多いのが特長なのです。
しかも「全員主役」と打ち出していて、かつ、全キャラチーム設定が過剰で、たとえばSOWRDのチームのひとつ、RUDE BOYSが拠点にしている「無名街」は無国籍風スラムです。
本作は日本円が流通し、石原さとみやアントニオ猪木が存在している世界なのですが、ふつうの商店街である「山王街」の隣に突然スラム「無名街」があるという状態。
リーダーのスモーキーも戦闘能力の高いキャラクターですが、持病を抱えているらしく、バトルの最中に突然血を吐いたりします。本当にこれは日本の話なのか。
一事が万事その状態で、『HiGH&LOW THE MOVIE』では、
大量の登場人物たちが大画面画いっぱいにめまぐるしく暴れまわるのを必死で追いかけることになります。
すると何が起きるか? なぜか心地よいグルーヴ感が生まれるのです。
映画を何度も見ていると「なんてことないシーンでもあのキャラがあんな動作を!」という発見にもつながり、リピーターが生まれる要因にもなっています。
ちなみに筆者は3回見ましたが、まだ見落としているシーンがあると思います。もちろん本来商業エンタメ映画としては欠点になる要素なのですが、『HiGH&LOW THE MOVIE』に関して言えば、この「とっちらかり感」が魅力に繋がっていると思います。
これがもっと整理されたものであれば、違った印象になっていたかもしれません。
レッツパーリーな大運動会
不良漫画の金字塔・高橋ヒロシの『クローズ』1巻にこんな台詞があります。
「このカラ校はね! 不良のオリンピックみたいな所なんです!」
転校してきたばかりの主人公・坊屋春道に、クラスメイトのヤスがカラ校(カラスの学校)こと鈴蘭男子高校がどんな場所なのかを説明するシーンです。
90年に連載が開始された『クローズ』のヒット以降、不良漫画の喧嘩はスポーツ化したといっても過言ではありません(リアル路線の漫画もあるのですが、主流ではないと思います)。
そして実写映画版の『クローズZERO』で「現実味」よりも「爽快感」が勝るという傾向は顕著になります。
クライマックスである校庭を舞台にした大人数vs大人数の運動会のような集団バトルシーンを筆頭に、この映画の作風は後の不良映画、漫画に大きな影響を与えました。
もちろん『HiGH&LOW』も例外ではなく、その影響下にあり、映画『クローズEXPLODE』には、三代目J Soul BrothersのELLY、岩田剛典や、『HiGH&LOW』にも出演している早乙女太一、柳俊太郎らも出演しています。
劇場版の目玉である、SWORD連合100人vsMIGHTY WARRIORS・ダウト500人による大乱闘は、
Let's go!
Party Time!
でスタートする大運動会。
このシーンは各キャラクターの見せ場も満載で(達磨一家は赤いハッピ、White Rascalsは白い衣装と、多人数でも各チームがわかりやすいのも楽しい!)、映画館の大画面で何度でも繰り返して見たくなる爽快感と中毒性を持っています。
100人vs500人バトルがメインディッシュとすれば、映画冒頭の「商店街につっこむトラック」「勢い良く燃えるスラム街」と、前菜も常軌を逸した豪華さで、中盤のスモーキー(窪田正孝)と劉(早乙女太一)の一騎打ちも見逃せません。
これまでEXILE TRIBEのPVを多数手がけた久保茂昭監督と、映画『るろうに剣心』でアクションシーンが高く評価された大内貴仁アクション監督の実力がいかんなく発揮されており、エンドクレジットで100人以上のスタントマンの名前がズラーーーーーーッと並ぶさまは生身のアクションへのこだわりを感じされてくれます。
そして主人公の山王連合会総長コブラを演じるのは、三代目 J Soul Brothersの岩田剛典。彼はボーカルではなくてパフォーマーで、演技経験は少ないもののダンスで鍛えたであろう身体能力は折り紙つきです。 また、LDH所属ではない俳優たちの見せ場もふんだんに盛り込まれています。
とくにチームのリーダーを務める俳優たちは主役を食う勢いで見せ場満載、アメ車のボンネットに寝そべり啖呵を切る日向(林遣都)、育ったスラムを燃やされて怒りに震えるスモーキー(窪田正孝)、戦闘狂の番長の村山(山田裕貴)……。突飛な設定を全力で表現する若手俳優たちに尊敬の念を禁じえません。
このように、アクションも演技もこの映画でしかみることの出来ないものが満載なのです。
YouTubeに公式動画が予告も含め多数アップロードされていますので、是非一度その目で確かめて欲しいと思います。
説得パンチはまるで自己啓発
さて、「『HiGH&LOW』のアクションはすごいけどストーリーは……」という意見もあります。
ストーリーは”無い”わけではなく、やっぱり過剰なのです(過剰ゆえに時々破綻しています)。
骨幹となるストーリーは、シーズン1の山王連合会のコブラとヤマト、そしてある事件でヤクザになってしまった幼なじみのノボルを中心とした話、シーズン2から語られるMUGENの過去、総長の琥珀さん(どうしてもさん付けしたくなる)と龍也、九十九をとりまく話です。
本作のテーマはシーズン1から一貫しており、「コミュニティは変わっていくものであり、それでも人の絆は変わらない」ということ。
思い返してみると、EXILE TRIBE、LDHという組織はこの十数年で随分と巨大化しました。とはいえ、本質は変わっていないということをわかってほしいという、HIRO社長の願いが込められているように思えるのです。
劇場版のクライマックスでは、
「MUGENは仲間を見捨てない!」
「どうしてわかってくれないんですか琥珀さぁん!」
と、本作のラスボス琥珀さんを説得しながら、2人がかりでひたすらブン殴るというシーンが、彼らの思い出の回想とともに交互に続いていきます。
「説得しながら殴ると(何故か)トラウマが解消され改心する」は、バトルものではわりとありがちな説得方法ですし、不良漫画でも『ギャングキング』などでも頻繁にみられる手法です。
とはいえ、極上のアクションで脳を散々ぐらんぐらんに揺さぶられた我々観客にとって、この説得パンチと回想シーンが20分近く続く状態(体感的には多分1時間以上)は、ある種の自己啓発セミナー。
映画を見終わった観客の心はMUGENのメンバーと化し、口々に「MUGENは仲間を見捨てねえ!」「琥珀さぁん!」というセリフを真似したくなってしまう、それが『HiGH&LOW』マジックなのです。
MUGENは仲間を見捨てませんが、劇場の上映期間は有限です。
もう終了してしまった劇場も少なく無いのですが(地域によってはこれから上映という劇場もあります)、ソフト化を待つよりも是非劇場でこの映画を! 事件を! 目撃してほしいんですよ琥珀さぁん!
(C)2016「HiGH&LOW」製作委員会
※一部、表現を補足いたしました
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作品情報
HiGH&LOW THE MOVIE
- 企画プロデュース
- EXILE HIRO
- 監督
- 久保茂昭
- 脚本
- 渡辺啓、平沼紀久、TEAM HI-AX
- 企画制作
- HI-AX
- 製作著作
- 2016「HiGH&LOW」製作委員会
関連リンク
藤谷千明
81年生。工業高校を卒業し自衛隊に入隊。その後さまざまな職を経てフリーライターに。近年はV系が中心。
主な執筆先「ウレぴあ総研」「realsound」「ヘドバン」「ステューピー」など。
KAI-YOUでの執筆記事:http://kai-you.net/article/31184
Twitter:https://twitter.com/fjtn_c
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