「TOHYO CYPHER」はヒップホップだったのか? 新宿アルタ前でラッパーが語ったこと

ヒートアップするライブにサイファー

やや緊張気味ながら、アップテンポなトラックや引きこもりだった時に書いた曲に乗せて、21歳という立場からまっすぐな言葉を紡いだCHARLESさん。

CHARLES

ムーディーな『MUSIC』や代表曲『NEW MONEY』を歌い、変幻自在で抜きん出たラップスキルを見せつけるISH-ONEさん。「僕が言いたいことは一つだけで、自分の可能性を信じていきましょう」とクールに語った。

ISH-ONE

沖縄出身、CHICO CARLITOさん。代表曲『C.H.I.C.O.』や『フリースタイル・ダンジョン 2016』を披露した。「選挙のことに関しては、みなさんが決めてくださいって感じで。俺も俺のことは俺が決めるし。だからみなさんも自分のことは自分で決めればいいんじゃないっすか」。

CHICO CARLITO

続く2本めのサイファーは、ACEさん、KEN THE 390さん、ISH-ONEさん、SALVADORさん、CHICO CARLITOさん。

左からSALVADOR、ACE、KEN THE 390、ISH-ONE、CHICO CARLITO

「ニューエラ」を担当するKEN THE 390さん、そして「自由」がテーマのSALVADORさんの「油断も隙もねー集団、陰日向に咲くミュータント、俺たち乗る魔法の絨毯。知ってるぜ音楽なら自由じゃーん」というクールなライムを受けて、不運にも「ブロッコリー」を引き当てたACEさんが「帽子被ろうが被るまいがおまえの自由だ。俺は取ったらもっこり、髪の毛もっぱらアフロブロッコリー」とそれぞれのワードを拾いつつ会場を大いに盛り上げる。 そして2本目のサイファーも再び「選挙に行こう」コールで締めくくられた。

KissShotの『Dirt Boys』、ニガリの『ワンクリック詐欺』

KissShot

続くKissShotさんは「フリースタイルダンジョン」に出演した際にモンスター・漢 a.k.a. GAMIさんにdisられたことを受け、「パクリパクリ言われてめんどくさいからやってやりますよ」と、度々似ていると言われる人気ラッパー・KOHHさんの『Dirt Boys』トラックでライブ。

「肩をはたくホコリ払い」「苦しいものいらねー 中身とか見た目 何にも知らねー 綺麗だけど汚ねー」と『Dirt Boys』の歌詞を本歌取りしながら、「あの人本物、あいつは偽物 悪口NO,NO 奪えば俺のモノ!」と歌って自分のものにして見せた。 そして、同年代のニガリさんも参加して2人でライブ。 狭いステージを縦横に動き回るKissShotさんがライブ中にテントに足をとられて挫くハプニングが起こるも、澄ました顔で去っていったKissShotさんの後を引き受けて、そのままニガリさんのライブに。

公共の場なんですげー楽しいことをラップしに来ました」と、高3の時にAVを見ていて引っかかった体験を元にした『ワンクリック詐欺』を1バースだけ披露した。 さらに、続く2本目となるMCバトルは、抽選の結果、KissShotさんと、ニガリさん同様「高校生RAP選手権」優勝経験を持つLEON a.k.a 獅子さん。同世代での共演/競演が続く。 ゴリゴリに攻め立てる殺気鋭いLEONさんと、先ほどのライブを引きずってか、明らかにKOHHを意識したフロウでのらりくらりとかわすKissShotさん。

一歩も譲らない2人にジャッジも割れ、延長の末、「おまえの方が上がってないテンション 韻の踏み方勉強 した方がいいぞじゃないとする説教」とパンチラインを放ったKissShotさんに軍配が上がった。

地元・新宿を背負ったACE

ACE

自分でもネタにするほどこの日登場回数の多かったACEさんがライブでも登場。地元・新宿のど真ん中でライブができていることを噛み締めながら「おまわりさん止めらんないんだぜー」と吠える。

ラッパーってのは、誰かに言わされんじゃなくて、自分の言いたいことを吐き続けるだけ。そういうもんだと俺は思ってるんで。やりたいことやれよ。人生だぜ、一度きりだぜ」と語りかけ、最後に『HALO』を披露した。

ライブをぶちかましたKEN THE 390が選挙について語る

KEN THE 390

イベントも終盤、次のステージはKEN THE 390さん。「足りない!!」「Make Some Noise」「ガッデム!! TOKYO」と立て続けにライブを行う。

「今日来てるみんな最高だと思うんで、俺らも最高の真っ向勝負で応えたいと思います」というMCから、ニガリさんとCHICO CARLITOさんに加え、出演者としては発表されていなかったKOPERUさんというフルメンバーを客演に迎えての人気曲『真っ向勝負』。

左からKOPERU、ニガリ、KEN THE 390、CHICO CARLITO

ラスト、『Like This Like That』のコール&レスポンスで会場の盛り上がりも最高潮に。

新有権者へのメッセージとして、「やっぱ僕は選挙行った方がいいと思ってるわけですよ。見た目の通りこういうキャラクターなんで、真面目なこと言いますと、どこに入れるとか自分で考えればいいと思う。極論、投票所に行って誰にするか決めるくらいのノリで行ったとしても、行かないよりはいいと思うんですよ。自分の生活の責任は自分で持たないといけないわけですから」と持論を展開した。

輪入道も最後は「選挙に行くわ!」

そして、Dragon Oneさん、KissShotさん、輪入道さん、LEON a.k.a 獅子さん、CHICO CARLITOさんの5人による3本目、本日最後のサイファー。

「一人じゃできないけどみんなひとり、これは即興ない仕込み」とKissShotさん。そして「不安なんかねーつまんなくたってあがればいいねこれは無料 響いとけよ俺のフロウ!」とまくし立てるDragon Oneさんに呼応して観客も思わずハンズアップ。 それぞれのメッセージを載せた即興は、もはやお約束の「選挙に行こう」の流れに。これには輪入道さんもついに「俺選挙に行くわ!」と断言するというストーリーも生まれた。

般若登場! 一番わりーやつは?

いよいよ初日の大トリ、ライブはラスボス・般若さんの番に。

「東京UP! 東京UP! 誰がなんと言おうと東京UP!」と吠えながら、「TOHYO CYPHER」に現れた般若さん。

自身のレーベルに所属するSHINGO☆西成さんのREMIX『東京UP』終わりに「選挙いけよ?」と凄む。続けて『土足厳禁』で「安い平和と闘うか踊らされるかがオレ達の試練」と歌い上げる。

般若さんもまた、「僕のライブは第三者の厳しい目で判断してください」と、政治資金問題に揺れる舛添知事の発言をパロって時事ネタをブッ込む。

そして、7月に発売される『グランドスラム』から新曲もライブして、アツいフリースタイルもかました。 客演として参加したDJ RYOWさんの『孤独。』から『はいしんだ』、「最高じゃん、無料で、サイファーあってバトルあってライブあって、東京都最高じゃないっすか」とMCを入れて『最ッ低のMC(人間発電所 Remix)』を披露。

そして『ビートモクソモネェカラキキナ』という怒涛のパフォーマンスの最中、「よく考えろ 最高のイベントだけれども、一番わりーやつは東京都なんじゃねーか? ヒップホップはブレねーから大丈夫だぜ」とぶち上げる。

毎回、ライブが終わってステージを去ろうとするラッパーを引き留めて新有権者へのコメントを求めるくだりは完全に蛇足だと、あの場にした誰もが満場一致で思っていたことだろう。この日の出演者で唯一、般若さんはライブが終わると一瞬も振り返らずステージを後にした。 コメントを求める記者たちも「バイトがあるんで」と振り切って、いつかの「渋谷サイファー」の時のように、颯爽とスポーツバイクで走り去っていった。

「TOHYO CYPHER」はヒップホップか?

ステージ裏で、「最初は怖かったっすけどね。選挙?って」と語ったACEさん。「でも、やることはどこでも一緒で、ラップを広い人に聞いてもらえる。自分の意見を誰にも邪魔されずに伝えられる、こういう場に感謝している」と話した。

日本国籍ではないACEさんは、選挙権がない。18歳で選挙権が得られることがうらやましいという思いもあるという。

「日本のヒップホップと東京都の組み合わせが異例っていうのが、冷静に考えるとそうなんだっけ? と思っちゃって。そもそも合わないって思うこと自体が俺らやみんなが勝手に思い込んでるだけ」。KEN THE 390さんは、ライブ後にこう答えてくれた。 20年近い活動暦のあるUZIさんは、ラッパーという立場からは、「世の中のヒップホップに関する関心が高まってるってことが実感できたし、これだけの人が集まってくれることが嬉しい。これからの日本のヒップホップのためにもなる歴史的一歩だったんじゃないか」と語った。

一方で、行政と手を取り合ってヒップホップイベントを行う意義について聞いてみた。

曰く「新しく投票できるようになった世代に投票にいこうっていうことを伝えるにあたって、同じ目線からのラップを通じて、この国の未来、指導者を自分で選ぶ責任や意義を少しでも伝えられれば。ひいては、それが自分たちの子孫にまで続いていくことになるので、それを考え始める第一歩になってくれるのであれば、こんな光栄なことはない」。

ネット上での「こんなのヒップホップじゃない」という批判については、「自分のやりたいことをやって、メッセージをラップで若い層に伝えるのがヒップホップです」とUZIさん。

「この場に、言いたくないのに言わされているやつは一人もいない。都の売名行為に加担した、リアルじゃないっていう意見もあるかもしれないんですけど、俺にとっては、MCたちにとっては、今日この場でラップをやったってことがリアルなので、誰も後悔してない。誰も媚びてねーし、胸を張って誇りをもってすべての発言をした。だから、僕にとっては、これが僕のヒップホップです」。 18歳選挙権のプロモーションのため、狂気あふれる世界観を創出するAC部を起用したHPや動画を公開するなど、様々な試みを展開する「TOHYO都」。

今回のヒップホップイベントにあたっては、迷っている若者たちの背中を押してあげたいという思いから、言葉を紡いで伝えようとするラッパーに協力を仰いだ、という思いがその背景にあるという。

押し付けがましい瞬間がなかったとは言えない。切実さの度合いもラッパーそれぞれで当然異なっていた。

選挙に行くことの意義を本気で説いたラッパーもいれば、「東京都主催、しかもアルタ前でヒップホップできてすげーじゃん」と手放しで喜んでいるように見えたラッパーもいて、「選挙にいこう」「投票しよう」と軽々しく口にしたくないという気持ちを隠さないラッパーもいた。

ただ、リアルかどうかで言えば、それぞれのバックボーンを背負ってラップにメッセージを託した全員がリアルだったように、筆者には思えた。

「ヒップホップ」自体、今、過渡期の真っ只中にあるのではないか。

カウンターカルチャーだったヒップホップをライフスタイルとして貫こうとする人や、自分のメッセージを伝えるための音楽ジャンルとしてヒップホップを広めようと努める人。

立場は違えどラッパーはみんな多かれ少なかれ、「高校生RAP選手権」「フリースタイルダンジョン」からはじまったバトルムーブメントの波に晒され続けている。

現に、ヒップホップイベントの客層であれば間違いなく熱狂が起こっただろうKissShotさんの『Dirt Boys』使いのライブやISH-ONEさんの『NEW MONEY』が披露されても、あまりに盛り上がりに欠ける肩透かしな場面も数多くあった。近年、バトル主体のイベントではよく見かける光景だが。

しかし、全体で見れば、本来的な意味での「ヒップホップ」に愛着を持っているヘッズが懐疑的な目を向ける一方、昨今のバトルブームから興味を持ち始めた新規のファンは、豪華な面子によるバトルにサイファー、ライブをそれも無料で観覧できるこのイベントを心から楽しんでいるようだった。


行政とヒップホップ、古参ファンと新規ファン。複数の文脈が混じり合って奇妙な形で同居していた「TOHYO CYPHER」初日は、こうして幕を閉じた。
1
2

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

イベント情報

TOHYO CYPHER(終了)

開催日程
2016年6月4日 13:00~17:30(予定)
2016年6月5日 13:00~17:30(予定)
場所
新宿ステーションスクエア(JR新宿駅東口駅前)

■進行
UZI

■出演MC
〈6月4日(土)/5日(日)〉
ISH-ONE・UZI・ACE・Kiss Shot・SALVADOR・CHARLES・CHICO CARLITO・
Dragon One・MC ニガリa.k.a赤い稲妻・PONY・LEON a.k.a 獅子・輪入道 他

〈6月4日(土)のみ〉
KEN THE 390・般若 他

〈6月5日(日)のみ〉
サイプレス上野とロベルト吉野・S7ICK CHICKs・TAKARABUNE・
鎮座DOPENESS・DOTAMA・Mary Jane 他

関連情報をもっと読む

関連キーフレーズ

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

ストリートの週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ