石田スイとつくり上げた「有り得ないドラマ」 『東京喰種:re』OPができるまで

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石田スイとつくり上げた「有り得ないドラマ」 『東京喰種:re』OPができるまで
石田スイとつくり上げた「有り得ないドラマ」 『東京喰種:re』OPができるまで

Cö shu Nie(コシュニエ)インタビュー

POPなポイントを3行で

  • 『東京喰種:re』OP主題歌を担当するCö shu Nie
  • 原作者・石田スイが自ら発見して抜擢
  • 奇跡のようなフックアップを経たバンドの未来
『ヤングジャンプ』で連載中の漫画を原作に、4月から放送中のTVアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』のOP主題歌「asphyxia」(アスフィクシア)を手がけたインディーズバンド・Cö shu Nie(コシュニエ)。

これまでメディア露出がほとんどなかった新人を抜擢したのは、原作者である漫画家・石田スイさん。本人から直々のオファーによって、アニメ制作の現場においても異例のタイアップが決定、ソニー・ミュージックレーベルズからメジャーリリースを果たした。

Cö shu Nieってだれ?」──ネット上ではそんな声もささやかれていたが、メンバーは最高の楽曲で期待に応えた。印象的なサビの変拍子、持ち前の繊細かつ力強いバンドサウンドは、作品のファンから高く評価されている。

KAI-YOU.netでは、6月6日にリリースされたばかりの「asphyxia」で作詞曲を担当したボーカル・中村未来さんにインタビューを敢行。自身も「普通では有り得ないドラマ」と表現する奇跡のようなチャンスをつかんだいま、彼女は何を思うのか。

気になるタイアップの経緯から、楽曲を通じて見えてくる作品と彼女自身の共通点、石田スイさんからもらった言葉まで、徹底的に迫った。

取材・文:ヒガキユウカ 編集:恩田雄多

Twitterで生まれた石田スイとの出会い

──まずは、一番気になる主題歌決定に至るまでの経緯についてうかがいたいと思います。石田スイさんからはどのようなコンタクトがあったのでしょうか?

中村未来(以下、中村) 石田スイ先生が、Twitterで私たちのCDのことをつぶやいてくださって、やりとりをしたのが最初のコンタクトです。でもその前から、私が投稿していた動画に「いいね」を押してくださったり、Twitterでフォローしてくださったりしていました。

あとからうかがった話によると、YouTubeで「butterfly addiction」という曲を見つけてくださったのがきっかけだったみたいです。 ──その頃のCö shu Nieは、活動の拠点である関西で有名な存在だったんですか?

中村 いえ、まったく(笑)。それこそ“どインディーズ”でやっていました。

もともと「東京喰種」シリーズは漫画で読んでいたので、作者である石田スイ先生からいいねやフォローをいただいた時点でびっくりでした。

2017年の夏に、「東京喰種」の担当編集さんからバンドのホームページに直接連絡があって、そこで初めて石田スイ先生にお会いすることになったんです。

好きな作品を描いている方だったので、お会いしたら「自分にとっても刺激になるんじゃないかな」くらいの意識でした。なので、まさかそこでアニメの主題歌の話をいただくことになるとは……。

──そこで石田スイさんから直接オファーされたんですね! その時の心境は?

中村 もちろん驚きましたが、作者さんご本人が選んでくださったことが、とにかくうれしかったです。

曲づくりに入ってからは石田スイ先生にデモを送って、コメントをいただいて、というやりとりをしていたのですが、無名の私たちに対してもきちんとアーティストとして接してくださいました。

デモは何個も送ったんですけど、どれもしっかり聞いた上で「こっちが良いと思うな」とか「これもめっちゃ良いですね」とか返してくださって。 ──たしか「asphyxia」というタイトル(「窒息」という意味)は、石田スイさんがつけられたんですよね。

中村 そうなんです。実は「つけてください」とこちらからお願いしたんです。そうしたらすぐに考えてくださって、翌日には戻ってきて驚愕したのを覚えています(笑)。

「asphyxia」という強い引力を持った言葉を選んでくださったと思います。いま改めて見返しても、すごく曲全体を表している感じがしますね。

──アニメ初回放送時、OPが流れた瞬間はいかがでしたか?

中村 リアルタイムで見ていたんですが、文字通り「おぉぉぉぉぉ!」って感じでした。いろいろな人から連絡がきて、周りが喜んでくれているのが何よりうれしかったですね。

「東京喰種」と無意識に共鳴した「asphyxia」

──もともと好きだったという「東京喰種」ですが、中村さんが思う一番の魅力を教えてください。

中村 キャラクターの感情や考え方のやわらかさみたいなところですね。それぞれの立場によって正義が変わるというか、自分の正しいと思うことが他人にとってそうであるとは限らないし、守るもののためにつく優しい嘘もあるよなとか、いつも共感の連続です。

──対立する存在である人とグール、それぞれの正義が細かく描かれていると思います。

中村 映画的でもあり、絵画的でもあり……「漫画の表現ってこんなにたくさんあるんだな」って読むたびに実感しますね。カネキ(金木研)やジューゾー(鈴屋什造)をはじめ、個々のキャラクターもそれぞれ際立っていてすごく好きです。

『東京喰種 トーキョーグール:re』

──特に気になるキャラクターはいるんですか?

中村 キャラクターはもう全員気になる存在ですよ!

ただ、自分で言うのもおこがましいんですけど、実は「asphyxia」ができたときに、石田スイ先生が「ジューゾーみたいですね」と言ってくださって。

ジューゾーこと鈴屋什造。グールを駆逐・研究するCCG捜査官であり、申し分のない実力を持つ一方で、異常な残虐性を見せることがある。幼少期はビッグマダムと呼ばれるグールに飼われており、女の子扱いされる、欲望を押しつけられるなど過酷な環境でありながら、ジューゾーも「ママ」と慕っていた

中村 先生の中で「あなたがくれた痛みが 愛かもしれないとひとりで期待してた」という歌詞がリンクしていたのかもしれません。

とはいえ、そのときは「全然違うんです!!!」ってめちゃくちゃ必死に否定した記憶があります。ジューゾーは造形の美しさが前提にあるキャラクターなので、なんだか申し訳なくなっちゃって。そういうことじゃないのはわかってるんですけどね(笑)。

──ほかにも「不条理 “仕方ない” なんて いつまで言えるのか どれだけ諦めれば気が済むんだろう」「剥がれ落ちる僕も認めて戦うだけだ」など、「東京喰種」のキャラクターを想起させる歌詞があるように感じました。アニメの主題歌ということで、曲をつくる際にストーリーやキャラクターを意識されたんでしょうか?

中村 正直に言うと、自分を引き出すことに集中していました。どちらというと、多くの人が「東京喰種」に抱くイメージに引っ張られないようにしたいと思っていました。作品からインスパイアされているのか、きちんと自分を削って生み出しているのか、聞く人には伝わるので。

その上で作品と通じていると感じてもらえたなら、それは私自身が作品と無意識に共鳴した部分なんだと思います。そういう意味では、「asphyxiaの歌詞が作品とリンクしている」という声はうれしいですね。
Cö shu Nie – asphyxia (Official Video) / “東京喰種トーキョーグール:re” OP
──歌詞を見た石田スイさんがジューゾーをイメージするくらいなので、相当リンクしている部分はあると思います。

中村 そもそもオファーをいただいたときに、「作品のための曲ではなく、自分たちのための曲をつくってください」と言ってくださっていたので、Cö shu Nieのすべてを込めるつもりでつくりました。

それでもなお「東京喰種」と通底するものを多くの人が感じるのであれば、それはCö shu Nieと「東京喰種」がやはり“共鳴し合っている”ということなのかもしれません。

「東京喰種」にも通じるヒトの脆さと強さ

──「東京喰種」には人・グール問わず、異なる感情が複雑に絡み合う表現が数多く登場します。共鳴という意味で「asphyxia」にもそういった相反する感情などで、思い当たる点はありますか?

中村 そうですねぇ……「asphyxia」の歌詞には人間の脆さと強さが表れていると思います。人は心がめちゃくちゃになっていても、笑顔でいられたりするじゃないですか。静かに見えても、内側では激情が渦巻いていたり。その激情が「切迫感」となって変拍子に繋がっていたりします。

「東京喰種」のキャラクターも、一人ひとりが持つ脆さと強さの両面が緻密に描かれているのが、すごく印象深いですね。脆く見えるキャラクターでも、その内側に眠る強さが発揮されたり、人との繋がりに助けられ突き進んでいったりする。 中村 現実世界でも、人の感情は一辺倒じゃないし一方通行でもないですよね。ある程度の年月生きていれば、「私、クズなんじゃないかな…」と感じたり、「めっちゃ正しく生きている私、正義!」みたいな気持ちになったりすることもある。人間、いろいろありますからね(笑)。

それでも今回、直接お会いして改めて感じたんですけど、「東京喰種」のキャラクターは芯の部分で「石田スイ先生が書かれたものなんだな」と、より実感するようになりました。

──一方で、歌詞を手がけた中村さんご自身の脆さや強さはどんなところだと思いますか?

中村 まず強さは結構しぶといところですね。天邪鬼だけど我が強くてしぶとい。反面、細かいことや小さいことが気になってしまう、繊細さは弱い部分かもしれません。

私の書く曲はすごく精神状態に左右されるので、場合によってはそういう繊細さを不要に感じることもありますね。

弱さ、恥ずかしさをさらけ出して作品と釣り合う存在に

──「asphyxia」制作時はどのような精神状態だったのでしょうか?

中村 個人的にもいろいろあってかなりダークな時期でした。私の曲づくりの場合、「自分」と「自分を見ているもうひとりの自分」がいて、そのもうひとりの自分がつくっているような感覚なんですよね。本来の自分を第三者的に一番近くで捉えているというか……。

でも「asphyxia」では、当時は精神的に弱ってたのもあるんですけど、あえていつもより本来の自分にフォーカスしました。

歌詞の「」(かぎかっこ)でくくられた部分は、そのまま本来の自分、つまり私自身が感じていること。そういう意味では、これまでの曲に比べてより自分をさらけ出していると思います。

──人気アニメの主題歌という多くの人の目と耳に触れるタイミングで、より内面をさらけ出そうとしたのはなぜですか?

中村 それぐらいの覚悟がないと、「東京喰種」という作品に釣り合わないと思っていました。それに、秘めたパーソナルな部分というのは、誰もが抱きながらも明らかにしない、言ってしまえば恥ずかしい部分じゃないですか。そういうものを、音楽の中でだけでもちゃんと明らかにしていきたいなと思ったんです。 中村 私自身「音楽がすべて」な人間で、人付き合いもあまりうまくありません。そんな自分が人と繋がれるとしたら、やっぱり音楽なんですよ。

主題歌という多くの人に聴いていただける機会だからこそ、自分の恥ずかしい部分、弱い部分に向き合ってみようと思ったんです。「asphyxia」をきっかけに、曲づくりのスタンスも変わりつつありますね。

奇跡のようなフックアップを経たCö shu Nieの未来

──主題歌決定時に中村さんは、一連の経緯を「普通では有り得ないドラマ」と表現しました。ご自身やバンドにとって、それほど影響力の大きい出来事だったということですか?

中村 それこそ人生観が変わるくらいの転機になっていると思います。石田スイ先生が「Cö shu Nieは良い」と感じて「東京喰種」の主題歌に選んでいただいて、さらにCDをリリースすることになったソニー・ミュージックさんとのご縁の発端も先生で。 中村 選んでもらった立場で言うのはおこがましいですけど、自分が良いと思ったものを信じて、今回のように行動できる石田スイ先生をすごく尊敬しています。

だからこそ、私たちも自身が誇れる曲をつくりたい、そういうバンドであり続けたいという気持ちはより強くなりました。

──バンドの方向性にも影響を与えるほどの出会いだったということですね。少し気が早いかもしれませんが、前代未聞のフックアップを経たCö shu Nieの今後をどのように考えていますか?

中村 アニメの主題歌を担当したとはいえ、バンドとして今後のレールが用意されたわけではありません。それでも、周囲を取り巻く環境は、以前とは比較にならないほど目まぐるしく変わっていきます。

多くの人に認知されたことで、流行り廃りの対象にもなる。将来なんて、本当にどうなるかわかりません。

でも、かつての自分たちには戻れない。そういう意味では、いまスタートを切った感覚を強く感じています。いまでも十分に贅沢なんですけど、やっぱり欲が出てきちゃって、ライブもやりたいしアルバムも出したい。自分たちのためにも、もう攻め続けるしかないと思っています。

読者限定! Cö shu Nieプレゼント企画

今回、Cö shu Nie・中村未来さんインタビュー特別企画として、KAI-YOU.net読者限定でプレゼント企画を実施。

抽選で3名の方に、「Cö shu Nieオリジナル“Frame out T-shirt”」(Mサイズ)をプレゼントします!

【応募方法】
STEP1: Twitterで「@KAI_YOU_ed」をフォロー
STEP2: ハッシュタグ「#cöshunie」をつけてこの記事をツイート

応募締め切りは2018年6月14日(木)18:00まで。抽選の上、後日、当選した方にTwitterのDMにてご連絡いたします。是非ご応募ください!

(c)石田スイ/集英社・東京喰種:re製作委員会

Cö shu Nie(コシュニエ)『asphyxia』ページ
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関連キーフレーズ

ロックバンド

声の表情で魅せる切ない女性ボーカルと、繊細でカオスなバンドサウンド。
シーケンスで華やかに彩る独創的な世界観で、ロックもポップも越えて、軽やかに行進するバンド・Cö shu Nie(コシュニエ)。

中村未来 -Miku Nakamura-
Vocal/Guitar/Keyboards/Manipulator
09/13生誕 A型

松本駿介 –Shunsuke Matsumoto-
Bass
02/23生誕 AB型

藤田亮介 –Ryosuke Fujita-
Drums
01/05生誕 B型

ヒガキユウカ

編集者・ライター

1993年生まれのライター・編集者。求人広告制作、フリーランス期間を経て下北沢の編集プロダクション・プレスラボ所属。趣味はニコニコ動画・OPENREC.tv視聴とSplatoon。快活なオタク。Twitter:@hi_ko1208

1件のコメント

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onda

恩田雄多

Cö shu Nieのボーカル・中村未来さん自ら「有り得ないドラマ」と語った石田スイ先生との出会い。最初に知ったときは、僕自身、信じられませんでした。

でもいまは、なんでも起こりうる時代なんだと、月並みな表現ながら改めて実感しています。

取材中、石田スイ先生に何度も感謝する中村さんが印象的で、人生観が変わるくらいの転機を経たCö shu Nieの今後は、俄然気になってきました。