マキヒロチの漫画『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』に、こんなセリフがある。新生活をはじめる女性に、不動産業を営む姉妹が新居の鍵を手渡しながら言う。
では、どうやって「好きなとこ」を見つけるか。たぶんそれは、「見つかる」と思って街を歩いてみるしかないのだ。そんな新しい出会いのきっかけとなりそうなフェスを紹介する。
それが11月12日(土)、13日(日)にかけて開催される「人と人、街と街が音楽でつながる」をテーマに掲げる回遊型ストリート音楽フェス「SOTETSU LOCK ON MUSIC 2016(相鉄ロックオンミュージック、以下SLM)」だ。
特色は、神奈川県を走る鉄道「相鉄線」の8つの駅に設けられた特設ステージを、参加アーティストがめぐりながらパフォーマンスを行うこと。そのユニークなスタイルが“回遊型”と付く由縁だ。もちろん、入場料やチケットなどは不要。昨年の様子は下記のダイジェストムービーにまとめられている。
「SLM」の魅力は大きく2つある。まずは、「相鉄線」を回遊するという仕掛けのユニークさ。それから、年齢や性別、国籍、プロもアマも問わない多彩な参加アーティストだ。
文/松本塩梅 編集/吉田雄弥
ロケ地めぐりも楽しい! 相鉄線の「背伸びしない暮らし方」
相鉄線は横浜〜海老名の相鉄本線と、二俣川〜湘南台の相鉄いずみ野線、2つの区間から成っている。終点の海老名から渋谷までは実は1時間弱あれば着く距離にあり、たとえば横浜方面や都心で働く人々にとっても暮らしやすい街だろう。そんな相鉄線沿いを舞台にする「SLM」、今年は下記8会場でのライブが予定されている。一般公募で選ばれたアーティストは横浜駅を除く7会場のうち、いずれか2会場で各25分間のステージを踏む。相鉄線沿いに来て、楽しんでもらい、ゆくゆくは住んでもらうきっかけになるイベントを目指して、3年前から毎年開催している。
実は、相鉄線は映画やドラマ、MVの撮影にも積極的に協力しており、数々の作品で駅やホームがロケ地になっている。回遊するアーティストたちの音楽に触れながら、ロケ地を散策してみるのも楽しいアクティビティとなるだろう。1. さがみ野駅/Azalea stage(さがみ野相鉄ライフ内広場)
2. 南万騎が原駅/Forest stage(相鉄ライフ南まきが原前広場)
3. いずみ野駅/Spring stage(相鉄ライフいずみ野前広場)
4. 大和駅/Rainbow stage(大和駅東口駅前広場)
5. 緑園都市駅/Green stage(緑園都市相鉄ライフ内広場)
6. 瀬谷駅/Owl stage(瀬谷駅北口駅前広場)
7. 湘南台駅/Coast stage(湘南台駅地下通路イベント広場)
8. 横浜駅/West stage(横浜駅西口VIVRE前広場特設ステージ) 「SLM」ライブ会場一覧
たとえば、「踊る新垣結衣さんが可愛すぎる!」と人気の“恋ダンス”でも話題な星野源さんの楽曲『時よ』で、彼が踊っている場所は「湘南台駅」だ。
せっかくの機会に街を歩きながら、不動産屋の軒先をのぞいてみると思わぬ発見があるかもしれない。 イベントを主催する相鉄グループの担当者は、相鉄線沿いを「背伸びしないで暮らせる、生活に密着した街」だと話してくれた。「家族や地域住民との交流を大切にしながら、等身大の生き方ができる」と顔をほころばせる。高級グルメ雑誌が提案するような、着飾った男女が己のプライドで斬り合うようなライフスタイルとは対極の世界かもしれない。
現状では数年後の予定だが、相鉄線はJRや東急東横線と直通するプランが進行している。
将来的には海老名駅から目黒駅まで1時間を切るらしい。また、「二俣川駅」をはじめ、駅前の再開発が進んでいるエリアもあり、生活のしやすさも向上している。
華やかさや利便性のみを追求する暮らしからのギアチェンジを考えるのであれば、相鉄線沿いにはうれしい未来のイメージを抱けそうだ。
2年連続参加のアーティストたちが語る「SLMの魅力」
「SLM」の開催趣旨には「音楽を愛する次世代アーティストを応援する」という思いが込められている。その思いに賛同してか、今年の出場アーティストには昨年度に引き続いて参加を表明する人々が少なくないという。「SLM」の魅力はどんなところにあるのだろうか? KAI-YOU.netでは楽曲やパフォーマンスの異なるアーティスト3組にうかがってみた。 「今回も全力フルスロットルで挑みます!」と前のめりな意気込みを語ってくれたのは、女性8人組のダンスボーカルユニットとして活動するfine。ライブハウスや野外音楽フェスなどのステージが多く、常に全力で挑むパフォーマンスが持ち味だ。
彼女たちは「昨年のSLMで、アーティストやスタッフさん、それから観てくれているみんなでイベントを盛り上げていく感覚が素晴らしいと思いました! 1年に1回と言わずに春夏秋冬と開催してほしいです!」と笑顔を見せる。 その「みんなで盛り上げる」を誰よりも体感したといえるのが、横浜を中心に、全国各地のイベントやライブハウスで活動する、男性2人組アコースティックデュオのHANICAMだ。
昨年のステージを振り返ると、彼らには決まって思い出すシーンがある。「残念ながら悪天候の中でパフォーマンスをしなければならなかったんです。それでも、スタッフのみなさんが一生懸命にイベントをつくり上げようとしている姿を見たら、僕らも心を打たれてしまって。おかげで、いつも以上に気持ちのこもったライブになったし、お客さんも喜んでくれて、アンコールまでいただいて嬉しかったですね」
彼らは「SLM」に参加したことで「老若男女問わず喜んでくれるようなライブとは?」ということを、ふだんの活動でも考えるようになったという。街中でのパフォーマンスだからこその難しさと喜びが、その言葉には滲んでいるようだ。 同様に「ライブハウスで出会わないような、世代や国籍もさまざまな人が偶然見てくれて、声をかけてくれたのが嬉しかったですね」と「SLM」ならではの喜びを話すのは、スリーピースのフォークロックバンドとして活動するTHE VISION。
相鉄線沿いにある中学校や高校に通っていたり、アルバイトをしていたスーパーがあったりと、THE VISIONのメンバーと相鉄線は関わりも深いようだ。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTに憧れて楽器を手にした彼らだが、今はどこか優しさやぬくもりを感じさせるサウンドを生み出している。その音楽は朗らかな相鉄線沿いの景色と、どこかシンクロしてくる。
3組のアーティストとも、スタッフや観客との一体感や出会いに快い印象を持っているようだ。それは、「SLM」のテーマである「人と人、街と街が音楽でつながる」を体現しているかのようなエピソードだった。
また、彼らのふだんの顔がのぞける「最高の8秒」をテーマにした動画も併せて公開されているので、見てみるとその人となりを感じられるだろう。
相鉄線は「音楽の都」になるのかもしれない
前述した相鉄グループの担当者は、この「SLM」に対する思いをこう語る。「地域の人たちが関わってよかった、関わりたいと思ってもらえるような持続的なイベントにしたいのです。プロのアーティストさんを呼んで、その知名度でお客様を呼ぶだけでは、いずれ疲弊してしまいます。自分たちの街を、自分たちでも盛り上げる。地域一体となった街づくりを行うきっかけとして、SLMを育てていきたいのです」
昨今、数多くの音楽フェスが開かれており、それぞれで成し遂げたい世界観は異なっている。「SLM」が歩む道のりは、他よりとてもゆっくりに映るかもしれない。ただ、おそらく「SLM」は、短期的なイベントではなく「まちづくり」のひとつなのだろう。 JRや東急東横線との相互直通運転が開始され、便利になり、人の流れがいくらか速くなったとしても、そうして育ててきた「相鉄線らしさ」はきっと失われない。「音楽の都」と名高いオーストリアのウィーンも、かつての貴族や一般市民がそろって音楽に関心を寄せるようになっていったからこそ発展していったのだから。
2016年11月12日、13日。街と人をつなぐ音楽フェスが始まる。この2日間だけは、イヤホンには留守番をしてもらうことになりそうだ。
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イベント情報
SOTETSU LOCK ON MUSIC
- 日程
- 2016年11月12日(土)・11月13日(日)
- 出演者
- 全〜組のアマチュアアーティスト
- オフィシャルサポーター
- FIRE BALL
- 主催
- 相鉄ホールディングス、相鉄ビルマネジメント
- 横浜西口元気プロジェクト実行委員会
- 入場
- 無料
■ライブ会場
相鉄線沿線8会場
1. Azalea stage:さがみ野相鉄ライフ内広場(海老名市)
2. Forest stage:相鉄ライフ南まきが原内広場(旭区)
3. Spring stage:相鉄ライフいずみ野内広場(泉区)
4. Rainbow stage:大和駅東口駅前広場(大和市)
5. Green stage:緑園都市相鉄ライフ内広場(泉区)
6. Owl stage:瀬谷駅北口駅前広場(瀬谷区)
7. Coast stage:湘南台駅地下通路イベント広場(藤沢市)
8. West stage:横浜駅西口VIVRE前広場特設ステージ(西区)
※ゲスト会場/一般アーティストフィナーレ会場
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