Interview

  • 2024.01.30

『すずめの戸締まり』プロデューサーの戦略 韓国発「WebToon」に見出す世界への道

『すずめの戸締まり』プロデューサーの戦略 韓国発「WebToon」に見出す世界への道

WebToon『レッドピルブルーゲイザー』© 2023 STORY inc. /CLLENN/ASH Inc.

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年々売り上げを伸ばし、2022年には5000億円規模にまで成長した日本の電子コミック市場。その中で近年、韓国発の新たな漫画文化「WebToon」が注目を集めている。

Webでの掲載を前提とし、縦スクロール形式で制作されたWebToonは、『梨泰院クラス』『女神降臨』などを筆頭にドラマでも人気を獲得。QYResearchが発表したデータでは、世界のWebToon市場は5500億円を超える規模とされている。

近年は、日本国内でも多くの企業がWebToonに参入。そして今回、映画『すずめの戸締まり』など新海誠監督作品のプロデュースを手がけるSTORY inc.が参入を発表した。

STORY inc.はアニメ映画『天気の子』やドラマ『舞妓さんちのまかないさん』など多数の作品を手がけている。/画像は公式サイトから

STORY inc.は、東宝の映画プロデューサー・川村元気さん、古澤佳寛さんらが2017年に設立。同社がWebToon参入にあたって手を組んだのは、テレビ東京系でドラマ化された『夫を社会的に抹殺する5つの方法』で知られるDMM傘下のデジタル出版社・CLLENN

2社は新作『レッドピルブルーゲイザー』でWebToonに進出する。STORY inc.代表取締役社長の古澤佳寛さん、そして元小学館の漫画編集者でCLLENNのGS編集部部長・五十嵐悠さんに、WebToonを取り巻く現状と、その中で新作に見出した勝機を聞いた。

目次

  1. 特権階級の悪を暴く新作WebToon『レッドピルブルーゲイザー』
  2. ヒットメーカーSTORY inc.がWebToonに乗り出す理由は?
  3. WebToonに参入する企業が増えている理由
  4. 国産WebToonが抱えている流通上の不利
  5. 多くの人に読んでもらうための「独占配信」という選択
  6. WebToonが日本の漫画好きから軽視されがちな理由

※本稿は、2023年12月にKAI-YOU.netで掲載された記事を再構成したもの

特権階級の悪を暴く新作WebToon『レッドピルブルーゲイザー』

──多くのヒット作をプロデュースしてきたSTORY inc.のWebToon進出作である『レッドピルブルーゲイザー』。今回の作品を制作する事になった経緯を教えてください。

五十嵐悠 GIGATOON Studio時代()に、『全裸監督』のプロデューサーである橘康仁さんにWebToonの原作として協力してもらっていました。橘さんの紹介でSTORY inc.にうかがう機会があり、その際に「一緒にWebToonの制作をしたい」と提案させてもらいました。

その時には古澤さんもすでにWebToonにアンテナを張っていたので、前向きな返事をいただけたんです。

※2023年9月にDMMグループ内のデジタルコミック制作会社であるGIGATOON Studio、コミックストック、フューチャーコミックスが統合され、CLLENNとなった。

古澤佳寛 僕らはアニメ・実写の映像製作をやっていて、クリエイターの方から「最近はWebToonの依頼が多い」という話は聞いていました。

その頃、映画『億男』やドラマ『今際の国のアリス』の脚本をつとめた渡部辰城さんと、実写の企画を進めようと打ち合わせをしていて。いくつか企画書を出してもらった中に『レッドピルブルーゲイザー』があったんです。

面白い企画だけど、かなり際どい描写やフックも多く、いきなり実写でつくるのは難しそうで

古澤佳寛さん:STORY inc.代表取締役社長。東宝株式会社映画企画部にも所属。プロデューサーとして『君の名は。』『天気の子』などを手がける。

古澤佳寛 であれば、一度WebToonとして世に出してみて、その反応を見て映像化を検討しようということになったんです。渡部さんはすでにWebToonの制作経験があり、見識も深かったですしね。

それからCLLENNと協業することになり、『レッドピルブルーゲイザー』をまずは制作していきましょうと。すごい早さで企画が進んでいきました。

──新作WebToon『レッドピルブルーゲイザー』はどういった作品なのでしょうか?

五十嵐悠 主人公は、ギャラ飲みをしながら出前配達をするような、その日暮らしをしているララという女性です。

彼女はふとしたきっかけで、飲むと人の精神を乗っ取れるようになる謎の錠剤「RED PILL」を手にしてしまう。しかし、固まった思想や目標を持っているわけではない彼女は「RED PILL」を手に入れても“なりたいもの”がないことに気づく。そこで、彼女は“上級国民”と呼ばれるような特権階級の悪を暴露していくことを選択する──。

悪を裁く物語ではありますが、ヒーローというよりはむしろ、悪を引きずり下ろすダークヒーローが活躍する作品になっています。

『レッドピルブルーゲイザー』の冒頭では、高齢者の起こした事故が描かれる

五十嵐悠 最初にこの作品の企画を見たのは、コロナ禍の2022年初頭でした。当時から非常に世相を表した作品だと思っていましたが、2年たった現在は格差や分断、それに対する不満が世の中に鬱積し、より本作のテーマが合う世界になってしまった印象ですね。

ヒットメーカーSTORY inc.がWebToonに乗り出す理由は?

──『レッドピルブルーゲイザー』では原作が渡部辰城さん、企画はSTORY inc.としてクレジットされています。CLLENNは作品制作にどのように関わっているのでしょう?

五十嵐悠さん:小学館で『週刊少年サンデー』や『マンガワン』、『月刊コロコロコミック』の編集部を経て、2021年にDMMグループへと入社。CLLENNやその前身であるGIGATOON StudioでWebToonの制作に携わる

五十嵐悠 一般的に想像されるような漫画編集者としての役割が近いですね。

最近では、国産WebToonとしてドラマ化も果たしたヒット作『夫を社会的に抹殺する5つの方法』を送り出すなど、国内でWebToonの制作に関する知見を一番持っているのは、我々だと自負しています

その上で、本作ではシナリオからネーム、作画それぞれの段階で素材をチェックして、これまでの経験を踏まえた意見をフィードバックしています。

ドラマ化もされたWebToon『夫を社会的に抹殺する5つの方法』©︎アップクロス・三田たたみ/CLLENN

──これまでSTORY inc.は、映像作品のプロデュースが中心で、作品の制作は別という印象でした。『レッドピルブルーゲイザー』で企画を担当することからも、今後はWebToon制作に本格的に携わっていくのでしょうか?

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