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POPなポイントを3行で

  • 『ブラックパンサー』でケンドリック・ラマーが示した王の姿とは?
  • 敵役のキルモンガーでラップした真意について
  • 『ブラックパンサー』が描く善と悪に迫る

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ケンドリック・ラマーが示した王のあるべき姿 『ブラックパンサー』の善と悪

Marvel Studios' BLACK PANTHER..Black Panther/T'Challa (Chadwick Boseman)..Ph: Film Frame..©Marvel Studios 2018

こんにちは、RAqです、この連載も3回目になりました。

今回のお題は大ヒット中の映画『ブラックパンサー』です。

同作は世界興行収入が1000億円を突破し、米国では『アベンジャーズ』(2012)に次いで、マーベル史上第2位のヒット作となっています。

この映画が人々の共感を生んでいる背景には、MARVELヒーローものという老若男女が楽しめるアクション映画でありながらも、現代社会における多くのテーマを上手く取り込んでいるという切り口の豊富さがあるのではないでしょうか。

主人公であるティ・チャラ国王が最後の場面で行うスピーチで、「賢者は橋をかけて、愚者は壁を築く」(原文では“バリア”ですが、日本語字幕の訳は“壁”となっています)と語っていることからもわかるように、分断が進んでいると言われるトランプ大統領誕生以降の世界の一大テーマである「包摂」や「団結」を正面から扱っています また、本作は黒人の正統派ヒーローや、偉大な文明を持つ架空の国・ワカンダ王国を描いたという点でも、その意義を語ることができます。

奴隷貿易によってアメリカに連れてこられ、母なる大地であるアフリカも欧米列強によって植民地とされてしまった歴史を持つアメリカの黒人にとっても、記念碑的な映画であるといえるでしょう。
Kendrick Lamar, SZA - All The Stars
そして、今やヒップホップの王となったケンドリック・ラマーが主題歌をはじめとした音楽を提供したという点でも注目を浴びました。

そこで、今回はケンドリックの過去作も交えて、映画『ブラックパンサー』とケンドリック・ラマーという観点を掘り下げてみたいと思います。

文:RAq 編集:ふじきりょうすけ

※この記事には映画本編のネタバレを含みます

ケンドリック・ラマーとティ・チャラ国王

ケンドリック・ラマー

ケンドリック・ラマー

ケンドリックは、たびたび自身を「キング(王)」であると表現してきました。

曲中で自身を「キング」だと表現しはじめたのは、2013年に発売された2ndアルバム『Good Kid M.a.a.D. City』からです。

Now everybody serenade the new faith of Kendrick Lamar
This is King Kendrick Lamar
King Kendrick and I meant it, my point intended is raw

さあ、みんなでケンドリック・ラマーの新しい信仰を祝福するんだ
こいつはキング・ケンドリック・ラマーだぜ
キング・ケンドリックだ、俺は本気だぜ、俺の言いたいことはありのままの気持ちだ Kendrick Lamar - “Compton”

しかし、彼はいきなり、なんの脈絡もなく自身を王だと自称しはじめたというわけではありません。

遡ると2011年の7月に1stアルバム『Section.80』をリリースしたあと、同年8月11日のライブ中に西海岸のヒップホップにおけるレジェンドたち、スヌープ・ドッグゲームらと共演。

そこで「お前がこれからは西海岸のヒップホップの松明を運んでいくんだ」とお墨付きを与えられたのです。

これがケンドリックの王への就任となりました。
Kendrick Lamar Gets Passed Down Torch HiiiPower Live Music Box Los Angeles, CA 8/19/11
この象徴的な「戴冠式」後のケンドリックは、以前にも増して、自身の責任を重く受け止めるようになります。

そして2013年の楽曲「Control」では、西海岸出身のラッパーでありながら、東海岸の王まで名乗り、大きな話題となります。

I'm Makaveli's offspring, I'm the King of New York
King of the Coast; one hand, I juggle 'em both

俺はマキャベリの子孫、ニューヨークの王、西海岸の王
片手で両方をジャグリングする Big Sean - “Control” feat. Kendrick Lamar & Jay Electronica

しかしながら、ケンドリックの「王政」は常に安泰だったわけではありません。

3rdアルバム『To Pimp a Butterfly』では、前作で成功者となったはずのケンドリックが苦悩する姿が描かれました。

成功したアーティストとして大金を得ながらも、その成功を失うのが怖くてツアーやビジネスに必死になり、結果として地元の家族や仲間を疎かにし、そして排他的になってしまいます。

その一方で、自分の家族や仲間を放り出して、自分だけがツアーを回ってお金稼ぎに必死になっていて許されるのかという「生存者の罪悪感」にも苛まれていきます。

少しだけ『To Pimp a Butterfly』を離れてしまいますが、ケンドリック自身も当時の心情がわかりやすく綴れたと述べている楽曲「FEAR.」(『DAMN.』収録)を引用します。

All this money, is God playin' a joke on me?
Is it for the moment, and will he see me as Job?
Take it from me and leave me worse than I was before?
At 27, my biggest fear was losin' it all
Scared to spend money, had me sleepin' from hall to hall
Scared to go back to Section 8 with my mama stressin'
30 shows a month and I still won't buy me no Lexus
What is an advisor? Somebody that's holdin' my checks
Just to fuck me over and put my finances in debt?

こんなにたくさんのお金、これは俺に対する神の冗談なのか?
これは一時的なことなのか、神は俺をヨブのように見ているのか?
全てを俺から取り払って、前よりも悪い状況に俺を置くのだろうか?
27歳の俺は、全てを失うことが何よりも怖かった
お金を使うのが怖かった、寝る間も惜しんでツアーをして回った
セクション8に戻って、母にストレスをかけるのが怖かった
月に30回もショーをしても、自分にレクサスすら買わなかった
アドバイザーって何だ? 俺のチェックを握ってる奴らか
俺を騙して、俺を借金の底に落とすためだけに Kendrick Lamar - “FEAR.”

成功と罪悪感の板挟みによって、次第に閉鎖的になっていくケンドリック。

地元の家族や仲間をないがしろにして、ビジネスに精を出している自分の姿を世界が知ったら、せっかく手にした自分の名声や成功すらも失われるのではないか──そして、いつしか自殺まで考えるようになります。

And if I told your secrets, the world'll know money can't stop a suicidal weakness

俺がこれらの秘密を暴露したら、自殺する心の弱さは、たとえ金があっても止められないって世界は知ることになるだろうな Kendrick Lamar - “u”

自分の財産を失う怖さ、そして同胞の面倒を見ない自分。

『To Pimp a Butterfly』中の「King Kunta」という楽曲で描かれたのは、板挟みになって苦しむケンドリックの姿でした。
Kendrick Lamar - King Kunta
そこでのキング(=ケンドリック)は、多くの人間が自分の足を引っ張ろうとする中で、敗北を恐れて他のラッパーたちを貶し、自身がラップゲームの王であることを声高に叫ぶ孤独な王の姿でもありました。

Bitch, where you when I was walkin'?
Now I run the game, got the whole world talkin' King Kunta,
everybody wanna cut the legs off him

クソ野郎、俺が歩いていたとき、お前はどこに居たっていうんだ?
今はゲームを走り抜けてる、世界中が俺の話をしている、キング・クンタ
誰もが俺の足を切り落としたがっている Kendrick Lamar - “King Kunta”

これは『ブラックパンサー』の主人公であるティ・チャラが抱える苦悩と似ています。

ティ・チャラは、父親であり前王でもあったティ・チャカがテロによって亡くなったことで王座に就きます。国王になった後は、ワカンダ王国を守り、率いていく責任を強く感じるようになります。
(C)Marvel Studios 2018 MARVEL-JAPAN.JP/blackpanther

/ブラックパンサーと国王、2つの顔を持つ主人公のティ・チャラ(C)Marvel Studios 2018 MARVEL-JAPAN.JP/blackpanther

ティ・チャラのいるワカンダ王国は、ヴィブラニウムという万能の鉱石を持ち高度な文明を築き上げながらも、その事実を世界から隠してきた歴史を持ちます。ヴィブラニウムを公表することで、世界がワカンダ王国を搾取することを恐れたからです。

一方で、それを世界で苦しむ人々のために活用しないことへの罪悪感も抱えていました。

そしてティ・チャラは本作のヴィラン役であり、王位を狙うキルモンガーが国に戻ってきた際に「挑戦の儀式」で力によって勝利することで全てを収めようとします。

この点も、力づくで王の座を守ろうとしてきたケンドリックとも重なるものがあります。

『To Pimp A Butterfly』で描かれたストーリーでは、孤独と自己嫌悪に陥ったケンドリックが、アフリカへと旅をします。そこで、貧しい男の姿を纏った神に出会います。

その様子が描かれた楽曲が「How Much a Dollar Cost?」です。

男は「1ドルをくれ」とお願いしますが、ケンドリックはそれを断ります。すると男は、自分の本当の姿が神であると明かし、ケンドリックに「お前は天国に居場所を得る機会を棒に振ったのだ」と伝えられます。

I'll tell you just how much a dollar cost
The price of having a spot in Heaven, embrace your loss. I am God

私が1ドルの価値を教えてあげよう
それは、天国に居場所を得るための値段だったのだ、失ったものを噛み締めなさい
私は神である Kendrick Lamar - “How Much a Dollar Cost?”

そこでケンドリックは、自分が取り憑かれていた「お金」や「地上での成功」がちっぽけなことであったと気づきます。

そうした過去の自分をさらけ出し、世界の人種問題等を解決するために自分の力を使うことを目指して地元コンプトンに帰り、見てきたものを伝え、自分を愛する大切さを説くというのがアルバム『To Pimp A Butterfly』の内容でした。

同作の最後で、そうした内容を今は亡きラッパー・2パックと語り合うケンドリックの姿もまた、あの世との境目で父親と話す国王ティ・チャラを連想させます。

Kings did it King's vision, Black Panther, King Kendrick, all hail the king!

王たちは成し遂げた、ブラック・パンサー、キング・ケンドリック、皆、王を讃えよ! Kendrick Lamar - “Black Panther”

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