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POPなポイントを3行で

  • 東大卒ラッパー RAqのコラム連載がスタート
  • 初回はエミネムと「もう一つの人格」について
  • エミネムがトランプ政権を批判する理由とは?

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エミネムがトランプ大統領に抗う理由 「第2の人格」で築いた名声とその代償

エミネム/写真はすべて公式Twitterより

こんにちはRAqです。ラップをしていて2017年11月に1stアルバムの『アウフヘーベン』を発売しました。

また、もっと洋楽のヒップホップを日本語で楽しめるようになればといいなと思い、「洋楽ラップを10倍楽しむマガジン」(外部リンク)というメディアもやっています。よろしくお願いします。
RAq

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さて、この度は、KAI-YOUさんに声をかけてもらい、これから月1回のペースで連載をしていきます。内容としては、ラッパーのリリックから海外の情勢などの様々な内容を読み解くものにしていこうと思っています。

ハイコンテキストな音楽としてのヒップホップのおもしろさを、ちょっぴり感じてもらえれば嬉しいです。

今回は第1回ということで、知名度も高く、最新アルバム『Revival』をリリースしたばかりのエミネムを取り上げ、彼がトランプ大統領を批判する理由を紐解きたいと思います。

文:RAq 編集:ふじきりょうすけ

トランプ政権を批判する理由とは?

全世界で累計1億枚以上のアルバムセールスをほこるエミネム。半自伝的映画『8 Mile』(2002年)は日本でも大ヒットし、そこで扱われたMCバトルの存在を大きく広めました。

そんなエミネムが2017年10月、「BET Hip-Hop Awards 2017」の授賞式で「The Storm(嵐)」と呼ばれるフリースタイルを披露して、トランプ大統領を痛烈に非難します。

トランプ支持者であれば、たとえ自分のファンであったとしても突き放す──そんなパンチラインが賛否両論を呼びました。

しかし、それは結果として「エミネムの勇敢な行為」と受け取られます。なぜならエミネムとトランプ大統領の支持層は重なっているからです。
Eminem Rips Donald Trump In BET Hip Hop Awards Freestyle Cypher

And any fan of mine who's a supporter of his
I'm drawing in the sand a line: you're either for or against
And if you can't decide who you like more and you're split
On who you should stand beside, I'll do it for you with this:
F**k you!

意訳:
俺のファンの中で、奴(トランプ大統領)のサポーターでもあるお前たちへ、
俺は砂に1本の線を書いてやる。お前はこっち側かあっち側かのどちらかだ。
もしもお前が俺とトランプのどっち側に着くべきか決められないっていうのなら、俺がその仕事を代わりにやってやるよ。
お前なんて糞食らえだ! The Storm(BET Hip-Hop Awards 2017 Freestyle)

それはなぜでしょうか。エミネムは、お金持ちのエリート層やセレブリティにとどまらず、自分の妻や母親まで誰かれ構わず“口撃”する下品なペルソナ(=スリム・シェイディ)を生み出すことで、郊外の白人層などの共感を呼び、大成功をおさめたアーティストです。

このスリム・シェイディとは、1stアルバム『Infinite』が思うような結果に繋がらず、フラストレーションが溜まっていく中で、トイレの中でふと思いついたキャラクター。エミネムの本名(マーシャル・マザーズ)の別人格であり、エミネムの中には「スリム・シェイディ」と「マーシャル・マザーズ」が同居しているという設定です。

スリム・シェイディが生まれた様子は「Without Me」という曲の中でも歌われています。

I've created a monster, 'cause nobody wants to
see Marshall no more they want Shady I'm chopped liver
well if you want Shady, this is what I'll give ya
a little bit of weed mixed with some hard liquor

意訳:俺はモンスターを生み出した
誰もマーシャルなんて見たくなかったからさ
あいつらが見たいのはシェイディだった、俺は滅多斬りにされた肝臓さ
お前らがシェイディが見たいってなら、こいつをくれてやるよ
強いアルコールと混ぜた大麻だぜ 「Without Me」

エミネムは2ndアルバム『The Slim Shady LP』以降、「スリム・シェイディという間抜けなキャラクターが言っている」という“タテマエ”を得ます。

こうすることで、「硬派でリアルなものがカッコいい」という風潮のヒップホップシーンにおいて、ラップの内容を過激なフィクションに寄せることができるようになり、唯一絶対の地位を確立しました。

そして、その過激なフィクションの中にこそ郊外の白人層などが求めるユーモアの居場所があったのです

実際に世間のスリム・シェイディへの共感は、「White America」や「The Real Slim Shady」といった彼の代表的な曲で、何度も表現されています。

See the problem is I speak to suburban kids
Who otherwise would've never knew these words exist
Whose moms probably would've never gave two squirts of piss,
'Til I created so much motherfuckin' turbulence,
Straight out the tube right into your living rooms I came,
And kids flipped when they knew I was produced by Dre,
That's all it took, and they were instantly hooked right in,
And they connected with me too because I looked like them

意訳:
分かるかい? 問題は俺が郊外の子どもたちに話しかけてるってことなんだよ。
俺が乱流を巻き起こすまでは、こんな言葉があるとも知らなかったような子どもたちにね。唾を吐くようなことさえないような母親たちの子どもたちさ。
テレビを通じて、みんなのリビングに直接に登場したってわけさ。
子どもたちは、俺がDr.Dreにプロデュースされてると知って、舞い上がってた。
それだけで十分だったのさ、あいつらは途端に俺に夢中になった。
そして、俺が彼らに似ていたから、俺に共感したのさ。 「White America」

And every single person is a Slim Shady lurking
He could be working at Burger King, spitting on your onion rings
Or in the parking lot, circling
Screaming "I don't give a fuck!"
With his windows down and his system up
So, will the real Shady please stand up?
And put one of those fingers on each hand up?

意訳:
全員の中にスリム・シェイディは潜んでるんだ。
彼はバーガー・キングで仕事中にお前のオニオン・リングにつばを吐きかけてるかもしれないし、駐車場をぐるぐる回りながら、窓を下ろして音量を上げて、「知ったこっちゃねえ!」なんて叫んでるかもしれない。
だから、もし本物のシェイディがいるなら立ち上がってくれるかい?
それで、両手の中指を立ててくれるかい? 「The Real Slim Shady」

エミネムは侮蔑的な表現を用いて社会を煽り、活動家の批判の対象にもなってきました。それらの表現はトランプ大統領の過激な発言とも方向性が近いため、支持者が重なる割合も大きいはずです。

そうしたファンを失うリスクを背負ってまで、トランプ大統領を批判したという風に評価されたわけです。

それでは、なぜエミネムはそこまでしてトランプ大統領を批判したのでしょうか。エミネムの新アルバム『Revival』を聴くと、彼がトランプ大統領を批判する理由が見えてきます。

スリム・シェイディの代償は家族との分断

スリム・シェイディは、エミネムの一部であり、エミネムにとって必要不可欠な存在です。

過去のインタビューでも「(スリム・シェイディは)映画のキャラクターと変わらない、アーティストとして生み出した1つのアートでもある」と語り、「スリム・シェイディは死なない」と説明したことがあります。

本作『Revival』でもスリム・シェイディは大暴れ。「Framed」では、クリスティ・ブリンクリー(アメリカの有名モデル)の屋敷に忍び込み、彼女を切り刻んでスティーブン・エイブリー(実在した猟奇殺人者)の自宅の前に放置したり。トランプ大統領の娘を車のトランクに詰めて運び、池に放り込んで殺害したり。やりたい放題です。

その一方で、過激な口撃を行った過去の自分自身に対する後悔の念も繰り返し表現されています。

たとえば「Bad Husband feat. X Ambassadors」では、元妻のキムへの謝罪が歌われています(エミネムは過去に「Kim」という曲で、1曲丸ごと用いて、キムの喉を切り裂いて殺害するという内容を歌ったことがあります)。

Every time we fought, the insults, they got… thrown too far
Words that we said that we didn't mean
The words that we meant that we didn't say
The ones that we thought that should've said

意訳:
俺たちが喧嘩するたび、行き過ぎた侮辱を投げ合った
俺たちの、本心ではなかった罵りの言葉
俺たちの、伝えられなかった本当の気持ち
伝えておくべきだったと後悔した気持ち Bad Husband feat. X Ambassadors

そして「In Your Head」では、本来はエンターテインメントのためのキャラクターであるスリム・シェイディが、エミネムの現実の世界と混じりすぎたことを後悔しています。

Maybe, I shoulda did a better job at separating
Shady and entertaining from real life
But this dang thing is still the hardest thing to explain

意訳:
もしかすると、俺はシェイディやエンタメと現実の生活を切り分ける努力を、もっとしておくべきだったのかもしれない
でも、これは未だに最も説明が難しい部分なんだ In Your Head

また『Revival』に収録されている曲ではありませんが、母親への度重なる侮辱を後悔する「Head Light」という曲もリリースしています。ちなみに、エミネムは『The Slim Shady LP』などの中で母親を薬物中毒等として中傷したことにより、約1,000万ドルを求める訴訟を母親から起こされたことも。

このように、スリム・シェイディはエミネムをスターに押し上げた存在であると同時に、エミネムの現実生活を狂わせた存在でもあります。

エミネムからすれば、スリム・シェイディは、彼と母親や妻との間を分断させた原因そのものだったことでしょう。

その結果、自分の周りに残ったのはスリム・シェイディに共感して、さらに過激な表現を求める者たちばかり。そして、少しでも表現が丸くなると「エミネムはオワコンだ」と彼を見捨てるのだろうとすら感じていたのかもしれません。

そうしたファンや評論家への戸惑いは、今作のリードシングルである「Walk on Water feat. Beyoncé」と「Believe」というアルバム最初の2曲でも表現されています。

first the "Speedom" verse, now Big Sean
He's goin' too fast, is he gonna shout or curse out his mom?
意訳:
まずは"Speedom"のバース、それからビッグ・ショーンのバース。
「彼のラップは早口すぎる、今回も母親の悪口をちゃんと言うかな?」 Walk on Water feat. Beyoncé

Didn't I give everything I had to give you to make you see?
I'll never forget if you turn your back on me now and walk out
I will never let you live it down

意訳:
俺は、お前たちのために、持っているものを全て与えただろ?
俺を見捨てて、出て行ったら、二度とお前のことを忘れないぜ
一生後悔させてやる Believe

トランプ大統領が呼び起こす「スリム・シェイディ」が分断するもの

エミネム 誰彼構わず口撃する過激なパフォーマンスの行き着く先を、自らの人生をもって体験したエミネム。

そんな彼からすれば、トランプ大統領が導こうとしている未来──過激さを増す熱狂があるばかりのアメリカには、幸せな明るい未来はないということが予見されているのではないでしょうか。

本人ではないので、あくまでも推測でしか語ることができません。

しかし「人を攻撃して自分の鬱憤を晴らしたい」という、誰もが心の中に持つスリム・シェイディを、政治的な目的で呼び起こし票を集めたトランプ大統領に対して、そして彼を支持する国民に対して、エミネムは警告しているように感じます。

このようなことを国家レベルで行い続けたら、アメリカを待ち受けている運命は、自分が「母親やキムとの関係を失う」という分断に苦しんだ以上の代償だ、と──

エミネムとアメリカの“Revival(再生)”

これまでのエミネムといえば、自分のパーソナルな体験を歌ったり、主観的な感情に任せて汚い言葉を発するような曲が多かった印象です。

しかし今回のアルバムには、人種間の分断という難しい政治問題に正面から向き合った「Untochable」や、反トランプのリベラルなナショナリストを団結させ、鼓舞するようなアンセム「Like Home feat. Alicia Keys」といった、生まれ変わったエミネムを感じさせる曲も収録されています。

Untochable」では、“アンタッチャブルな白人”が黒人を排斥する様子を風刺し、3バース目では問題の本質に迫っていく構成になっています。

ここでエミネムは、「しばしば自分が白人であることが恥ずかしくなる」と述べています。

As I kick these facts and get these mixed reactions
As this beat backspins, it's like we're drifting back in to the sixties
Having black skin is risky 'cause this keeps happening throughout history,
African-Americans have been treated like shit and
I admit, there have been times where it's been embarrassin' to be a…White Boy

意訳:
俺がこのような事実を歌い、玉石混交の反応を得るとき、
このビートが巻き戻しされるとき、まるで60年代に巻き戻ってるように感じる
黒い肌を持つことはリスクが高い、なぜなら歴史が何度だって繰り返すからだ
アフリカン・アメリカンの人たちがゴミのように扱われるって歴史だ
俺は、自分が白人でいることが恥ずかしくなるときがあるって認めざるを得ない

Like Home」はアリシア・キーズを客演に迎えた壮大な曲です。

トランプ大統領を批判しながら、KKK(白人至上主義団体)の活動家と反対派の衝突で1人が死亡する事態となったシャーロッツビルの事件などにも言及。

トランプ大統領が国家を分断しようとしているけれど、団結してもう一度アメリカを生まれ変わらせようと訴えています。

If we start from the scratch like a scab, get the scars to heal
And band together for Charolettesville
And for Heather, fallen heroes, fill this wall with murals
Nevada get up, hit the damn resetter
Let's start from zero, this is our renewal
Spray tan, get ride of, get a brand new, better America,

意訳:
もしも俺たちが瘡蓋みたいにスクラッチから始めて、傷が癒えたなら
シャーロッツビルや、亡くなったヘザーさんや、崩れ落ちたヒーローのために、団結したなら、この壁を壁画で埋め尽くしたなら
ネヴァダ州よ、立ち上がれ、リセットボタンを押すんだ
ゼロから始めよう、これは俺たちのリニューアルだ
あの日焼け野郎を追い払って、もっと良い新しいアメリカをつくるんだ

今回エミネムがリリースしたアルバムタイトルは『Revival』(再生)です。

彼は、過去の言動を通じて家族と分断されたことを思い起こし、過去を見つめて「再生」した自分自身を表現した上で、トランプ大統領によって分断されつつあるアメリカ合衆国も「再生」できるはずだと願う気持ちを込めているのではないでしょうか。

今回は以上になります。

エミネムの新作アルバム『Revival』が気になった方は、ぜひ聴いてみてください。

RAq // ラック

ラッパー

インターネット上に公開された楽曲やミックステープにおいて、独特なフロウや言葉選び、キャッチーな曲作りなどが話題を呼び、2014年に『Lost Tapes vol.1』をリリース。iTunes HIPHOPチャートで最高2位を記録。『Lost Tapes vol.2』を経て、2017年11月に1stアルバム『アウフヘーベン』をリリースした。累計セールスが36万枚を超える『IN YA MELLOW TONE』シリーズにも継続的に参加している。

RAq

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リバイバル

著者 : エミネム
発売 : 2017年12月27日
価格 : 2,700円(税込み)
販売元 : Universal Music =music=

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