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『HUNTER×HUNTER』論 ”首を持つ者”から読み解く物語のゆくえ
これまで『HUNTER×HUNTER』の考察を書いてきた亮祐です。今回の記事は、現状与えられている情報からの、『HUNTER×HUNTER』についての考察となります。

単行本派の方は、ネタバレを多く含みますので気をつけて下さい。

最初に、なぜヒソカ対クロロ戦が、あのタイミングで挟まれたのかについて。

まあ前提として、幻影旅団の面々もカキンの船に乗り込むために必要なエピソードなのですが、もう少し別の視点から考えていきます。

文:亮祐 編集:米村智水

名前を与えられたヒソカの役割

ヒソカのフルネームが、ヒソカ=モローだということが判明しました。

ファンの間では、画家のギュスターヴ・モローが元ネタではないか? と囁かれていますね。その多くは、モローの描いたサロメ(ヘロディアの娘)の絵が根拠となっています。

あとは、モローが謎かけに答えられなかった者を殺すスフィンクスの絵を繰り返し描いたことなども興味深いですね。

サロメが元ネタならヒソカが最終的に勝つのでは? という意見もありますが、ここでは「エロドが繰り返しダンスに誘ったこと」と「新約聖書が元ネタである」ことに留めておきます。

クロロは男でサロメは女じゃん! という意見もあると思うのですが、『HUNTER×HUNTER』世界では性別という概念が極めて希薄なため、それも割愛します。

重要なのは、(モローが多く描いていた)“”というモチーフだと自分は考えます。

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『モロー画集(世界の名画シリーズ)』より

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『週刊少年ジャンプ2016 No.25』より

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『週刊少年ジャンプ2016 No.28』より

サロメに言及するとややこしくなるので、ここではシンプルにヒソカを“首を持つ者”としておきます。

クロロはキリストなのか?

次に、クロロ=ルシルフル。ルシルフルとはルシファー、楽園を追放された悪魔(蛇)のことです。

……ルシファーについても、宗教学的に無限に解釈が存在します。ので、ジョン・ミルトンの『失楽園』、要は旧約聖書をベースに書かせていただきます。

悪魔とは何か。悪いことをする者……ではありません。

ルシファーは神の庇護にある楽園で暮らすアダムとエバに禁断の果実を食べることを唆す……と書くと悪者っぽいですが、簡単に言うと楽園というディストピアを壊した者です。革命家なんですよ。

悪魔とは、既存の価値観を揺さぶり、選択を強いる者です。思考停止した保守や既得権益を防ぐ、タカのような存在と呼んでもいいです。

ですので楽園サイドから見ると悪者に見えますが、決して神様を嫌っているわけではありません。これは例え話ですが、右翼と左翼は嫌い合ってるとしても、日本を良くしたいという思いは同じなのと一緒です。

クロロ_意味深な発言。

意味深な発言。『HUNTER×HUNTER』9巻 14ページより

逆十字のコートを着るクロロ

“逆”十字のコート。『HUNTER×HUNTER』12巻 98ページより

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価値観を揺さぶる者。『HUNTER×HUNTER』9巻 14ページより

そしてそれと同時に、クロロは凄くキリスト的な要素も持っています。

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どう見ても聖痕(スティグマ) 『週刊少年ジャンプ2016 No.21・22合併号』より

そもそもルシファー=キリストという説もあるくらいです。

ここでは、クロロを“キリストに深く関わる者”としておきます。

"首を持つ者"は、物語に混乱と成長をもたらす

…ところで、この“首を持つ者”と“キリストに深く関わる者”という構図、以前にもあったの分かりますか?

ネフェルピトーとメルエムです。

ピトー_首を持つ者。

首を持つ者。『HUNTER×HUNTER』19巻 197ページより

ピエタ(キリストを抱くマリア)の図。

ピエタ(キリストを抱くマリア)の図。『HUNTER×HUNTER』31巻 58,59ページより

もちろんネフェルピトーとメルエムは主従関係で、ヒソカとクロロでは(元旅団とは言え)関係性が全く違います。

ただ、描かれているモチーフが一緒なんですね。

さて、クロロとメルエムは特定の章において、物語のラスボスとして降臨していましたが、ピトーとヒソカの共通項はなんでしょうか?

一言でいえば、物語に混乱を、主人公に成長をもたらす試練として描かれたことです。

ヒソカとゴン

試練。『HUNTERXHUNTER』7巻 153ページより

ゴンさん

This way。『HUNTERXHUNTER』29巻 112ページより

首を持つ者は、越えるべき試練として描かれています。

前置きが長くなってしまいました。ここからが本題です。

新たな"首を持つ者"の登場がもたらすものは?

カキン編において、ツェリードニヒ=ホイコーロという人物が登場します。

首、持ってるんですよね。

ツェリードニヒ=ホイコーロ

『HUNTERXHUNTER』33巻 170ページより

しかも、おそらくクラピカと最も仲の良かったパイロの……。

ですので、首の所持者として主人公(この場合はクラピカ)とぶつかるのは当然なのですが、少し視点を変えて読み解いてみます。

ツェリードニヒは、その見た目や発言からキリストのようだとファンから形容されています。

しかし、『HUNTER×HUNTER』世界における圧倒的な最強キャラであるメルエムでさえ、神にはなれなかったんですね。

死んで蘇る

『HUNTERXHUNTER』28巻 176ページより

死んで蘇ることは『HUNTER×HUNTER』世界において神の十分条件になりません(ゴン、ヒソカでさえ蘇ります)。

メルエム

余談ですが、蟻編はメルエムの福音書(言行録)とも言えます。『HUNTER×HUNTER』30巻 80ページ

ツェリードニヒの造形がキリストをモチーフの1つとしているのは間違いないでしょう。けれど僕は、もう一人別の人物を想起しました。

それはドイツの哲学者、フリードニヒ・ニーチェです。
ニーチェ


ニーチェといえば、既存のキリスト教の体制を批判した著書『アンチキリスト』などで有名ですが、その点でもツェリードニヒと一致します。

タカ派

タカ派。『HUNTERXHUNTER』33巻 157ページより

ここで何より着目したいのは、ニーチェの有名な「神は死んだ」という発言です。

メルエムの例からも分かるように、『HUNTER×HUNTER』世界に神はいないんです。

厳密に言うと、複雑極まりない対立関係や感情の推移を描く『HUNTER×HUNTER』世界では、どれだけ才能があって強いキャラクターでも神にはなれない。

だから、王になるんですね。

ヒエラルキーの頂点は、王なんです。神は論理的な存在じゃないですからね(下記の過去記事参照)。
そして“首を持つ者”と“キリストに深く関わる者”の両面を持つツェリードニヒは、王の器として十二分でしょう。

……とまぁ、今ある情報から『HUNTER×HUNTER』を自分なりに解釈したわけですが……。

パリストン

ボク「は」“カミサマ”じゃない。『HUNTER×HUNTER』32巻 69ページより

どう見てもフラグなんだよなぁ…。

非論理の巣窟である暗黒大陸にだったら、神のような存在が出てきても何の不思議もないんですよね…!

これまで物語の到達地点として描かれていたジン・フリークスが一プレイヤーとして参戦し、現段階で最も謎の多いキャラクターであるドン・フリークスも(おそらく)暗黒大陸に立ち向かうプレイヤー側である、というのは大きなポイントです。

物語のはじまり

“出発の日”。『HUNTER×HUNTER』1巻 5ページより

既存の説明可能な世界を経て、冨樫義博先生にとっても“未知”を描くであろう暗黒大陸編。『HUNTER×HUNTER』という物語は、もしかすると、ようやくはじまったのかもしれません。

冨樫先生!

『レベルE』上 85ページより

とりあえず記事はこれにて終わりです。読んでいただき、ありがとうございました!

天才・冨樫義博の世界をもっと深く知る

亮祐 // りょうすけ

1988年生まれ。関西在住。漫画、映画、小説等に傾倒…していたが、FF12のリメイク、スプラトゥーン2が楽しみで仕方がない今日このごろ。趣味で作曲も嗜む。

亮祐

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