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Maltine Records / tomad インタビュー すべてがネットレーベル化していく現在

tomadさん

インターネット上で、無料ダウンロードで楽曲をリリースし続けるネットレーベル・Maltine Records(マルチネレコーズ)が、設立から10周年を迎えた。

クリエイティヴ・コモンズによるダウンロード音源のコンスタントなリリースという試みや、レーベル主宰のイベントも精力的に行い、これまでにtofubeatsさんやbanvoxさんをはじめ、第一線で活躍するアーティストを多数輩出し、現在の音楽シーンに大きな影響を与えるなど、いまや日本最大級のネットレーベルとして不動の地位を築いている。

そんなレーベルの主宰者・tomadさんは、インターネット以降の音楽消費の変化にいち早く着目してきた人物だ。

いかに音楽を多くの人に広めるかという視点から、ネット文化や音楽シーンを俯瞰してきたMaltine Recordsの10年分の歴史はもちろん、昨今多方面で話題となっているストリーミング型音楽サービスについて、はたまた海外の音楽事情までも存分に語っていただいた。

(取材・構成:ふじきりょうすけ、米村智水)

ネットレーベルのシーンをつくり上げてきた、この10年

──まずは、Maltine Records10周年おめでとうございます。レーベルを立ち上げられてから、これまでを振り返ってみた感慨はいかがですか?

tomad 突然ネットから現れたアーティストが実際に人気になっていく過程を見てきたり、最初は50人くらいしか集まらなかった主催イベントにも、今では1000人もの人が観に来てくれるようになりました。ある程度、音楽やネット文化が好きな人だったら、マルチネの名前を聞いた事ある位までになったのかなという実感はあります。長い道のりだったけど、着実に大きくなってきた。

──3年程前の時点では「まだ振り返る状況じゃない」ということをtomadさんはおっしゃっていました。しかし今回はこれまでを振り返るというインタビューです。その3年の間にどんな変化があったのでしょうか?

tomad Maltine Recordsというレーベルはもともと、身内や友達同士の集まりで少しずつ広がっていったという部分が大きくて、そういう感覚を大切にしていました。でも2010年頃からだんだんと、ネット以外のいろんな音楽のシーンで活躍する、マルチネから巣立って行ったアーティストが登場してきた。

アーティストの知名度が上がるにつれて、一緒にMaltine Recordsというレーベル自体も次第に大きくなってきて。海外公演ができるようになったりして。ネットレーベルというものが、ある種の音楽シーンをつくり上げてきたことが、ようやく色々見えてきたんですよね。


tomad 一時期ネットレーベルと呼ばれるものが急激に増えた時期があったんですけど、個人で音楽を配信することがさらに当たり前の時代になった。だから、ネットレーベルという分野自体は、少し収束してきている状況なんです。ただ、そんな環境の中、自分のペースで淡々と運営を続けていたら広がってきて、今では中心的な存在になれたのかなとも思っています。

Maltine Recordsを聞いた、僕よりもさらに若い世代の人たちがレーベルをはじめたり、実際に曲を送ってくれて、リリースする流れも生まれていて、音楽シーンの中で1つの場所みたいなものがつくれたのかなと思います。ネットレーベルを超えて、tofubeatsやAvec Avec、そしてbanvoxのようなメジャーでも活躍するアーティストも登場して、新しい領域へと広がっていきました。

Maltine Recordsがもつ個性とは?

──Maltine Recordsが現在持っているレーベルのカラーが出てきたと感じたのはいつ頃のことでしょうか?

tomad 2010年に行ったフィジカルリリース『MP3 KILLED THE CD STAR?』が大きいと思っています。あの作品にtofubeatsやokadadaという現在までのMaltine Recordsを支える主要アーティストを紹介できたことで、核となる部分ができた。

その後にもPARKGOLFTomgggといった、海外トラックメーカーとも共鳴するような新しい感覚のアーティストが出てきたことで、世界のシーンから見ても、さらにカラーが確立されたかもしれない。


──Maltine Recordsから出てくる楽曲は初期のナードでコアな雰囲気から比べると、次第に踊りやすくなっていっていますよね。

tomad 僕の年齢的な部分も影響しているのかなと思いますね(笑)。最初の頃は、ガバやナードコアみたいな早い音楽とか、尖った音楽が好きだったので、そういうアーティストを中心にリリースしていたんですが、秋葉原MOGRA等のクラブに遊びに行くようになって、また違った分野の、ダンス寄りの感じアーティストと出会ったり。

最近でも、SoundCloudを経由して海外のアーティストと知り合ったりすることで、アニメ色とかポップな部分を維持しつつも、ダンスミュージックである、みたいなレーベルのカラーが自然と定まっていったのかと思います。僕の趣味の移り変わりと、それに合わせたダンスミュージックシーンのトレンドの移り変わりがミックスされて反映されていますね。

ポップスにもダンスにも属さない、独自の音楽を発信したい

──そのように音楽のトレンドや扱うジャンルが少しづつ変容していく中で、Maltine Recordsが初期から変わっていない軸を挙げるとするならどういったものがありますか?

tomad それはレーベルサイトのトップにも書いてあるように、ポップミュージックとダンスミュージック2つの軸があって、そのどちらにも寄り過ぎないということですね。

Maltine Recordsからは完全なポップミュージックも出さないし、例えば単純な4つ打ちテクノやダーク系とか、フロア特化型のダンスミュージックも出さない。あと、流行りのEDMもあえてあまり出してなくて。どこにもカテゴライズされないような音楽を出していくという部分は結構気を付けているし、そういうアーティストをリリースしていきたいんですよね。

画像はMaltine Recordsより

サイトトップに記載されているレーベルのポリシー/画像はMaltine Recordsより

──日本でチルウェーヴと呼ばれるような、ノスタルジックな感覚を持たせたダンスミュージックは、Maltine Recordsをきっかけに広がっていったような印象を感じています。その辺りは意識されていたんですか?

tomad いや、でも僕はそんなにチルウェーヴは聴いてなくて──雑な言い方になるかもしれないんですが、そういった音楽に通ずる「ネットっぽさ」を意識しはじめたのは、トラックメイカーのUltrademon等が代表的な、2012年にSNSで流行った#Seapunkからなんですよね。

Yr So Wet 3.0 - Ultrademon + Dj Kiff - "Bubbles" SPLASH008


tomad それまでの自分の趣向性としては、アニソンやJポップのリミックスなどの国内の音楽シーン、あとはナードコアとかそういうオタク気質のある方面に寄っていたと思います。初期の方にはブレイクコア系の音楽も重要なキーワードになってくるんですけれども。

SoundCloudが登場したことで、ダンスミュージックシーンの流れが変わってきたんですよ。僕は、ダンスミュージックとは括られない「インストポップス」と呼べるようなジャンルとして、フューチャーベースが出てきたと思っています。その界隈にはマルチネからリリースもしたGrimecraftなど、若いクリエイターが多くて、さらにダンスミュージックともポップミュージックともとれるイメージで、Maltine Recordsの世界観と親和性があるんです。


──たしかに、クラブには行かないんだけれど「クラブミュージックが好き」というような人が増えているような気がします。

tomad そう。それをクラブミュージックと言っていいのかという問題もあるんですけど(笑)。だからフューチャーベースのような、新しい、ざっくりとしたポップスがグローバルで同時に聴かれるようになった。

──その話を聞くとポップスとダンス、どちらにも寄っていないという先ほどの話がよくわかります。

tomad 2005年から粛々と続けてきたMaltine Recordsですけど、2010年くらいからやっと、Maltine Recordsのコンセプトにようやくシーンや時代が追いついてきたんだなって感じています。

レーベルを辞めたいと思ったことは一切ない

tomadさん2 ──では逆に、Maltine Recordsが10年もの長い期間続いた理由はなんだったんでしょうか?

tomad それは意地の張り合いみたいなもので……僕が辞めようとしなかったからだと思いますよ。ネットレーベルってほぼ無料で音源をリリースするという活動だけなので、まず収益を上げられないですし、そもそも主宰にメリットがあまりない仕組みなんです。

ただMaltine Recordsの場合は、ネットレーベル的な淡々とした新音源のリリースだけではなく、発見したアーティストが自ら成長してくれたり、レーベル主催のイベントを企画/運営することも含めて、僕が面白みを見い出せたからだと思います。ただ、他のレーベルとカラーが被るようなことはやりたくないし、かといって独自すぎて誰も聞かないようなリリースを連続するのも良くない。シーンを見渡しながらバランスを取る作業は大変といえば大変ですね。

辞めたいと思った時期は本当に一切ないんですけど、僕がいくらレーベル運営を頑張っても、結局良いアーティストに出会わないと良いリリースもできないので、自分にはできる範囲が限られているなと感じてきつかったことはあります。

良いアーティストを見つけて、こちらからオファーしても断られる時期というのがちょくちょくあって……その時は、Maltine Recordsのイメージやブランディングが悪かったのかな? とか一人で反省することもあります。リリースはできても、今後の方向性を考えると少し違ったかもしれないとか、もっと厳選しておけば良かったなとか──後々後悔することもあったり。

リリースの頻度も決めていなくて、アーティスト自身の他の仕事が忙しかったりとかする場合もあるので、可能な限りアーティストの融通を優先したいと思っています。僕としても、時間をかけてでもクオリティの高い楽曲をリリースしてほしいですし。

ただ、最近リリースが結構少なくなってきていて……これはもう、早い段階で良い人を出し過ぎたのかなとも思う(笑)。Maltine Recordsからリリースしても、みんなすぐにメジャーデビューしたりするし(笑)。音楽業界もマルチネに注目するようになってきていて……。

──Maltine Recordsで2回目の作品をリリースしてくれないんですね(笑)

tomad Maltine Recordsで曲を出してインターネット上で話題になって、次のリリースは別のレベールでフィジカルでやろうという流れが生まれている気がしますね。もちろん、僕も新しい才能を常日頃から探しているんですが、今までのアーティストの水準が高くて──そのレベルの楽曲をつくれる人がなかなかいない。

グラフィックに力を入れる理由、周辺のクリエイターについて

──レーベルでは、ジャケットやサイトデザインなど、グラフィックにも力を入れられて、ネット上でのアートワークが持つ役割についてもtomadさんは早い段階から注目されていました。

tomad 音楽が良いだけだと、まず聴かれないだろうなという考えがあって……パソコンやスマホ上だとアートワークは音楽より先に目にする。最近は、嬉しいことに協力して貰えるデザイナーが周りに増えてきたので、曲が届いたら僕がアートワークを選定をして、アーティストとつくり込んで、まずは見た目から強いものを打ち出していくという方針です。

最近だと三毛猫ホームレスの『インターネットe.p.』は、STAG(西尾雄太)さんという漫画家の人の絵を使いたいから、依頼して描いてもらったりとか。アーティスト同士の繋がりを活かす場合もあったりします。

インターネットe.p.

三毛猫ホームレス『インターネットe.p.』

──トラックメイカーの方や、ジャケットイラストなどを担当してきたクリエイターの方達も含めて、特に出会えて特に良かったなというアーティストは?

tomad まずイメージ面で言うと、まだイベントもやっていない2007年頃にメールをくれたGraphersRockさんですね。そこからMaltine Recordsのアートワークを本当に色々やってもらえて、レーベルの中心的なイメージ、ブランディングや文化に繋がっていきました。

音でいえば、imoutoidやtofubeatsの存在も勿論重要だったと思っています。当然、他にもたくさんいるんですけれど。Maltine Recordsのシーンが海外に普及しているという事を、僕は2012年位まで意識できていなかったんですよ。それをMEISHI SMILEbo enといった外国人アーティストが参加してくれたことで、レーベルの可能性を広げてくれた。

MEISHI SMILEからはじめて曲が届いたときに、その曲がDJ newtownのオマージュみたいな、かなりMaltine Recordsの文脈を理解している内容だったんです。海外にそこまで僕たちのことを理解してくれる人がいるんだと知って、世界にも伝わる可能性に気付きました。


音だけでは表現できない、マルチネ感

tomadさん3 ──Maltine Recordsが世間で注目されはじめた時って、tomadさんやtofubeatsさん、okadadaさんたちはまだ大学生で、「若い人たちがよくわかんないけど面白いものをつくっている」という受け入れられ方がありました。けれど今のMaltine Recordsは時間も経って、ネットレーベルの中でも大御所になってきていています。

tomad そうですね。でもこれからの目標や目的というのは、そこまで具体的にはなくて。基本はサイトでのリリースに注力して変わらない方向で行きたいとは思っています。ただ、その時々のシーンでの動きを見て、Mlatine Recordsっぽくなりすぎないような、驚きのあるリリースをしたいです。

あと、イベントでも僕の中で打ち出したいイメージが最近浮かんできたんですよね。空間設計みたいな、さらにビジュアルに特化した方向性もやりたくて。

Maltine Recordsのアパレルで、QRコードを読むと曲が手に入るという仕掛けとかも過去にやったんですが、そういう事も含めて、中核はレコードレーベルなんですけれども、突然家具をつくりだしたりというような(笑)。そういう事でレーベルの世界観を伝えて行くことができたら面白いですよね。

音楽という表現自体、「音」だけでそれを良いと思う人って、マニアでもない限り少ないと思うんですよ。周辺にどんなイメージや人間関係があるのかという事を含めて曲が活きてくる。とはいえ最終的なアウトプットはマルチネでは音楽データを中心として続けて行きたいんですが。

あとは東京女子流とのコラボ『Maltine Girls Wave』みたいな、外部から依頼された制作仕事も引き続きやっていきたいです。

メジャーレーベルとの共同作業について

──東京女子流とのお話も聞いてみたかったんです、どういった経緯であのコラボは生まれたんですか?

Maltine-Girls-Wave

ガールズユニット・東京女子流とのコラボで生まれた「Maltine Girls Wave」

tomad 雑誌『SWITCH』の方から「アイドルとコラボしたら面白くなるんじゃないですか?」と言われたんですよ。

その時はまだ東京女子流はデビューしたてでした。でもサウンドプロデューサーは松井寛さんというディスコやファンクの音をつくる大御所の方だったこともあって、周りのアーティストからも評判が良くて。気になってますと言ったら繋げてもらえたんです。

最初はMaltine Recordsのアーティストがリミックスして、僕がDJミックスしたCDをつくろうというだけの小さな企画だったんですが、そこから『Maltine Girls Wave』に繋がっていって、東京女子流のそれぞれメンバーのソロ曲をMaltine Recordsのアーティストとつくるという流れが自然にできていきました。

──その状況を見て感じていたんですが、東京女子流というavex所属のメジャーレーベルアーティストが、ネットレーベルとコラボしたということがとても痛快でした。音楽業界ってある意味固いイメージがあったり。

tomad 僕らみたいな完全に草の根から出てきたレーベルと、avexという超大手が結びつくというのは、僕自身も面白いと思いました。あと、ふだんのMaltine Recordsのリリースだと、アーティストに対してお金は動かないのですが、ちゃんとお金が動く仕事としてできて、クオリティも追及してもらえれば、それはそれで良いなという。

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