なぜ椎名もた「少女A」は世界的ボカロ曲になったのか? 発端は海外発の二次創作

米在住クリエイターによる二次創作が火付け役に

そして、この一連の現象の中で決定打となったのが、KENTENSHIさんというアメリカ在住の若きクリエイターによる“二次創作”だった

KENTENSHI

KENTENSHIさんは、現時点ではメジャーレーベルなどに所属していない、インディペンデントで音源を発表しているアーティスト。Bandcampに掲載されているプロフィール(外部リンク)によると、アメリカ・ノースカロライナ州在住だ。

KENTENSHIさんは、2022年1月に音楽配信サービス・Bandcampへ、そして2023年7月にYouTubeへ「paranoia」という楽曲を投稿。一聴すればわかるとおり、「少女A」をドラムンベース〜ブレイクコアのリズムで大胆に再構築したリミックスである。
KENTENSHI「paranoia」
この楽曲も、YouTubeで500万回を超える再生回数(執筆時点)を記録している。

この「paranoia」がYouTubeのアルゴリズムをきっかけに多くの人の目にとまったことで、「少女A」への注目が一気に拡大した。Will Stetsonさんによる「少女A」を英訳しパンク・ロック調にアレンジしたバージョンやボカロカルチャーに影響を受けた韓国の歌い手・CielAさんによる「歌ってみた」動画が投稿されたり、別のクリエイターによる「paranoia」のさらなるリミックスが投稿されるなど、創作の連鎖はさらに広まった。
CielAさんによる「少女A」カバー
こうして国境を超えた自然発生的なバイラルが巻き起こったというのが、「少女A」に起きた現象の真相のようだ。

では、KENTENSHIさんはどのようにして「少女A」という楽曲を知ったのか? そして、椎名もたさんや日本のボーカロイド文化について、どう捉えているのか?

本人にコンタクトをとり、インタビューすることができた。

「椎名もたは感情をコード進行や曲調で表現するのが本当に上手い」

──椎名もたさんの楽曲「少女A」を知ったのは、いつごろ、どんなきっかけでしたか?

KENTENSHI たしか中学生の時だったと思う。あの頃、今もそうだけど、ボカロ曲をたくさん聴いていたので、YouTubeのおすすめ動画に「少女A」があがってきたんだ。何の気なしにそれを聴いて、衝撃を受けた。

──「少女A」の第一印象はどうでしたか?

KENTENSHI 椎名もたの曲って、特徴があるんだよね。不平等や苦悩をテーマにしたものが多く、何とかしようともがいているのがわかるんだ。

日本語の歌詞が理解できなくても、コード進行で伝わる。彼は、感情をコード進行や曲調で表現するのが本当に上手いと思う。
椎名もた「Q」
KENTENSHI 特に「少女A」はそれが顕著。あのサビの部分は、「最後の最後まで頑張ってもがいている」という強いエモーションがトーンでわかった。僕のリミックス(=「paranoia」)を聴いてくれた友人も同じことを言っていた。

──椎名もたさんというアーティストへシンパシーを感じていますか?

KENTENSHI もちろん。非常に共感するところがあるし、インスピレーションという言葉はちょっと違うかもしれないけど、椎名もたは凄いと思う。

世の中の人に見られ、聴かれ、評価されるという状況に自ら飛び込むには勇気と覚悟が必要だ。椎名もたのようにあれだけ自分の心を晒して表現できるのは、凄いことだと思うんだよね。 ──そもそも、ボーカロイド曲やそのカルチャーを知ったのはどういう経緯でしたか?

KENTENSHI これははっきり覚えている。小学5年生のときだった。そのころアニメを見るために、XBOX 360でネットサーフィンばかりしていたんだ。

その結果としてボーカロイドが出てきたときは……うーん、なんと表現すればいいんだろう……「え? 何これ!?」と混乱した気分だったよ。

それまでに、日本のアニメや音楽にたくさん触れてきていたんだけど、ボーカロイドは僕にとって全く新しいものだったんだよね。だからこそ、ものすごく興味をそそられたし、そこからハマっていった。

──KENTENSHIさんから見て、ボーカロイドシーンはどのように映っていますか?

KENTENSHI ボカロシーンって、アメリカでも流行ったハイパーポップにも通じる部分があると思うんだ。

表現している感情が、どちらかというとネガティブというか、人生の中で襲いかかってくる苦悩がフィーチャーされていることが多い気がするんだけど、(ボカロ曲の場合はVOCALOIDによって、ハイパーポップの場合は過剰なボーカルエフェクトなどによって)匿名性が高いので表現しやすいんだ。
ハイパーポップ・ブームの火付け役となった100 Gecsの「money machine」
KENTENSHI この手の音楽プロデューサーのうち、少なくない数の人たちがメンタルの問題で苦しんでいるというのもあると思う。

確かにそこから現実逃避する、あるいは向き合うために、彼らは音楽をつくっているという側面はあるけれど、そもそもメンタルで苦しんでいる人が多いことに、それが叫びとなって作品に出ているということに、社会はもっと注意を向け、問題意識をもった方がいいんじゃないか、とも思うんだ。

このようなメンタルの問題で、子ども大人も含め、多くのアーティストたちを失っているから。すごくシリアスなことだと思うんだ。

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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:10165)

愛して愛して愛してら少女A…
こういうやつが海外ウケ良いのか…成程ね。

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