日本映画や特撮文化の未来は誰が担うのか
日本映画業界の思惑はあって、そういうストーリーに庵野秀明は乗ってて。庵野自身もすごく戦略的に自身を権威化しようと思ってると思う。
ただ、それにも切実な理由があると考えています。長いキャリアの中で、作品制作の大変さを理解しているからだと思う。ガイナックスの失敗とか、過去作品の版権が売られちゃったりとか──そういう苦渋を何度も味わっているからだと思う。
なるほど。
過去のインタビューとかを読めばわかると思うけど、庵野秀明は、お金を集めて、人を集めて、作品をつくるっていうことは、ある種の特権的な”力”がなきゃできないっていうことを、一番その身で理解している監督だと思う。打算的に露出をコントロールしたり、自ら宣伝統括をやっているのもそう。
この「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」が打ち出されてから、映画界だけじゃなくて、マスメディアとか、クリエイティブ業界全体が、庵野秀明をものすごくプッシュするようになった。ダウンタウンの松本人志さんと対談したり。とにかく、庵野を取り巻く動きが露骨に権威主義的になっていってる。
でもここからが重要で。『シン・仮面ライダー』のテーマ性の話ともつながるんですがだけど、でもおそらく、多分庵野秀明のことをちゃんと理解してる人って、全然いないと思うんですよね。
ファンとか批評家とかの世間的な評価もそうだし、もっと近い人たち、制作スタッフやキャストの人たちもそうだけどなんだけど、庵野という男が何を考えてて、こういう意図で、こういう作品作りたい、というのを理解して表現できる人は、きっと全然居なくて──その庵野の振る舞い、無理解さは、今回の主人公とすごい被る。
組織にいるんだけど、とてつもなくすごい力を持ってて、もう敵とか全員ワンパンで倒せるんだけど、でも何がやりたいのか全然わからない。客観的には、怖くて暗い人にしか見えないみたいな。『シン・仮面ライダー』からは、そういう苦しみを感じました。
なるほどね。
そういう読みはもちろんできる。権力を持つがゆえの苦悩と孤独。その結果が残念ながら作品としては、上手く立ち上がっていないから、今作はそこまで面白くはないんだけど……
でも、ここまで話をして来て思うんだけど、その「面白い/面白くない」という水準自体がもしかしたら「シン・」シリーズという作品を評するにはズレてるのかもしれないと思った。みんな、邦画って見る?
アニメ映画や特撮映画は見ます。
ホラーが好きで、たまにくらいですね。
アニメじゃなくて、いわゆる実写の邦画作品。
実写はほぼ見ないっすね! 高校生のころは知識人ぶってよく観てました。
俺もほとんど見ないんだけど、映画業界の知り合いも多いから、付き合いで興味がない邦画を観ることもあるんだけど……残念なことに、めちゃつまらない作品が多いです。というか大体はつまらないです(涙)
海外の映画もそうだし、いろんな文化やエンターテイメントに触れてきている人からするとね、困ったことに日本の映画ってどうしてもつまらないんです。
泣いてます。
あまりにストレートすぎる。
数少ないけど、もちろん面白い作品も中にはあるよ! ただ、「not for me」では済ませられない、作劇が破綻してて面白くない作品が多い。
ハリウッドと比較して予算も才能も少ない。そんな日本映画の水準だと、庵野秀明の映画は全然面白いです。『シン・仮面ライダー』は、数ある庵野の作品の中ではいつも通りな部類だと思う。ただそれでも、日々上映されている邦画の多くよりもクオリティは全然高い。
少なくとも庵野は全部「パンツを脱いで」、自分の作家としての何かを詰め込もうとして、執着もある。その手触りは出ているよ。俺の友だちもそうだし、ネットでも見かけるけど「息子が『仮面ライダー』にはまりました」みたいな人、実際にはいるわけだよ。
だからそれがどれくらいの規模かどうか──要は庵野秀明に映画業界が託した期待が、どれだけリターンとして未来に返ってくるかどうかはまだわからない。でも少なくとも数字の面では今のところ、その意図は成功してる。
うん><
ただ都築くんやうぎこさんの言うような批判もわかる。もうここまできたら庵野は、既存のIPとかじゃなくて、「エヴァンゲリオン」でもなく、やっぱり自分の作家性を存分に発揮できる、新規のオリジナル作品をつくるしかないとは思いますよ。
完全に同意です。ただ、もう生涯つくらないというか、つくれないんじゃないかと思っています、オリジナル作品。
これもさっきの話と繋がるけど、庵野秀明は映画業界の信頼と強権を手に入れた代わりに、孤独になりすぎだと思う。「エヴァ」だって、いろんなスタッフと仲違いしてここまできている。
かつては大学の仲間たちで結成したガイナックスの経営陣たちをはじめ──ここで詳細は語りませんが、多くの人と絶縁状態にあるのは有名な話です。
「エヴァンゲリオン」はガイナックスから権利を買い取って、今は完全に庵野秀明の原作になっているし、他にも庵野原作督作品はあるけど、“アニメーションや“映画”である以上、本当に庵野秀明の一人の才能だけでつくれたものって実際はほとんどないわけです。アニメも映画も、集団制作の賜物だから。孤独な人には難しい表現媒体だと思う。
どうしてもNHKのドキュメンタリーは、そういう庵野秀明の異常さというか、孤独さというか、周囲からの無理解さは目立っていました。
庵野さんは苦渋を飲んできた経験も踏まえて、自分がつくりたいものをつくるには、強権が必要だと理解している。同時に、日本映画業界は救世主を求めている。それに加えて、「エヴァ」を長年見てきたオタクたちやメディアの「庵野、ワッショイ」が噛み合って、すごく特異的な状況が生まれてしまっていると。
だから誰が悪いってわけでもないよね。もしかしたら全員で良くない方向に転んでるかもしれないけど。
庵野の社会性がどんどんなくなっているし、むしろファンはそんな庵野秀明に特権的なキャラクター性を期待しているのは、すごく理解できる。『シン・仮面ライダー』でも思った。メディアでの振る舞いとか、ドキュメンタリーでもそう感じた。
ただ、基本的に他者に理解されるような答えを持っていないのは、昔からだと思う。よねさんは「誰も庵野のことわかってない」って言うけど、結局、庵野も庵野自身のことをわかってないと思う。それが困難さを生んでる。
だからこそというか。制作手法的には、とにかく手動かして、動かさせて、何回も何回も試行をプレビューして、その中から一番良さそうなものをピックアップしていくようなスタイルですもんね。
だから異常なまでに時間がかかるし。いやだから本当に、彼を、理解する者が現れてくれないと難しい。
それが樋口真嗣さんだったと思ってたんだけど、『シン・仮面ライダー』には関わってなさそうですね。
まあ、露骨に変な振る舞いをしないで、仲良くつくればいいんじゃないかなって思うんですけどね……。
まあ言うても、庵野秀明さんもお年はお年ですからね。
まだ60ちょっとだよね。
62歳ですね。
62歳になったら、社会性を失うんですか?
それはそうでしょ? 人間は歳をとればとるほど孤独になっていくものよ。
でも政治家にお年寄りが多いのって、老練なコミュニケーション力や人脈があるからとも言われるけど……ただ宮崎駿監督がいま82歳だから、少なくとも庵野秀明が宮崎駿監督に比肩する天才だったら、あと20年は働けます。新作、出せます!
宮崎駿さんだって、さすがに衰えがあるというか……いちばん最近の作品は──『風立ちぬ』か。
名作ですよ!
『風立ちぬ』はたしかに名作だった。
その前は『崖の上のポニョ』だよ。ポニョ、めちゃくちゃ面白いよ。そんな宮崎駿監督最新作『君たちはどう生きるか』が7月に出ますので、どうぞよろしくお願いします。
ようやく!!!
みんな、ジブリ宣伝タイムで終わるの……?
もう1つだけ言わせてください。閉塞感のある日本映画ですけど、希望があるなって思ったのは、NHKドキュメンタリーが公開された時のTwitterで、いわゆる日本映画の若手監督の人が、「これはちょっと違うんじゃないの、これは現場が犠牲になってんじゃない?」って声を上げていたんです。
シン仮面ライダーのドキュメント、アクション監督や俳優部であれだけ疲弊しているということは当然アクション部や末端のスタッフにもっともっと皺寄せが行ってるはずなので、あまり笑い話や美談や安易な庵野監督への理解とかにしないでほしいですね。
— 阪元裕吾@ベビわる2 (@ashida10721) March 31, 2023
あったね。
それに対しても、庵野秀明の熱烈なファンが批判しているみたいな側面もあったんですけど……。
ただそういう、未来を担う若手のクリエイターたちが、ちゃんと声を上げられるようになったこと自体は、希望だと思っていいのかもしれないな、と思っています。
令和「仮面ライダー」を撮っている若い特撮の監督もいますし、「シン・」シリーズだけが特撮文化や映画の未来を引き受けているわけではない、と強く言いたいです。
「映画ってこういうものだよ」じゃなくて、「いや、それは違うよ」「全部がこうじゃないよ」という価値観が生まれている。少しずつ日本映画界も変化しているんじゃないかっていうことですね。
『シン・仮面ライダー』から、かなり壮大な話になりましたが、座談会参加者のみなさんありがとうございました。
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連載
その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
2件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:8229)
全然ダメでしょ。
結局、自分が見たいものじゃなかったという話しかしていない。
というか、ほぼ同じ意見の人どうしで話をするなら一人でいい。
同じ意見だから、互いの意見にツッコミも入らない。
座談としても、つまらない、できが悪い。
シン仮面ライダーという作品が、何をどう描こうとし、具体的にどう描かれているかという話がまるで不十分。オーグを倒す度に、本郷が彼らに黙祷を捧げることの意味や、単なる組織の殺人マニアかのように見えるクモオーグの人間性をKKオーグが語ること。母を持たないルリ子が母を失ったことで苦悶するイチローと同じ写真の中に居たかったというSF的な設定とシナリオの高度な連携。
冒頭コミュ障だと言われる本郷が、ルリ子の本心を察することで描かれる繊細さ等々、そうした丁寧な表現の積み重ねの上で世界の平和や人々を守るのではなく、むしろ守られなかった、傷つき排除された存在を救う物語が描かれる。そこにはライダーも含まれる為に最後の的はライダー0号を名乗るわけでしょう。
本郷の姿を見守るケイの存在にも言及がないし。
特撮映画だからといって、一般の映画評論についてなされるような最低限のシナリオの分析と評価はされたうえで、座談のようなことはされるべきだよ。
折角、賛否両論ある映画の座談をやろうというのなら、双方相当の理解があった上で、真っ向意見をぶつけられるようなやり方をすべきでしょ。
匿名ハッコウくん(ID:7455)
面白い記事でした
確かに特撮を復活させる!みたいな作品ではなかったと思います
シン・ウルトラマンとシン・仮面ライダーは、どちらかと言うと昭和特撮を復活させる!昭和特撮の良いところを知って欲しい!みたいな思惑の方が強いんじゃないかなと思ってます
洗練され常に新しい試みが続いてるウルトラと仮面ライダーシリーズは、蓄積していく中で削られていったものが確実にあります
そこに再度スポットライトを当てようとしていたような感じがするのです
古臭いよね、ダサいよね、そう思えるようなところにこそ
そこがいいんだよかっこいいんだよと本気で庵野秀明は思っている
シン・仮面ライダーが深く刺さった自分の戯言かもしれませんが笑