コンセプト、デザイン、ブッキング……開催に欠かせなかった学生たち
そうして音と人とが渾然一体になった「岩壁音楽祭2022」には、開催のテーマとして「Spectrum(スペクトラム)」が掲げられていた。公式サイトでは以下のように説明されている。これを発案したのは、前回の「岩壁音楽祭」に参加していない、20代前半のメンバーが中心のチームだったそうだ。さらにテーマを咀嚼して形にしたキービジュアルは、同じく前回の開催を知らない芸工大生によって制作された。【Spectrum】(スペクトラム)
光がガラスのプリズムを通過するとき、または水滴を通過するときに生じるさまざまな色の範囲。転じて、意見・現象・症状などが、あいまいな境界をもちながら連続していること。
私たちは、2022年のテーマを「スペクトラム」としました。線引きの中で閉塞してしまう世界から、なだらかな開放を目指しフェスティバルを開催します。 「岩壁音楽祭2022」公式サイトから
フェスの屋台骨になるテーマとキービジュアルを、あえて前回を知らないメンバーに託す。この挑戦的な姿勢の理由もやはりnoteに綴られているのだが、先に触れた「WALL」「CAVE」「PIXEL」の空間デザインも芸工大生が手がけている。
それだけにとどまらず、フェスの要と言ってもいいアーティストのブッキングから当日の物販まで、ありとあらゆるところに大学生たちが携わっているというのだ。
コロナ禍で激減した学生の交流の場にもなった「岩壁音楽祭」
そんな運営体制は、「岩壁音楽祭」を立ち上げたメンバーである上田昌輝さんと後藤桂太郎さんらが、大学生たちに各所の裁量を一任した結果、出来上がったものだ。もちろん任せっぱなしにするわけではなく、たびたび経過を確認し、すり合わせを行い、何かに悩んでいれば「思い切ってやればいいから!」と背中を押してきた。 そうやって生まれた大学生たちの作品は実績となり、今後の就活に活かすこともできる。制作の過程で音響やステージ制作のプロと交流することもあったため、酸いも甘いも噛み分けてきた先人に貴重な話を聞くこともできた。
それゆえに大学生たちのモチベーションは総じて高く、積極的に運営に関わるようになっていく。
そのうち“大学で学んでいることをわりと自由に活かせる”なんて噂が芸工大の一部で立ち、じわじわと学生スタッフが増加。芸工大生の間では今夏、「岩壁音楽祭」か、同時期に開催された芸術祭「山形ビエンナーレ」か、どちらかのスタッフになる流れができたのだとか。 また、コロナ禍の影響で激減していた学生同士の交流の場であり、フェスを手伝うという貴重な経験ができる場であり、単純にフェスを楽しめる場でもあった(学生スタッフの当日シフトには空き時間が多く用意されてあり、十分にライブを楽しめるようになっていた)。
このポジティブな相互作用でつながった学生スタッフの力は開催に不可欠で、内情は関係者たちのnoteでつぶさに語られている。当然、次回も欠かせない存在になるだろう。
3年後も変わらない岩壁のもとで
2025年開催の「岩壁音楽祭」完結編となる第3回は、検討の結果、今回は見送られた宿泊プランの提供や2days開催も視野に入れて、すでに構想が練られているという。試行錯誤の第1回が開催された2019年、予定していた第2回をパンデミックで中止せざるをえなかった2020年、再起を懸けた雌伏の2021年、そして無事に幕を閉じた2022年。
これまでの連続性の先に集大成として迎える最後の「岩壁音楽祭」は、どのようなものになるのだろうか。
3年後も変わらぬ姿で迎えてくれるであろう、あの岩壁のもとで確かめたい。
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