しかし反面、一時は韓国や中国などアジア諸国の若者の憧れの的だったJ-POPの栄華は、完全に終焉を迎えたといっても過言では無いでしょう。
その証拠に、近年J-POPに代わって台頭してきたK-POP発のヒップホップ・グループBTS(防弾少年団)がリリースしたアルバム3枚が、それぞれアメリカのヒットチャート「Billboard 200」で1年以内に初登場1位を記録するというザ・ビートルズ以来の偉業を達成しています。
もちろん音楽を売上だけで評価するのはナンセンスです。
また、数多くの音楽サブスクリプションサービスが登場し、YouTubeが全盛時代の今、音楽を国境で分けて考えるのはそれ以上にナンセンスだとする価値観が、リスナー及びプレイヤー達の間では育ってきています。
が、今回はそんな状況であえてJ-POPに焦点を当て、これを愛するアメリカの一流ジャズ・ミュージシャンであるパトリック・バートレーさんが、動画「Mixing Jazz and J-POP」の中で語ったJ-POP論をご紹介します。
そこには、一時代の終焉を迎えたJ-POPを含む、日本の音楽業界が参考にすべき考察の数々が含まれているように思うのです。
ジャズとJ-POPの融合
サックス奏者のパトリック・バートレーさんはジャズの名門マンハッタン音楽学校を卒業後、現代ジャズ界の大物ウィントン・マルサリスさんや人気EDMグループザ・チェインスモーカーズとの共演を果たし、米人気番組の「The Late Show with Stephen Colbert」に出演をするなど、名実ともに一流ジャズ・ミュージシャンとしての地位を築いています。彼もまた、アメリカの多くのJ-POPファンと同様に、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』『ゴールデン・アックス』『ベア・ナックル』などの日本産のゲームをプレイする中で、日本のゲーム音楽に魅了されていった一人です。
初期のアニメ音楽にジャズが取り入れられていた例として、彼は70年代にジャズピアニストで作曲・編曲家の大野雄二さんが手がけた『ルパン三世』のサウンド・トラックを挙げており、ジェームス・ブラウンさん、ハービー・ハンコックさん、カウント・ベイシーさんから明らかな影響を受けていることを指摘しています。
言語がその国の音楽に与える影響 -J-POP編-
言語がその国の音楽に与える影響の一例として、以前KAI-YOUでもヒップホップの最新リズム・トレンドであるScotch Snapsを取り上げました。 Scotch Snapsは、その国の言語が孕むリズム感が、その言語の話者による作曲にも反映され、それが独自の音楽の誕生に繋がるというリズム・トレンドですが、パトリックさんも、日本語の特徴的なリズム感を例に挙げてこう語っています。他の国の音楽について勉強するなら、少しだけでもいいから、その国の言葉を勉強するべきだと思う。例えば、日本語には短母音しか存在しないんだ。ここが長母音を持つ英語との違いだ。
英語で「a」を実際に発音すると「エイ」だろう。それに対して、「a(エイ)」に日本語を当てると、「エ・イ/e・i」』になるんだ。それに加えて、日本語は「子音・母音・子音・母音…」のパターンが続く、数少ない言語でもある。
「高くなかった → Ta・Ka・Ku・Na・Ka・(t)Ta」
「知らない → Shi・ Ra・Na・I」
「タ・タ・タ・タ・タ」という風に一つ一つの音がチョップされているように聞こえるんだ。それが日本の音楽にも反映されている。Mixing Jazz and J-POPより
パトリックさんは日本語と英語が音楽に与える影響の違いについてこう話しています。
英語はどちらかと言えば、音同士がするっと繋がっていたり、左右にスイングしているうようなものが多いんだ。そのおかげで、英語の方が音楽に合わせて詞を付けやすいという側面がある。
それに対して、日本語を正確に発音すると、音の「強弱」によるアクセントはほとんど生まれないんだ。もちろん日本語でも音の「高低」によるアクセントが生まれることはあるよ。たとえば質問をする時に語尾が高くなったりね。
ただ、それは英語と比べると微々たるものなんだ。日本語を英語のアクセントで発音すると違和感があるのは、そのせいなんだ。 Mixing Jazz and J-POPより
J-POP独特のフィーリング
音楽のメロディが想起させる感情は言葉を超越します。洋楽の歌詞の意味が分からなくても、その楽曲が自分の感情に寄り添ってくれているように感じるのは何も不思議なことではありません。
パトリックさんはPerfumeさんの初期の楽曲「スウィートドーナッツ」を挙げて、そのメロディが語りかける感情をこのように解釈しています。
ブルース、つまり音楽の持つ感情的な側面に関する日本人の解釈の仕方は非常にユニークで面白くて、僕はそこにすごく惹かれるんだ。これは音階が想起させる感情とか、そういう単純な話じゃなくて、メロディーの緊張感と、その緩和から生まれる情緒のことだよ。
…Perfumeの「スウィートドーナッツ」という初期の楽曲が良い例だ。非常にライトな曲調なんだけど、サビの「スウィート(↑緊張)、ドーナッツ(↓緩和)」というフレーズに注目して欲しい。正直このフレーズには衝撃を受けたよ。楽観的なリズムと哀愁を感じさせるメロディが共存しているんだ。これがJ-POPの持つ独特のフィーリングなんだ。J-POPは非常に奥が深いんだよ。 Mixing Jazz and J-POPより
J-POPのメロディは悲しさと同時に楽観的な感情を提示しているんだ。それが人々の感情にシンクロする。J-POPを聴くと、人々はそれが自身の日々の葛藤を奏でていると感じるんだよ。メロディが正にそれを体現しているんだから。同時に「なんとかなる」という前向きさが、そこには含まれているんだ。 Mixing Jazz and J-POPより
再発見されるJ-POP
冒頭で音楽を国境で分けて考えるのはナンセンスだと書きましたが、その国の言語や文化がそれぞれの国の音楽に与える独自の影響はやはり否定出来ません。パトリックさんはゲーム音楽やアニメ音楽もひっくるめて、日本産の音楽をJ-POPと定義しています。そこで、「いや、J-POPはそもそも1989年頃にJ-WAVEが打ち出した用語で〜」というようなことを説くのは、もはや野暮というものです。
日本の音楽が第三者の目線からJ-POPとして再発見されていくその過程に、私たちが見落としてきた日本の音楽の可能性が隠されているのかもしれません。
何も知らずにはしゃいでいた あの頃へ戻りたいね Baby
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