「セブン-イレブン」(以下、セブンイレブン)「ローソン」「ファミリーマート」(以下、ファミマ)の大手コンビニエンスストア3社が、相次いで成人向け雑誌の取り扱いを中止したことが報道された。
各社は、2019年8月末までに全国の全店舗にて原則販売をやめる方針を固めている。
その背景には、女性客や高齢者、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けた外国人客への配慮があるが、「成人向け雑誌」というメディア報道は正確ではないこと、また各社独自基準での「成人向け雑誌」の販売停止を巡っても議論が紛糾している。
この件について、3社への取材と、漫画研究者の意見をうかがった。
この成人向け雑誌の販売中止措置の理由として3社一様だったのは、オリンピック/パラリンピックに向けた訪日外国人のイメージ低下や、青少年や女性への影響に対する配慮という点だ。
訪日外国人、未成年や女性に悪影響を及ぼすものを販売するべきではないという判断は理解でき、その取捨選択は自由競争のなかで小売を生業とする企業や店舗の当然の権利だ。
しかし、実生活に悪影響を及ぼしうる扇情的な内容という点では、週刊誌などの芸能人のゴシップやプライベートな話題、セクハラ・パワハラを助長する内容やヘイトを煽る煽情的なトピックも多い雑誌は継続して販売し、成人向けの雑誌のみを中止と判断したのはなぜか?
そして、なぜ3社がほぼ一斉に方針を固めたのか、合意形成や行政からの要請があったのか?
また、「成人向け雑誌」の撤去理由は“売れないから”ではないのか? そうであるなら、明らかに議論を呼びそうな理由を公表したのはなぜなのか? など、いくつかの疑問がある。
3社の回答はいずれも、あくまでも日本フランチャイズチェーン協会のガイドラインが規定する「成人向け雑誌」のカテゴリに準拠した結果という回答であった。(セブンイレブンは、最終的な判断は各オーナーの意思を尊重するとした)
ここでまず整理しておきたいのは、コンビニにおける「成人向け雑誌」とはどういうものを指すのかということだ。
「成人向け雑誌」とは条例に基づいた区分ではなく、厳密な意味では存在しない。
「東京都青少年の健全な育成に関する条例」では、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められ、「青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない」ものなどを「不健全図書類」として定義している。(外部リンク)
そのうち、青少年健全育成条例に基づき東京都が不健全図書として指定した「指定図書類」、またそれ以外の「表示図書類」の2つに分類される。
「指定図書類」が販売/閲覧/区分陳列(ゾーニング)/包装/制限掲示(成人マーク)について罰則付きの義務であるのに対し、「表示図書」は各書店・出版社の努力義務となっているが(外部サイト)、そのいずれも書店などでの販売に限られている。
つまり、コンビニで現在販売されている「成人向け」図書というのは、各団体(コンビニの場合、日本フランチャイズチェーン協会)が条例に準拠して独自に決めた、18歳未満には推奨できない、いわゆる「類似図書」とされるものだ。
そのため、コンビニのエロ本(あえてこの言い方をする)には「成人マーク」はついていない。しかしその類似図書も、基本的には出版社や各店舗の自主規制という形で、青いテープなどで封じられ閲覧できないようになっている。
つまり、日本フランチャイズチェーン協会およびコンビニ各社の判断では、この枠組みのなかに、先述のような過激で扇情的な一部の週刊誌などは今のところ含まれていないということだ。
取材においてファミマ社は「今回は、個別の商品について、それぞれ判断するということはしていない」としている。
「週刊誌」というくくりでいえば、各媒体によっても、雑誌ごとの特集やページによっても扱うトピックの種類はさまざまで、一概に「青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」とは言えない。
そのため、数ある媒体を会社やオーナーが判断するのは実質難しい。そういった意味では、杓子定規ともとれる今回の基準だが、現実的な判断だったと言えるかもしれない。
しかし一方で、視覚的に過激な性表現のあるエロ本など、パッと見でのイメージの悪いものを見えるところからとりあえず排除した(現時点においては)表層的な処置にも思えてしまう。
3社は「ガイドラインのカテゴリに乗っ取った」の一点張りだったが、そのガイドライン自体が条例ではなく業界団体の独自基準である。最大手の3社自身がそのガイドラインを策定する立場にあるはずで、「基準に従った」はほとんど説明になっていない。
訪日外国人や青少年、女性などに配慮するということであれば、本来であれば「悪影響を及ぼしかねない、またはイメージを損なうものとはどんなものなのか?」という点について熟慮する必要がある。営利企業という以上に、災害時にはインフラとして機能しているコンビニチェーンであればなおさらだ。
「ヤレる女子大生ランキング」特集で物議を醸し編集部が謝罪した『週刊SPA!』などを例に挙げるまでもなく、実生活に影響を与えかねない週刊誌などが看過され、フィクションである漫画雑誌などを含むエロ雑誌は撤去という判断は、拙速であるようにも見えてしまう。
「『オリンピック/パラリンピック、訪日外国人、女性、子供に配慮していると言っておけば体裁を保てる』といった空気感を醸成してしまうことを、企業は自覚できていないように思えてしまいます」。
ミニコミ誌『マンガ論争』編集長で『増補エロマンガ・スタディーズ』などの著書もある永山薫さんはこのように話し、またガイドラインの曖昧さについても指摘する。
「そもそもガイドラインを遵守するためには、各都道府県の青少年条例によって個別指定された『指定図書類』の告示(発表)を見て、もし一般の棚に該当する図書があれば区分陳列の棚に移動、または撤去しなければなりません。それだけなら対応可能ですが、各道府県ごとの“包括指定”により具体的な書名が明示されない、いわば見えない『指定図書類』に対応するのは困難だと思います。
各道府県の店舗またはコンビニの本部が所在地の青少年条例と施行規則を参照して、毎日入荷した雑誌類のすべてに目を通し『この週刊誌のグラビアヌードは青少年にとって有害で、連載マンガの暴力シーンと合わせると全体の○%を超えるから包括指定に該当する』などと判断しなければならないからです」(永山さん)
ガイドラインに従ったとは説明があったものの、果たして本質的な議論は果たしてあったのか。またそのガイドライン自体の運用の曖昧さが浮き彫りとなった。
この点について、各3社はKAI-YOU.netの取材に対し、「3社間での事前の話し合いや合意形成はなかった」と答えている。
行政からの要請があったのか。しかしこの点についても「一切なかった」ということだった。
ではなぜ同日(ファミマのみ1日遅れ)の方針発表・報道となったのか。その疑問は融けないままだ。
もし売り上げで判断したということであれば、小売店にとっては当たり前の論理だ。ローソンは「成人向け雑誌の売上は、店舗全体の1%未満」にとどまるとKAI-YOU.netに対して回答した。
しかし、その売り上げが今回の判断の要素として加味されているのかという質問に対しては、「様々な要素を相対的に判断したとしか申し上げられない」という回答だった。
また、ほか2社に関しても「品揃えの見直しの観点」(セブンイレブン)「社会情勢など総合的に判断した」(ローソン)といったもので、具体的な回答は得られなかった。
紙の雑誌が売れないということであれば、これはコンビニに限らない、出版の流通プラットフォームも含めた変化と適応が必要になってくる。
永山さんは、「『訪日外国人や女性や青少年に配慮』というのが単なるエクスキューズにしか見えないのですが、仮に収益低下が理由だとすれば余計な言い訳でお茶を濁さずに『単純に売れないから成人雑誌の棚を撤去しました』と正直に言えばいいし、とくにアナウンスなど出す必要もなかったのではないでしょうか」と話す。
社会の要請に対して法の制定や行政の取り決めが最も遅いのは世の常だ。それを、民間が主導して変えていく動きはあってしかるべきだ。
また一方で、今回の件でいえば、当然作家出版社側にもこれについて抗議、または議論を深める必要性を主張するのは当然の権利でもある。
永山さんは、「これまでコンビニ独自の基準を出版社側が受け入れてきました。『この表現はNGです』とコンビニ側が指定してきたこともあったと聞いています。今回の決定を受けて、出版関連団体が今後どうリアクションするかは注視したいと思います」とした。
各社は、2019年8月末までに全国の全店舗にて原則販売をやめる方針を固めている。
その背景には、女性客や高齢者、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けた外国人客への配慮があるが、「成人向け雑誌」というメディア報道は正確ではないこと、また各社独自基準での「成人向け雑誌」の販売停止を巡っても議論が紛糾している。
この件について、3社への取材と、漫画研究者の意見をうかがった。
成人向け雑誌の販売中止 わかるけど、尽きない疑問
疑問点を整理したい。この成人向け雑誌の販売中止措置の理由として3社一様だったのは、オリンピック/パラリンピックに向けた訪日外国人のイメージ低下や、青少年や女性への影響に対する配慮という点だ。
訪日外国人、未成年や女性に悪影響を及ぼすものを販売するべきではないという判断は理解でき、その取捨選択は自由競争のなかで小売を生業とする企業や店舗の当然の権利だ。
しかし、実生活に悪影響を及ぼしうる扇情的な内容という点では、週刊誌などの芸能人のゴシップやプライベートな話題、セクハラ・パワハラを助長する内容やヘイトを煽る煽情的なトピックも多い雑誌は継続して販売し、成人向けの雑誌のみを中止と判断したのはなぜか?
そして、なぜ3社がほぼ一斉に方針を固めたのか、合意形成や行政からの要請があったのか?
また、「成人向け雑誌」の撤去理由は“売れないから”ではないのか? そうであるなら、明らかに議論を呼びそうな理由を公表したのはなぜなのか? など、いくつかの疑問がある。
なぜ、成人向けの雑誌のみ販売を取りやめ?
まず、なぜ成人向けの雑誌のみ販売を取りやめたのか、という点について。3社の回答はいずれも、あくまでも日本フランチャイズチェーン協会のガイドラインが規定する「成人向け雑誌」のカテゴリに準拠した結果という回答であった。(セブンイレブンは、最終的な判断は各オーナーの意思を尊重するとした)
ここでまず整理しておきたいのは、コンビニにおける「成人向け雑誌」とはどういうものを指すのかということだ。
「成人向け雑誌」とは条例に基づいた区分ではなく、厳密な意味では存在しない。
「東京都青少年の健全な育成に関する条例」では、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められ、「青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない」ものなどを「不健全図書類」として定義している。(外部リンク)
そのうち、青少年健全育成条例に基づき東京都が不健全図書として指定した「指定図書類」、またそれ以外の「表示図書類」の2つに分類される。
「指定図書類」が販売/閲覧/区分陳列(ゾーニング)/包装/制限掲示(成人マーク)について罰則付きの義務であるのに対し、「表示図書」は各書店・出版社の努力義務となっているが(外部サイト)、そのいずれも書店などでの販売に限られている。
つまり、コンビニで現在販売されている「成人向け」図書というのは、各団体(コンビニの場合、日本フランチャイズチェーン協会)が条例に準拠して独自に決めた、18歳未満には推奨できない、いわゆる「類似図書」とされるものだ。
そのため、コンビニのエロ本(あえてこの言い方をする)には「成人マーク」はついていない。しかしその類似図書も、基本的には出版社や各店舗の自主規制という形で、青いテープなどで封じられ閲覧できないようになっている。
「成人向け雑誌」とは、各団体が独自で決めた基準
では、各社コンビニが定める「成人向け雑誌」とはなんなのか。それは以下を指す。取材によると、セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートはこれらに準拠し、今回の中止販売措置を行ったという回答であった。各都道府県青少年育成条例等で定められた未成年者(18歳未満者)への販売・閲覧等の禁止に該当する雑誌及びそれらに類似する雑誌類 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会のガイドラインより
つまり、日本フランチャイズチェーン協会およびコンビニ各社の判断では、この枠組みのなかに、先述のような過激で扇情的な一部の週刊誌などは今のところ含まれていないということだ。
取材においてファミマ社は「今回は、個別の商品について、それぞれ判断するということはしていない」としている。
「週刊誌」というくくりでいえば、各媒体によっても、雑誌ごとの特集やページによっても扱うトピックの種類はさまざまで、一概に「青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」とは言えない。
そのため、数ある媒体を会社やオーナーが判断するのは実質難しい。そういった意味では、杓子定規ともとれる今回の基準だが、現実的な判断だったと言えるかもしれない。
しかし一方で、視覚的に過激な性表現のあるエロ本など、パッと見でのイメージの悪いものを見えるところからとりあえず排除した(現時点においては)表層的な処置にも思えてしまう。
3社は「ガイドラインのカテゴリに乗っ取った」の一点張りだったが、そのガイドライン自体が条例ではなく業界団体の独自基準である。最大手の3社自身がそのガイドラインを策定する立場にあるはずで、「基準に従った」はほとんど説明になっていない。
訪日外国人や青少年、女性などに配慮するということであれば、本来であれば「悪影響を及ぼしかねない、またはイメージを損なうものとはどんなものなのか?」という点について熟慮する必要がある。営利企業という以上に、災害時にはインフラとして機能しているコンビニチェーンであればなおさらだ。
「ヤレる女子大生ランキング」特集で物議を醸し編集部が謝罪した『週刊SPA!』などを例に挙げるまでもなく、実生活に影響を与えかねない週刊誌などが看過され、フィクションである漫画雑誌などを含むエロ雑誌は撤去という判断は、拙速であるようにも見えてしまう。
「『オリンピック/パラリンピック、訪日外国人、女性、子供に配慮していると言っておけば体裁を保てる』といった空気感を醸成してしまうことを、企業は自覚できていないように思えてしまいます」。
ミニコミ誌『マンガ論争』編集長で『増補エロマンガ・スタディーズ』などの著書もある永山薫さんはこのように話し、またガイドラインの曖昧さについても指摘する。
「そもそもガイドラインを遵守するためには、各都道府県の青少年条例によって個別指定された『指定図書類』の告示(発表)を見て、もし一般の棚に該当する図書があれば区分陳列の棚に移動、または撤去しなければなりません。それだけなら対応可能ですが、各道府県ごとの“包括指定”により具体的な書名が明示されない、いわば見えない『指定図書類』に対応するのは困難だと思います。
各道府県の店舗またはコンビニの本部が所在地の青少年条例と施行規則を参照して、毎日入荷した雑誌類のすべてに目を通し『この週刊誌のグラビアヌードは青少年にとって有害で、連載マンガの暴力シーンと合わせると全体の○%を超えるから包括指定に該当する』などと判断しなければならないからです」(永山さん)
ガイドラインに従ったとは説明があったものの、果たして本質的な議論は果たしてあったのか。またそのガイドライン自体の運用の曖昧さが浮き彫りとなった。
3社間での事前の合意形成は? 行政からの要請は?
ほぼ同タイミングでの3社の発表/報道について、永山さんは「大手コンビニが足並みを揃えるという、自主規制談合の露骨さはどうかと思います」と指摘。この点について、各3社はKAI-YOU.netの取材に対し、「3社間での事前の話し合いや合意形成はなかった」と答えている。
行政からの要請があったのか。しかしこの点についても「一切なかった」ということだった。
ではなぜ同日(ファミマのみ1日遅れ)の方針発表・報道となったのか。その疑問は融けないままだ。
そもそも売上不振が理由ではないか?
「成人向け雑誌」の撤去理由について、訪日外国人や女性、子供への配慮という以外に、「そもそも売上が見込めないという側面が大きいのではないか」ということは多くの人が指摘し、関係者への取材を行った報道もある。もし売り上げで判断したということであれば、小売店にとっては当たり前の論理だ。ローソンは「成人向け雑誌の売上は、店舗全体の1%未満」にとどまるとKAI-YOU.netに対して回答した。
しかし、その売り上げが今回の判断の要素として加味されているのかという質問に対しては、「様々な要素を相対的に判断したとしか申し上げられない」という回答だった。
また、ほか2社に関しても「品揃えの見直しの観点」(セブンイレブン)「社会情勢など総合的に判断した」(ローソン)といったもので、具体的な回答は得られなかった。
紙の雑誌が売れないということであれば、これはコンビニに限らない、出版の流通プラットフォームも含めた変化と適応が必要になってくる。
永山さんは、「『訪日外国人や女性や青少年に配慮』というのが単なるエクスキューズにしか見えないのですが、仮に収益低下が理由だとすれば余計な言い訳でお茶を濁さずに『単純に売れないから成人雑誌の棚を撤去しました』と正直に言えばいいし、とくにアナウンスなど出す必要もなかったのではないでしょうか」と話す。
それぞれの本質的な「議論」が必要
セブンイレブンは「成人向け雑誌の範囲拡大については検討の予定はない」としたが、この件については、まだまだ議論すべきことがある。社会の要請に対して法の制定や行政の取り決めが最も遅いのは世の常だ。それを、民間が主導して変えていく動きはあってしかるべきだ。
また一方で、今回の件でいえば、当然作家出版社側にもこれについて抗議、または議論を深める必要性を主張するのは当然の権利でもある。
永山さんは、「これまでコンビニ独自の基準を出版社側が受け入れてきました。『この表現はNGです』とコンビニ側が指定してきたこともあったと聞いています。今回の決定を受けて、出版関連団体が今後どうリアクションするかは注視したいと思います」とした。
なんでも「ちゃんと」議論することが必要
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