これまで筆者が考えていたストリートは、大まかに言うと路上の現場だと思ってきた。それは1970年代のニューヨーク・ブロンクスでゲットーな暮らしを送っていた人たちが、生き残る術として、無法地帯の路上で大麻やドラッグの売買を生業にしていたような、そんな雰囲気だ。
そんな文化をラッパーたちが歌ってきたことにより「ストリート」という概念は広まってきたし、すでに「ストリート感」や「ストリートファッション」という言葉は日本でも一般化している。
しかし近年、若い世代たちは現場や路上ではなくYouTubeやInstagramをはじめとするSNSを介して音楽やファッションなどの情報を入手・発信することで、ストリートカルチャーに触れている。同時に若いラッパーたちが「レペゼン〇〇」と地元のストリートを名乗る場面もあまり見なくなってきた。着実にストリートの固定概念は覆されつつあるのだ。
今回はインターネットから発信/販売し、ユースに絶対的な支持を集めているストリートブランド・BLACK BRAIN Clothing(以下BBC)のディレクターであるiLLNESSさんに、BBCが人気を獲得していった背景についてうかがった。
ネット発のブランドありながら「ストリート」であるというのは、どういう意味なのだろうか。「BBC」とiLLNESSさんの思想を紐解くことが、現代のストリート感を解明することに直結していると感じた。
取材・文:山下智也、米村智水 編集:米村智水 撮影:山下智也
「くすりをやめるか、会社を辞めるか選べ」
──BBCは、近年台頭してきたTwitterやInstagramなどを通じて販売されるアパレルブランドの中で圧倒的な求心力があるように感じます。ラフォーレで毎週のように展開しているポップアップや、ネット販売は秒速でいつも売り切れていますよね。そもそもBBCは、どのようなきっかけではじめられたのでしょうか。iLLNESS 俺は基本的に遊ぶのが好きだから、資質的にも一から戦略を立ててちゃんとやっていこうという感じではなかったです。 iLLNESS 俺はオーバードーズで心臓発作を起こして運ばれて警察に逮捕されたり、友人がバカラ屋で1000万円溶かしたこととかを経験していて。そういう時に写真を撮ってただけなんですね。
もともと自分でやるアパレルにするつもりなんてなくて、生活する中で気づいたら面白い写真が溜まってきたから、ノリでフォトTをつくった。そしたらたくさん注文が来たっていう感じなんですよ。
iLLNESS 前職が広く言うと、物を探したり、売る仕事だったんですね。海外に行って物を買い付けたり、その関係もあってTシャツをつくる工場やノウハウ、ルートは知ってました。
2016年に大きく注目をされてきたという実感はあるんだけど、その前の1年間ぐらいは目立たずにやってたんすよ。実は前職の会社ではけっこういいポジションで仕事をしていて。だからあんまり大ぴらにできなかった。
会社には黙ってやってたんですけど、こんなにTシャツ売れるんだったら、もういいやと思って、普通に全部話してそれまで自分が関わってたものを全部手放しました。それが2年ぐらい前ですね。
──それまでは、普通に働いてらっしゃったんですね。
iLLNESS 前職は少し変わった仕事で。物を売るというよりかは商社と取引したり、海外のクライアントを見つけたりとか──そういうビジネス的な側面からアパレルを見ていました。
──もともとストリートカルチャーは好きだったんですか?
iLLNESS いや、好きですけど、マジでいわゆる「ストリート」っていうのは意識したことは全然ないです。
でも俺は全身に刺青が入ってて、夜遊びや女の子が好きだし、いろいろ悪さもする。昔からの知り合いも気づいたらヤクザになってたり。他にも、彫り師や、ここで言えない仕事をやってる人が多いから、単純にライフスタイルの中で会う人を限定していくと、真面目な人は誰もいないんですよね。
──(笑)。だけど、iLLNESSさんは真面目に働いてらっしゃったんですね。
iLLNESS 仕事はそつなくこなしてましたね。だから会社からも重宝されてたんですが、くすりの癖がすごかったので、そこも考慮して雇ってもらってました。大事なミーティングの時も、Tシャツで刺青出しながら参加してたので、真面目という感じではない。
でもある時、社長室に呼ばれて「くすりをやめるか、会社を辞めるか選べ」って言われて、会社やめるのを選びました。
言語が、人間の唯一にして最強の武器
──iLLNESSさんというと、Twitterでも冗談か本気か分からないくすりに関するツイートが人気ですよね。そういったものに惹かれていったきっかけはなんだったんですか?iLLNESS 誕生日になると、父と母、おばさんとおじさんがみんな違う本を1冊くれるような家庭だったんですよ。自覚はしてなかったけど、活字に対する欲求がめちゃくちゃあった。そんな中で、アウトサイダー文学に出会っていく。コリン・ウィルソン、同じ方面だと村上龍や青山正明とかの本が好きで。ビットコインの話はもうわかった。そんなことよりちょっとこのコカインを見てくれ。
— iLLNESS - BBC (@iLLNE5S) 2017年12月28日
文学以外にも、哲学書も結構読んでました。バタイユもそうだし、フロイトにユングとか。あとはティモシー・リアリーみたいな精神世界の本を読んでいくうちに、意識変容に関する記述を発見していくわけです。だから俺はヤンキーとか卍的なノリで、周りがドラッグに手を出してたからやったとかじゃない。サブカル的な探究心なんすよ、もともと。
「悟りの境地にたどり着くためにはLSDだ」という安い文句があるじゃないすか。「(哲学書が言ってるような)この境地になるには、村上龍が言ってたこの方法しかないな」という具合でした。
ドラッグやると人間の性格が思いっきり変わる人がいるじゃないすか。俺の場合は本でいろんな情報を知っていたので、むしろ自分の中で繋がるものがありましたね。
──そんなiLLNESSさんは、どういった幼少期を過ごされたんでしょうか?
iLLNESS 意外に思われるんですけど、そういった悪い遊びにハマったきかっけがそんな感じだから、不良ではないっす。両親には大事に育てられたし、教育もしっかり受けましたよ。
ただ母の教育方法が斬新すぎて。まだ判断能力がないようなガキの時から「あなたの人生は、あなたは自身で考える必要がある」って言われてました。俺は「え、めんどくせえな」って(笑)。
iLLNESSさんの母親と本棚
iLLNESS でもおかげでいちいち考える癖はついて。だから本を読むのがとにかく面白かった。本には、過去の誰かがめちゃくちゃ悩んで、わざわざテキストにして後世に残さないといけなかった重要な事柄が書かれているわけじゃないですか。
人間が唯一持っていて最強の武器である「言語」を駆使して、頭の中の情報を社会に伝播させていけるというメディア。それを数百円で得られるわけですよ。本はすごく楽しくてコスパがいい娯楽だったすね。だって、ニーチェやバタイユの本が600円で買えるんですよ。それって、その人の人生をほぼ600円で買ったようなもんじゃないですか。
ユース世代への広がり、「年が若い方が偉い」
──BBCのデザインは、iLLNESSさんが好きなデザインをつくったんですか? もしくは前職のようにマーケティングな観点から売れる商品をつくった?iLLNESS 誰も言わないけど、現代社会を生きてて、遊ぶのが好きで時間とお金があって引きこもりでもなかったから、ドラッグなんて身近にあるものですよね。
有名で成功してるあいつとかあいつがみんなやってる中で、誰もそれをデザインに起こしてないのは面白くねえなとは思ってた。で、その普通を俺が表現したらこうなりましたね。
──それがこのデザインになった経緯なんですね。ロゴはどのようにして完成したのでしょうか?
iLLNESS デザインをやってくれてるのが、友達の彫り師で「服つくるから可愛いロゴ書いてよ」ってお願いしたら、可愛いデザインに仕上がってました。このデザインは、ピルボトルです。 ──そのデザインがユース世代にうけています。特にマホトさんやへきトラハウスのカワグチジンさんが着てる影響もあると思うのですが、そこはどういった繋がりなのでしょうか?
iLLNESS それに関していうと、ジンなんて全然有名じゃないガキだった時に知り合ったんですよね。ジンからしたら、俺はなんかご飯おごってくれる服屋っていう感じだったでしょうね。YouTuberのやんちゃな子たちが着てくれて、若い子に広がったのは実感してます。
──そんな最近の若い世代に思うことはありますか?https://t.co/3kpLSCGu5F pic.twitter.com/spp8NpZAAx
— iLLNESS - BBC (@iLLNE5S) 2017年11月14日
iLLNESS Twitterで「クソガキ、ガキ嫌い」とかよくツイートするんですけど、頭の中では、常に年が若い人の方が偉いって思ってます。30歳よりか20歳、20歳より10歳、10歳より1歳。とにかく若いだけで可能性があるし、新しいことが起きた時に対応できるスピードが早い。
ガキを見た時に「嫌いだなあ、全然分からねえな」と思うこともありますけど、俺はそれを分からないでは終わらせないタイプです。
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iLLNESS
BLACK BRAIN Clothingディレクター
Black Brain clothing(BBC)のディレクター。BBCは、2015年頃より不定期にインターネット上で販売を開始し、ストリート/ネットカルチャーに敏感なユース世代を中心に絶大な人気を集めている。YouTuberのマホトさんやへきトラハウス・カワグチジンさん、ラッパーのJinmenusagiさんやJUNKMANさんらが好んで着用。ラフォーレ原宿1階・LITTLE UNION TOKYOにてポップアップストアも開催。
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