手塚治虫を蘇らせた「初音ミク」という魔法 時空を超えたコラボを語る

手塚治虫を蘇らせた「初音ミク」という魔法 時空を超えたコラボを語る
手塚治虫を蘇らせた「初音ミク」という魔法 時空を超えたコラボを語る
初音ミク Sings “手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で”』が、2017年9月6日(水)に発売された。

2016年5月に逝去した冨田勲さんが手がける『リボンの騎士』や『ジャングル大帝』などの楽曲を、生楽器のバック演奏に合わせて、初音ミク重音テトらバーチャルシンガーが歌う。そして、トークパートも交えながら、手塚アニメの音楽を現代に甦らせる作品だ。

同時に、漫画家・手塚治虫さんの生誕90周年、作曲家・冨田勲さんの生誕85周年、さらには歌声合成ソフトウェア・初音ミクの発売10周年──三者のアニバーサリーを記念して企画されたものでもある。
初音ミク Sings“手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で”SPECIAL XFD MV
アニバーサリーのタイミングだからこそ実現できた貴重なアルバムのリリースに伴い、KAI-YOU.netでは、制作に参加した面々による鼎談を企画。

初音ミクの開発者であるクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉さん、「VOCALOID初音ミクとUTAU重音テトの歌の先生」という役割を担った声優の前田玲奈さん。

そして手塚アニメの多くで脚本を担当してきた経歴を持ち、本作でもトーク部分を含めた全体のストーリー構成を手がけたミステリー作家の辻真先さんの3人に集まっていただいた。

3人の話を通じて、やや判然としない「表情豊かな初音ミク」の実態から、制作中に行われた技術的ポイントまで、本作の全貌を紐解いていく。まずは前田さんが担当した謎のポジション「歌の先生」とは──?

文:恩田雄多 写真:小原泰広 編集:藤木涼介

「手塚治虫と冨田勲は大喜び」でも関係者は困惑?

──手塚治虫さん、冨田勲さん、そして「初音ミク」。それぞれのアニバーサリーに重なったアルバムとなっていますが、そもそも制作のきっかけからお聞かせください。

佐々木 2012年頃から、冨田さんとは以前からコラボレーションさせていただいていたんです。

2016年11月には冨田勲さんの遺作を演奏する「スペース・バレエ・シンフォニー 『ドクター・コッペリウス』」でもミクを用いた追悼公演させていただいて。そこで一連のプロジェクトが一段落したんです。
スペース・バレエ・シンフォニー『ドクター・コッペリウス』ダイジェスト
佐々木 そのタイミングで、日本コロムビアさんから「何か面白いことをやりましょう!」と、非常にざっくりとした提案があって。

 それはまた非常に漠然とした……(笑)。

佐々木 そこから企画を詰めていくなかで、日本コロムビアさんからは、冨田さんが手がけた手塚治虫作品の音楽集や、追悼公演『ドクター・コッペリウス』のライブ音源がリリースされました。

そういったことも背景にしながら、アニバーサリーという節目を通じて三者が繋がったり、手塚治虫さんとお仕事をされていた辻さんやジャズピアニストの佐藤允彦さんの参加が決まって。徐々に企画としての説得力が高まっていったんです。

レコーディング風景を収めたアーティスト写真

──アルバムへのオファーを受けたとき、辻さんと前田さんはどのように思われましたか?

 手塚先生と冨田さん、それぞれと半世紀以上の付き合いがあるので、「あの2人だったら大喜びする!」と、まず思いましたよ。

冨田さんはミクちゃんを知っていたし、手塚先生だったら、たとえミクちゃんを知らなくても間違いなく乗り気になる。だったら僕も乗るしかないなと。

前田 私は「VOCALOIDの歌の先生をやってください」と言われてたんです。それがレコーディングの途中から「ミクさんとデュエットもするかもしれない」「楽しく歌うような演技もお願いするかもしれない」と。

前田玲奈さん

前田 それを聞いて、ミクさんに歌を教えるのも、デュエットで歌うのも私──どっちも私じゃん! そもそも「初音ミクの歌の先生」って何!? って(笑)。

もちろん、すごく嬉しかったんですけど、ちょっと困惑してしまいました。
1
2
3
この記事どう思う?

この記事どう思う?

関連キーフレーズ

佐々木渉

初音ミク/歌声合成関連プロジェクト・プロデューサー

1979年、札幌市生まれ。2005年、クリプトン・フューチャー・メディアに入社し、07年、歌声合成ソフトウェア「初音ミク」の企画・開発を担当し大ヒット。その後、同社のVOCALOID製品や関連企画のプロデュース・デ
ィレクションを手がける。他、新たな音声・音響テクノロジーの研究や、Aphex TwinやSquarepusherなど電子音楽/エレクトロニカのライナーノーツを手がける。

辻真先

脚本家/推理作家

1932 年名古屋生まれ。脚本家・推理作家。テレビ創生期にNHK で、ドラマ・バラエティ・歌番組を含め、制作演出美術進行など生放映に携わる。また『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『巨人の星』『デビルマン』『サザエさん』『Dr.スランプアラレちゃん』、近年では『名探偵コナン』など1960 年代のアニメ黎明期から現代まで多くのアニメ作品の脚本を担当。小説家としては63 年の『生意気な鏡の物語』でデビュー。代表作は『迷犬ルパン』シリーズ、『仮題・中学殺人事件』『アリスの国の殺人』など多数。日本推理作家協会賞、アニメグランプリ脚本賞、長谷川伸賞、東京国際アニメフェア功労賞、中日文化賞など多数受賞。
公式サイト:http://2323.la.coocan.jp/
Twitter:https://twitter.com/mtsujiji

前田玲奈

声優

4 月28 日福岡生まれ、声優。その歌唱力を活かし「それでも世界は美しい」のニケ役(主役)や、 「ナナシス」御園尾マナ役など、歌や音楽をテーマとした作品へ参加、「HUNTER×HUNTER」マチ役 「ウマ娘」グラスワンダー役 「おはよう!アンパンマン」ナレーションなど、数々のテレビアニメ/ゲームでの演技や、ラジオのパーソナリティなどを務め、ソロでの音楽活動も定期的に行う。また、無類のアイスクリームマニアで年間1000 のアイスを食し、一般社団法人 アイスマニア協会 公式ソングも歌唱している。

2件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1140)

辻先生、かわいすぎでは??

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1137)

辻さんがすごくおちゃめなんですよね。