購入したプレイヤーに付属品でついてきたものを使っている方も、音質にこだわりを持って試聴を重ねて選んだものを使っている方も、様々いらっしゃると思います。
私の耳に入ってきたのは、「Just ear」というイヤホン。一人ひとりの耳の形に合わせるだけでなく、好みの音質に調整することができるテイラーメイドの高級イヤホンです。 そのお値段、なんと300,000円!
今回は、声優・ナレーターとして活躍する諏訪部順一さんに、実際に「Just ear」をオーダーしていただきながら、開発者の松尾伴大さんとともに、諏訪部さんの魅力的な声に合わせた「諏訪部順一チューニング」の「Just ear」が出来上がるまでを密着させていただきました。
取材/文:ねりまちゃん 撮影:雨宮透貴、市村岬 企画:菱谷佳代子 編集:米村智水
声のプロ・諏訪部順一の音に対するこだわりは?
──今回、テイラーメイドイヤホン「Just ear」をつくられる諏訪部さんですが、普段どういった環境で音を聴いていらっしゃいますか?諏訪部 一応、自宅にオーディオシステムを組んでいるので、それで聴くこともありますし、ほぼ仕事の移動はクルマなので、運転中の車内で聴いたりと様々ですね。プライベートでイヤホンやヘッドホンを使用するのは、より音楽に没入したい時や、ご近所迷惑が気になる夜中などが多いです。諏訪部順一 大学卒業後、数々の職業を経験した後に1995年からナレーター、ラジオパーソナリティとして活動を開始。2002年「テニスの王子様」跡部景吾役を機に声優としての認知度も高め、以降数多くの作品に出演。2013年第7回声優アワードで助演男優賞受賞。自身のプロデュースで音楽活動、TVやラジオ番組の制作を行うなど多方面で活躍中。
イヤホンやヘッドホンは、自分にとって仕事をする上での必須アイテムでもあります。ナレーションやラジオ番組は、喋っている自分の声やディレクターからの指示など色々聞きながら収録を行います。各スタジオに備え付けのものが用意されていたりもするのですが、常に同じモニタリング環境で自分の声の聴こえ方をチェックしながら作業をしたいので、自前の物を常に持ち歩くようにしています。
10年くらい、モニター用ヘッドホンの大定番「MDR-CD900ST」を使用していたのですが、持ち歩くのにかさばるのと、長時間収録の際にどうしても気になってくる圧迫感を無くしたいという思いから、インイヤー型のイヤホンに切り替えました。そのタイミングでちょうどリリースされた「MDR-EX800ST」を試聴したところ、モニタリングイヤホンとして非常に良い感じだったので。以後、現在に至るまでこのモデルを愛用しています。
実はこれ……松尾さんが設計されたそうですね!
松尾 はい。諏訪部さんが「MDR-EX800ST」を実際に業務上で使っていただいていたのがすごく嬉しくて。「MDR-EX800ST」は業務用としてつくったものの、実際にプロの現場で使われているかどうかというのは、今までは知る機会が少なかったんですが、「Just ear」のプロジェクトを通して、現場の方に聞くと使っている方が多くて感謝しています。 ──諏訪部さんはどういう音質が好みだったりするのでしょうか?松尾伴大 ソニーエンジニアリング株式会社によるブランド「Just ear」の開発責任者。MDR-EX800STをはじめ、MDR-EX1000、EX90、1R、MA900、XBシリーズといった数々のソニー製ヘッドホン、イヤホンの開発に携わる。
諏訪部 仕事で使うことを前提とするならば、高音/低音含めどこか一部が誇張されていたり、痩せているようなことがない、なるべくナチュラルに聴こえるタイプであることがマストです。あくまでモニター用なので。しかし、音楽を聴くときも近年は同様ですね。低音がズンズン来るような感じを好んだ時期もありましたが、自分でも音楽を作るようになってからは、素材そのままを味わえる感じが一番しっくり来るようになりました。
好みは人それぞれだと思うのですが、部分的に濃い味にしてしまうと、その音を制作した人の意図とは違う作品になってしまうような気がして──例えるならば、天然素材でじっくりダシを取った端麗なスープに、化学調味料をドバドバ入れてしまうようなイメージです。まぁ、ジャンクにはジャンクの良さも時にはあると思いますが(笑)。
アニメ視聴者は音にシビアになっている
──松尾さんから「アニメ好きな方は、音に対するこだわりが強くなっていると感じる」と聞いたんですけれども、諏訪部さんもそういうことを感じられたりしますか?諏訪部 男性のアニメファンの方の中には、昔からハイエンドの映像と音を求めるツワモノが多くいらっしゃる印象でしたが、近頃は女性の中にも音質にこだわりを持つ方が増えて来たような気がしますね。自分が作っている音楽も、ハイレゾバージョンの御要望を頂くことがあったり。
しかし実は、女性の方が音に重きを置くという説もありまして。あまり男性からの需要が無いのか、ドラマCDのような音声オンリーのコンテンツは、女性向けの方が圧倒的に多くリリースされています。最近は、*バイノーラル録音を使った、生っぽい語りかけのような作品も人気です。
*バイノーラル録音=ダミーヘッドマイクなどを使って行う特殊な録音方法。ステレオ・ヘッドホン、イヤホンで聴くと、その場に居合わせたかのような臨場感が得られる。
──ネット上では「耳が孕む!」みたいな表現もありますもんね。
諏訪部 ありますね(笑)。いろいろとこだわって演じたり、音を作り込んだりしているので、「とりあえず聴ければいいや」ではなく、「より良い音で、スタジオやライブ会場と同じようなサウンドで聴きたい!」と思って下さる方がひとりでも増えてくださるとありがたいですね。
実は自分は以前から、その啓蒙活動的な発言を結構しています。
5年ぐらい前だったら提案しても、社内で企画が通らなかったと思うんです。僕にとっては長年の悲願であった、個別で対応して商品をつくるという「Just ear」のプロジェクトが、成立するようになったのは面白いことです。
諏訪部 ニッチかつリッチなマーケットが、徐々に育まれていたんですね。
好きなアーティストや声優さんに合わせたチューニングを
松尾 私も「Just ear」の企画段階では全く想像していなかったんですが、お客様がご自身の好きなアーティストであるとか、それこそ「特定の声優さんのコンテンツをベストな音で聴きたい」というリクエストを受けることが本当に増えてきて。例えばクラシック向け/ロック向けとか、家で使う/電車で使うとか、そういう軸での開発はありますが、「自分の好きな人の声」というコンテンツにフォーカスして音づくりをするという軸があったんだ、と衝撃を受けました。
──女性のお客様も多いですか?
松尾 今はまだ男性のお客様が多くて、女性のヴォーカリストや女性声優さんに向けてのチューニングを求められる方が多いんです。でも一方で、声に対しての貪欲さというのは女性のほうが強いと仮定するならば──そこを求めるお客様も結構いるんじゃないかなという気はしています。
諏訪部 ニーズは間違いなくあると思います。しかし、こういったアイテムに対するコストの目は女性の方が厳しそうな気がしますので、ハードルはまだちょっと高いかもしれませんね。思わぬ臨時収入があったり、頑張った自分に御褒美あげたくなったり、良きタイミングがありましたらゼヒ奮発して頂きたいですね。
「Just ear」の製作は耳の型採りからはじまる
松尾 今日は諏訪部さんの「Just ear」を製作するための準備段階として、耳の型採りと、あとは音質の方向性を決めるという工程をやっていきたいなと思っています。諏訪部さんには「みんなにはこういう音で聴いてほしいな」という、制作サイドが考える理想の音を、こちらで再現するような形を試みたいと思っていますので、音源を聴きつつ、チューニングできればと思っています。
諏訪部 実は今回……なんと、今朝トラックダウンが終わったばかりの音源を持ってきました。文字通り出来たてホヤホヤです。 鳥海浩輔氏とやっているセルフプロデュースユニット・フェロ☆メンの1stアルバム『※MAGIC MIRROR』のリード曲「Linaria」を使用したいと思います。オーケストラによる生楽器の演奏をフィーチャーしつつ、EDM的な打ち込みサウンドのパートもあったりと多様な要素を含んでいる上に、ヴォーカルのニュアンスも強弱様々な楽曲です。自分が求めるバランスの良いイヤホンを作り込むのにもってこいではないかと思いまして。
※この取材が行われたのは2016年2月末。フェロ☆メンの1stアルバム『MAGIC MIRROR』の制作追い込み時期でした。現在は好評発売中です!
0件のコメント