「このベースラインを聞いてくれ!」
──P*Lightさんから最高のキラーパスがありましたが、「インストは見向きもされない」中で、OSTERさんがそれでもあえてインスト曲主体のアルバムを出すのは挑戦的だと感じました。OSTER インストアルバムは、実はずっと出そうと思っていたんです。かれこれ3、4年くらい前から構想はありました。ずっとつくっていたインスト曲は、昔から「muzie」にあげていたんですが、ボカロに出会ってからは、そちらの方が広がっていって、忙しくなってしまい。
──ボカロのムーブメントもある意味で落ち着いたため、改めて元々のインスト曲に目を向ける余裕ができたという側面もあるのでしょうか?
OSTER 私としては、BEMANIに参入したことによって、ちょっと流れが変わったかな、と。おかげでこの2年ほどでインスト曲の仕事も増えてきたので、インスト主体のアルバム制作に踏み切った格好ですね。
ただ、制作期間が1ヶ月半ほどしかなかったため、本当に死ぬかと思いました(笑)。過去に公開していたインスト曲は、どうしても技術的に未熟な部分や、そもそも当時インターネットに上げられる容量にも限界があったので、改めて新録して、新曲もつくって……。
Hommarju 1ヶ月半……!
OSTER 逆にこのタイミングを逃したらもう無理だなと思って。
もちろんインスト曲は全力でつくりましたが、これまでのボーカル曲に関しても「歌よりもオケを聞いてもらいたい!」という思いが個人的にはあります。細部まで徹底的につくりこむところが、自分が技術的に一番勝負している部分でもあるので。最高に楽しいのは、ベースラインをつくってるときかもしれません。「他はいいからとりあえずベースラインを聞いてくれ!」(笑)と。その部分を存分に聞いてもらえるのは、やっぱりボーカルよりもインスト曲になるかもしれないですね。
P*Light 絶対に言っておいたほうがいいですよ、アルバムの聞きどころ! ひとつは、ベースラインで(笑)。ちなみに今回の収録曲は、すべて打ち込みですか? それとも生で録音したやつもあるんですか?
OSTER 生で録った曲もありますね。
P*Light 実は僕、OSTERさんの打ち込み技術は本当にすごいと常々思っていたんです。ロマンを感じるというか、いろいろ通り越してエモいというか……。今回のアルバムもを聞かせてもらいましたが、どれが録音でどれが打ち込みか、正直僕にはわからなかったです。
OSTER 本当ですか!? 一番言われて嬉しい言葉かも……。
P*Light 情報量がすごかったです。一周聴いただけではとても追い切れないというか、一つ一つのフレーズが耳に残るし、曲全体としても中毒性があるんですよね。「今回はベースを集中的に聴こう!」「次はメインのメロディを聴いてみようかな」とか、本当に何周もしたくなりました。
OSTER ぜひじっくりと、ヘッドホンで聴いていただきたいです。ジャズ系の曲が多いので、お酒……もといワインでも飲みながら(笑)。「ORIENTAL INSPIRATION」という曲はエスニック調になっていて、全体的にワールド系の色が強く出ていると思います。
Hommarju 自分好みのサウンドに徹底的にこだわるのは大切ですよね。あとサウンドもそうですが、音楽をつくる人ってそれぞれが何かしらのメッセージ性を持っていると思うんですよ。OSTERさんはこのアルバムに対して、どのような心境でつくっていたんですか?
OSTER 「やばい、間に合わない」っていう心境かな(笑)。
(一同、笑)
OSTER マウスのクリック操作をしすぎて、腱鞘炎になるかと思いました……というのは置いといて。私個人の思いがどうこうというよりは、「芸術作品をつくっている」という感覚でした。「芸術」と言っても別に崇高だとか高尚だとかいうイメージはなく、「こういうテイストの曲がつくりたい」「こんなフレーズが使いたい」という視点から、音の連なり、楽曲としての完成度を重視してつくりました。
アルバム全体の曲構成としても、過去に人気があった曲も入れていますが、つくるからにはいろいろな曲を聞いてもらいたいので、バリエーションが豊かになるようにしました。まんべんなく昔の曲から入れようとセレクトした結果が、多種多彩になっていればいいな、と。
あのころ憧れたアーティストと共に立つ、夢の先の「原点回帰」
──では、改めて、アルバムの「原点回帰」というテーマは、どういうことなんでしょうか?OSTER インスト音楽から始まったという意味で、まさに原点ですし、およそ15年間かけて私が培ってきた「生音に限りなく近い打ち込み技術」を出し尽くしたアルバムになっていると思います。
と言うのも、昔から生音を使った曲づくりをしたいと思っていたのですが、レコーディングできる環境がなかったんです。そこで、音楽をつくり始めた13歳から、「打ち込み技術を高めていけば、生にどんどん近づいていくんじゃないか」という実験を15年以上続けて、そこだけを突き詰めていったんです。今回のアルバムはそんな過去の楽曲制作で学んできた打ち込み技術の、お披露目の場とも言えるかもしれません。
それでも及ばなかったところはミュージシャンの方たちを呼んで、生で録音もしています。私自身の打ち込み曲と、生録音曲の両方を収録することによって、両方を比較して「こっちは打ち込みなんだぜ!」と自慢したかったというのもありますね(笑)。特に「Violet Rose」は一週間近くかけて、途中でノイローゼになるかと思うくらいにつくりこんだ自信作です。
【OSTER project】Violet Rose【Music Video】
P*Light インストオンリーじゃなくて、ゲストを呼んだのはなんでですか?
OSTER それも、原点回帰だからです。中でもボーカルの常盤ゆうさんは、高校生の頃にBEMANIの「mur mur twins」という曲を聞いてからずっと、本当に大好きな方です。今回の「ラブラドライト」も、常盤さんに歌ってもらうためだけにつくった曲で、断られたらこの曲どうしようと(笑)。
常盤さんに「歌っていただけませんか?」とお話をしにいったところ、「(自分に)ぴったりです」と仰ってもらえた時は本当に嬉しかったです。「常盤さんにはこういう曲を歌ってもらいたいいいい!」という一心でつくりましたから!
Hommarju あの曲は、本当に常盤さん愛にあふれていると思う。
OSTER 自分がインスト曲をつくっていたころに好きだったアーティストさんに歌ってもらうことも、ある意味では「原点回帰」です。ジャケットを描いていただいたMAYAさんも、昔からすごい好きだった方なので。そういったアーティストのみなさんと、いま同じステージに立って作品をつくれているということはとても感慨深いですし、CDのコンセプトにふさわしい人選となったように思います。 改めて考えてみると、今回のアルバムを一番楽しみにしていたのも私自身なのかもしれません。本当に表現したかったものを納得のいく形で、自信を持ってお届けできるようなクオリティで仕上げられたと思っています。もし聴いてみて良かったら、他の人にも勧めてあげてください。「インストっていう音楽があるんだよ!」「ベースライン聞くのもいいんだぜ!」って。
P*Light 繰り返しになってしまいますが、メジャーのフィールドで今回のようなインストアルバムを出すというのは、本当にすごい意味があることだと思うんですよね。僕も、続いていけるようにがんばります!
Hommarju 友人としてだけじゃなくて、一人のアーティストとして、このアルバムは色んな人に聴いてもらいたいとは思いますね。
OSTER シーンみたいなものを私が背負うわけじゃないですが、あとに続いていただくためには、とりあえず私がここでコケるわけにはいきませんね。ということで、ぜひポチってください(笑)!
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OSTER
トラックメイカー
作詞、作曲、アレンジからサウンドプロデュース、さらに映像制作までをもこなす、マルチクリエイター。
2007年からニコニコ動画にオリジナル楽曲を投稿。「恋スルVOC@LOID」(190 万再生) をはじめ、多数の" 伝説入り楽曲"(100 万再生以上) を発表し続けている。
ボーカロイドブームのパイオニアとして現在でも不動の人気を誇る彼女だが、beatmania IIDXなど数々の音楽ゲームへの楽曲提供、TVアニメ主題歌のプロデュースなど、その活躍は多岐に渡る。
近年では、aikoのシングル表題曲のアレンジャーとして連続で抜擢されるなど、その音楽センスに対する評価はさらに急上昇中である。
Hommarju
トラックメイカー
楽曲制作やDJとして活躍する日本のクリエイター。「beatmania」シリーズはじめ、「SOUND VOLTEX」や「REFLEC BEAT」など、様々な音楽ゲームへ数多く楽曲を提供している。
2006年にdj TAKAが中心となって設立したbeatnation Recordsの中でも、気鋭の若手コンポーザーを集めたレーベル「beatnation RHYZE」に、OSTER projectやP*Lightと共に所属。
P*Light
トラックメイカー
2007年から本格的に音楽制作を開始。トラックメイカー、DJ、リミキサー等、活動は多岐にわたる。
「形に囚われない、ポップで透明感のあるサウンド」をコンセプトにHAPPY HARDCORE、UK HARDCOREを中心に制作しており、一度聴いたら忘れないキャッチーでポップな唯一無二のP*Lightサウンドを生み出している。
また、自身のレーベル「pichnopop」での精力的なリリース、KONAMI BEMANIシリーズへの楽曲提供の他、beatnation RHYZE、HARDCORE TANO*Cでの活動等、今後の活躍が益々期待されている。
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