集英社はなぜ日本漫画の帝王なのか?先駆者たちが語るWebtoon業界の課題

「ビジネスの打ち出し方より次のスター作品をつくるべき」

それぞれの現在のシーンに対する見解が提示されたところで、議論は福井美行さんが新たに提起した「Webtoonは空き時間に読まれることが多く、ファンの熱狂度が低いように感じる」という疑問から、ファンづくりに話題が移る。

岩本炯沢さんは、紙媒体の漫画は友達同士で共有することで文化の土台がつくられていたとする自身の体験をもとに、Webtoonでもプラットフォーム側で作品を共有して読むことができる仕組みがつくれないかと提案した。

芝辻幹也さんも、ヒット作はやはりグッズやメディア化など多面的な展開がされており、接触回数を増やすことがキャズムを超える手助けになるのではないかとコメントした。

一方、李ヒョンソクさんは、日本のWebtoon業界では、広告モデルについてなど、テック方面での議論が先走りすぎているのではないかと指摘。

「comico」が国内でのWebtoon展開の下地をつくることができたのは『ReLife』のヒットがあったからであり、現在のブームは、『俺だけレベルアップな件』のヒットが起爆剤になっているとコメント。

だからこそ、Webtoonのファンを増やしたいのであれば、その動きを牽引する次のスター作品が必要であり、「作家さんをどう調達するのか、何を教えればいいのかもっと議論されるべき」だと主張した。

『ReLife』 単行本版1巻/画像はAmazonから

センス? 経験? Webtoon業界で成功するために必要な人材

続いて福井美行さんは、「Webtoon業界にはどういった人材が必要で、どう人材を集めているのか」について3人に投げかける。

岩本炯沢さんは「まず今いる人員が先行した市場のある韓国にちゃんと行き、学ぶことが重要」だと主張。「日本の編集プロダクションが韓国にWebtoonを学びに来てるって聞いたことがない」と語った。実際に韓国にも会社があり、日韓を往復している人物の言葉だけに重みがある。

李ヒョンソクさんは、「ネームが読める人材を優先している」とコメント。ネームは台詞の量や配置、スピード感を持って読めるかという読書体験の基準となる。さらに、演出や線の入れ方といった技術は経験と蓄積によって鍛えることはできるが、ネームの書き方・見方にはセンスが求められる部分があるため、重要性が高くなるとのこと。

実際に、REDICEスタジオはNAVER Webtoonと共同でコンテの公募展を行なっており、「話をつくることができる人・演出の上手い人を探すことがうちの仕事では一番重要」だと語った。

Webtoonの発展に必要なのは日本漫画からの脱却

福井美行さんはまた3人に、「現在の日本のWebtoonには何が足りないと思うか?」と質問。

岩本炯沢さんは、スマホの画面に縦スクロールで表示される時にどう見えるのかを製作陣が理解し、ネーム力を高めることが重要だと回答。芝辻幹也さんも同意し、「今は業界全体で知見を共有し、お互いに高めていくことが重要」だと語った。

李ヒョンソクさんも、これに同意しつつ、日本の横読み漫画の方法論からの脱却が必要だと語る。昔の日本の漫画は、「何を描かないか」を選択することで、空白による間の取り方が重視されていたが、現在、日本の漫画は成熟により紙面に情報量を詰め込まないと読者が読んでくれなくなっているのだと分析した。

フルカラーとなるWebtoonはさらに色の分の情報量が増えるため、現在の日本の漫画の理論で描いてしまうと、ノイズに感じられるほど情報量が過剰になってしまう。

加えて、本の出版物の彩色は可視光線に一部吸収されて彩度が下がることを前提に組まれているが、Webtoonはバックライトで照らされるため、色づくり自体もCMYKではなくRGBで考えなければならない。

李ヒョンソクさんは、日本発のWebtoonで上記の点が優れている作品として、「LINEマンガインディーズ」などで連載されている『氷の城壁』を挙げ、「こういった才能をプラットフォームがちゃんと拾ってくれているということに希望を感じる」と述べた。

『氷の城壁』/画像は作者・阿賀沢紅茶さんTwitterから

集英社が漫画業界の帝王である理由

最後に、福井美行さんは3人に「今後の日本のWebtoon業界には何が必要なのか」と問いかけた。

岩本炯沢さんは、日本ではWebtoonは常に日本の漫画と比較され続けるため、いち編集プロダクションが耐えながら制作を続けていくのは非常に大変だと現状を説明。「編集プロダクションなどの製作陣とプラットフォームがコミュニケーションを取り続けることで、制作費の支援などを行ってほしい」と語った。

芝辻幹也さんは、自分たちも赤字を出し続けながらようやく収支が合うようになってきたと振り返り、「覚悟を持ってやり続けることが必要。作り続ければ人も育つし作家さんもついてくるし、プラットフォームや出版社・原作の会社との関係も良くなっていくはず」と展望を述べた。

李ヒョンソクさんは、「日本において漫画を論じる際に一番名前が挙げられる会社ってやっぱり集英社ですよね」と投げかけ、集英社がなぜ頂点に君臨しているのか、その理由を「1年に300本以上の短編読み切りを出しているから」だと説明。

人材が育つためには時間とお金がかかり、経営的な努力も必要になるが、日本のWebtoon業界には新人の作品や読み切りを発表できる場所が少ない。大半の読み切りは掲載しても収益には繋がらないため、掲載自体が投資目的にならざるを得ないが、雑誌で新人が作品を発表できる場を設け続けることで、作家が自分の可能性を見出せるようになっていくと指摘した。 そして現状そうした場になっている「comico」の投稿機能や「LINEマンガインディーズ」のような例をもっと増やしていくことが、Webtoon業界の発展における一つの鍵になるのではないかと語った。

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