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  • 2022.07.31

若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察

多くのインターネットユーザーが薄々感じているであろう、ネットカルチャーの変容。アニメからVTuberにトレンドが移ろいつつある現状を7つの観点から考察する。

若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察

クリエイター

この記事の制作者たち

アニメ・ゲーム・漫画・ライトノベル」といえば、00年代から20年ほどにわたって続くインターネット・カルチャー内の共通言語として大きなハブとなってきた。

2000年代には、匿名掲示板・2ちゃんねる(現「5ちゃんねる」)からニコニコ動画へと続いた中心軸に、はてなブックマークやmixiに個人ブログを加えたブログカルチャーを周縁に据え、

アニメ・ゲーム・漫画・ライトノベルは「インターネットを知らない奴ら」へのカウンターとオルタナティブ性を孕んだカルチャーという側面もあった

特にアニメ作品への支持はとても強く、1990年代後半の第三次アニメブームを起点にして深夜帯にて放映されはじめたアニメ作品に熱狂的なファンが注目し始め、堅牢なファンダムが築かれるようになった。

ニコニコ動画によって盛り上がりを見せていた2000年代後半以降は、『電車男』のマスなヒットも加わり、メジャーかつメインストリームなフィールドへとささっていく「ポップ」な存在として注目され、それまでのネットカルチャーに住みついていたファン層とは全く別のファン層をつくり出した。

それに追随するかのように、ゲーム・ライトノベル・漫画といったシーンからも往々にしてヒット作品が生まれ、次々とアニメ化を果たすようになった。「アニメ・ゲーム・漫画・ライトノベルは、ネットカルチャーの代名詞」──そんな印象を多くの人に抱かせてきた。

だが今、そのトレンドはバーチャルYouTuberをはじめとした「バーチャルな存在」へと移り変わりつつある。2020年を境にしてからのバーチャルタレントの凄まじい突き上げを筆者はここ数年見てきた。

2017年にキズナアイが登場し、2018年からはバーチャル四天王とその周縁で徐々に熱狂がはじまり、2019年には徐々ににじさんじホロライブがタレントの頭数を増やすかたちで台頭しはじめ、2020年以降にはさまざまなアクションを起こし続けることでこちらも堅牢なファンダムが構築され始めてきた。

その結果、2022年ににじさんじを運営するANYCOLOR社は株式上場を果たして一気に注目を集め、シーンは活況を呈している最中にある。

なぜVTuberがブレイクし始めているのか? なぜ話題の重心がアニメからズレていっているのか?」00年代から20年ほどにわたるインターネットカルチャーを再度揺るがす地殻変動──これが筆者の直に感じていた認識だった。

KAI-YOU Premium編集長の新見直氏いわく「大学で授業をしていても、『最近ハマってるものは?』という質問をするとアニメを挙げる人がめっきり減って、VTuberを挙げる人が増えた。コミケでもVTuberが大きな躍進を果たしていて、ネットを見ても注目がそちらに向いているように思う」と筆者に語っていたことを思い出す。そのフィーリングは、確かなのだろうか。

VTuberを世に知らしめたキズナアイがデビューを果たした2016年11月29日から数えれば、いまは6年目。転換期を迎えたVTuberシーンが、なぜここまでブレイクを果たしたのか。記憶をたどって思考を巡らせてみても、たった1つのクリティカルな理由によって生み出されたわけではない。その理由として、7つ挙げることができるはずだ。

目次

  1. 理由1.「キャラクター」が当たり前になった2010年代
  2. 理由2.コロナ禍とインドア需要 日本史上最もインターネットを利用する時代へ
  3. 理由3. 変化したオタク像
  4. 理由4.始まったVTuberの躍進。コンテンツ供給量の格差
  5. 理由5.VTuberのブレイクは「切り抜き」にあり?
  6. 理由6. 二次創作に同人・推し活とUGC VTuberファンダムとそのエコノミー
  7. 理由7.VTuberと共演するビッグネームたち
  8. 終わりに なぜいまVTuberなのか?VTuberはバーチャルタレントへ

理由1.「キャラクター」が当たり前になった2010年代

キャラクタールック」は偉大である。

「キャラクター」という見た目をまとうことによって、キャラクターに親しんできた大勢の眼を引くことができるからだ。

アニメ作品ならびにアニメソングが徐々に人気を博すようになり、アニメ作品を演じる声優やアニソン歌手らの活動領域は自然と広がっていった。それに伴って、ひとつの原作を中心にしてアニメ化・漫画化・グッズ化・ゲーム化・ミュージカル化……と展開していった。

キャラクターコンテンツを中核に据えたメディアミックス系ビジネスモデルやIPビジネスを活かし、さまざまな作品が流行していくことになった。

ここで重要になっているのが、ストーリーやキャラクターを一つの商品として捉えて世の中に打って出ようという点である。このビジネスの在り様と特徴としていの一番にあがるのが、他ならぬ「キャラクタールック」を活かした商品である。

この20年ほどのあいだ、街中のいたるところに見知らぬ「アニメっぽいキャラクター」がいて、しかも数年おきに全く別の作品で別のルックスをしたキャラクターへと次々に変わっていくのだ。

「アニメルックなキャラクターを中心に据えた作品群」は活発なビジネス展開のもと、それまでのひっそりとしたオタクカルチャーから飛び出して日の目を浴びるようになっていった。今では、好むと好まざるとに関わらず、日本国民のなかで自然と「キャラクタールック」が認識されるようになったと言っても過言ではない。

そんな巨大なポップメディアとなっていたアニメ作品よりもVTuberが話題に上がることが多くなったというのは、にわかには信じがたいだろう。

アニメ産業レポート2021」はアニメ市場全体の動向を中心に、「TV」「映画」「ビデオ」「配信」「商品化」「音楽」「海外」「遊興」「ライブ」と9つのビジネスチャンネルの細やかな動向を追いかけているものだ。

2020年までのデータとして大きなトピックと言えるのは、前年まで10年連続で伸長していたアニメ市場がコロナ禍の影響もあって市場が減少したこと海外アニメ市場が国内アニメ市場を上回ったこと、この2つである。

海外アニメ市場以外の、前述の8つのチャンネルを足した国内アニメ市場は、2014年に1兆3105億円を記録したあとは徐々に市場が減少傾向であり、2015年以降に急成長していた海外市場に大きく支えられる形となった。

アニメビデオパッケージ事業(BD・DVD売上が中心)の売り上げは7年連続の減少であり、2013年の1,153億円の半数以下となる466億円を記録している。これはかなりの大幅減だ。

これに加えて、テレビアニメの盛り上がりも、少なくとも2010年代中頃から国内においては徐々に下火となっているのが伝わってくる。

テレビアニメのタイトル数は2010年から2016年にかけて増加しつづけ、2016年の271本をピークに2020年には185本へと5年連続減少。実制作分数も下降線をたどっていることも踏まえれば、制作数はいよいよ減少傾向に突入しつつあった。

とはいえ、2020年の国内アニメ市場規模1兆1,867億円という数字は、00年代の市場よりもだいぶ大きいことは指摘すべきだろう。初めて兆単位を超えたのが2009年であり、それ以後には2009年を下回っていない。めっきりと国内アニメ市場が減退したわけでなく、10年前と比較すれば底上げされており、いまなお強い支持をうかがい知れる。

代わりに堅調だったのは、アニメ配信事業とキャラクター商品化事業である。

2018年の時点で、アニメ配信事業の売上はビデオパッケージ事業の売上を追い抜いている。加えて、2020年にはコロナ禍のなかでテレビ局のアニメ関連売上(番組制作費・媒体量・販売費の合算)をも追い抜いたのだ。コロナ禍が過ぎてみなければわからないが、アニメ視聴における主要チャンネルは、テレビ放映からネット配信へと移り始めている

キャラクター商品化事業は00年代からほぼ横這いか微増の傾向を見せ、2019年と2020年はほとんど変わりない堅調な売り上げを残している。ヒット作がかわるがわる市場を支え、この2~3年ほどは『鬼滅の刃』のヒットが市場の中心にあり、eコマース市場が大きく伸長したことが頼りになったと言えよう。

指摘すべきは、このレポートが計測している2002年以来、キャラクター商品化事業が市場全体のうち常に1/4以上を占めている点にある。テレビ・映画・ビデオ・配信という「アニメを放映する」ことを主軸にした4つの事業が、「キャラクターを売る」ことを主軸にしたキャラクター商品化事業の約半分ほどの市場規模に留まっているのを、見過ごすべきではない。

00年代から10年代にむけて国内アニメ市場は拡大し、2010年代中頃からは市場規模とTVアニメタイトルが減退・減少傾向にあったが、大きく数字を落とすことなくここ数年を推移してきた。とはいえ、確かに「アニメは一時期のパワーを失った」と見ても不思議ではなさそうであり、「若い学生からアニメの話題が出なくなった」という話にもハマりそうである。

アニメ作品が徐々に支持と影響力を失いながらも、周辺ビジネスとして展開する「アニメルックなキャラクターコンテンツ領域・商品」は堅調なままに影響力を示し続ける。これはアニメだけに限らず、ゲーム・漫画・ライトノベルといった近似するシーンからの影響もあるだろう。

ここから考えてみれば、VTuberがブレイクを果たす前段階で、すでに「新たなるキャラクタールック」なコンテンツを受け取る準備が出来上がっていたわけだ。

この国において「キャラクタールック」は偉大である。なぜなら、そうすることによって大きなファンダムを引き込む可能性を秘めているのだから。

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