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  • 2022.03.29

二次創作と「トレパク」の差異と同一性 絵で重要な”自尊心”の教育

イラストレーターによる「トレパク」(他者の著作物の無断トレースによる盗用)が繰り返し発生し、SNSで大きな騒動になってしまう理由はなんなのか。

二次創作と「トレパク」の差異と同一性 絵で重要な”自尊心”の教育

イラストレーター・中村佑介さんは、本インタビューの前編で、その背景についてイラストレーションをめぐる業界構造にまで踏み込んで指摘。

日本における特有で偏ったSNSユーザーの性質、早く・安くを求めるクライアントの存在、作品の要素において「絵の上手さ」だけが持て囃される価値観の定着など、「トレパク」が誘発されてしまう根深い状況の数々が明かされた。

インタビュー中編では、「トレパク」と並んでイラストの著作権問題と密接に関わりを持つ「二次創作」の倫理と現在にも言及していく。二次創作は現代におけるポップカルチャーの発展にとって欠かせない文化でありながら、その扱いの特殊性から未だ理解されづらい部分も多い。

取材中に強い疑問も浮かんできた。中村佑介さんはなぜ、ここまで若手イラストレーターたちに向けて、真摯に(時に場を和ませてくれるけど)言葉を費やすのか

筆者は「トレパク」問題をテーマにした記事を企画する中で、真っ先に中村佑介さんに話を聞くべきで、彼以上の適任はいないと確信していたが──ここで正直に告白すると、実際に取材を依頼するとなると、かなり躊躇した。

クリエイターのコミュニティで長年燻り続けている「トレパク」問題を、プロのイラストレーターの口から洗いざらい語ってもらうことは、リスクが高いと思ったからだ。「トレパク」は法律の問題でありながらも、実際は多様な個々人の主観や倫理観から炎上に至ることが多く、新たな批判に繋がる恐れもある。

実際に「トレパク」問題に対して言及するプロのイラストレーターは少ない。

しかし、中村さんは快諾してくれた。そして、作品制作と平行しながらも若手クリエイターたちと交流を続け、「教育的」とも思える活動を行う理由も語ってくれた。「トレパク」問題にも深く関係しつつも、それに収まらない、多くのイラストレーターや志望者たちの支えになる、希望となる考えだった。

目次

  1. 二次創作にあった「見逃してもらっているだけ」という感覚
  2. 絵における自尊心 中村佑介が若手絵師へ啓蒙する理由
  3. 「トレパク」に過剰反応する人たち
  4. 「不倫」と「トレパク」は非常に似ている
  5. そもそも、絵なんて上手くなくていい 絵で本当に大切なこと

二次創作にあった「見逃してもらっているだけ」という感覚

──中村さんがTwitterスペースで「トレパク」問題を提起されていたとき、二次創作についてはあえて触れないというスタンスを取られていました。

中村佑介 そうですね。Twitterでは限られた文字数の中で問題が複雑化して収集がつかなくなるので触れませんでした。このインタビューではもちろん触れたいと思います。

これだけ普及して当たり前になっている二次創作作品も、著作権侵害に当たることもあれば、キャラクターの商標権に抵触する可能性もあります

例えば『ドラゴンボール』だったら『ドラゴンボール』のキャラクターを真似して描いて、複製をして、アレンジを加えている。法律上は、翻案権を侵害するという点では「模写」と同じような扱いなわけです。

けれども、個人が経営する近所のパン屋さんにはオフィシャルではない“アンパンマンパン”とか“ドラえもんパン”が売ってるわけです。完全に二次創作ですね。けれど、そこで藤子・F・不二雄プロとか、やなせたかしさんの事務所は動かない。そんなことをしても、子供の夢や作品の世界観を壊すリスクのほうが高いですから。

それに、二次創作がこれだけ発展したことによって、日本のコミック・アニメ文化が豊かになったのは疑いようのないことです。同人即売会で1000円とかで同人誌が売られていることも、“材料費”という名目で(建前上は)利益を出さないあくまで非営利と捉え見逃されています。

だから「とらのあなWEB」とか「DLsite」も成立している。出版社や版元としてもメリットがあるし、そういうファンダムが成立している両者間で、著作権問題として真面目に取り上げて正論を言う方が、器が小さく見えてしまうから。

それに、日本においてはパロディ・風刺・二次創作を個別に定義する法律はなく、ゆるくなっている部分も多い。

──“リスペクト”があればOKというのはファンダムでよく聞かれる意見です。『東方Project』や『初音ミク』等の二次創作が前景化したコンテンツの流行にはじまり、現在ではYouTubeでのゲーム配信文化も活況になっていく中で、二次創作のガイドラインを公式に策定する企業も増えてきました。

中村佑介 そうですね。二次創作の扱いは年々緩和されていっている。

でも、二次創作を禁止までせずとも、批判的な作家や作品がまだまだ多いのも事実。だからこそ最低限のマナーを守ろうという「暗黙の掟」を共有するコミュニティもある。

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