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  • 2021.12.26

きっかけは「祖母の介護」日本のVTuberが中国で築いたシンデレラストーリー

中国・bilibiliでスターダムを駆け上がったVTuber・緋赤エリオ。彼女の体験から見る中国と日本、同じ部分と違う部分とは──

きっかけは「祖母の介護」日本のVTuberが中国で築いたシンデレラストーリー

日本で始まり、いまや世界中で人気の高いバーチャルYouTuber(VTuber)。もちろん日本で人気の高いVTuberや海外からデビューするVTuberもいますが、日本発で海外で活躍するVTuberもいます

今回取り上げる緋赤エリオさんもその一人。個人で活動しながら中国の配信プラットフォーム「bilibili」で現在48万人以上のファンを抱え、彼女の配信を数万人が見ています。

幻想騎士団団長を名乗る緋赤エリオさんにちなんで、彼女のファンは「幻士」と呼ばれ、彼らは緋赤エリオさんを「団長」と呼びます。

緋赤エリオさんは2019年5月に個人VTuberグループ「ちゅこらら」の新メンバーとしてYouTubeデビュー。早くから日本だけでなくbilibiliでも活動し、2020年10月に突然注目されブレイク。

2020年12月に上海で開催された大型イベント「Bilibili Macro Link-Visual Release 2020」(BML-VR2020)に出演、2021年6月の誕生日に初のファンミーティング、10月に初のワンマンライブを開催と、中国でシンデレラストーリーを体現しました

今年12月にはソニー・ミュージックエンタテインメントによる「バーチャルシンデレラプロジェクト(Virtual Cinderella Project)」(通称・VCP)の先行デビューメンバーに抜擢。2022年には指原莉乃さん作詞楽曲の連続リリース、YouTube&bilibiliレギュラー番組の配信、定期ライブや中国大型ライブコンサートへの出演が待ち構えています。

「bilibili」のライブ配信には「虚拟主播」というVTuber用のカテゴリが設けられており、中国から配信しているVTuberに混じって、彼女やカグラナナさんのように日本から活動しているVTuberも多数います。

今回は日本で個人で活動しながら中国で高い人気を集める緋赤エリオさんの目から見た、日本人が中国でVTuberとして活動する楽しさや困難をうかがいいました。なお、本インタビューは10月のワンマンライブの以前に行われています。また、インタビューを補完するかたちで各章に記者からの解説を入れています。

目次

  1. 「全然日本語でもいけるんだ」VTuberデビューと言葉の壁の実際
  2. 【解説】国外でのVTuber活動を支える字幕組・fansub文化
  3. 配信を減らすはずが、バズって大舞台に
  4. 【解説】国境を越える親孝行の精神と歌声
  5. 「すごい積極的なんだなと思って」中国のVTuberリスナーとの交流
  6. 【解説】国により異なるファンたちのアプローチ
  7. 中国事情とbilibili日本支社のサポート
  8. 【解説】中国独自のビジネス上の障壁
  9. 「これ以上減らないでね」上を見るとキリがない中国VTuber人気
  10. 【解説】bilibiliのシステムと中国圏でのVTuber人気
  11. 「もうこれ仕事だなと思いながらやってますね」投げ銭と収入事情
  12. 【解説】国が違っても変わらない収益事情
  13. 「ファンの投票で私のワンマンライブが決まった」
  14. 【解説】先行きは不透明 しかし規模に比例したチャンスが広がる
  15. 中国でシンデレラストーリーを築いた緋赤エリオ

「全然日本語でもいけるんだ」VTuberデビューと言葉の壁の実際

──緋赤エリオさんはデビュー以前からbilibiliでも活動することが決まっていたとうかがっています。その頃の中国圏へのイメージはいかがでしたか?

緋赤エリオ やっぱり海外で言葉が通じないというのが一番大きくて、言葉の壁が怖かったですね。

特に悪い印象とか良い印象とかではなく、「何言っても伝わらないんじゃないか」とか。その言葉の壁が怖くて踏み出せなかったってのが一番大きいです。

──YouTubeで活動をはじめてからそのイメージはどう変わりましたか?

緋赤エリオさんがはじめて登場したちゅこらら令和カウントダウンコラボ配信

緋赤エリオ もともと私のキャラクターのママ、絵師さんが中国でとても人気なんですね(※)。

なのでそちらから娘が生まれたんだ、ということで中国の方も見に来てくださっていて、配信で中国の方も日本語のコメントで話してくれてたんですね。中国、全然日本語でいけるんだっていうのがそこからちょっとずつわかっていきました。

なおかつ自分のグループの子──グループって言ってるんですけど単純に仲の良い個人勢が集まってるだけですね。完全に全部自分たちでやってます──から中国で配信を始めたら喜んでもらえた、日本語で大丈夫だったという話を聞いて。じゃあ自分でも大丈夫なのかな?と。

※緋赤エリオさんの「ママ」、Paryiさん

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Paryiさん Via Twitter

──実際にbilibiliで配信してからは印象はどう変わりましたか?

緋赤エリオ コメントは中国語がやはり多いんですけど、「推しのために」ということで、お金をもらってるわけでもないのにリアルタイムで翻訳してくれてる字幕組っていうファンが集まってくれて。

私の喋っている言葉を全て中国語に翻訳して、リアルタイムで全部打ち込んでくれていたんです。日本語のわからない人も「団長はこういうこと言ってるんだ」みたいな、文字を読んで私のイントネーションでなんとなく盛り上がってくれる。すごいですよね。

「全然日本語でもいけるんだ」ってわかったその瞬間からもうめちゃくちゃ楽しかったですね。無理しなくていいとわかって、肩の力が抜けたというか。

bilibiliではじめて配信したときの様子

【解説】国外でのVTuber活動を支える字幕組・fansub文化

緋赤エリオさんの「ママ」(VTuber活動のためのビジュアルを描いたイラストレーターらをこう呼びます)であるParyiさんは、その以前から複数のVTuberを手がけており、彼女らはbilibiliでも大変人気がありました。

この背景から、いずれもParyiさんの「娘」である乙女おとさんらによる個人VTuberグループ「ちゅこらら」は2019年3月から活動開始。当初からbilibiliでも動画投稿や配信が活発で人気が高く、そのメンバーである緋赤エリオさんもデビュー前からbilibiliでの活動が予定されていたようです。

海外での活動にあたって、最初に考えることは緋赤エリオさんと同様に言葉の壁だと思います。ただ海外で成功している日本のVTuberは実際のところ、日本語のまま活動する例が非常に多いです。中国に限らず英語圏やラテンアメリカでもこの動きは同様に見られ、「全然日本語でもいけるんだ」とは緋赤エリオさんに限らずかなりの配信者が感じていることだと思います。

なぜ日本語でも活動が成立するのか。海外のVTuber視聴者の多くがもともとアニメや漫画など日本のサブカルチャーの愛好者である点が挙げられます。

ハリウッド映画を字幕で見たがるファンのように、彼らの中には吹き替えがあってもアニメを日本語で見る人々がいます。好きが高じて日本語が話せる方も珍しくありません。

それでも日本語のわからない人が大多数なので、有志がアニメ等を翻訳するfansub文化が世界中に存在します。VTuberの動画や配信を翻訳しているのもその延長です。

翻訳したVTuberの切り抜き動画を制作する人も多く、その点では国内の切り抜きチャンネルと重なる点もあります。彼らの存在は海外でのVTuber活動に欠かせないものです。

中国でのそうした活動は特に「字幕組」や「翻訳組」と呼ばれます。

上記に加え、中国は制度的に国外から活動するハードルが非常に高いため、後述の通り字幕組が日本のVTuberたちのbilibiliでの活動をサポートしてきた歴史があります。

海外のオタクにとって日本語はアニメ等と切り離せず、むしろ日本語を聞けることに価値を感じている様子さえあります。たとえば英語圏や東南アジアのVTuberでは、現地の視聴者ばかりの中でも日本語が話せる様子をアピールする例がよく見られます。彼ら自身、アニメやゲームなどで日本語を学んだと語ることが多いです。

VTuberが世界に広がった背景には、世界中に潜在するこうした日本のサブカルチャーの愛好者たちの存在があります。

ただもちろん、自分たちの言葉で話してくれることも、彼らには大きな価値があるようです。挨拶など基本的な言葉を覚えて使うのは喜ばれますし、「Duolingo」などを使った語学学習は海外の視聴者に人気の高い配信企画です。自分たちの文化を尊重している姿勢も伝わります。

中にはそうした学習配信で実際に話せるようになり、ブラジルの有名YouTuberとコラボしてブレイクした雲母ミミさんのようなVTuberもいます。

VTuberにとって言葉は壁にはならないものの、武器にはなるようです

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