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  • 2022.10.02

ネットで隆盛するTRPG 事務局が明かす、版元に迫られる二次創作への対応

ネットで隆盛するTRPG 事務局が明かす、版元に迫られる二次創作への対応

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1970年代に誕生したカルチャーでありながら、現代においてニコニコ動画やYouTubeといった動画文化と融和し、ブームを巻き起こしているTRPG

出版社の販売するルールブックをもとにファンがシナリオを自作するなど二次創作も活発化。二次創作以外に、人気シナリオ『狂気山脈』を原案に再構成した舞台やユーザー発のアニメ映画化プロジェクトも登場している。後者は2021年には、クラウドファンディングで1億円以上の支援を集めた(Via KAI-YOU.net)。

2021年10月には、業界を牽引するアークライト新紀元社KADOKAWAグループSNEファーイースト・アミューズメント・リサーチ(F.E.A.R.)、冒険支援(冒険企画局)の6社が連名で、TRPGライツ事務局の発足と二次創作に関するガイドラインの策定を発表。

ガイドラインには、20万円以上の売り上げが見込まれる二次創作コンテンツの場合、有料ライセンスを申請する必要がある旨などが定められており、二次創作文化が花開いていた最中だったためユーザーたちの間で大きな話題を呼んだ。

現代のネットカルチャーとしてTRPGを追い続けてきたKAI-YOUでは、TRPGライツ事務局へのインタビューが実現。

TRPGライツ事務局を代表して、TRPG専門書籍『Role&Roll』の編集長もつとめるアークライトの梶原佳介さんに、策定の経緯や意図、調整中のままガイドラインが発表された理由などについて語ってもらっている。

目次

  1. 電子書籍の二次創作物は「頒布」か「販売」か
  2. アメリカの『クトゥルフ神話TRPG』ファン文化から取り入れた「SPLL」
  3. 「安心して二次創作ができるように」各社が重視したガイドラインの軸
  4. なぜ、ガイドラインは一部調整中のまま発表されたのか
  5. 盛り上がるTRPGシーンとその過去・未来

電子書籍の二次創作物は「頒布」か「販売」か

──発表されたガイドラインは、グレーゾーンでありながら現在のTRPGブームの根幹でもある二次創作に切り込んだものだったため、発表当初はユーザーから賛否の声が上がり、議論に発展しました。どのような経緯でガイドラインの策定が始められたのでしょうか?

梶原佳介 ガイドラインが必要だという話は5、6年ぐらい前から出ていまして、実際の策定は2020年末になって始まりました。

2011年ごろから、主にニコニコ動画で10代などの若い層を中心に『クトゥルフ神話TRPG』をプレイした様子を動画に起こしたリプレイ動画が流行っていました。動画を見た層が自分たちでも遊んでくれるようになったことでTRPGのユーザー数も増加したのですが、それに伴って、二次創作活動にもそれまでとは大きく違う変化が現れたんです

梶原佳介さん

梶原佳介さん

梶原佳介 動画が流行る前の同人誌は、グループSNEの『ソード・ワールドRPG』やF.E.A.R.の『アリアンロッドRPG』を題材とした、ト書きのようなリプレイ本が中心でした

それが、ニコニコ動画でのブームを契機に、リプレイは本から動画で見るフェーズに変わって、同人誌ではシナリオ本が増えてきたんです。それに伴って、わたしたち出版社の出す公式のリプレイ本の売り上げにも影響が出てきました。

──(編集小林)売り上げが減ってきた、ということですよね。私も動画から入った世代ですが、確かに二次創作で購入するのは主にシナリオ本ですね。

梶原佳介 『クトゥルフ神話TRPG』のシナリオは『Role&Roll』などに掲載されているものもありますが、定期的に遊ぶにはそれだけだと絶対数が少ないのでしょうね。ユーザーさんのニーズに寄せていく形で、二次創作でもシナリオが主流になっていきました。

そういった流れに伴って、TRPGを扱う各社に「二次創作をやっていいか、ダメなのか」という問い合わせが増えていったんです

二次創作にまつわる権利関係は非常に難しい部分がありまして、版元としては、二次創作を一概に認めるわけにもいかないし、せっかく楽しまれているものを全部やめろというのも画一的すぎる

また、最近では同人誌の頒布を電子書籍で行う流れも起きていて、それも問題になってきていました。紙であれば100部か200部ぐらいを刷って即売会で頒布して終わりでしたが、電子書籍となると無期限、無制限に売り続けていくことになります

──無期限・無制限でとなると、確かに制作費をまかなうためのいわゆる同人な「頒布」か、商業的な「販売」かという解釈も分かれそうですね。

梶原佳介 そういった状況があって、我々も二次創作ガイドラインをつくってスタンスを提示するべきだという話になり、TRPGライツ事務局が発足することになりました。

──ニコニコ動画などのTRPGリプレイが人気になる以前は、二次創作の権利関係が問題になることはなかったのでしょうか?

梶原佳介 中にはいき過ぎてしまう人もいましたが、TRPGの業界も今ほど大きくなく、「こういうのはよくないよね」という暗黙の了解もあって、自然と解決するケースがほとんどでした。

──今は参入者もどんどん増えていますし、暗黙のルールは通じなさそうですね。

梶原佳介 加えて、ユーザーさん同士でも、二次創作物に対して「それはやっていいのか」という揉めごとが起きやすくなったように感じます。そうなると「やっていい」というお墨付きがほしくなるのでしょうが、問い合わせをいただいたところで私たちとしても公的にお墨付きは出せない、というジレンマがあったんですよね。

アメリカの『クトゥルフ神話TRPG』ファン文化から取り入れた「SPLL」

──具体的なガイドライン策定はどのように進んだのでしょうか。

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「安心して二次創作ができるように」を重視したガイドライン