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  • 2021.12.03

さいとうなおきインタビュー NFTが切り拓く、凡人も絵で生きれる未来

さいとうなおきインタビュー NFTが切り拓く、凡人も絵で生きれる未来

ゲーム『ポケットモンスター サン・ムーン』のキャラクターデザインや『ドラガリアロスト』のメインイラストレーターを務め、ポケモンカード公認イラストレーターとしても知られる、さいとうなおきさん。

イラストレーターとしての活動も精力的だが、2019年に開設したYouTubeチャンネルではプロの目線による実践的なハウツーや、激化するネットイラストシーンで生き残るための心構えなどを解説しており、チャンネル登録者数は約80万人を誇る。

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さいとうなおきさん

イラストレーターでありながら、イラストを描く以外の仕事をする──既存のイラストレーター像と一線を画すスタイルが話題となっていたさいとうさんだが、さらにシーン全体に影響を及ぼす新たな一歩を踏み出した。それが「NFTアートの販売」である。

NFTは以前よりネット上のクリエイターたちから注目を集めていたが、様々な要因により著名作家による進出が進まず、敬遠されがちであった。その背景もあって、さいとうさんの未知の領域への挑戦は注目を集めたが、結果として出品した1枚絵が約600万円で落札されるという衝撃的な成果を残し、シーンのみならず外の世界へもNFTアートの存在を知らせるきっかけとなった

今に続くイラストシーンはpixivやTwitterの登場以降、大きく様相が変化したと言われている。「NFTアート」の登場はそれに次ぐ、新たな変革となり得るのだろうか。

秘伝の技術で競い合う群雄割拠のシーンにおいて、誰もが秘めたいその手の内を晒す。そんな特殊な活動を展開するさいとうさんが見据えるイラストレーターの未来。そして彼が信じたNFTの革命性について、解き明かしていく。

目次

  1. NFTが拓く、イラストレーターのネクストフェイズ
  2. NFTは「正当性」に飢えていた
  3. さいとうなおきは、なぜ自らの手の内を晒すのか
  4. 視聴者の成長、YouTuberとしての自分の成長
  5. 農家の息子から、イラストレーターになった理由
  6. NFTによって、流行を追ってマスに訴えかける時代は終わろうとしている
  7. 安定を否定する──さいとうなおきを突き動かすモノ
  8. 凡人がイラストレーターとして生きる道

NFTが拓く、イラストレーターのネクストフェイズ

──2021年10月、NFTアートの販売に挑戦し、作品が約600万円で落札されたというのが大きなニュースになりました。挑戦に際してメッセージも発表されていましたが、改めてNFTアートの販売に挑戦したねらいをうかがえますか?

さいとうなおき 外から見るとイラストの世界は盛り上がっているように感じると思いますが、現状ですとイラストレーターとしてまともに食っていこうとすると、企業案件を中心にした受託制作をやっていかないと成立しないという状況があります。

ですが、企業案件の中でも世間的に見て「良い案件」というのは数が少ない。その少ない椅子の取り合いを大勢のイラストレーターたちがしているので、みんながみんなイラストの仕事で成功できるような状況にはなっていません。

そんな状況がある中、NFTの場合は、顧客が対個人でも世界規模で視野が広げられる。たとえ有名じゃなくても、作品制作で食べていける状況をつくれる仕組みだなと感じたんです

ただそうした先進性が2021年春頃に喧伝された一方で、まだまだよくわからない、怪しい世界でもあった。だからこそ、僕が挑戦して成功している姿を見せれば市場の価値に気付いてくれる人もいるだろうし、そうやってイラストレーター全員に対して貢献できればと思ったのが大きな理由です。

──NFTアートの販売はいつ頃から計画されていたのでしょう?

さいとうなおき 3月にはOpenSea(※)に登録していたんですけど、僕自身も怪しいと感じていたので、二の足を踏んでいたんです。これに挑戦することで大事なものを失ってしまうかもしれないという疑念も晴れませんでした。でもようやく、全部失っていいから、やってみようって覚悟が決まったんです。満を持して挑戦してみたという流れです。

※NFTの販売プラットフォームの最大手。詳細は「NFTの出品手順」を参照。

──実際、春頃には村上隆さんのような現代美術家やイラストレーターまでNFTアート出品の発表から一転して取り止めるという事態も相次いでいましたね。

さいとうなおき 一般的に理解が広まっていない分野というだけで拒否反応を示す人も少なからずいますし、本当は怪しいものでなかったとしても、そんな疑念がある分野に関わっているということ自体がイメージ低下につながると判断する人や企業がいてもおかしくありません。

だから僕の場合だと、こうやってNFTに関わることで企業案件が全部なくなるかもしれないという覚悟を決める必要があったんです。

でもありがたいことに想定していたよりも良い反響が大きく、展開を続けることができました。結果的に企業の側から距離を取られるという事もなかったですね。

──pixiv FANBOXやFantiaなど、個人でのデータ販売やグッズ販売、クリエイター支援サービスなども増えてきてクリエイターが独立して活動する為の仕組みがここ数年整備されてきました。NFTもその選択肢の一つとなり得ると思います。

さいとうなおき その流れは、めちゃくちゃ支持していますよ。現在は徐々に移行しつつある段階で、より個人が独立して活動するための、次のフェイズがNFTなのかなと思っています。

個人が大多数の顧客に対してマネタイズできる仕組みが確立すれば、大きな企業案件に頼らなくても生きていけるようになりますし、商業的ではない/一般ウケが難しいニッチな絵柄の人でもイラストで食べていけるようになる。

継続的に企業案件をとりにいこうとすると、自分のイラストの中から「普通ではない要素」、一般大衆に受け入れられなさそうな要素を除いていかなくてはいけないんです。そうすると、最終的にみんなが同じような絵柄に辿り着くという状況になりかねません。

そういう努力をして、やっと使ってくださいと企業に対してアピールができるようになるけれど、結局は買い手市場なので安く買い叩かれてしまうこともある。僕も企業案件をたくさんいただいていますが、そういう市場としての不健全な側面に一方では疑問を感じることもありました。

個人によるグッズ販売やNFTで企業案件を受けなくても活動が成立する状況がもっと一般化していけば、企業案件の待遇もきっと良くなっていく。それがお互いにとっても健全な状態だと思うので推し進めていきたいです。

NFTは「正当性」に飢えていた

──約600万円で落札された作品は、さいとうさんのアイコンにもなっているKちゃんが指で「N」をつくっているイラストですが、なぜこのような作品にしようと思われたのでしょう。

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K-chan "N"

さいとうなおき NFTアートで最初に何を描こうかと考えた時に、ただ描くのではなくて売れ筋を無視してでもNFT界隈に貢献できるような作品にしたいと思ったんです。なので「NFT」のハンドサインをしたイラストを描いて、僕が覚悟を持ってNFTに参画しているという意志を示したかった

イラストレーターとしてNFTアートに挑戦するとなった時に、マーケティング的な考え方をすると省コストな絵を1000~2000枚くらい大量生産でリリースする「コレクタブル」というやり方が良さそうにも見えます。でもそれが主流であるからこそ、僕は一点ものに価値を見出す方法で挑戦したいと考えました。

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NFTアートのシリーズで最も有名な連作の一つ「CryptoPunks」(画像はOpenSeaより)

──イケダハヤトさんが「NFTアートは正方形が売れ筋」と言ってからというもの、本当にNFTアートの多くが正方形になってビックリしました。

さいとうなおき もちろん僕の手法は大失敗する可能性もありましたが、そうやってNFTシーンに作品を持ち込むことの意味をストレートに示す、ど真ん中正拳突きみたいなメッセージ性の強さがないと意味がないと思ったんです。

──マーケティング的な視点でも分析した上で、あえて違う表現の選択を示した。

さいとうなおき 今回の場合はマーケティング的な視点で絵柄や形式の流行を分析した上で、NFT市場がなにを本当に求めているかを考えました。それで浮かび上がってきたポイントが「有名イラストレーターの参画」と「正当性」です。

──どういうことでしょうか。

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