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どれみの物語じゃない 『魔女見習いをさがして』両監督の“大人の魔法“への解答

リアリティを追求した登場人物の“悩み”

大学4年生の長瀬ソラ(CV.森川葵さん)。自身の進路に思い悩んでいる

──『魔女見習いをさがして』を一足先に拝見させていただいたのですが、アニメよりドキュメンタリーを見ている感覚になりました。それくらい生々しさを感じる悩みが多く描かれているなと。

佐藤 TVアニメの頃からそうですが、関さんを筆頭に常々マーケティングのようなことをしています。『魔女見習いをさがして』では、「おジャ魔女どれみ」を見ていた世代の人たちが、どういう学生時代を過ごし、どんな社会人になっているか。

本作に登場する大学4年生の(長瀬)ソラは教師になる夢を持っていますが、教師を目指す場合、どんな勉強をし、どんな課題や悩みを抱え、どんな壁にぶつかっているかとリサーチをしています。リサーチをもとに山田さんが時代や問題を掘り下げつつ、「こういうところに幸せを感じているよね」とドラマに落とし込んでいく。
『魔女見習いをさがして』キャラクター映像~ソラ~
佐藤 ただ、それだけだと重く暗い作品になってしまい、見ている人がつらいので、我々演出サイドが“笑い”の演出に変えていきます。本作はTVシリーズと比較するとギャグ描写やテンションの高い芝居をそこまで入れたわけではないですが、「おジャ魔女どれみ」らしさは踏襲できたと思います。

──たしかにTVアニメの放送当時から「おジャ魔女どれみ」には「道徳」の授業でも流せそうな小学生のリアリティを感じていました。

佐藤 TVアニメ放送当時から、自分たちがつくりたいものをつくるのは違うと思っていました。視聴者となる3~5歳くらいの子たちが何を考え、何を見たいのかにとにかく集中してつくる。関さんも山田さんも小学生の現状をしっかり取り入れて物語をつくっていた。

例えば、同級生には何人か母子家庭・父子家庭の子がいるんだよ、とか。そういう当時の現状を避けずに入れていました。『魔女見習いをさがして』も同じようなアプローチでつくっていますよ。

吉月ミレと川谷レイカも、それぞれ職場や人間関係で悩みを抱えている

──鎌谷監督が主人公たちの悩みを描く際に意識した点は?

鎌谷 見てくださる方に「あるあるだ…!」と思ってもらえるような描写にすることは、ちょっと気を使いましたね。例えば、社会人の(吉月)ミレが会社を辞めるか・辞めないかで悩んでいるシーン。

「辞めたい気持ちはあるけど、辞める踏ん切りをどこでつけたらいいんだろう」みたいな曖昧な時期ってあるあるだと思います。だけど、一般的な作品ではそういった描写はあまりされないですよね。本作を見て「曖昧な時期もあっていいんだよ」と思ってもらえるといいなとか。
『魔女見習いをさがして』キャラクター映像~ミレ~
鎌谷 あと、(川谷)レイカちゃんはもともと専門学校生の設定だったんですよ。

佐藤 そうだったね。

鎌谷 でも、レイカちゃんは母子家庭なのにお母さんが亡くなってしまい、お金を要求してくる彼氏もいて、絵画修復士になりたいという将来の夢もぼんやりした状態です。そんな状態で専門学校に入るのは難しいんじゃないかと話しましたね。

それは私自身が、美術系の大学に通っていた経験から言えることでした。たしかに、自分が何をやりたいかわからない子がごくまれに通っているのですが、それは裕福な子ができることで。お金がないけど頑張って通っている子は明確に夢がある。

なので、レイカちゃんのようなタイプの子が専門学校に行くことはあまりないかなと。絵画修復系の専門学校自体少ないですし、レイカちゃんの住む広島県尾道市には、そういう学校もありません。リアリティから逸れてしまうと思い、最終的にフリーターにした気がします。
『魔女見習いをさがして』キャラクター映像~レイカ~
──劇中にはSNSの炎上に関するネタもありますよね。とても現代的でタイムリーな描写ですが、当初から盛り込む予定だったのでしょうか?

佐藤 最初から入れていました。ただ、当初は「何度も炎上している人」の設定だったんですよ。それはさすがに危ない人だろうと判断して、「1回だけ炎上したことのある人」にしました(笑)。

鎌谷 有名人であれば何度も炎上することはあるかもしれませんが、登場するキャラクターはみんな一般人ですし、ちょっと失敗しちゃったくらいにとどめておこうと。

佐藤 「まあそういうこともある時代だよね」という描き方にしています。

「魔法がある」と思えば、少しだけ幸せな気持ちになれる

──リアリティを感じさせる描写が多い一方で、「おジャ魔女どれみ」の象徴の1つである“魔法”をどのような存在として描こうと考えたのでしょうか?

佐藤 本作における“魔法”の扱いは、最初から議論になっていたところです。そもそも「魔法はないけど、明日から私は頑張れるよね」という映画のつもりでつくっていました。

本作を見るであろう20~30代の人に「魔法はあるよ」は通用しないじゃないですか。TVアニメのときのように小学生や未就学児の子に「魔法はあるし、魔法は楽しいもの」と伝えるのとは違うので。

でも、制作していく中で「魔法を信じていた子どもの頃、自分の心の中にはたしかに魔法があったじゃないか」と。魔法は実際にはないけど、あると思えばある。そう思えばちょっとだけ幸せな気持ちになれる。一晩寝たら「あれは夢だったの?現実だったの?」くらいの出来事であればいいんじゃないかと思いました

鎌谷 シナリオ打ち合わせのときに一番話し合った覚えがあります。魔法に対しては喧々諤々で「魔法はあるの? ないの? どっちなんだ!?」みたいな感じでした(笑)。

ただ、本作に登場する主人公の3人には現実的な悩みがあります。悩みが「魔法に頼った結果、全部が丸く綺麗に解決しました」なんてあり得ない。現実は良いことも悪いことも着々と進んでいく。

けれども、そんな現実の中で「少しだけ魔法のような出来事があるかもね」と希望を持ってもらう。そこは佐藤さんが綺麗にまとめてくれました。 ──現実を描くからこそ、100%ポジティブに、前向きに、という方向性にはしなかったんですね。

佐藤 「おジャ魔女どれみ」らしさを入れながら、ギリギリのラインで現実的に描きましたね。TVアニメを制作していた当時も「魔法があったら絶対に大丈夫!」と描かないように気をつけていました。「魔法があってもそんなに上手くいかないよね」と。

そうでないと、共感できない。僕たちは見てくれた人の背中を押したいと物語をつくっているのに、共感してもらえなければ「背中を押されたくないわ!」となってしまう。せっかく見てくれたんだから、見ている間は楽しい気持ちになれて、見終わったら「なんか元気出たな」と思ってもらえるよう、慎重につくり進めていました。

鎌谷 自分もちょっとだけ背中を押されるくらいでいいのかなと思っています。自分と同じ悩みを持っている人や同じ境遇の子がいるだけで勇気をもらえることもありますしね。

本作に関わらせていただくことが決まって、TVシリーズを見始めて感じたのが、重いテーマを扱っているけど「おジャ魔女どれみ」を当時見ていた子どもたちは、きっと勇気をもらったんじゃないかなということです。

なので、『魔女見習いをさがして』でもミレ、ソラ、レイカの3人に少しだけ共感してもらって、「みんな上手くいかないこともあるよね」と勇気をもらってほしい。「3人も頑張ってたし、私もちょっとだけ頑張るか」という気持ちで見てもらえたら嬉しいですね。共感してもらえるようなキャラクターを意識してつくったので。

「魔法を信じていた自分を認めてほしい」

──『魔女見習いをさがして』で一番伝えたかったことは何でしょうか?

佐藤 子どもの頃の自分が魔法を信じていたこと、ちょっとしたことで喜んだり悲しんだりしていたこと、それは過ぎ去った出来事だけれど、ちゃんと認めてあげてほしい。「魔法があったと思っていたバカな自分はもういない」ではなく「魔法があったと思っていた自分はちょっと素敵かも」と思って映画を見てほしいですね。

見ていた世界が変わるとか、人生が変わるとか、アニメの力でそこまでのことはできません。ほんのちょっと物事の見方や気持ちが変わるくらいが精一杯だと思いますから。

──ありがとうございます。それでは最後に、『魔女見習いをさがして』の公開を控えた監督お二人の心境を教えていただければと思います。

佐藤 ドキドキ…ですけど、鎌谷さんのほうがドキドキですよね(笑)。

鎌谷 そうですね(笑)。初監督ですし、コロナ禍の影響もあってかなり長い期間『魔女見習いをさがして』に向き合ってしまい、全く客観的に見ることができなくて。最近、取材などでようやく作品の感想をいただく機会があり、今まで自分としか向き合っていなかった作品が、ようやく人に伝わったと感じています。

つくって良かったと実感がジワジワ湧いてきている。まだ公開していないのですが(※編注:取材は10月に実施)。 佐藤 「どうつくれば、どう届くのか」を考えて制作していましたけど、やっぱりどうなるかわからないという思いもありました。でも、今回は画的な部分を鎌谷さんに仕切ってもらって、だんだんと完成すればするほど「これはちゃんと届くな」と予感があります。

画だけではなく、音楽も声もイメージ以上のものが出来上がりました。完成した映像を見たら、思っていた以上の作品になったと感じています。見てくださるみなさんの反応が楽しみですね。

©東映・東映アニメーション

おジャ魔女が好きな人へ

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作品情報

おジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』

公開日 11月13日(金)全国ロードショー
原作 東堂いづみ
監督 佐藤順一・鎌谷 悠
脚本 栗山 緑
キャラクターデザイン・総作画監督 馬越嘉彦
プロデューサー 関 弘美
アニメーション制作 東映アニメーション
出演 森川 葵、松井玲奈、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)、
千葉千恵巳、秋谷智子、松岡由貴、宍戸留美、宮原永海、
石田 彰、浜野謙太、三浦翔平

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

めちゃくちゃ絶妙なバランス感は鎌谷監督のおかげだったんだ

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