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米津玄師の音楽に見る仏教観 諸行無常と刹那、鳴らす不協和音

米津玄師の音楽に見る仏教観 諸行無常と刹那、鳴らす不協和音

POPなポイントを3行で

  • 米津玄師の歌詞や音楽性
  • 仏教と通ずる思想
  • 諸行無常と刹那
米津玄師の曲について考えてみるとき、私たちは人間になる。

独りぼっちの人間となって、彼の曲を聴く。この世が途方もなく広いことや、自分の理解しえない価値観が外側に向かってどこまでも続いていることを知る。

文:安藤エヌ

米津玄師『感電』に見る刹那と仏教

『感電』と名付けられたその曲を聴いて、確信を得たことがある。彼、米津玄師が仏の教えに通じる哲学を根幹にして人生という長い道を歩き続けており、それ自体を音楽として体現しているのではないか、ということだ。
米津玄師 MV「感電」
日本人には親しみ深い仏教の教えを、彼は音楽を通して、説教という形ではなく──あくまで「好きなように聴く」ものとして提示してみせている。

「稲妻の様に生きていたいだけ」「それは心臓を刹那に揺らすもの」 米津玄師『感電』より

刹那”とは、きわめて短い瞬間やその事象を指す言葉である。その言葉はもともと仏教から伝わった言葉で、この「一瞬の事象や現象に対していう言葉そのもの」が、米津玄師というアーティストの創り出す楽曲に通じるエッセンスのように思える。

「感電」のMVでロケ地に選ばれたのは、老舗の遊園地・としまえんのメリーゴーランド前。2020年8月31日をもって閉園する、終わりまでの期限つきの場所だ。

人間の刹那的な享楽を具現化したともいえる遊園地、まるで“輪廻”を思わせる回転するメリーゴーランド。まもなく終焉を迎える、その場所。

そこで愉しそうに踊り歌う姿からは、私たちは刹那の中で生きているのだと、痛いほどに感じることができる。

米津玄師の仏教観

他の楽曲を聞いてみても、エッセンスとしてちりばめられた仏教の考え方を節々に垣間見ることができる。

「みてろよ今度は修羅に堕ちて」米津玄師『ゴーゴー幽霊船』より

米津玄師 MV『ゴーゴー幽霊船』
修羅”とは、仏教において、悟りを開けない人間が輪廻転生を繰り返す六つの世界“六道”のひとつである。

果報を持ちながら悪業も負うものが堕ちるとされる世界を差す言葉を用いたこの楽曲は、「ハチ」というボーカロイドPとして活動してきた彼が本名名義で発表した楽曲だ。

また米津玄師にとって、「死」について考えることが自身の創作性に限らず自分の人生に大きな影響を及ぼしていることがうかがえる。 人は、人であるがゆえに自らの終焉を意味する死という概念について考え、その実体を見つめようとする。

死から見つめる自分の生というものが、人生の歩み方を変えていく。

仏教では、全ては移ろいゆくもので、生があるから死があり、逆説的に死があるから生があると説く

2008年に大ヒットした楽曲『Lemon』では、死についてこう表現されている。

暗闇であなたの背をなぞった
その輪郭を鮮明に覚えている
受け止めきれないものと出会うたび
溢れてやまないのは涙だけ米津玄師『Lemon』より

米津玄師 MV「Lemon」
暗闇の中に浮かび上がる「背中」は物体であり、「輪郭」はその形だ。ここで暗闇に浮かび上がる輪郭、というものが「死と生における明確さ」をもって私達の前に浮かび上がってくる。

この背中とは死者のものであり、輪郭を鮮明に覚えているのは生者である。

何者においても不変でい続けられる存在などない、目に見えるもの、形作られたものは刻一刻と変化しているという仏教の“諸行無常”という考えが、穏やかな言葉の中に透けて見えてくる。

この“諸行無常”という仏教のおける重要な考えは、他の楽曲でも感じとることができる。たとえば新アルバム『STRAY SFEEP』のイントロダクションである『カムパネルラ』では、このような歌詞がある。

「この街は変わり続ける 計らずも君を残して」米津玄師『カムパネルラ』より

米津玄師 MV「カムパネルラ」
また、ボーカロイド期の集大成を表した曲として発表した『砂の惑星』では、かつて大きなムーブメントを起こした「ニコニコ動画」や「ボーカロイド」といった自分を取り巻いてきたひとつの文化の変遷を彼の視点で表現し、音楽における諸行無常を歌ってみせた。
ハチ MV「砂の惑星 feat.初音ミク」HACHI / DUNE ft.Miku Hatsune
万物は常に変わりゆくものであり、変化と消滅が絶えないことを指す諸行無常。米津玄師ないしハチは、その諸行無常を音楽の世界に見出し、歌にしてみせた。

2019年3月11日に行ったツアー「脊椎がオパールになる頃」の最終公演で「人は変化する。核にあるものとの向き合い方が変わる」と語り、この8月に行われたゲーム『FORTNITE』内でのバーチャルライブでは「変わっていく時代の中でより新しく、それでいて美しい一瞬をみんなと過ごしていたい」と語った彼。

その音楽観や哲学も絶えず変化するものだと──そこで説かれているのもやはり“諸行無常”と“刹那”だ。

俳優の菅田将暉とコラボレーションした楽曲『灰色と青』では、人間関係の移り変わりをエモーショナルな歌声で虚飾なく語り明かしている。
米津玄師 MV「 灰色と青( +菅田将暉 )」
そしてさらに、その仏教的世界観を下敷きに、米津玄師の楽曲を語る上で欠かせないいくつかの要素がある。

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