ノスタルジーを感じさせる色づかいや、手づくり感溢れるタッチで描き出されたアニメーションやイラスト。それらに魅了されるファンは多い。
Twitterではハッシュタグ「#indie_anime」を使って、自主制作アニメを拡散する「自主制作アニメーション部」を旗揚げ。
自身のYouTubeでは初心者向けのイラスト講座も行うなど、自主制作アニメをつくるクリエイターのコミュニティを活性化すべく、積極的に活動している。
「アニメーション制作で一番頭を使うのはリソース配分」と語る弱冠19歳のアニメーション作家。彼がなぜ自主制作アニメのコミュニティ活性化に尽力するのか、個人作家としての将来のビジョンと共に話を聞いた。
アニメーター・こむぎこ2000の原点
こむぎこ2000 2016年に公開された新海誠監督の映画『君の名は。』を観たことがきっかけです。公開日に観に行って、その日から絵を描き始めました。
もともとアニメーションをつくることが目的でイラストを描き始めたのですが、実際にアニメーション制作を始めたのは案外遅くて、初めて自主制作アニメを完成させたのは2018年9月です。
こむぎこ2000 実は美大や専門学校などでアニメーションやイラストに関わる知識を学んだことはほとんどありません。基本的に「アニメ私塾」というYouTubeチャンネルで絵の学習をしていました。
制作はイラストを描き始めたころから変わらず今もiPad一台で、ソフトは「クリップスタジオペイント」を使っています。
iPadでの制作は「個人制作感」「手づくり感」が出るのでいいなと思っていますね。一方で、AdobeのAfter Effectsでは「商業感」「ちゃんとしてる感」が出せるので、作品によってはPCや別の機材も使ってみたいと思っています。
──『君の名は。』をきっかけにイラストを描き始めたとのことでしたが、ほかに影響を受けたジャンルや作品、クリエイターはいますか?
こむぎこ2000 『鉄コン筋クリート』や『フリクリ』、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』、スタジオジブリ作品など、ほかにもいろいろあります。
こうした作品からはレイアウトや色彩などさまざまな影響を受けています。僕の作品は「エモい」という言葉でよく言い表されるのですが、そういった「空気感」には特に影響を与えているのかもしれません。
コミュニティの活性化に尽力する理由
こむぎこ2000 僕はネットでアニメーション制作の依頼を受けて生計を立てているのですが、僕みたいな個人のアニメーション作家にもきちんとした市場ができたらいいなと思って始めました。
アニメーターの画集の購入者層にはアニメーターが多いと思うのですが、創作者は消費者的役割も兼ねると考えています。だからハッシュタグと共に個人制作のアニメーションが広まって、自分でもアニメーションをつくりたいと思ってくれる人が増えてほしいと思っています。
こむぎこ2000 こういうハッシュタグは発信してくれる人ありきなので、タグを使って作品を拡散してくれる作家さんやTwitterユーザーの方々には感謝しています。
──こむぎこ2000さんが思う自主制作アニメの魅力は何でしょうか?
こむぎこ2000 当たり前と思われるかもしれませんが、僕が思う一番の魅力は自分の好きな作品をつくれることです。
集団作業で自分の好きなものをつくろうと思うと、まず自分がリーダー的立ち位置を確保しないといけないと思うので、今の気持ちとしては「かなりハードルが高い」っていうのが正直なところです。
「こむぎこ2000」の名前を一躍広めた「ジャイアントキリング」
こむぎこ2000 まず、制作を依頼された曲を聴いて脳内で構想を思い浮かべます。それを絵コンテやキャラデザに起こしていって、先方に渡してOKが出たら作画作業に入るという感じですね。
以前からボカロ曲は聴いていたんですが、shaboさんというボカロPさんから依頼が来たことで、ボカロ楽曲にアニメーションをつけるようになりました。
ボカロは初音ミクのあのパッケージからわかるように、他の音楽ジャンルと違い、比較的絵の文化が強いので、絵描きさんにもファンがつきやすくていいなと思っています。
こむぎこ2000 ルワンさんからDMをいただいて依頼を受けることになりました。ルワンさんいわく、「ジャイアントキリング」は『フリクリ』を観たことがきっかけでつくった楽曲らしく、僕も『フリクリ』が好きでやりたいことの方向性も合っていたのですごく楽しく制作できました。
こむぎこ2000 スタジオごはんの作画作業も普段から愛用している「クリップスタジオペイント」を使うのですが、自分が知らなかった機能をはるまきさんが使っていたりしていつも勉強になっています。
個人作家にとって必要なこと
こむぎこ2000 アニメーション制作で一番頭を使うのはリソース配分です。納期が決まっているため必然的に作業時間が限られてきます。
その与えられた作業時間の中で作品のクオリティを最大化するために、どこに力を入れてどこを抜くのかというリソース配分は、個人作家なら特に重要ではないでしょうか。
アニメーションMVをつくるときは、音楽的に盛り上がってくるサビなどに多くのリソースを割いています。削ってもクオリティに影響しないパートでは、戦略的にリソースを抑えるようにしていて、時間や余力が残っていればより手を入れるという感じです。
──今後、アニメーション作家としての目標や目指していることはありますか?
こむぎこ2000 自主制作アニメをつくって、その関連商品を売ってマネタイズするのが今のなんとなくの目標です。
僕は人間の大半が共通言語として持っているようで、でも言語化が難しい「空気感」みたいなものを描きたいと思っています。
他人から頼まれる仕事より自分でつくったものが売れるほうが、当然好きなものを制作できることが多いので、それがお金になる環境を整えるのが理想ですね。