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  • 2019.06.20

Vol.3 ネット/テキスト文化が要請した「異世界転生」

なぜ「小説家になろう」はここで大きくなり、日本のエンターテイメント産業を下支えするような存在となったのか。

作品としても一大ジャンルと化した「なろう系」と呼ばれる小説群はどのような背景から生まれたのか。

Vol.3 ネット/テキスト文化が要請した「異世界転生」

クリエイター

この記事の制作者たち

帯や宣伝文句で「なろう系」と謳われた小説を見たことはないだろうか。

これは「小説家になろう」のサイトに掲載された作品である、という意味ではなく、主人公が何らかの理由で異世界に転移するファンタジー小説、いわゆる異世界転生/転移もののジャンルの通称である。

文芸やアニメ作品でもはや一大ジャンルなった異世界転生/転移ものが、自社のサイトの名を冠した名でと呼ばれることについてどう思うのか、異世界転生/転移もののブームは如何にして生まれたのかについて尋ねてみた。

そして、文芸の世界でWeb小説の存在感が高まる一方で、小説の社会的影響力の低下が嘆かれる昨今の風潮をどう感じるのかと、広く小説という文化の未来についての意見を語ってもらった。

目次

  1. 「なろう系小説」のルーツはオリジナルなき二次創作?
  2. 小説が衰退しているという感覚はない、新たな文化の予感
  3. 取材を終えて──インターネット黎明期の原動力の正体

「なろう系小説」のルーツはオリジナルなき二次創作?

──昨今、書店のライトノベルやエンターテインメント系の小説の棚に多く並んでいる、異世界転生もの転移ものの小説を「なろう系」と呼ぶことに対して、どう感じられていますか?

平井 誰かが命名したものではく、自然発生的につけられた呼称らしいので、こちらとしては少し不思議な気持ちがしますね。「そういう呼び方になるんだ」という感じです(笑)。

弊社のサイトに投稿しても「そういう作品(異世界転生/転移もの)しか読まれないんだろうな」という意見も聞きますし、実はデメリットがないわけではないですけれど。

──ユーザーや世間に向けて、そうした考えを説明することはない?

平井 弊社の基本的な考えとして、ユーザーに何か積極的に働きかけることはしないというのがあります。それに「なろう系」と呼ばれるファンタジー小説の人気が出たのも読者の自然な需要でしょうから、需要に対して何か私たちから意見を表明するのもどうだろうと。

運営側として一番大事なことは、読みたい人のところに読みたい作品が届くことだと考えているので、自分たちの采配が効くシステム面で読者の需要と作品のマッチングの精度を上げていくことに注力したいです。

──異世界転生/転移ものの投稿作が増え始めたのはいつくらいからなのでしょうか。

平井 ジャンル自体はいまにはじまったものではなくて、以前より一定数のファンがいたのですが、今日のような盛り上がりは、おそらく2012年に『無職転生 - 異世界行ったら本気だす -』が始まったくらいからではないでしょうか。

無職転生

『無職転生 - 異世界行ったら本気だす -』画像はAmazonより

山崎 それ以前にもヤマグチノボル先生の『ゼロの使い魔』もありましたし、昔から異世界転生/転移ものの根強い人気はあったんだと思います。実際に「小説家になろう」がまだ二次小説を受け付けていた時も『ゼロの使い魔』をベースにして、転生する主人公だけをオリジナルキャラクターにした作品が流行っていました。

ゼロの使い魔F 告知映像

山崎 その後、「小説家になろう」で二次創作が禁止されたので、舞台や設定もオリジナルにした作品が書かれはじめたのが「小説家になろう」で異世界転生/転移ものがこれだけ流行りはじめたきっかけではないかと思います。

──『ゼロの使い魔』からキャラクターや舞台といった作品固有の要素がなくなり、結果として異世界転生という構造だけが残った。「オリジナルなき二次創作」という感じですかね。

平井 異世界転生や異世界で何かをやる物語は、書き手にとって書きやすいのだと思います。異世界で主人公が何をするか、どんな特技を使うか──ひとつネタがあれば一作は書ける。

各人がその設定を変えていけば、多くの作品が生まれて、ひとつのジャンルになる。最近、良い作品を作るには母数を増やす、たくさんの作品を作れる環境が一番大事なんだろうなと思い始めているんです。

供給が増えることによって良い作品も出やすくなって、読者もそのジャンルに注目するようになる。先ほどの「小説家になろう」に人気作品が集まる理由にも通じるんですけれど。

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