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POPなポイントを3行で

  • YouTube Premiumで『Cobra Kai』第二シーズンが絶賛配信中
  • 『Cobra Kai』は負の連鎖を断ち切ろうとする男の物語
  • 出来の悪い生徒などいない。出来の悪いセンセイがいるだけなのだ

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Cobra Kai Ep 1 - ワルの中のワル - 「ベスト・キッド」のサーガは続く

現在YouTube Premiumオリジナルで第2シーズンが配信中のドラマ・シリーズ『Cobra Kai (コブラ会)』。

本シリーズは、すでに第1話の視聴数が約6800万回を記録し(記事執筆時点)、オリジナルの『ベスト・キッド』(原題:The Moment of Truth / The Karate Kid)を凌ぐほどの社会現象を巻き起こしています。第2シーズンの配信開始から、わずか1週間でシーズン3の制作決定が発表されており、Cobra Kai熱は世界中で高まり続けています。

原作の『ベスト・キッド』はアメリカ中で一大空手ブームを引き起こし、80年代を代表するポップカルチャー・アイコンとして君臨し続けてきました。

しかし、本作は過去の栄光や懐古に浸ることなく、『ベスト・キッド』という物語の根幹となる「いじめられっ子の復讐譚」、つまり「勧善懲悪」という部分に新たな光を当てています。『ベスト・キッド』の34年後が舞台となる『Cobra Kai』では、いじめられっこの主人公・ダニエルが自動車ディーラーを経営する成功者として描かれる一方、悪役のジョニーは酒に溺れる冴えない中年男として描かれています。
『Kobra Kai』

34年後のジョニー/『Cobra Kai』Ep 1より

ジョニーは映画史に残る大悪役として観客の記憶に残っており、感情移入をする余地はあまり残されていません。それにも関わらず、本作の脚本家たちは悪役・ジョニーの視点から物語を紡ぐという大胆な転換を決断しました。

しかし、この無謀にも見える決断こそが、原作を知らない10代・20代の若者たちをも巻き込んだ『Cobra Kai』ブームの鍵となっているのです。

ジョニーは本当に悪役だったのか?

まずは原作『ベスト・キッド』の内容からおさらいしていきましょう。本作はいわゆるスポ根映画であり、そのストーリーは非常に明快な勧善懲悪ものです。前半部の大まかなあらすじを見ていきましょう。

母親の仕事の都合でロサンゼルスに引っ越してきたダニエルは、ひょんなことからCobra Kaiという空手道場の悪ガキたちの、いじめの標的となってしまう。

少年空手選手権チャンピオンのジョニー率いるCobra Kaiに為す術もないダニエルだったが、ある日、不思議な老人ミヤギが凄腕の空手で彼らを蹴散らしてしまう。ミヤギに空手の教えを請うダニエルだったが、練習とは名ばかりの雑用を押し付けられてしまい…

『Kobra Kai』

『Cobra Kai』Ep 1より

もちろんこの後は、ダニエルが空手選手権でジョニーを破るという王道の展開が待っています。しかも彼女までゲットするというおまけ付き。しかし、この物語をジョニーの視点から見てみるとどうでしょうか

俺はジョニー、少年空手選手権のチャンピオンだ。Cobra Kai道場で空手を始めてから、俺の人生は右肩上がり。もう悪いことはやめたし、残りの高校生活は空手に専念するつもりだ。だけど、ある日ダニエルとかいう奴が俺の元カノにちょっかいを掛けているところを目撃しちまった。俺は彼女と話がしたかっただけなのに、身の程知らずのあいつは俺に突っかかってきやがった。もちろん軽く捻ってやったけどな。

それでも奴は懲りないらしく、ミヤギとかいう変なジジイを連れてCobra Kaiの道場に乗り込んできやがった。しかも、あろうことか、その二ヶ月後の空手選手権の決勝戦で俺はあいつに負けちまった。悔しいけど、俺は素直に負けを認めたよ。でもセンセイは納得が行かないらしく、俺を締め上げてきたんだ… 

『Kobra Kai』

『ベスト・キッド』にてダニエルと闘うジョニー/『Cobra Kai』Ep 1より

これは筆者の想像で補ったあらすじではなく、原作の映画内で描かれているジョニーの台詞や行動を元にまとめたものです。ダニエルとジョニーが初めて対峙するときに、先に手を出したのもまた主人公のダニエルなのです。

現在配信されている「Cobra Kai」シリーズでは、上述のジョニーの物語に加えて、彼の子供時代の悲惨な家庭状況や、そこから彼が空手に傾倒していった経緯が克明に描かれています。

脚本術「カニと修造理論」とは

『Kobra Kai』

『Cobra Kai』Ep 1より

34年前にベスト・キッドを観客たちが観たとき、彼らはなぜジョニーを悪者として捉えてしまったのでしょうか。

その答えは、観客の感情移入をコントロールする脚本のテクニックに隠されています。日本の映画監督、脚本家、そして脚本のお医者さん「スクリプト・ドクター」としてもお馴染みの三宅隆太さんは、「カニと修造理論」について語っています。

人間っていうのは、知らない人よりは知っている人に思いを馳せるものですよね

例を挙げるとですね、日本海の沖合にタラバ蟹の漁をしている漁船があるとしますね。そこに、松岡修造さんが乗っているとします。「なんとか万才」の収録をしていると。それで、漁師さんたちが捕れたてのカニを振る舞ってくれるわけです。それで、美味しそうなカニの足をバサッと切って、パカっと割って、プルプルの中身を食べて「うわー!美味しいですね!」というのを見た時に、我々はカニではなくて松岡修造さんの方に感情移入するわけです

美味しそうだな、お腹空いたな、という風に観客は思うわけです。 TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」2009年9月19日放送分より

しかし、少しの工夫でそのその価値観は逆転してしまいます。

その直前に、たとえば海底のシーンがあったとします。「カニ男」さんのお家というのがあるんですね。そこのベビーベッドに、おしゃぶりを咥えた可愛いカニが寝てたりするんです。そして、奥さんのカニが「今夜は結婚記念日なんだから、早く帰ってきね」とか言って、旦那さんの蟹は水面の方に上がっていくんです。

そうすると、次に松岡さんがカニ男さんをパカっと折って、美味しそうにプルプルの身を食べるわけですね。さっきは「美味しそう」と思ったのに、今度は「なんて極悪非道なことをするんだ!」という風に変わると思うんですよね。ほんのちょっとしたことなんですよ。 TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」2009年9月19日放送分より

つまり、カニを「よく知らない人」から「知っている人」へ変えることで、同じ物語がグルメ番組から『ファインディング・ニモ』へと変貌を遂げてしまうのです。 『Cobra Kai』はこの理論を応用することで、修造(ダニエル)の目線から描いていたベスト・キッドという物語をカニ(ジョニー)の目線から読み直すことで、全く新しいストーリーを紡ぎ出しています。

出来の悪い生徒などいない。出来の悪いセンセイがいるだけなのだ

『ベスト・キッド』内のジョニーに関する人物描写をもう少し見ていきましょう。

本作のクライマックスでダニエルに敗退を喫したジョニーは、素直に自身の敗北を認めます。「You’re all right, Larusso.=中々やるじゃないか、ラルッソ」と素直に相手の力量を認める、ジョニーの人の良さを表す爽やかな台詞です。

彼の人の良さを表すもう1つのシーンが、決勝戦の休憩中に挟まれます。

2対0で後が無くなってしまったジョニーに対して、Cobra Kaiの総帥ジョン・クリースは、準決勝で負傷したダニエルの足を攻めろという指示を出します。ジョニーはその指示に対して、「信じられない」という表情を見せながらも、恩師に従うことにします。
『Kobra Kai』

『Cobra Kai』Ep 1より

これは『Cobra Kai』で発覚することですが、実の父親を知らないジョニーにとって、クリースは自分を導いてくれる父親の様な存在でした。そんな父親代わりのクリースの言葉を無視することは、ジョニーにはどうしても出来なかったのです。これは両作を語る上で、非常に重要な要素となります。

『ベスト・キッド』と『Cobra Kai』に通底するテーマは「師弟関係」であり、「擬似的な父と子の関係」でもあるのです。

ジョニーは実の父親を知りませんし、ダニエルは8歳のときに父親と死別しています。また、ジョニーの師であるミヤギは妻と子供を亡くしていますし、クリースも天涯孤独の身です。

本作では父親を持たない子どもたちと子どもを持たない父親たちが、空手を通じて「生徒とセンセイ」という絆を結ぶことが、一種のセラピーの様な働きをしているのです。ダニエルは、このセラピーと成功体験が結実し、世間から称賛される様な「立派」な大人になることが出来ました。

しかしジョニーの場合は、クリースという「毒親」との衝突が彼の心に大きなトラウマを残すことになってしまいました。彼は過去にとらわれる「ダメ」な大人になってしまったのです。
『Kobra Kai』

ジョニーの師匠・クリース/『Cobra Kai』Ep 1より

もしジョニーが出会っていたのがミヤギだったら、反対にダニエルが出会っていたのがクリースだったら?

“No such thing as bad student, only bad teacher. Teacher say, student do.”(出来の悪い弟子などいない、出来の悪い先生がいるだけだ。先生が指示すれば、生徒は従う)」というミヤギの台詞は真理であり、34年後のジョニーとダニエルにも重くのしかかるテーマなのです。

『Cobra Kai』は負の連鎖を断ち切ろうとする人間の物語

「毒親」という言葉が浸透し始めてから久しいですが、これは様々な物語において取り扱われる普遍的なテーマでもあります。今年NHKでも放送された漫画原作のドラマ・シリーズ『トクサツガガガ』も、この重たいテーマに真摯かつコミカルに挑戦しています。

『トクサツガガガ』では、特撮オタクの成人女性が周囲には趣味を隠しながらも、同志たちと交流していくという物語です。同時に、「娘の趣味に理解を示さない母親との和解」というテーマが物語の大きな推進力にもなっています。

主人公の抱える生き辛さは、母親に「女の子らしさ」を押し付けられて育ったという1点に集約されるのです。

自分は親とは違う人間になるんだと決意することは簡単であっても、それを意識すればするほど、自分が親から受けた影響に気付き苦悩するということは、誰にでもあります。ジョニーもまた、実の息子であるロビーをネグレクト(育児放棄:編集部注)してしまい、奇しくも自分の実の父親と同じ道を辿ることになってしまいました。
『Kobra Kai』

ミゲル/『Cobra Kai』Ep 2より

しかし、ジョニーの運命はミゲルという少年に出会うことで大きな転換点を迎えます。彼はCobra Kai道場を再建し、いじめられっ子たちを鍛え直していくのです。Cobra Kaiが空手選手権から永久追放されたことを知ったジョニーは、自分の生徒たちのために奮闘し、大人としての責務を果たすことに尽力します。

結果、彼は空手選手権の委員会メンバーたちを説得することに成功します。ジョニーの頑張りを邪魔しようとするダニエルよりも、大人の対応を見せることで。

ジョニーは、ミゲルという父親を持たない子供との師弟関係という「擬似的な父と子の関係」を結ぶことで、自身の禊ぎを落としていくのです。

また、自分ではない誰かのために奮闘するという行為が、彼を実父とクリースという毒親の呪縛から解き放つセラピーとして作用します。この負の連鎖を断ち切ろうとするジョニーの姿に、視聴者たちは共感し熱狂するのです

「名作」というレッテル

「名作」や「アイコン」とされる作品は、時を重ねるごとに陳腐化していきやすいというリスクを抱えています。

『ベスト・キッド』もまた、その人気の高さ故に、80年代当時のハリウッドにおけるズレた「日本観」を揶揄する様な形や、同作の名セリフのミーム化という形で数え切れないほど引用されてきました。もちろん、どちらも愛情の裏返しとしての引用なのですが、リアルタイムに同作品を体験していない層には「寒い」ものとして消費されてしまいます。

そして凡作のリメイクを次世代の観客が体験することによって、同作品のイメージは更に陳腐化していき、オリジナルへの回帰が更に遠のくという事例が少なくありません。

『Cobra Kai』は原作のストーリーに忠実な態度で臨みつつ、その視点を180度転換させることで、このサイクルから見事に脱出しています。

酸いも甘いも噛み分けた80sキッズはノスタルジーを感じつつ、その見事な脚本に舌を巻く。原作を知らない現代のキッズはジョニーという不器用で可愛げのあるキャラクターを純粋に応援する。もちろん成功者として社会から憧れの眼差しを向けられるダニエルもまた、一人間として様々な葛藤を抱えており、観客が感情移入の出来るキャラクターとなっています。

そして『Cobra Kai』は原作の世界観を広げると同時に、「物事が単純な善と悪という対立では説明がつかない」という原作に批判的とも取れるようなテーマに挑戦しています。これは実は9.11のアメリカ同時多発テロ事件以後に同国で度々取り上げられてきたテーマでもあり、本作が現代に合わせて真摯にアップデートされている証明でもあるのです。

現在『Cobra Kai』は、シーズン1が9月10日(火)までYouTubeで全話無料視聴可能となっています。『ベスト・キッド』という一時代を象徴した名作を巧みに引用することで、「善と悪」という幻想をぶち壊し、子供にも大人にも受け入れられる新時代の名作となった本作を、この機会にぜひ本作を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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