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「ハハノシキュウのコラムで口喧嘩は強くなるのか?」 MCバトルコラムVol.7

「ハハノシキュウのコラムで口喧嘩は強くなるのか?」 MCバトルコラムVol.7

続けてればいつか…なんて 思ったけど 奇跡なんて起こりゃしない 田我流/JUST(2008年)

ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第7回である。

ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを1歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。

文:ハハノシキュウ 編集・写真:ふじきりょうすけ

先攻1本目・ハハノシキュウ

ハハノシキュウ

僕は、僕を俯瞰している自分がたまらなく嫌いな時がある。

例えば、好きなアーティストのライブで前の方に行った時に、カメラで客席側を撮られたりする場面。

夢中でライブを楽しんでいたはずなのに、ふとカメラに映る自分の顔を客観視して考え込んだりしてしまうことがある。

そんな自分を振り切って楽しんでこそ、楽しいのではないだろうか? なんて堂々巡りの勿体無い気持ちに駆られることがよくある。

だから、このコラムにおいても、そんな上から目線の自分と戦うことに意義を感じつつも、やっぱり奴(母野宮子)に勝つのは難しいな、なんて思ったりする。 このコラムは“読むだけで口喧嘩が強くなる”という名目で書かれている。

しかしそれは、あくまでも名目に過ぎず「ノーバン始球式」とか「美人すぎる○○」とか「○○だけで痩せるダイエット」とかのように、字面の持つ都合の良さに頼っているだけだなんて感じている人もいると思う。

このコラム連載の第0回の記事を読んでもらえればわかると思うが、この担当編集である藤木さんはあまりにもハヒヘホだった。

ハヒヘホ、つまり「腑抜け」である。

「フ」抜け、つまりフジキさんではなく、ジキさんである。

ハヒヘホ、つまり「ふなっしー」である。

「ふ」無っしー、つまりフジキさんではなく、ジキさんである。

担当編集のジキさん

このコラムを最初から読み直してもらうとわかりやすいが、とにかくジキさんは腑抜けだった。そもそもジキさんは、ヒップホップをほとんど知らなかった。いわばスラムを知らない女子高生だった。

「コインランドリーに行くなら洗濯機を買えばいいじゃない」とマリーアントワネットのようなことを言い出しそうなくらいに何も知らなかった。

僕がKAI-YOUデザイナーの佐藤さんと「妄走族の『バビロンシティ』のMV、剣桃太郎の赤い服がめっちゃ格好いいですよねぇ」なんて話をしている間、ジキさんは「スクフェス」をやっているかのごとく激しくスマホを弄ってたりしていた。

だからこそ、ジキさんは、ここ1年のラップブームの影響をかなり素直に受けた人間の1人だと僕は思っている。

そう、この1年のMCバトルブームの影響を受けて、そして僕の「口喧嘩が強くなるコラム」の担当を経て、ジキさんはラップこそしていないが、MCバトルの文法が身体に入り込んでいるはずだと僕は踏んだのだ。 「クリスマスイブの日に僕が出るライブがあるんです。そこでMCバトルイベントもやってるんです。敷居も高くないので、そろそろバトルに出てみましょうよ!」

僕は、打ち合わせのために足を運んだKAI-YOUの会議室でジキさんに言った。

「いずれそう言われる日が来るんじゃないかと思ってはいたんですよ……(泣)」

さすがはジキさん。腑抜けのくせに話は早い。

「このMCバトルに出て、僕のコラムが本当に『口喧嘩を強くする』効能を持つのか確かめましょう!」

「いいでしょう。ただし、企画会議に通ればですよ?」

数日後。

「MCバトルの件ですが、一大イベントみたいになってしまって……。動画クルーをいれて、ガッツリ撮影することになりました」と、ジキさんから連絡が来た。

さすがは、KAI-YOUさん、話が早い。

僕はすかさず返信をした。

「わかりました! そのMCバトルでジキさんが成果を上げたら『フ』を返してあげましょう!」

後攻1本目・母野宮子

2016年12月24日、場所は下北沢laguna。

オトウトの課題というアーティストが主催した「Magic the Gathering vol.12」というイベントには、幕間MCバトルという転換時間を利用したトーナメントがある。

これは出場者が10人くらいの小規模なMCバトルで、経験値を積みたい若手の上手なラッパーだったり、初めてバトルに出る人、ヒップホップの畑とは無縁の人などがエントリーするような大会である。

この日、ハハノシキュウはバトルに参加しなかった。

ハハノシキュウがバトルしている姿をあまり安くしたくないという理由もあったし、ハハノシキュウ自身も30分のライブがその後に控えていたため、歌詞を飛ばさないように心の軸はブラさないように気をつけてもいた。

だが一番の理由は、編集藤木のバトルを集中して観るためだ。

リハーサルを終え、食事を済ませると、編集藤木とハハノシキュウが合流する。

ハハノシキュウが「ラップの練習はしたんですか?」と質問すると「してないです!」と即答される。

そう、練習は必要ない。

ハハノシキュウが書いてきたコラムを校正してきたという経験だけで十分だからだ。というか、はっきり言って韻が踏めなくてもバトルはできる。

その理由は明確だ。

このコラムは、いちいち先攻/後攻にセクションをわけて、甲乙を付けるためにあらゆる屁理屈や論理の隙間を狙い撃ちするように書かれてきた。

このコラム内で、ハハノシキュウがどういう教訓や言葉を残したかはそれほど重要ではない。この先攻/後攻の持つ呼吸が、自然にアンサー力というやつを鍛えていると、藤木に自覚させたのである。

だから、ラップのスキルは全く考慮しないが、それでもバトルは絶対にできるのだ。

エントリーを済ませ、イベントがオープンするとクリスマスイブだというのにそれなりに人が入ってきた。ハハノシキュウが見慣れた顔もいて、それぞれ計算の間違った帽子やTシャツを身に付けていた。

非常にありがたいことに、ハハノシキュウには最近、追っかけに近いファンが数名ついたのだ。

また、久々に会う知った仲のラッパーも何人かいた。ハハノシキュウと同じくライブで呼ばれていたレイトもそうだったし、MCバトルには狩谷赤人M1NAZUK1、そしてシャールと知り合いが何人もエントリーしていた。
シャール/日曜日のデストピア(prod.by レイト)
シャールは、MCバトル界隈での知名度は皆無に等しいが、たまにこういう小規模なバトルに参加したりしている。未流通の音源を数枚出しているし、ライブも定期的にこなしている。

まだ22歳だというのに、妻と3歳の子どもがいる元バンドマンであり、ラップも結構上手い。

知り合い補正をふまえても、「シャールが優勝候補かな」とハハノシキュウは内心で思っていた。

ターンテーブルの側面にトーナメント表が貼り出される。

「ジキさん、MC名は考えてきたんですか?」

編集藤木はキメ顔でこう言った。「MC名はジョジョです。『ジョジョ』が好きなんで!

「……」

ハハノシキュウはこの時の気持ちを、密かに妻へのメールでこんな風に吐露していた。「はじめてMCバトルに出る人が『MC名はジョジョです。ジョジョが好きなんで!』って言ってるのがすげー不安だよー。本番のバトル怖いよー」と。

「……ジキさん、シードですね」

「ホンマですね」

ジョジョと名前が書かれたシードの下に目線を移すと、そこにはシャールの名前があった。もう1人はカイゴというMC。勝った方が編集藤木と戦うことになる。

トーナメント表

ハハノシキュウは「このシャールってやつ、結構上手いですよ」と、編集藤木にプレッシャーをかける。

1回戦で、ライバルたちの試合を観ることはバトルにおいて欠かせないエレメントである。自分の対戦相手を決める試合、カイゴvsシャールを編集藤木は真剣な面持ちで眺めていた。

カイゴは、要所要所で韻を踏みつつクリスマスネタを上手く利用しながら場を盛り上げていく。一方のシャールは、韻が少なめながら、持ち前の声量とリズム感で相手に飲まれることなくバースを返す。

そして、2本目でこのゲームが動く。

カイゴの「今日はクリスマスイブ、明日は賞金で彼女を持て成すんだ」というラインで会場は大盛り上がりを見せた。

ハハノシキュウは、ここでシャールに妻がいて子どもがいることを思い出す。

するとその瞬間、シャールは「俺は結婚してんだ、明日のクリスマスは今日の賞金を全て嫁に渡す」といった内容を繰り出す。

シャールは、明らかにクリスマス事情の重さで勝るラインを残して、後攻の2本目で全てをひっくり返したのだ。

1回戦で一番の盛り上がりを見せたこの試合は、バトル未経験の編集藤木にどういった影響を与えたのだろうか? それは本人しか知らない。

おそらく、これまで観てきたバトルや、これまで校正したハハノシキュウのコラム、そしてレポートから得た嗅覚で、次の試合の時にシャールがここで掴んだアドバンテージを、どうやってひっくり返すかを練っているに違いない。

とにかく今は、藤木の試合がハハノシキュウの執筆と、KAI-YOUへのアクセスそのものに直接的に関わってくる非常に重大な任務だということを当人が自覚していることを祈るしかない。

次の転換時間には、ジョジョvsシャールがはじまってしまうのだ。
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「ハハノシキュウのコラムで口喧嘩は強くなるのか?」 MCバトルコラムVol.7
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MCバトル猛者 ハハノシキュウの「読むだけで口喧嘩が強くなるコラム」
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