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「戦極」は群像劇としてのMCバトル

話を元に戻す。「戦極MCBATTLE 15章」には、僕も黄猿君も出演が決まっていた。

しかし、「戦極」というイベントにおいては、僕はおろか「UMB東京予選」を制した黄猿君ですら主人公としては薄い印象になってしまうくらいに、さまざまな物語の主人公が集結していた。

あんまり好きな言い方じゃないが、「オールスター感謝祭」のようなメンツである。ゲームでいうなら『スマブラ』のようなメンツだ。だから、これは群像劇としてのMCバトルなのである。 「戦極15章」は炙り絵のように、熱を帯びるほど枝わかれしたストーリーの本質が浮き彫りになり、それこそトーナメント表の線のように先端が、か細くなっていく。

ちなみに、僕はこれまでに「戦極」の記事を書くにあたって、ライムベリーのMC MIRIちゃんを主人公とし、そこにライトを当て続けてきた。だから、もちろん彼女の物語も地続きになっている。 ただ、僕はこの「戦極15章」に向けて、MIRIちゃんと一度も一緒にスタジオに入ったりしていない。補助輪のない自転車のように、二度と忘れない乗り方を身に付けた彼女は、僕の見えない場所で勝手にどんどんフリースタイルが上手くなっていた。 僕は努力が苦手だから、あんまり練習とかしたくない方だし、仕事帰りの夜道を独り言のようにフリースタイルしながら駅から家までボソボソ呟いて歩くくらいに留まってる。留まってるというか習慣みたいになってる。とても不審だけど。 ハハノシキュウ だけど「戦極」はDVD化されてずっと残るものだってことを意識すると、やはり陳腐なものは見せられない。それに、まずチケット代に相応しいラップをするのが、出場する上での最低条件だと思っている。

だから、1回でいいから誰かとスタジオに入って、ウォーミングアップをしたいと思っていた。

DOTAMAさんは言わずもがな、売れっ子で大忙しなので時間が合わず。たまたま、僕と同じように困っていたあっこゴリラと一緒にスタジオに入ることになった。

誰かと一緒にフリースタイルをすると、そんな独り言のようなフリースタイルがまるで役に立たないことをいつも痛感する。フリースタイルは相手がいてこそのフリースタイルなんだと。

フリースタイルバトルにさまざまな思いを乗せるMCたち

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戦極MCBATTLE第13章 全国統一編 2015.12.27 完全収録DVD

「戦極15章」の舞台は11ヶ月前に行われた「13章」と同様、東京・Shibuya O-EASTである。1300人規模で、僕らにとっては大きな箱だ。

ルールも「13章」と同じだが、より強い人が多いように感じた。端的に言えばタレント性より、純粋なバトルの強さで選ばれたような印象を受けた。そして、何より賞金が50万円にアップしていた。

そして「13章」の優勝者はナイカさん(NAIKA MC)だった。今回もバリバリの優勝候補だし、僕は2on2で行われた「14章」の時に、ナイカさんとDOTAMAさんのチームに負けている。
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「14章」にはMIRIちゃんとのタッグ・8849mmで出場した

そんなDOTAMAさんは「13章」に出場していなかったため、今回選手層が厚くなったようにも見えた。意外と「戦極」に一度も出たことのないDragon One君や、「8章」には出ていたがあまり「戦極」というイメージがない輪入道君、「11章」の優勝者で「13章」には出ていなかったGOLBYさんなどの参加もそれに追い打ちをかけていた。

あっこゴリラとスタジオに入った後にこんな話をした。「フィメールはネットでクソ叩かれるし、優勝なんて無理なのかな」と。
あっこゴリラ

あっこゴリラ

「優勝するためには、教科書通りに韻踏んで、ビートに乗って、一通りフロウもできますよ的な感じでやらないといけないよね」と僕は言った。そして続けて「でも、バトルで勝つために、バトルに合わせたスタイルをつくる意味はないよね」とも。

「そうそう! なんでこっちがバトルに合わせなきゃいけないんだって!」

「だから、逆にお前らが勝手につくったルールをわたしに押し付けんな! くらいの感じで行くべきだと思う」

一方、男のラッパーも男のラッパーで、生理現象のごとく、各々で負けず嫌いや意地を抱えていた。
GADORO

GADORO

例えば、GADORO君なんて、「UMB宮崎予選」の決勝でMOL53君に負けたことをずっと糧にしているらしく、「宮崎のMCといえばMOL53」というヘッズたちのイメージを覆したがっている。

それとは別に、バトルに出場すること自体に疑問を持ちはじめたMCもいる。中でも代表的なのは、バトル引退宣言をして周囲をざわつかせたLick-G君だ。 彼がバトルをしている姿を見れるのも、あと片手で数えられる程度だと覚悟しているファンも多くいると思う。また、彼以外にも──あえて名前は伏せるが──、バトルを辞めたがっているラッパーは少なくない

MCバトルに出続けるということの過酷さと空虚さを、若い子たちは僕の世代よりも何倍も早く悟っているように思える。

逆に、バトルの現場から離れていたラッパーが復帰しての出場というケースもある。

去年から少しずつ、再びバトルに顔を出しはじめたMEISOさんは「胎動MC BATTLE」で決勝まで駒を進め、カルデラビスタさんは、9月に千葉県・柏で開催された「BBMB × 戦極MC BATTLE」で準優勝している。
MEISO

左がMEISO

かつての「B BOY PARK」覇者と「UMB」の覇者が、時を超えて群雄割拠に首を突っ込んでくれるのは、昔からシーンを追いかけてきた人間にとってはこの上なく感慨深いことだ。

バトルの前から盛り上がる優勝者予想

誰が優勝してもおかしくないと言えども、意外と番狂わせが起きにくいのがMCバトルである。

その理由の1つとして、MCバトルはお客さんという作者が即興で物語をつくるような趣きがあるからだ。1000人以上の人間が集まった空間によって、我々ラッパーは操られているような錯覚すら覚える。

試合が進むにつれて、物語の選択肢が1つずつ消えていく。そして、さっきも言った通り、炙り絵のごとく火を近づけるほどにその先が浮き彫りになっていくのである。
※本当はもっと、それこそ全員に触れたかったが、そうなると単行本1冊くらいレポートを書かなきゃいけなくなりそうなので勘弁してください。

以下、1回戦がはじまるまでの喜怒哀楽。

今回の15章では、ベスト4と優勝者を予想するツイートを公募していた。 僕はツイートしていないし、ベスト4までは考えてなかったが、なんとなく誰が優勝するかは頭に思い描いてはいた。

僕の優勝予想は、じょう君だった。
じょう

じょう

「高校ラップ選手権」や「UMB大阪予選」など、近頃行われたバトルで次々と優勝を決めている。一番波に乗っていて、負けるところが想像できなかったからだ。

トーナメント表が貼り出される少し前。ナイカさんが「シキュウちゃん! 俺とだぜ」と、僕のハートをいきなり壊すような一言を軽く漏らす。
NAIKA MC

NAIKA MC

僕は「いやいや、それ冗談っすよね?」と聞くと、司会の八文字さんを捕まえてトーナメント表という名の現実を見せつけられる。しかも、僕が先攻だ。

のちにトーナメント表の全貌を閲覧し、そのエゲツなさに言葉を失う。「このブロックに固まってるねぇ」なんて言う奴はいなかった。全部固まっていたからだ。

クジ運という概念はここに無いらしいが、全体に目を凝らしているとあるブロックに目がいく。

TKda黒ぶち vs じょう

このカードに僕は悪寒すら感じた。じょう君が負けるところは想像できないのだけど、TK君が勝つところは想像できるという矛盾を孕んだ残酷な組み合わせだと思った。

僕の個人的な分析だと、TK君には一撃必殺みたいなパンチラインが通用しないのだ(どのように通用しないのかは、実際に試合がはじまったら説明する) 。

ハハノシキュウとDOTAMAの楽屋裏

FINAL FRASH 『YEAH』 (Official Music Video)
トーナメント表が放つプレッシャーに耐え切れず、僕はDOTAMAさんのいるFINAL FRASHの楽屋へと足を運んだ。

かつて僕は、バトル前にもかかわらずラッパー同士で同窓会みたいにワイワイしている状況に唾を吐いていた。だが、もうそんな孤独主義者のくだらなさにしがみつく意地すらなくなっていた。

というか、バトル出場MCの控え場所で、僕はしばらく1人きりでウロウロしていたし、周りを見たらそれぞれに集落があり、黒さき海斗君と僕だけがボッチという状況だった。

という運びで僕は、勇気を出して楽屋をノックしたわけである。たまたまその楽屋はMIRIちゃんと同じ部屋で、彼女は彼女で対戦相手のドイケン君について頭を悩ませていた。

そんなMIRIちゃんに声をかける余裕もない僕は「DOTAMAさん、どうやったらナイカさんに勝てますか?」と聞いた。

「さっき、ナイカさんにも同じこと聞かれたよ!」とDOTAMAさんは笑いながら言った。
DOTAMA

DOTAMA

「DOTAMAさんは俺とナイカさん、どっちを応援してるんですか?」と言うと。僕の近くに寄ってきて、小さな声で「どっちも応援してるよ」と言った。

……というわけで、DOTAMA先生が役に立たないことを受け入れた僕は、じっとしてるのも辛いので、自前のヘアアイロンで髪の毛を真っ直ぐにするという作業をし、心を落ち着かせることにした。(←この描写、必要ないでしょ)

「ちょっと、ハハノシキュウ。ここはFINAL FRASHの楽屋ですから、お引き取りを」とDOTAMAさんが半笑いで茶化しながら僕を追い出す手振りをする。

「ここまでが私の楽屋なので、シキュウさん居ていいですよー」と見えない線を空間に引いて、MIRIちゃんが僕を救ってくれる。「シキュウさん、ヘアアイロン借りていいですか?」(←この描写、もっと必要ないでしょ)

そんなこんなしている内に、FINAL FLASHのライブがはじまり、こっちが心の準備を完了する前に、あれよあれよと1回戦がはじまってしまった。

もう先に言っておく。

この「15章」はベストバウトではじまり、ベストバウトで終わった
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この記事へのコメント(3)

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匿名のユーザー

匿名のユーザー

ハハシ文章上手い

匿名のユーザー

匿名のユーザー

ここのコラム見つけてからハハノシキュウ大好きなんだがw

tyanyone

米村 智水 認証済みアカウント

めっちゃ面白いし小説書いて欲しい

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