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ハハノシキュウのMCバトルコラム Vol.6 MCバトルで稼ぐ方法

まるでIce-Tとスパイクリーに楽太郎を足した最新のブラックなジョークで JUSWANNA/ピエロスタイル(2009年)

ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第6回である。

ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを1歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。 文:ハハノシキュウ 編集・写真:ふじきりょうすけ

先攻1本目・母野宮子

落語を聞く」という言い方がある。

現場に足を運んで、生でパフォーマンスを体感する時には「〇〇を観に行く」という言い方をするのが一般的だが、落語の場合は「聞きに行く」という。

この「聞く」という一感で表現するように、落語はCDで聞いたりMP3をスマホに入れたりして、耳で楽しむ人も多い。 rakugoka_oldman ハハノシキュウは学生時代、落語ではなくMCバトルに今以上に熱中していた。熱中し過ぎて、少しおかしくなっていた。

だいたい2006年から2010年頃まで、「UMB」(ULTIMATE MC BATTLE)予選大会の動画を観るために「HYPE UP SOUND」という公式サイトに登録し、月額料金を支払っていた人間がたくさんいた。
UMB2015 FINAL DVD TRAILER vol.1
地方予選が終わる度に、新しいアーカイブがアップされることを心待ちにし、また年度が変わると観れなくなってしまう動画もあったため、ガラケーに齧りつくように同じ試合を何回も観ていた。

そして、ベストバウト以外の動画が観れなくなることを危惧して、気に入ったバトルをWindows用のフリーの録音ソフトで全部録音していた。昭和の音楽番組をラジカセで録音していた自分の親世代の気持ちが、少しばかりわかった気になっていた。

だから、その時期のハハノシキュウの感覚は「MCバトルを聞く」ことに特化していた。

ハハノシキュウが特に何度も聞いていたのは「呂布カルマ vs YUKSTARR(現YUKSTA-ILL)」と「Chino vs 大佐」のバトル。どちらも3回以上延長している名勝負だ。

iPodにそれらを詰め込んで、耳だけで楽しむ時期が続いていた。同じ落語を何度も聞いている人の気持ちもこれに近いのだろう。

最近、YouTubeにはMCバトルの試合を投稿主の好みで編集し、繋ぎ合わせたものが多く見受けられる。一人のMCに特化したものや、韻の踏み方に特化したもの。「高校生ラップ選手権」だと前振りをカットしたものだったり、その形はさまざまである。
第9回高校生RAP選手権 決勝バトル 裂固 vs Lick-G
それは、ハハノシキュウが自分のためにやっていたことと、本質的にはあまり変わらない。アップした人が、ただ「アフィリエイト感覚」でやってるなら話は別だが、きっと自分が「聞きたい」と思う形に編集しているに違いない。

著作権のある作品を無断でアップロードしてしまうくらい、人を“出来心”でおかしくさせてしまうのがMCバトルなのだ。

後攻1本目・ハハノシキュウ

88493 MCバトルのDVDは長い。長い方が面白いし、バトル以外の前振りの部分にも駆け引きがあったりして、それは必要な長さだ。

だけど、その長さ故に、見返す時の億劫さが大きくなってしまう。

DVDをプレーヤーに入れるという一連の動作にすら面倒臭さを感じてしまうくらいに、世の中は便利になってしまった。

だからこそ、だからこそMCバトルを1試合ごとに小わけにして、音声だけにしたものをiTunes Storeで売るか、DVDに音声のダウンロードコードをつけて販売してほしい。

今になって僕は、猛烈にMCバトルを「聞きたい」のである。試合を切り貼りしたYouTubeばかり観ていても満たされないし、当たり前だが、YouTubeに上がってない試合の方が圧倒的に数が多い。 88495 また、スマホでYouTubeを観る時に、画面を閉じても音だけ聴けるアプリがあるのは知っているが、とにかくYouTubeだと「聴きながら作業」ができない。きちんとダウンロードしたものを音楽と同じようにして「MCバトルを持ち歩く」という感覚がほしいのである。

バトルの内容どうこうよりも「ここ、あえて2拍目の裏から入っていくのヤバイよね」なんてマニアックな楽しみ方を見つけることになるかもしれない。それに、ラップには比喩が多い。その比喩を脳内で純粋に想像するのも一興だと僕は思う。

同じDVDを何度も観るのでなく、同じ試合を何回も聞きたいのだ。

マーケティングについて、プレイヤーであることを考慮すると、僕は素人よりも俯瞰性のない素人以下だ。なので、正直それが最良の形かわからない。それでも、MCバトルのMP3化をかなり望んでいる。

今の高校生・大学生のバトルヘッズは、ここ2・3年の名勝負ならほとんど覚えていると思うし、それをほかのバトルでサンプリングするMCも増えたように感じる。

僕は、はっきり言って学生時代ほどの熱量で今のバトルを観れていない。観てきた分母が多いせいで、今のバトルに対する感動の濃度が薄まってしまってるのだと思う。

そして、その熱量に変化を与えてくれるのが「MCバトルを聞く」ことだと思う。特に古典とも呼べるMCバトルの名勝負を聴き直したいのだ。

というわけで、他力本願。自分勝手にそんなマーケティングを楽しみにしている。

先攻2本目・母野宮子

MCバトルを聴きたいので小わけにして売ってほしいという話を、ハハノシキュウはライムベリーのワンマンライブでたまたま会ったMC正社員に話した。MC正社員を知らない人のために簡単に説明すると、「戦極MC BATTLE」を運営している代表取締役である。
IMG_04531

MC正社員

「『戦極』は全部オリジナルビートでいくから、募集したビートも買い取ってこれからは1試合ごとの音声配信は可能にしようと思ってるんだよね。でも悩むよね。音だけで売りはじめて、DVDの売り上げ落ちるのが怖いんだよね」

……といった具合で、話は灰色のまま終わった。だが、ハハノシキュウの「音だけで聞きたい」という気持ちは強まる一方だった。

また、この話をするわずか2日前、ダースレイダーを中心にラジオ番組の企画横取り問題なるものが話題を集めていた。

「ラジオでフリースタイル番組いかがですか?」と述べたダースレイダーの企画にもかかわらず、レギュラーに決定したのは別のMCだったという問題だ。
DARTHREIDER / 横取りJ-WAVE
ここで言及すべき焦点は、いとうせいこう、ダースレイダーの両氏が企画を提示するきっかけになった時の会話である。

テレビはテロップが理解の邪魔をしてしまう。ラジオこそが、フリースタイルバトルにもっとも適した媒体だ」と。

字幕付きの動画を観てしまうと、1回観ただけで全てを把握できたと錯覚を起こし、2度と同じ試合を観ない人が多い。どうしても観客やワイプのリアクションなどを気にしたり、字幕の韻を目で追っている内に、“自分の好み”というものを失いがちになってしまうからだ。

一方ラジオならば、字幕がないこと、映像がないことにより、ラップの良し悪しを決める基準が自分の価値観へと近づいていくはずだ。

とりあえず、ここで声を大にして言っておきたいのは「iTunes Storeでバトルの音声配信をしてほしいな」というハハノシキュウの呟きをどうか、誰かに「横取り」してもらいたい。

そして、我が物顔で形にしてもらいたい。 まるで、マニアックなネタを「サンプリング」と称して自分のリリックに落とし込むように。

後攻2本目 ハハノシキュウ

88492 僕は人の秘密を知りたくないタチだ。

だから広い世界だとゴシップ記事だったり、狭い世界だとクラスの誰と誰が付き合ってるかとか、そういう話題が昔から好きじゃない。興味がないわけではないのだけど、知ってしまった後、自分のその人を見る目が変化してしまうのがとても嫌なのだ。

人の心や本性なんて、ピエロスタイルのブラックボックスでいいと思う。正確には、そう思うようにしてる。そうじゃないと生きていけない。人を信じるのが下手な僕には辛すぎるからだ。
juswanna ピエロスタイル (demotype rough "jus' p.l.o. style" remix)
だから、逆に僕の腹の底を知りたくないと思ってる人だっていると思うし、むしろ知りたくて知りたくてしょうがないって人もいるかもしれない。

どっちにしろ僕は、欺瞞に耐えられるほど器用じゃないし、着飾ることで成功するタイプでもない。 だから、はっきり言おうと思う。

僕はお金がほしい

MCバトルに出ることで直接お金を手に入れるなんて話はすでに諦観しているし、優勝しないと金にならないなんて、僕には壁が高すぎる。

エントリー費を払ってバトルに出て、悪口言われて負けるような地獄に好んで足を踏み入れるなんてどうかしてる。

バトルをきっかけに「まさにアンタが書いてるこのコラムみたいに、お金になる実を育てられるじゃないか!」なんて言う人もいるかもしれないが、バトルに出ること自体がギャンブルで言うベットに値するなら、やっぱり僕には向いてない。

そうじゃなくて「バトルに出る=お金が貰える」ようになったらいいなと僕は思う。端的に言うとファイトマネーがほしいのだ。

そして、最終的にMCバトルが音声データとして、配信されたり販売されたりしたあかつきには、その売り上げの数パーセントを印税のように貰えたら最高だ。

極端な話、バトルの相手が鎮座DOPENESSってだけで、他のバトルより金が入るかもしれない。僕の腹の底にはそんな魂胆がある。
鎮座、ニガリらが池袋パルコに登場! 戦極MCBATTLE主催のヒップホップイベント
大なり小なり誰だってブラックボックスに何かしら入ってる。

ラッパーはオモテ向き、人の悪口ばっか言ってるどうしようもない人間の集まりなんだけど、結局はなんだかんだ言ってもバトルやってるラッパーのほとんどが結構真面目。

オモテ向きブラックボックスと言えどもそのウラ地は花色木綿。お後がよろしいようで。

※これは「出来心」っていう古典落語のオチをサンプリングしたんだとドヤ顔でカッコつけてみせるが、こういう自己満足のサンプリングは試合で負ける可能性が非常に高いので推奨しない。 MC必勝講座「違法アップロードはラッパーの金にならないことを知れ」

ハハノシキュウ // ハハノシキュウ

ラッパー

青森県弘前市出身のラッパーであり、作詞家、コラムニストなどの顔も持つ。MCBATTLEにおける性格の悪さには定評があり、優勝経験の少なさの割には高い知名度を誇っている。2015年にはおやすみホログラムとのコラボをはじめ、8mm(八月ちゃんfromおやすみホログラム×MC MIRI fromライムベリー)の作詞を手掛け、アイドル界隈でもその知名度を上げている。また、KAI-YOUにてMCBATTLEを題材にしたコラムの連載を開始、文筆の世界においても実力に伴わない知名度を上げようとしている。現在、処女作『リップクリームを絶対になくさない方法』、DOTAMAとのコラボアルバム『13月』に続き、おやすみホログラムのプロデューサーであるオガワコウイチとのコラボアルバムを製作中。

ハハノシキュウ

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「ハハノシキュウのコラムで口喧嘩は強くなるのか?」 MCバトルコラムVol.7
連載
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