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ハハノシキュウのMCバトルコラム Vol.5 紙一重の判定をめぐる冒険

「バトル出場、一回戦敗退も会場半分の支持を確保」(AXIS/Story Ⅰ: The MC (噺家)2012年) AXIS/Story Ⅰ: The MC(噺家)2012年

ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第5回である。

ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを1歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。

文/ハハノシキュウ 編集・写真/ふじきりょうすけ

先攻1本目・ハハノシキュウ

ハハノシキュウ1 時々、文章を書く際にどうしても非論理的に振舞いたくなることがある。例えば、その例えばが、読者に伝わりやすいように親切に用意されていないみたいに。

人間、無意味なことをしたくなるし、時には無意味なことをしてほしくもなる。(実際、無意味なことをずらずら書いて、この原稿を編集に送ったら、十中八九、赤ペンで削除されてしまった。)たまには減点が欲しくなる日だってあるのだ。

MCバトルでもそうだ。ただし、のちにほとんどの試合がコードボールになるだろう。これが今回のテーマ。

その前に“コードボール”という表現について解説しておく。一般的にテニスの試合でネットの上部にボールが当たり、勢いを失ったまま相手のコートに入ることである。別名「ネットイン」とも言う。

相手のコートまで行けずに弾かれ、自分の側に水滴のように虚しく落下する場合もある。だが、僕が言いたいのはMCバトルの判定において、このコードボールのように、どっちのコートにボールが落ちるのか神のみぞ知るような状況が増えるだろうということだ。

コードボールは、同じくネット際に落ちるドロップボレー等とは違って、走って追いつくことが難しく、相手のコートに返すのはほとんど不可能とされている。

つまり、テニスの実力とは別次元での勝負になるのだ。
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MCバトルの判定は日を追う毎に難しくなり、判定結果に不平不満を垂れ流す人も少なくない。

ラッパーのフリースタイルにおける精度は増していくばかり。そして、この先、MCバトルにおける審査は加点の多い者ではなく減点の少ない者が勝つようになっていくだろう。

どちらかがミスをするまで続いていく延長戦。判定を決定づける僅差のポイントは、まさにコードボールの如く、神のみぞ知るものとなる。

そう、コードボールの二者択一に勝つためには、コンマ1ポイントでも減点が少ない方がいいのだ。パンチラインの数ではなく、バトルにおける文法を正確にクリアしているかが問われる。減点を気にすることなく走る、この手放し運転の快感とは到底無縁の距離感。

だからこそ、僕は文法を無視した非論理性に憧れを抱くのだ。

後攻1本目・母野宮子

勝敗では測れないものが当然ある。「それがMCバトルだ」と、まるで慰めのようにハハノシキュウは文房具屋で立ち尽くしたりする。

結局、そんなものを測る定規は売っていない。リリックを書くためのペンや、それを推敲するための赤ペンなら売っているが。

「フリースタイルダンジョン」からバトル鑑賞に興味を持った人の中には、“判定基準が全然わからない”という意見を持つ人が少なからずいると思う。

甲乙の付けやすい試合なら論理性を持ってその勝敗の理由を言語化できるが、実力が拮抗しているものや、減点する箇所がほとんどない試合だと非常に難しくなる。

コードボールだ。先攻でハハノシキュウが言っていたように、“神のみぞ知る”試合になる。

そして、そんな“神様”を奇数で割って審査員にしているわけである。だから、改めて審査員の判定を統合するとその結果はまるで1人の神様が決めたように球が落ちる。

そんなMCバトルの現状は厳しさを増していく。2015年までのハハノシキュウの意見はこうだった。「泥仕合をするな、音源に興味さえ持ってもらえば勝ちだ」と。 ところが1年足らずで状況が大きく変わってしまった

この意見には「音源を興味を持ってもらう」=「売名行為に成功する」という図式が前提としてある。だが、その売名行為をする(プロップスを増加させる)方法が難しくなったのである。

最近では、無名のラッパー同士の試合でも組手が上手く、きっちりと観客を楽しませている。本当に泥仕合が少なくなった。すると、「ベストバウトさえすれば優勝しなくてもプロップスは得られる」という論理が成立しなくなるのである。

極端な話、全試合がベストバウトになってしまえば、プロップスを手にする方法はただ一つ、“優勝”するしかないのだ。つまり、ハハノシキュウが憧れている非論理的な、減点をまるで気にしない闘い方は海の泡のように1回戦で目立たずに負けてしまう。

MCバトルの規模は大きくなり、数だって増えている。その中でたった1試合ベストバウトをつくっただけでは、すぐに忘れられてしまう。

MCバトルの持つ文法(ちなみにこの文法は大会によっても時代によっても流動的に変化していくものだ)を無視した上で、毎回優勝できる。それがハハノシキュウの理想だろう。

そのためには全てのコードボールを制する才能が必要だ。負けそうな試合でもなぜか延長になるMCがいるだろう、逆に勝ってそうな試合なのに、一発で負けを食らうMCもいる。

残念だけど、ハハノシキュウは後者の人間だ
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「ハハノシキュウのコラムで口喧嘩は強くなるのか?」 MCバトルコラムVol.7
連載
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