「ふざけてもいい。けど、下劣なことはやりたくない」

VICE Media Japanオフィス内

──運営にあたって、本国VICEから「これはやるな」と禁止されていることはありますか?

川口 ないですね。向こうと感覚的に合ったからこそ始めたことだから、その信頼感はある。逆に最近だと大きな会社になって、元々のめちゃくちゃな奴らは上にいって、現場は「VICEに憧れて入った人たち」になってるから、「なんでこんなダセーことやんなくちゃいけないんだよ」っていう指令は降ってきたりします。そういう時はやらないですが(笑)。

佐藤 どう定義するかは置いておいて、唯一エログロナンセンスは抑えながらやっていこうやという話はあったけど、それも適当っちゃ適当。基準をつくろうという動きはないですね。

──では、お2人の中で、コンテンツをつくる上でのルールはありますか?

川口 ふざけてもいい。けど、下劣なことはやりたくないですね。昨日もある企画で、ふざけたことに加えて下劣なことを乗っけてきたんです。それは便所でインタビューとかだったんですが、そういうのは止めてよと。

佐藤 個人的には、対象(読者)に対して何か(役に立つこと)をアウトプットするようにしたいなという気持ちはあります。「何となくヤベー」というのは嫌だな。

川口 便所で言えば、マルセル・デュシャン(美術家)くらい意味があれば俺はOKしたんだけど、「VICEだからこんな感じだよね」というのは勘弁してほしい。

あとは、俺たちジジイの戯言ですが、最近の奴らはWebで情報を集めるんですよね。でも、Webにあるってことは、誰かがやってるネタだから。そうじゃなくて、いろんな人に会ったそのコネクションの中から出てくるコンテンツの方が面白いじゃないですか。

佐藤 この間、海外VICEの人間と話していて、「事前にめっちゃ話し合って、とか、予算をかけて、という前に、まずはその場所に出向いたりその人に会って、そこで生まれるものを中心にしてきている」と言っていましたね。

「俺が殺されるということは、俺も殺していいんだな」

──VICEと言えば、ヤクザへの取材やドラッグに関わる取材、「やばい場所に取材にいく」というイメージがどうしてもありますが、これまでの取材で一番危険だった現場はどこですか?

川口 正直、取材で行く以上、危険すぎる場所はないですね。こちらでアポを取って、企画の時点で予防線を張っていくので。僕たちが同好会だったら「お前死んでこい」というのもアリだけど、会社だから取材に行く人間が危なくないようには考えますね。

佐藤 海外のVICEは、いろいろ危ない話はありますけどね。VICE Japanの方でも、取材対象者と飲んでいたら、後日、その人が捕まったとかはありますね(笑)。

川口 危なさについては麻痺しているからわからない。どれが危なかったか。
──今では感覚が麻痺していたとしても、始めたばかりの時は怖くなかったんですか?

川口 怖いですよ! しかも、危ないとされているところに行くのが、なぜか僕の役目になっていて……現場に行くまでは「お前殺されるぞ」とかいろいろ言われて、その度に「なんで俺、死にに行かなきゃならないの」と思っていたんです。

例えばフィリピンのゲットーに取材に行って、最初は嫌な気持ちなんですよ。でも、「殺される」と思い続けてると耐えられなくなってくるんですよ。そうすると、ふと気付いたんですよ。「俺が殺されるということは、俺も殺していいんだな」って。

実際には殺さないけど……でも然るべきじゃないですか? そういう思考になると怖くなくなるんですよね。

佐藤 え、それって観念的な意味? それともリアルに?

川口 リアルに。現実的に。取材に行く方だけ一方的に殺されるのっておかしいじゃん。殺しにくるんだったら殺してもいいなと。発想の転換というか。

バグダットのヘビメタバンドを取り扱ったことがあって。日本でバグダッドと言えばドンパチしてるって情報しか入ってこないけど、実はヘビメタやってるやつらがいる。これってすごいことだなと。彼らはライフルなんか持ってないし、バンドの取材なんだから怖くないじゃないですか。そういうところにVICEの面白さがあると思います。

佐藤 イスラミック・フロントの統一軍隊指揮官みたいなイカつい人が「ニコール・キッドマンが好き」と発言するのを引き出したりね(笑)。

川口 武装組織の親玉がニコール・キッドマンが好きなんて話は、普通の媒体では扱わないだろうけど、VICEは使っちゃうんだよね。あとはキャスターがシリアのドンパチやっているところで「なんだよこれ、テーマパークじゃねぇかよ」と言っちゃうんです。でもその感覚って本当だと思うんです。

佐藤 不謹慎かもしれないけど、東日本大震災が起きて現場に行った時に、やっぱりハリウッド映画みたいだっていう感覚になりましたね。

──アメリカで起こった9.11のテロの時も、「まるでハリウッド映画みたいだ」とみんなが口にしていましたよね。

川口 あれを現実と受け止める人もなかなかいないでしょうし、逆に「危ないところに行くと殺されるよ」というのはエンターテインメント的な見方かなと思います。

佐藤 コンテンツをつくる上で実際に行って、会って、そこで見てきているものがキーかもしれないですね。

──そこに生身の人間が生きているから、身を投げ出してみるしかない。

川口 そうですね。お互い生きてるんで。ぜんぶ人間対人間だと思ってる。ただ、そういうところに1ヶ月しかいないような人間がそこで好き勝手やれば、殺されて然るべきだと思います。

最低限、調べることは調べないといけない。身を投げ出す準備はしようぜと。けど、会議室で打ち合わせをしても何もわからない。そんなところに行ったら常識が通用しないし、難しいところですね。

佐藤 川口はそういうバランス感覚を持っているので、フィリピンのスモーキー・マウンテンの子供たちともすごく仲良くなったりして……そういう能力あるんじゃないかなと。「ジーザス」と言われていたらしいですよ(笑)。

川口 髪が長かったから(笑)。

佐藤 しかもスモーキー・マウンテンの掘建小屋を酔っ払ってぶっ壊したにもかかわらず、人気者になれるというのは、普通できない気がします。

川口 真実を掴んでやるとか、ジャーナリズムとか言いながら現場に突撃するとバイアスがかかって「エンターテインメント」になってしまうと何も見えてこないんじゃないかなと思います。

まだ手探り状態のVICE Japan

──仕事をされていて、不安になることはありますか?

川口 不安しかないですよ。

佐藤 傍目から見たら好き勝手やってきたようなところがあると思います。でも、さっき話した違和感の部分、ベタなポップスをやってきたわけでもないバンドマンが、会社という形態をとって、人を雇って一緒に働いて……ということを本質的にわかっているわけではないんですよね。

川口 しかも、日本でも、若い人が「VICE」というものに憧れて集まってきちゃう。でもそこで、「たかがバンドマンである自分たちに何が言えるんだろう」というのはすごく思います。

──では、行動で見せる?

川口 行動で見せるっつっても、その行動を見てないですからね。世界中のVICEを一日中見ているような奴もいますし。どんだけ好きなんだよと。

個性とわがままを履き違えないでほしい。そこがごっちゃになっている人が多くて。その線引きは単純なことで、「誰かもう一人が“良い”と言うかどうか」だと思うんです。一生懸命話したところで、誰も良いと思わせられなければそれは単なるわがままであって、それなら趣味でやればいい。

あまりにもソリが合わなかったら「辞めてもらっていいんじゃない」って僕はすぐに言っちゃいます。止められるけど。最後は「喧嘩売ってんのかよ」ってなってしまう。

佐藤 VICE Japanは会社というよりチームみたいな空気がありますからね。言い争いもありますよ。とは言え現実は会社だし、お金も絡んでくるし、世間体にも配慮しながらやっているんだけど……でもね、どう振舞ったらいいのか、正直ようわからん(笑)。

──VICE Japanトップのお2人も、普通に僕たちみたいに悩んでるんだっていうところに驚いてます。でも例えば、勘違いした若手に、2人が“VICEらしさ”を語るということはしないのですか?

佐藤 なんかクサいんだよな。「これでこうなんです」と、ある程度みんなに伝わるようなものをつくっても、それは変わっていくものだし、明文化しても紆余曲折の部分などは伝えきれない。

川口 例えば「VICEやばい」「ドキュメンタリーつくりたい」という人間が、海外VICEと同じところに取材するじゃないですか。でも、おそらくそいつはVICEと同じコンテンツはつくらないはずなんですよ。

ということは、「お前が思うVICEらしさは何も知らないで言ってるVICEなんだよ」と。そうは言えるけど、でも「そういう時にVICEだったらこうする」という助言も無駄なだけです。VICEを拗らせてるんですよね。勝手にVICEのイメージをつくり上げてるだけで、それならオーディエンスやファンと変わらない。

佐藤 対象者がいてアウトプットしたコンテンツだったとしても、視聴者目線でつくられていたらワークしない。

──なるほど。では逆に言うと、アウトプットする際、「外側から見たVICEらしさ」を取り入れたりはしないんですね?

川口 しないですね。ただ、VICEの映像は他のテレビ局がつくる映像とは違うので、そこは意識します。例えばカメラワーク一つとっても、どういう風に被写体にカメラを向けるのかで全く違う映像になりますので。芸風というか……まずは形からじゃないですかね。

VICEみたいな取材ができるというのは教科書的なものじゃなく、キャラクターの部分が大きいと思うんです。現地に行き、人から話を聞き出き、どこでも突っ込んでいくというのは、誰にでもできることじゃない。それができない人でも、コンテンツはつくらないといけない。そうすると、やはり最低限のルールは必要になってきます。

言ってしまえば自分たちはまだ、カット割ごとに表にしてインタビューの後ろでこういう映像が差し込まれる、みたいなイメージを積み重ねて「こうすればVICE風の動画になる」という映像の撮り方しかわかっていないので。

Japanが立ち上がった時から、すでに本国のVICEは巨大メディアになっていたので、こちらもその歩幅を合わせなければいけない。日本はいつまでもサブカルでいいのか。かといって、VICEをそのまま日本に持ってきても、パイは見えている。

佐藤 メディアを運営していく中で本部ありきの会社でもなく、ローカル性を思った以上に重んじてくれるところもあるんです。少し違う言い方をすると「自分たちで考えろよ」ということなのですが。

川口 結局のところ、裏社会、エログロナンセンスばかりじゃ、日本で“メディア”として生きていくには難しい。ずっと打開策は模索してて、そこについては毎晩、佐藤と話をしてますね。

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