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ハハノシキュウのMCバトルコラム Vol.1 泥仕合をしないラッパーになる近道

MCバトルが流行ってる ロケット飛び乗る夢を見た オロカモノポテチ/人類救済(2009年)

これは、ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第1回である。ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを一歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。

先攻1本目 ハハノシキュウ

MCバトルには、ラッパーとして名を馳せたくて出る人がほとんどだが、僕はMCバトルに出たいからフリースタイルの練習を始めたクチだ。

UMB(ULTIMATE MC BATTLE)の開始をきっかけに起こった2005年以降のMCバトルブームに見事なまでの影響を受け、2007年のUMB青森予選にてバトルデビューを果たす。デビュー戦は2回戦負けという結果だった。

ただ、自分では絶対に勝ったと思っていた。あまり格好いい姿勢ではないが、東京なら正しい判定をしてくれたに違いないと当時の僕は考えていた。

その後、その年のUMB東京予選を観戦するため、僕は1人きりで渋谷のclubasiaまで足を運ぶ。
clubasia/画像はGoogle マップより

clubasia/画像はGoogle マップより

1人きりでクラブに行ったのはこの日が初めてだった。そして、僕は田舎の人間なので東京という都市に過剰な期待があり、だからこそ、この日の落胆は酷いものだった。

まるで試合になっていないのである。

1回戦が始まって何試合かを観ているうちに、徐々に感じた違和感を今でもはっきりと覚えている。先攻と後攻の会話もフロウもまるで噛み合わず、どちらに対しても大して歓声が上がらない試合がやけに多い。

それは2回戦に入っても同じだった。いや、むしろ悪化したとすら言える。

当時から名前が売れていたラッパーもたくさん出ていて、名前が呼ばれるだけで盛り上がる場面ももちろんあった。それでも、会場の空気はどこか煮え切らない。

そんな様子だからか、鎮座DOPENESSが座りながらラップをしていたり、酔っぱらったPUNPEEが一升瓶を片手にラップをしていた。この皮肉っぽいパフォーマンスに、僕はむしろテンションが上がったけど。

そして2回戦のなかば、ついにその空気に耐え切れず、当時のUMB総合司会だった太華さんが「お前らホンマにやる気あるんか?」と、力のある関西弁で怒りをあらわにしたのだ。

……

結局、2回戦が終わった時点で帰ってしまった。そして、東京に期待した自分が馬鹿だったとひどく落胆したのだ。

そして泥仕合だけは絶対にしないと強く誓った。

後攻1本目 母野宮子

ハハノシキュウは馬鹿だった。

2007年のUMB東京予選は3回戦となるベスト16から急激に面白くなる。数週間後に、モバイルサイトで配信されたそれを見て、途中で帰ったことにハハノシキュウは重ねて落胆した。
「ULTIMATE MC BATTLE 2007東京予選」フライヤー/画像は~ULTIMATE MC BATTLE 2007~ OFFICIAL WEBLOGより

「ULTIMATE MC BATTLE 2007東京予選」フライヤー/画像は~ULTIMATE MC BATTLE 2007~ OFFICIAL WEBLOGより

この「ベスト16より前の試合と後の試合の違いはなんなのか」を、ハハノシキュウは柄にもなく真面目に考えていた。

MCバトルは、しばしば「プロレスができてる、できてない」という表現で例えられる。

ただしハハノシキュウは、そもそもMCバトルがプロレスに似ていると全く思っていないし、プロレスには精通してもいない。STOがスペース・トルネード・オガワの略だってことくらいしか知らない。

だが、その表現を借りるならば、ベスト16以降はプロレスができていて、ベスト16より前の試合の多くはプロレスができていないという言い方が非常にしっくりきた。

ハハノシキュウはMCバトルが終わった後、いつも自分が負けてないと思っている。だから敗因を客のせいにしたり、環境のせいにしたりするが、それは褒められることではない。

ハハノシキュウに言い訳の余地などないし、青森に敗因があるわけもない。自分を測る定規を持っていないだけである。

その証拠に2007年の青森予選では、前年の同予選を制していた25時の影絵が、PEDALという変名でひそかに出場したにもかかわらず2連覇を果たす。

ハハノシキュウが東京にいくら期待していても、東京はハハノシキュウを知らないのだ。

先攻2本目 ハハノシキュウ

泥仕合をしない」という誓いは、このコラムというバトルにおいても、もちろん適用されている。だから先攻をとった僕がここで見せ場をつくらないと本末転倒になってしまう。

この「泥仕合をしない」という意識自体が「MCバトルができるようになる」ことへの近道だと考えているし、「STOのくだりは必要ないだろ!」程度のディスでは、どうにも弱い。

泥仕合をしないラッパーになるために、まず僕は、MCバトルの動画をとにかくたくさん見た。素直に面白いと思った試合は、特に繰り返し何度も見た。

最初に注目したのは、知名度だった。 知ってるラッパーが出てくるだけで先入観が全然違う。試合前に司会から名前を呼ばれた時に歓声が上がる。それだけで泥仕合になりにくい空気ができ上がる。

当時、まるで無名で音楽活動自体をしていなかった僕は、試合前の先入観を操作する方法を考えた。

それが名前だった。
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「ULTIMATE MC BATTLE 2007」ロゴ/画像は~ULTIMATE MC BATTLE 2007~ OFFICIAL WEBLOGより

2007年の時点で僕は、高校時代の友人が本名の姓をイジって名付けた腐悪(ファック)という名のラッパーだった。

だが、試合のときに「先攻、腐悪!」と呼ばれただけじゃ、名前で興味を持ってもらえず、耳元を素通りして、そのまま消化試合になってしまう可能性が高い。

そこでa.k.a.を用いることを思い付いたわけだ。a.k.a.とは、as known asの略で、簡単に言えばまたの名をみたいな意味だ。 「a.k.a.はおいといて、そもそもなんでハハノシキュウなんですか?」という質問の答えは、この連載が続いたら教えてやる。

実は、初めて出場した2007年のUMB青森予選の以前から腐悪akaハハノシキュウという名前を使用してはいた。

しかし、当時のUMB予選は、トーナメント表を決めるクジ引きの後に、口頭でスタッフに自らの名前を告げないといけなかった。

僕はまだ、そこで「腐悪akaハハノシキュウ」という勇気がなかった。絶対に「ハッ?」って思われるからだ

今でこそ慣れはしたが、誰にも認知されていない状態で「ハハノシキュウ」と名乗るのはあまりにもハードルが高い。その時の僕は小声で「腐悪です」とだけ答えてしまった。

実際に予選が始まって、名前を呼ばれる時の語感の重要性を改めて痛感した。

その時、同じ会場にはMCドーナツという名前のMCがいて、「後攻、MCドーナツ!」と呼ばれた瞬間に、場の空気が急激に和んだのを肌で覚えている。
上位トーナメント表/画像は~ULTIMATE MC BATTLE 2007~ OFFICIAL WEBLOGより

2007年のUMB青森予選上位トーナメント表/画像は~ULTIMATE MC BATTLE 2007~ OFFICIAL WEBLOGより

一方の僕といえば、「先攻、腐悪!」と呼ばれるも、黒いキャンバスを黒いペンでなぞるように、観客の反応がすぐに見えなくなってしまった。

僕よりも先の試合で「ディック」という名前のMCがいたのもあって、「ファック」という言葉の響きが驚くくらい希薄になってしまったのである。

結局、言い訳がましくなってしまったが、それが2007年の反省点だった。

だから、翌年出場した2008年の東京予選では「腐悪akaハハノシキュウです!」と自信を持ってスタッフに言えたのだ。

後攻2本目 母野宮子

 
ハハノシキュウは馬鹿だった。
 
ハハノシキュウは、この2008年の大会も昨年と同様に2回戦で負けた。UMBのモバイルサイトではベスト16以降しか配信されないから、知名度を上げるという作戦は失敗に終わったと思っていたのだ。

だが、2008年の東京予選はDVD化されることになる。予選大会の全試合がDVDに収録されたのは、当時史上初の試みで、本当に計算外だった。
 
つまり、これは嬉しい誤算だ。
 
結論から言えば、2008年のUMB東京予選がDVD化されたことにより、東京がハハノシキュウを認知するようになった。これは今で言うと「高校生RAP選手権」に出るくらいのすさまじい影響力があった。
UMB・2008・トーキョー・ラウンド

UMB・2008・トーキョー・ラウンド

だけど、それと泥仕合をしないことは関係ない。
 
じつのところ、名前なんてそれほど重要じゃない。名前はあくまでも興味を持たせる付け焼き刃の武器で、携帯電話ショップの店頭に大きな字で書かれた「0円」の文字のようなもんだ。実際に話を聞いて「ぜんぜん0円じゃねぇじゃん!」と腹を立てられたらお終いだ。

だから、泥仕合をしないための2歩目のステップとして、ハハノシキュウは声やフロウを重要視することにした。

ハハノシキュウがMCバトルに出場しはじめた2007年は、UMB2006の優勝者であるFORKの影響を受けて、とにかく韻を踏むのが流行った。
FORK 三人抜き 3ON3 FREESTYLE MC BATTLE 2005
黒いキャンバスを黒いペンでなぞるような真似は、もう二度としたくなかった。だから、ハハノシキュウは即興で韻を踏む練習よりも、耳障りの強烈さを考えることに時間を割いた。

こうやって、第3歩、第4歩と泥仕合をしないためのエレメントを次々に模索していくことで、自然とMCバトルができるようになっていく。

ただ、泥仕合をしないための問題はもっと手前にある。

とてもシンプルな問題だ。

それは2008年のUMB東京予選がDVD化されて数ヶ月後のことだった。当時、流行っていたmixiを通じて、術ノ穴という音楽レーベルから「バトル見たよ!音源つくってないの?お前の音源を聴いてみたい」といった内容のメールが来たのだ。

ここでようやく、ハハノシキュウは自分が音源をつくっていないことに気付いたのである。

終了

MCバトル必勝講座『バトルを見てくれた人に音源を聴きたいと思わせろ』

ハハノシキュウ // ははのしきゅう

ラッパー

青森県弘前市出身のラッパーであり、作詞家、コラムニストなどの顔も持つ。MCBATTLEにおける性格の悪さには定評があり、優勝経験の少なさの割には高い知名度を誇っている。2015年にはおやすみホログラムとのコラボをはじめ、8mm(八月ちゃんfromおやすみホログラム×MC MIRI fromライムベリー)の作詞を手掛け、アイドル界隈でもその知名度を上げている。また、KAI-YOUにてMCBATTLEを題材にしたコラムの連載を開始、文筆の世界においても実力に伴わない知名度を上げようとしている。現在、処女作『リップクリームを絶対になくさない方法』、DOTAMAとのコラボアルバム『13月』に続き、おやすみホログラムのプロデューサーであるオガワコウイチとのコラボアルバムを製作中。

ハハノシキュウ

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