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「BEMANI」と「斉藤さん」をつなぐのは「共同体」

南雲玲生さん2 ──1990年代には「BEMANI」、2010年代には「斉藤さん」と、一見無関係にも見えるこの2つは、南雲さんの中でどのように結びついているのでしょうか。

南雲 「斉藤さん」と「BEMANI」に共通していることとして、10代後半から20代半ばぐらいまでの人たちの気持ちにうまく刺さっていることです。そこにすごく思い入れがあるんですよね。

──若い世代に刺さるとは、具体的にどのようなことなのでしょうか。

南雲 結果的にですが、共同体をつくりだしていることでしょうか。

「BEMANI」の時には、ゲームセンターを中心とした共同体ができていたんです。その中で結婚される人もいたぐらい、塾や学校、家庭といったもの以外にも、人々が所属できる場所ができたんですよね。

──なるほど、「斉藤さん」はそれをネット上で果たしていると。

南雲 そうですね。「斉藤さん」は一見出会い系っぽくも見えるけど、実際に出会うことが目的なんじゃなくて「ネット上で出会う」ことが目的だから、そういう意味では健全なのかなと。

それは簡単に言えば友達づくりなんですけど、現実世界では出せない自分の本音や思いを、見知らぬ誰かになら伝えられることがある。

現実では、自分を装い個性を抑えないといけない場面がたくさんある。そのように適合させることが、時には病的になることもあります。だから、現実とは別の、自分の気質や趣味の話ができる友達をさまざまな場所に持って帰属することが必要なんです。

「BEMANI」と「斉藤さん」は、そうした思いを共有する場所としてつながっていると思いますね。

──リリース当初はその健全性について賛否両論があったかと思いますが、南雲さんが考える健全性とはどういうものなのでしょうか。

南雲 大事な話ですね。本当の健全化とは、今の社会に不適合を起こしている人や、社会に出る準備をしている人たちが安心して帰属できる共同体ができることだと思っています。

もちろん僕らは企業なので、いかがわしいことが起きないように完全に24時間体制で斉藤さんを見ていますが、それだけではなくて、その人たちを救済することこそが健全化なんですよ。

──「斉藤さん」に関して、今は「出会い系っぽい悪い使い方」を是正するのが健全化だという風に捉えられているように感じられます。でも、南雲さんはそれだけを問題にしてはいないと。

南雲 むしろ出会っていいと思います。とにかく自分の存在を認めてくれる、あるいは他者という鏡で補正をしてくれる、継続した友人関係を築くことが楽しい場所を「斉藤さん」で提供したい。「斉藤さん」上で出会うことを活性化させたいです。

──自分の本音で誰かと対話ができる場所が「斉藤さん」なんですね。

南雲 そうです。ユードーでは「menta」(メンタ)という臨床心理士さんがカウンセリングしてくれる事業もしているんですが、そちらはまだまだ活性化していません。

というのも、そもそも多くの人は自分の心の悩みや問題を客観的に自覚できないからなんです。そこに行き着くまでの前段階が「斉藤さん」だと思っています。

──ユードーのヘルスケア事業とも、「斉藤さん」の社会的な使命は共通しているということですね。「斉藤さん」では、一見不健全に見える振る舞いがあるけれども、それが社会に適合しにくい方の何らかのサインかもしれない。

南雲 そうですね。不健全にも見えるような感じでも、敷居の低い場所をつくるのが重要だと思っています。
「Miiverse」

「Miiverse」/任天堂公式Webサイトより

──奇しくも、かつてともに「BEMANI」をつくられていた水木潔さんが現在、任天堂で「Miiverse」(ミーバース)をつくられていますよね。

おふたりがこうした共同体をベースにした物を開発していることにも何か運命のようなものを感じるのですが、「BEMANI」時代からおふたりやスタッフの間でこういうソフトが来るだろうという予測はあったのでしょうか。


南雲 そう、おもしろいですよね。でも、当時のゲームの共同体はもっともっと難易度の高いゲームを求め出して、むしろ敵ぐらいに思っていました。僕らの仕事を増やす訳ですからね。

でも、今も昔も、僕たちのつくったゲームやアプリでいろんな人が動いている。その感じはとても似ているなと思います。

匿名文化に見るポストモダン

「斉藤さん」2

ユードー公式Webサイトより

──「斉藤さん」は自分の名前が特定されないという点で、2ちゃんねるのような匿名文化とも近い印象があります。南雲さんは匿名文化についてどうお考えなのでしょうか。

南雲 匿名にすることによって、人と人との距離が近くなるんです。本当の自分の思いが匿名だから言えた、ということもあると思う。

匿名文化にそういう気質の人が多いからネット上ではさまざまな議論が活発化しているわけで、それは市民活動としては健全だと思います。

──それはTwitterや「斉藤さん」のような場所によっても違いを感じますか?
 
南雲 感じます。そんな人たちでもTwitterならTwitter、「斉藤さん」なら「斉藤さん」と、それぞれ所属する共同体によって振る舞いが違うんですよね。

──個人のあり方は、利用している場所によって規定されているということなのでしょうか?

南雲 そういうことですね。人のアイデンティティが所属する共同体ごとに存在していて自己一貫性を保つことが難しい、むしろ、こうあるべきという自己の存在は社会の空気に決定されている感じがします。そういう時代なのでしょう。
浅田彰 No.1
──南雲さんは、以前のご自身のブログで浅田彰さんの動画を乗せられていましたが、南雲さんには多重人格的な生き方をする人々が増えたこの時代をポストモダン的にとらえる発想があるように思います。

南雲 80年代は、もう工業製品が一巡され無駄を省き必要最低限の効率性を求め、今でいうAppleのような構造主義から、多機能や多品目となり息詰まってしまった。だからこそ、モノや文化に対する衝動性や偶然性が大事だという浅田先生のポストモダン論があって、今はそれが人々の意識や価値観の中で起きていると思っています。

今までは社会とか地元の自治体とか共同体に所属しなければならなかったけど、そこからは解放された。でも、いきなり「自立してくださいね」って言われてみんな戸惑っている時代だとも思っています(笑)。

人々を豊かにするのは最適解ではなくノイズ

南雲玲生さん3 ──こうした状況の下で、IT産業はどういう変化を遂げていくと思いますか?

南雲 そもそもIT産業の使命は、人々を豊かにしていくことです。今のIT産業ではIoTやロボットが注目されていますが、それらは手段でしかない。そうすると必要なのは最適解だけじゃないんですよ。

多くの人はトラブルとか苦労を重ねることによって豊かさを手に入れる。一度マイナスを経験することで、うまくいった時に成功を強く感じられるんですよね。

だけど、ITを使った最適化した生活をしているとその事に気づかない。だから、これからITは大変なこと、面倒なことや事件といったノイズも提供していくべきだと思うんです。でも、そうはならないんじゃないかな。

──具体的には、そのノイズとはどのようなものなんでしょうか。

南雲 例えば、90年代はクリエイターが面白いと思ったらすぐにつくっていたんです。でも、2000年代に入ってから、みんなまず机の上で考えちゃうんです。

そうすると最適解は出るけど、つくった時にこうじゃなかったという感じがない。それが、ノイズがないということです。

このノイズが成功につながる事が多い。だから、僕はまず何でもつくってプロトタイプを見てから判断をします。世の中に対する反抗心かな(笑)。

──そのようなノイズが成功へとつながった、という経験はどのようなことがありますか。

南雲 たくさんありますね。技術的にうまくいかなかったり、プログラム上乗り越えられないような問題がでたら、技術上の問題をクリアするのではなく、その欠点を企画にしてしまおうと考えています。実は「斉藤さん」もそうでした。

──コンテンツ産業としては、今後の展望はどうでしょうか。

南雲 今は、クリエイターも経営陣も最適解で動いていると思うんですよね。でも、ユーザーはエンターテインメントにノイズや無駄なモノを求めるんです。

そう考えた時に、VRみたいな技術面だけじゃなくて、ユーザーがどうやったら楽しい人生を送らせることができるのかなって考えればいい。しかし、今は決められた枠の中で考えている閉塞感を感じます。

──その閉塞感はどういうところから感じられますか?

南雲 僕はむしろ経営者側よりも、クリエイターとかプロデューサークラスの人が保守的になってしまっているのではないかと思います。

失敗は買ってでもしろ!

──これからを担う若いクリエイターたちに、心得やアドバイスがあればお願いできますか。

南雲 そうですね。今自分が苦労しているのか、ハッピーなのかって自分自身ではそもそもわからないということです。

自分たちの所属する共同体の友達とか他人とかと比較しないとダメなんですよ。クリエイターを目指して成長していこうとする時に自尊心が低下していると、人と比べて自分はダメだと思っちゃう。

そこで自分が自信を喪失したり、比べられなくなったら、1度落ちることです。落っこちると怖いんですけど、あとは上に上がるしかない。僕もユードーを立ち上げてから「斉藤さん」がヒットするまで、決死の思いで頑張った。

そうすれば、成長が自覚できるしハッピーなんですよね。苦労じゃなくて失敗は買ってでもしろってことです。一度マイナスにならないと自分の幸福がわからない。だから、あえて失ってしまうとか、やめちゃうとかでもいいんです。

──落ちた所からでも現代の環境でならば、また新しい成功への道が開かれると。

南雲 そう思います。そういう可能性は、どこにいてもぜんぜん変わらないと思います。
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南雲玲生 // なぐもれお

ゲームクリエイター

株式会社ユードー代表取締役。

コナミ在籍時に、音楽ゲーム「beatmania」シリーズの企画・作曲を担当しその名を知らしめた。

その後、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)での勤務を経て2003年にユードーを設立。2011年に同社からリリースされた電話アプリ「斉藤さん」は、1,400万ダウンロードを突破するほどの人気を博している。

南雲玲生

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