KAI-YOUインタビュー"今日マチ子"

マンガ家

今日マチ子

comic writer
──Machiko Kyo’s interview

炭酸水の底

マンガ家として数多くの連載を抱え、10月には初の作品集『炭酸水の底』を刊行された今日マチ子さん。1Pマンガを掲載するブログ「今日マチ子のセンネン画報」も更新する脅威の多作ぶりを発揮される今日さんに、マンガへの取り組み方についてお話をうかがいました。
「今日マチ子のセンネン画報」


Page1: 今日マチ子さん

──今日さんとマンガとの出会いからうかがっていきたいと思います。元々は美大に通われていたんですよね?

今日 そうですね。そこでは現代アートを中心に、みんなが様々なジャンルでの作品づくりをしていました。私は1年生の後半から、大学を卒業して社会人になって少しの間まで、ずっとイラストエッセイ形式のミニコミの発行を続けていました。大学に通い始めた時、電車で片道2時間半もあったので、その間で1枚を描き切って、駅を降りたすぐ隣のコンビニでコピーして、学校で配るということをやっていたのが始まりです。わりと評判が良かったので、そのまま何号かまとめて中野のタコシェさんで置いてもらったりしていました。

※当時今日さんが発行していたミニコミ誌『Juicy Fruits』。現在はタコシェでも手に入らないが、どうしても読みたい人は検索すれば……?

──社会人となってミニコミの発行も終えられたとのことですが、どんなお仕事をされていたんですか?

今日 本当は出版社の編集者になろうと思っていましたが、結果として就職できませんでした。自分ができることの中でお金を稼ぐために、学生の時からやっていたイラストレーターとライターを両方続けていました。そのうちイラストの仕事の方が多くなっていき、ライターはやめました。

──その後、マンガ家としてデビューされたわけですね。04年からは、今日さんは7年もブログで「今日マチ子のセンネン画報」という1Pマンガをひんぱんに更新されています。商業誌には必ず編集者がいますが、完全に編集の手が加えられない場所という違いは大きいものですか?

センネン画報2011/11/08「魚の夢」(「今日マチ子のセンネン画報」より)

今日 やっぱり担当編集者がいる作品は、一緒につくっているという気持ちがありますし、その人のキャラクターや個性を、作品に反映しないまでも私は観察するようにしています。多かれ少なかれ、一番はじめの読者はその担当編集ですから、読者代表としての担当編集が「この作品が好きだ」と言ってくれるようにつくるという方針は持っています。

ただ、「センネン画報」も、描きたいように描いているように見えるかもしれませんが、ある時期から「センネン画報」というイメージができているので、その枠組の中でそのイメージを利用したり崩したり展開したりという感じです。「人に喜んでもらいたい」というのがマンガをつくるひとつの動機なので、基本的には自分のやりたいようにやりつつも読者に喜ばれるようにやるというバランスをとっています。

Page2: 「○○○マンガ家」

──長くブログ連載を続けているため、「Webマンガ家」という見られ方をされる場合も多いのではないでしょうか?

今日 デビュー当時は「Webの人」というイメージがあったと思いますが、最近は雑誌連載の方が多くなって単行本の数も増えたので、あまりそういう見られ方はしなくなりました。ただ、今時「Web発」ってたくさんあるし、どうってこともないだろうなと(笑)。
みかこさん

──確かに最近ではWeb連載作品も増えていますが、例えば「モーニング」公式サイト上で連載されている「みかこさん」は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで提供されていることでも話題となりました。

今日 クリエイティブ・コモンズは私から希望して入れてもらいました。著作権の問題もありますが、基本的には、転用したいという人は悪意ではなくて善意からみんなに紹介したいという気持ちだと思うので、それは咎めるどころか広めて欲しいなという思いを、あの形で表明しました。Webで掲載する以上、ある程度、著作権の微妙な側面と向き合わなければならないのも仕方ないという気持ちもあります。

※最初の10話まで『モーニング』本誌でも掲載され、それ以降はWebのみでの連載という試みで開始された「みかこさん」さんは、著作権ルールを規定するクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが採用されている。「みかこさん」には、「クレジット表示」「非営利目的での利用のみ」「改変禁止」の条件内であれば、自由に作品を転載できる「CC BY-NC-ND 2.1」が適用されている。

──「ほぼ毎日」更新されている「センネン画報」も含め、今日さんはマンガ家としてはかなり多作ですが、その上アシスタントもいませんよね。

今日 私は人を使うのも仕事を断るのも苦手で、色々抱え込んでしまうんです(笑)。でも今は、できるだけ色んな可能性を試したいなという思いがあります。「叙情マンガ家」と言われはしますが、まだマンガを本業にして5年も経っていないので、もっと向いているものがあったり、より面白いことができるんじゃないかなと。

──そんな今日さんの1番好きなマンガを挙げるとしたら、何ですか?

今日 ポール・オースターの『シティ・オブ・グラス』をマンガ化したデビッド・マッズケリという人のコミックがあります。モノクロで、いわゆるアメコミとも違う作品。英米文学なので、非常にドライな印象です。いわゆるオチが用意されているような物語ではない描き方で、中学生の時に手にとって、とても影響を受けた作品です。

他には『キャンディ・キャンディ』や『ガラスの仮面』、『アラベスク』、大島弓子作品とか、友達の間で回ってきたものを読んで育ちました。中高ともに女子校だったので、女の子向けのマンガが回ってくることが多かったです。

Page3: 少女について

──今日さんは「少女性」をモチーフにされているという風に言われることがありますよね?

今日 そうですね。でも最近の日本人の作家さんは、ジャンルに限らずみんな女の子ばかり描いているような気がします。私は特別に「少女性」にはこだわっていません。一般的に描きやすいから少女をモチーフにしていると思いますが、私の中では意識的に、「痛み」を持つ存在であったり、もっと別の「永遠の象徴」として少女を描いています。
cocoon

──ひめゆり学徒隊を題材にした『cocoon』のあとがきで、「兵士たちが白い影なのは、少女時代の私が、潔癖さをつきつめるうちに、男性の存在がないようにふるまっていた思い出からです」と書かれていたのが印象的でした。

今日 『cocoon』では「少女性」というのもキーワードですが、戦争という側面から見た時、兵士を真っ白に描いたのは、顔のない人や見えない敵、戦争の得体の知れなさという意味合いの方が強かったですね。『cocoon』は読者には異色作に映ったかもしれませんが、自分の中では昔からずっと、残酷性や暴力性を描きたいという気持ちがありました。

──今日さんはアニメもご覧になるんですよね?

今日 そうですね、けれど夢中になると言うよりは、本当にいち視聴者というような感じで見ています。『化物語』や『魔法少女まどか☆マギカ』の絵も描かせていただいたり、『パンティー&ストッキングwithガーターベルト』も可愛いから好きで見ています。最近は『輪るピングドラム』をたまに見たりします。『まどマギ』も、絵が可愛いとか、女子同士の戦いから生まれる友情が面白いなと思って見ていました。批評的にどうこう、とかは考えませんね。
化物語(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

※TVアニメ版『化物語』第九話「なでこスネイク 其ノ壹」のエンドカード(EDの後に表示される、ゲストクリエイターによるキャラクターたちの描き下ろし作品)担当/『ユリイカ 2011年11月臨時増刊号』「総特集†魔法少女まどか☆マギカ 魔法少女に花束を」に収録の「~私たちの魔法少女 トリビュート・イラストギャラリー~」参加

──今日さん自身はジャンルとしての「百合」へのこだわりはありますか?

今日 特に意識したことはないですね。そもそも「百合」を描いたこともないし……。『センネン画報』は、それこそレイモン・ペイネ的な、永遠の恋人としてずっとくるくる回っている男女という感じだし、『cocoon』はいわゆる女子校的な、恋愛にまではいかないけれど同性同士の強い絆を意識しました。『みかこさん』は普通の高校生の恋愛がテーマ、という風に、作品によって変えています。

Page4: 表現の器

──ミニコミや商業誌、Webなど、様々な媒体で描き分ける際の意識は違いますか?

今日 描きたいことはもちろんありますが、表現をする時に、器の方を先に考える癖があります。ブログだと1Pが最適な大きさであるとか、Twitterだと一文に一枚の画像が丁度いいとか、いわゆるマンガ誌であれば16Pなどの単位で構想を練るとか、いつもそういう風に考えています。

──器のスケールですか?

今日 そのスケールで、最も活かせる方法を考えます。例えばモノクロ24Pは、週刊マンガ誌のサイズであれば活きるものですが、それをWebでやってしまうと、まだるっこしく思えてしまう。Webにはライトな表現の方が合うと思います。逆に、マンガ誌でそういうライトさを採用しても、描き込み不足という感じになってしまうので、そういった点には気をつけて描き分けていますね。

──マンガ以外のご活動では、読者に向けたイベントも開催されていますよね?

今日 作品がそういう機会を必要としていれば開催します。先日は阿佐ヶ谷Loft Aで宇多丸さん、福田里香さんと対談という『cocoon』のイベントでした。『cocoon』には色々な見方ができるので、語る要素がいっぱいある。ああいう場所にくるのは読んだこと以上に、さらに深く知りたいと思っている方々なので、作品の背景や裏話をしたいと思います。『センネン画報』の時は、ワークショップもやりました。それも、Webマンガ作品のリズムやコマ割りの仕組みなどを知ってもらうという目的でした。

12月にはマンガを編集から読みとく講座を企画しています。私が語るのではなくて、私の担当編集が今日マチ子を語るという、私の中ではリミックスみたいな感覚です。『みかこさん』の担当者、今日マチ子『cocoon』の担当者、『炭酸水の底』の担当者に出演してもらって、各担当編集によってこれだけつくり方が違うとか、仕事の進め方の違いなどを話してもらいます。

※「マチ子サロン」と題された、ワークショップやトークセッションなどが、現在4回まで開催されている。2011年12月11日(日)には、マチ子サロンvol.5「編集ちゃんと担当くん」と題されたトークセッション「今日マチ子のつくり方〜編集からよむ逆引き漫画トーク〜」が開催される

──今年10月に出版された『炭酸水の底』は初の作品集ということで、何かしらの転機という側面はありますか?

今日 いえ、単純に作品が溜まったから出しただけです(笑)。装画や単発のイラスト、マンガなど今まで描き散らしたものが多かったので、そろそろまとめたいなと思いました。最終的には「炭酸水の底」というテーマに相応しいものだけを収録していて、手に取った方に大事にとっておいてもらえるようにしたかったので、理想の形に収まって良かったです。また3・4年後に次が出せればいいなと思っています。けれど、テイストが違う作品など、載せられなかった作品も沢山あります。いつか「裏ベスト」をつくれれば面白いかもしれませんね。

※『炭酸水の底』は、『センネン画報』『cocoon』も手掛けたデザイナーの川名潤さんが、作品選びと並べ方をディレクションしている。ちなみに弊誌『界遊004』収録の「のびたさんおやつよ」も、一部抜粋・加筆の上でカラーで再録されている。

Page5: マンガとの付き合い

──マンガを描く上で、一番大事にされていることをお聞きしてもいいですか?

今日 なんだろう……まず第一に締め切りを守らなきゃいけない。でも、本当にそれは大事なことです。美大では、締め切りがないも同然のゆったりとしたスケジュールが多かったんです。一応課題の提出日はありますが、本当に自分のテーマを追いかけていくと、期限なんてないようなもので、締りのない毎日になってしまう。きつくても締め切りがあることで、そこに向かって毎日短距離走をやっているような、そんな感じの集中力は持つことができると思う。時間の制約というものを商業誌の弊害と見る人もいますが、むしろ私はそれがあるからやっていけていると感じます。

──ではマンガを描くリズム、一日のサイクルは大体決められているんでしょうか?

今日 サイクルも何もなく、もうひたすら追いまくられています(笑)。原稿を進める間にも電話やメールがくるので、それに対して必死で対処して夜まで続けています。ただ、必ず1日30分湯船につかることと、週2回ちゃんと運動をすることは守ってやっていますね。「この原稿つらい」という時は全く関係ないラクガキをして発散しています。ある原稿を描き終わったら、2・3時間は完成の喜びに浸っていられるんです。けれど、その後はだんだん不安になってきて、何かを描かないといけない強迫観念に追われてます。仕事の原稿の合間に自主原稿を描いたりして、絵のストレスは絵で晴らす。完全に「業」のようになっていますが(笑)。

ときには徹夜もしますが、体力的にそんなに徹夜って続けられるものでもないですよね。1年に1回くらい、ここだけは外せないという時には2徹3徹をしても構わないんですが、週刊連載もあるので、できるだけ負担を分散させるようにしています。本気で燃え尽きてしまうとその後が続かないので、気持ち良く寝られるぐらいの、ダメにならない程度に頑張る。無理をすると結局誰の何のためにもならないので、そうはならないように調整しています。
センネン画報2011/11/16「一人だとさすきしないわ」(「今日マチ子のセンネン画報」より)

──ひたすらマンガに打ち込まれているイメージの今日さんが、以前「マンガはそこまで読まない」とインタビューで答えられていて、とても意外でした。

今日 「マンガ読み」を名乗れるほどの量ではないという意味です。いわゆる普通の人のマンガの読書量くらいです。「でした」かな? 今は掲載誌も増えて、どうしても読まざるを得ない状況もあります。もちろん、良い作品に出会うと心から「マンガは素晴らしい!」と思いますし、表現方法としてのマンガは大好きです。

──今日さんの好きなマンガという表現方法の持つ独自性は何でしょうか?

今日 軽さ、でしょうか。美術や現代アートとは違う自由さがあります。一応私もアートを学ぶ学科出身ですが、それよりもマンガの方が面白いと感じる気持ちは確かにある。逆にマンガを現代アートとして捉えるような動きもありますが、それとも違う意味で、人への影響力とか、普遍性や大衆性など、構えなくても感動できたり共有できるものが、マンガにはあると思っています。

──最後に、今後の目標はありますか?

今日 多くの人に喜んでもらえることと自分のやりたいこととを、上手くバランスをとれるように意識していきたい。マンガ家を名乗る以上、良いマンガ作品を残すということが第一なので、ただただ良いマンガを描きたいという、それに尽きます。『センネン画報』も、必ず終わるときは来るので、次はどういう媒体にどういう作品を載せられるかを考えるのも楽しみ。

──テーマを描きながら読者を楽しませることに向き合っていく、ということですよね。お話をうかがっていて、今日さんは「作品の多面性」を大事にされているのだと感じました。

今日 多面性と言っていいのか、多少わかりにくい表現をしてしまうのが私の癖なのかもしれないですね。でも、一つだけはっきりしているのは、人によって受けとり方が違うということを、私は「良し」としてマンガを描いています。例えば「みかこさん」を連載していて毎回感想がきますが、「今回は切なかった」とか「許せない」とか、様々な反応があります。それは正しい。現実の世界でも、一つの出来事やシーンがあったとしても、色んな見方がある。そういうことを伝えられたらいいなと思います。ただ、あまりにも茫洋とした表現を使うと「何を言っているんだ」ということになるので、さじ加減は意識して、「ここは悲しいのかもね……」くらいのことは言わなきゃいけないとは思いますけど(笑)。

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今日マチ子
漫画家。東京都出身。東京藝術大学美術学部卒。ブログ「今日マチ子のセンネン画報」をほぼ毎日更新中。2006・07・10年文化庁メディア芸術祭「審査委員会推薦作品」に選出。著書に『みかこさん』(講談社)、『100番めの羊』(廣済堂出版)、『センネン画報』(太田出版)、『かことみらい』(祥伝社)など。連載作品は「みかこさん」(「モーニング」公式サイト)、「アノネ、」(『Eleganceイブ』)、「みつあみの神様」(『ジャンプ改』)など多数。

「今日マチ子のセンネン画報」

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