ナユタン星人&「初音ミク」ライブプロデューサーが語るVRライブの“侵略計画”

ナユタン星人&「初音ミク」ライブプロデューサーが語るVRライブの“侵略計画”
ナユタン星人&「初音ミク」ライブプロデューサーが語るVRライブの“侵略計画”

イラスト:ろるあ / 𝙍𝙤𝙡𝙪𝙖

POPなポイントを3行で

  • ナユタン星人&「初音ミク」ライブプロデューサー・関本亮二Wインタビュー
  • 「初音ミク GALAXY LIVE 2020」にかける両者の思いとは?
  • 「はじめは異質扱いだったけど、今は受け入れられてきている」
はじめは異質扱いだったけど、今は世界に受け入れられてきている」。これはボカロP・ナユタン星人さんの言葉だ。

それは、「ナユタン星人」自身を形容した言葉でもあり、2007年に登場した初音ミクをふくむボーカロイド、さらには新たなネットカルチャーとして隆盛したバーチャルYouTuberにも当てはまる言葉だろう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るった最近では、多くのイベントがバーチャル開催になるなど、仮想空間は新たなエンターテイメントの受け皿として重要度を増している。

そんなさなか、9月26日(土)と27日(日)の2日間にかけて開催されるのが、初音ミクの単独バーチャルライブ「初音ミク GALAXY LIVE 2020」。

本ライブはアプリ「INSPIX LIVE」(インスピクスライブ) 上にて開催され、バーチャル空間ならではのライブ演出を誰でも手軽にスマートフォンで楽しむことができるのが一つの特徴だ。

入場は無料。ライブの「あと」で募金をするという料金システム「ポストプライシング」が導入され、参加者はライブを体験した後で自ら「値決め」を行うことができるというユニークな試みとなっている。

初音ミク GALAXY LIVE 2020

「初音ミク GALAXY LIVE 2020」はスマホから入場無料という気軽さはもちろん、初音ミクの定番フェスである「マジカルミライ」のようなリアルライブとも異なる単独バーチャルライブという点でも、ボカロカルチャーにとって見逃せないイベントになるはずだ。

テーマソング「水色侵略」を手がけたのは、地球の“侵略計画”を目論む宇宙人ボカロP・ナユタン星人さん。3年前、初音ミク10周年に合わせてリリースされた「リバースユニバース」以来のミク愛を爆発させたと語るとおり、このテーマソングは彼自身にとっても重要な位置を占めている。

最前線をひた走るクリエイターの目に、現在のボカロシーンはどのように映るのか。ナユタン星人さんと、「初音ミク GALAXY LIVE 2020」ライブプロデューサー・関本亮二さんへのインタビューを通して、バーチャルYouTuberたちのバーチャルライブともこれまでの初音ミクのリアルライブとも違う「初音ミク GALAXY LIVE 2020」ならではの魅力を紹介したい。

取材・文:ゆがみん 編集:森田将輝

この依頼を受けるかどうか、すごく悩みました

ナユタン星人さん

──今回楽曲制作の依頼を受けた際はどのような気持ちでしたか?

ナユタン星人 ものすごく本音で語ると、初めはこの依頼を受けるかどうかすごく悩みました

これまでボカロライブのテーマソング的なものを担当したことがなく、初めてやるならやっぱりミクファンとして憧れであり王道でもある「マジカルミライ」のライブテーマソングがいいな、積年のミク愛を爆発させたライブで盛り上がる「ザ・マジカルミライな曲」をドドンとつくりたいな、と考えていたからです。

というか「そろそろマジミラの依頼くるんじゃないかな…? チラッチラッ…」と思っていたところに今回の話がきました。

なので最初は「いつかのマジミラのために断ろうかな…」とか「このバーチャルライブの曲は普通にノリノリな曲をつくって、ミクへの愛はマジミラ曲までとっとこうかな…」と葛藤していました。

ところが、ライブのプロデュースをするクリプトンの関本さんや、バーチャルライブをつくる(「INSPIX LIVE」を運営する)パルスさんと直接話をしてみると、両者ともぼくの想像以上に、ものすごく熱い想いをもってこのバーチャルライブをつくろうとしてることが分かりました。

特に、「今までなかったモノ、まだまだ一般に受け入れられていないボカロのライブやVRのライブを、これからの当たり前になるくらいの意気込みでつくろう」という想いが話を通して伝わってきました。 振り返ってみると、ナユタン星人として活動を始めた2015年当時のボカロシーンは「厨二・思春期な歌詞、高速な曲、歌詞が動きまくる豪華な動画」が流行りきって過度期を迎えたような印象がありました。

そこで、じゃあ自分は逆に「ヘンテコな歌詞、ゆるいリズムの曲、シンプルな動画」をやってみても面白いんじゃないか、というところから「アンドロメダアンドロメダ」を投稿し活動を始めました。

王道とは真逆のスタイルだったので、初めは異質がられてボカロファンからも警戒されてるなと感じていたんですが、曲を出すごとに少しずつスキと言ってくれる方が増えてきて、いつしかボカロシーン自体のトレンドも、軽くてノリが良い感じのシンプルな方に寄っていきました。

そう考えると、「マジカルミライ」という"王道"のボカロライブとは違って、はじめは受け入れられないかもしれないけど、これから「みんなの当たり前」になっていこうとする熱を持ったこのバーチャルライブのテーマソングを作曲することは、ナユタン星人らしくて面白いんじゃないかと。

むしろ「マジカルミライ」よりもミライで盛り上がって、リアルライブよりもリアルな熱をもって、このテーマソングがいつか「マジカルミライ」まで"侵略"してしまうような、そんな曲を目指してつくろうと思いました。というか、そんな曲はこのバーチャルライブでしかつくれないなと思い、ありったけのミクやライブへの想いを詰めた「水色侵略」を考えました。
ナユタン星人 - 水色侵略 (ft.初音ミク)
──初音ミクの、さらにバーチャルライブのテーマソングという立ち位置はかなり特殊なもののように思います。そんな「水色侵略」だからこその、意識された点や苦労したことはありますか?「初音ミク GALAXY LIVE 2020」のキーワードでもある「ギャラクシー(銀河系)」をはじめ、宇宙やSFといったテーマはナユタン星人さんにとっても重要なテーマではないかと思います。

ナユタン星人 「水色侵略」をつくる前は「気合入れて色々詰め込むぶん、苦労するかな」と考えてました。

でも「はじめは異質がられていたけど、今は世界に受け入れられてきている」というストーリーを浮かべたとき、それはボカロも初音ミクも、そのファンも、VRという技術も、そしてぼく自身にも通じるところがあって、それぞれが持つ「もっと広げたい」という想いを「侵略」と表現することですべてのテーマが一つに重なったので、驚くほどスラスラとつくることができました

これはボカロやVRに限らず、個人のスキが細分化している今、何かを推したり好きになったことのある人ならわりと誰もが経験あるんじゃないかとも思います。

「この自分のスキは、まだ世界には受け入れられてないかもしれないけど、それでもスキだ!」という気持ちとか、その小さなスキが集合して大きくなるうちにいつのまにか世界に広がっていくという希望とか。そういう部分で、ミクやバーチャルライブのテーマソングでありながら、それにとどまらず広く多重的に意味をもった曲になってると思います

──ナユタン星人さんの掲げる「侵略」というテーマと今回のライブのテーマが重なったわけですね。では、制作の際にこだわったポイントは?

ナユタン星人 ぼくはどの曲でもよくやりますが、今回は特に言葉遊びとか音楽面での遊びをたくさん入れてます。

言葉遊びをひとつ挙げるなら例えば、「誰も知らない歌声が01コ 『君』に届いて命がふたつ それが伝播し三想交流 やがて世界はQから先へ」という数字を絡めた歌詞があります。

ここの数字の書体を01(アラビア数字)→ふたつ(ひらがな)→三(漢数字)→Q(アルファベット)と全てバラバラの文字形式にすることで、文字の関係性だけで変化と多様性、広がりを表現してみようとやってみたり、その2番はまた少し変えて別の意味を持たせてみたり…みたいな遊び方をしてます。

他にもたくさん言葉遊びを入れてます。音楽面でも色んなネタを散りばめているので、聴きながら色々探してみてもらいたいです。

このライブの公式イラストレーターであるのうさんと色々話し合いをしながら描き上げていただいたMVイラストにも、いろんな意味が散りばめられているので、良ければ動画も合わせてみてくれたら嬉しいです。

ナユタン星人がみる2020年のボカロシーン

──「水色侵略」は、2017年発表の「リバースユニバース」以来のミク愛を爆発させたとおっしゃる通り、随所にボカロソングへのリスペクトを散りばめられています。その当時と今とで、初音ミクやボカロソングへの思いや環境に変化などはありましたか?

ナユタン星人 十数年前からずっとミクやボカロが好きなので、「リバースユニバース」をつくった3年前と今とでも想いに変化はありません。

このふたつのミク曲は、同じ想いのまま視点の角度だけが違っています。「リバースユニバース」はミクさんの10年に、自分なりのバースデーソングとして"これまで"に焦点をあててつくりました。「水色侵略」はミクさんや、ファンや、自分や、それを囲む世界を含んだ広い意味で"今"という視点でつくっています。

──その「リバースユニバース」はハチさん(米津玄師さん)の「砂の惑星」へのアンサーソングと言われていますよね。

ナユタン星人 実は「リバースユニバース」は「砂の惑星」より先に完成していたので、正確にいうとアンサーソングではありません。投稿の少し前に砂の惑星が発表されて、それを聴いて、CD版から歌詞の一部だけ急遽改変して投稿した、という流れになります。
ナユタン星人 - リバースユニバース (ft.初音ミク)
──「砂の惑星」はボカロ界を風刺した楽曲という見方が強いです。「水色侵略」を広い意味で"今"という視点で制作されたとのことですが、シーンの最前線を走るナユタン星人さんは2020年のボカロシーンをどのように見ていますか?

ナユタン星人 ボカロを使った曲こそ当時ほど聴かれなくなったものの、メインの音楽シーン自体がボカロクリエイター出身の人がたくさん活躍していて、ボカロ音楽のDNAを持つ曲がシーンのスタンダードになってる感じですごく楽しいです。いい曲ばかりで最高です。

「ボカロの音源が聴かれなくなって、人間ボーカルがメインになってきた」ということもよく言われてますが、ぼくはそれもとくに悲観していません。

そもそもボカロが人気になったのは、当時TVで流れるような音楽のメインストリームが寡占的で商業的になりすぎて「つまらなくなったなあ」と感じる若者が多くなっていたところに、ネットで自由に曲を出せるボカロという文化の多様的な音楽の珍しさや面白さが刺さったんじゃないかなと個人的には考えています。

今は逆にメインの音楽自体がボカロクリエイターやネット発のクリエイターによって十分面白くなっているので、その役割を担っていたボカロが落ち着いているんじゃないかと思います。

ですが当然、メインというのは人が集まってどうしても触れる機会が増えるにつれ成熟してくるので、そうなれば今度はまた、メインにはない魅力のあるボカロの役割がそのうち再注目されるんじゃないかと思っています。

──では、注目しているボカロPさんはいらっしゃいますか?

ナユタン星人 最近のボカロ全体のHIPHOPやシティポップ、ダウナーなオルタナの要素を取り入れつつ歌謡のメロやボカロ的リズムでキャッチーさも混ぜたような雰囲気はとてつもなく自分好みです。

なので好きだと思ったものは満遍なくたくさん聴いています。中でもYOASOBI含めAyaseさんや、くじらさんの曲は個人的にめっちゃストライクで、新曲がでたらすぐ聴いてます。

自由自在に操る「バズる度」メーター

ミライトミライ/ミライアカリ【オリジナル曲】
──現在のバーチャルライブの主流というと、バーチャルYouTuberが挙げられます。ナユタン星人さんはこれまでミライアカリさんや富士葵さんらにも楽曲提供をされていますよね。ボカロソングをつくるのと、バーチャルYouTuberに楽曲提供するのとで、制作上の違いなどはありますか?

ナユタン星人 ボカロ曲をつくるときはベースに「自分が好きな曲」があって、そこから「みんなが好きな音楽」だったり「みんなに提案したい音楽」だったり「自己満足な音楽」だったりの要素を気分で好きにチョイスしていくので、基本的には自由につくってます。

バーチャルYouTuberさんに限らずほかの人に書き下ろしをするときも「自分が好きな曲」は絶対条件として変わりません。

ただ、そこに「①その人がぼくに頼んでよかったと思える曲」「②その人のファンが喜んでくれる曲」「③その人を知らない人にも音楽だけでその人の魅力を伝えられる曲」という3つの条件を付け加えて作曲しています。

ナユタン星人らしすぎる曲だったらその人のためにつくる意味がないし、その人に寄せきった曲ならぼくがつくる意味がないので、「その人と自分のコラボだからできた曲」が生まれるように心掛けてつくっています。

なので、つくる前にその人のことを調べまくったり、ヒアリングをしたりという工程を踏んでいます。普段より達成すべき条件が増えるので当然作曲の難易度があがりますが、それだけ普段と違った楽しさも感じられます。
【MMD公開】太陽系デスコ/ときのそら【歌ってMMDで踊ってみた】
──ナユタン星人さんの楽曲で多くのバーチャルYouTuberが「歌ってみた」動画を投稿しています。ご自身でもそのような動画は視聴されますか?

ナユタン星人 自分の2次創作をみるのが好きなので、目に入ったものは結構聴いてます。バーチャルYouTuberさんの「歌ってみた」はオリジナルで動画を用意していて、その技術がすごいやつも多くてかなり楽しませてもらってます。

──バーチャルYouTuberで注目している方はいらっしゃいますか?

ナユタン星人 普段はゲームのライブ配信を見るのが多いです。最近は兎田ぺこらさんとか好きでよくみているのですが、ぼくがつくった「ディスコミュ星人」を歌っているのを発見して嬉しかったです。

音楽方面でいうと、カンザキイオリさんなどが作曲で参加しているKAMITSUBAKI STUDIOの方々は、集まっているクリエイターさんも含めすごく好きで面白いのでよく聴いてます。

──バーチャルYouTuber以外にも、Eveさんとの「惑星ループ」や、ナナヲアカリさん「チューリングラブ feat.Sou」など、ナユタン星人さんが手がけた楽曲は「踊ってみた」という形で、ボカロファンに留まらない層にYouTubeやTikTokで受け入れられています。楽曲の広まりについてはどのようにお考えでしょうか?

ナユタン星人 宇宙人であるぼくは地球人の趣味嗜好を完全に理解し解明しているので、曲をつくるときに「バズる度」メーターを少なめに調節してつくれば隠れた名曲に、多めに調節すれば自由自在にバズらせられます。……というのは冗談で、メーターとまではいきませんが、ぼくは曲をつくるときはいつも「この曲はこういう反応、こういう広がり方する曲にしたいな」と目標を決めてつくります。

そしてその狙い通りの反応が世間から返ってくると興奮する、という特殊な性癖をもってます。「惑星ループ」も「チューリングラブ」もどちらも「多くの人に広がって、長く楽しんでくれるような曲にしたいな」と思ってつくって、リリースしたらその通りになったので今は興奮してます。

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