コロナ禍とネット配信の現在 DJバー MOGRA店長が発する「MU2020」と未来への視座

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MOGRA代表・D-YAMAさんインタビュー

POPなポイントを3行で

  • DJバー・MOGRA代表/店長のD-YAMAインタビュー
  • コロナ禍の影響と「Music Unity 2020」成立の背景
  • 日本のクラブシーンと配信との相性、その現在地
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による影響で、さまざまなイベントが中止を余儀なくされている。

外出自粛による経済の停滞は、外食産業や小売業などイベントスペース以外の業種にも深刻な影響を与えている。

そんな中で開催されたのが全国の音楽拠点が協力して開催するストリーミングフェス「Music Unity 2020」だ。 エンタメだけでなく経営に苦しむ他業種も巻き込んだ新たな試みのストリーミングイベント」を掲げるこのイベントは4月4日に第1回、その2週間後の18日は早くも第2回が開催され、どちらも同時視聴者数1万人を突破する賑わいをみせた。 主催するのは東京・秋葉原のDJバー・MOGRA。2019年8月に株式会社モグラとして独立を発表、過去最大規模を予告していた「あきねっと2020」を延期するなど、MOGRAも渦中の真っ只中にあった。

「Music Unity 2020」の舞台裏にはどのような背景があるのか。今回、仕掛け人である株式会社モグラ代表/MOGRA店長のD-YAMAさんへメールインタビューを敢行。

新型コロナウィルス影響下にある経営者として、クラブシーンの最前線に立ち続けてきたDJとして、積極的にネット配信に取り組んできた店長として話を聞いた。

MOGRA独立とコロナウィルスの影響

──2019年8月の10周年で株式会社モグラとして独立されました。改めて独立以降の活動と新型コロナウィルスの影響について聞かせてください

D-YAMA 独立発表は2019年8月でしたが、実際には同年の5月に法人を設立していました。

当初の予定では1期目でしっかり地盤を固め、2期目からは新規事業への取り組みなども検討していました。新規事業という意味では、外部会場でのイベント制作にも本腰を入れる予定で「あきねっと2020」もその一環でした。

「あきねっと2020」の開催については発表した通り、新型コロナウィルスの影響が収まるまでは無期限の開催延期という形を取らせていただきました。非常に残念ではありますが、現在自分たちが置かれている状況を考えれば当然の判断だと思っています。

現在のMOGRAのスケジュールページを2019年と見比べていただければ一目でわかる通り、新型コロナウィルスが弊社に与えた影響は大きいです。

ただ、被害者は自分たちだけではなく世界中が同じ、もしかするとそれよりもひどい状況の業種や企業もあるかと思います。「自分たちだけが被害者」のような気持ちを持ちたくないので、ここについてはこれ以上の言及を控えさせてください。

──独立当時の取材(関連記事)では、独自部隊の立ち位置だったMOGRAの「楽しいことを本気でやる、本気でできる人たちで遊ぶ場」という思想は変わらないと回答されています。今振り返って、独立後の活動にそれまでと変化はありましたか?

D-YAMA 思想はまったく変わらないですね。むしろそれ以上に増したと思います。さらに言えば現在は決裁権がすべて自分にあるのと、有能な社員を新たに抱えたこともあって業績はかなり良くなりました。

MOGRAが立ち上げた「Music Unity 2020」

──2回開催された「Music Unity 2020」の反省点があれば教えてください。また、1回目の反省点を2回目でどう克服したのでしょうか?

D-YAMA 技術的な部分では反省点や改善点が多々ありますが、ここは企業秘密にさせてください。

反省というか課題なのですが、「Music Unity 2020」の基礎理念についての説明には毎回悩んでます。

配信っていうのはただ配信してれば盛り上がってお金が発生するものではないので、関わるクラブ・ライブハウスさんはもちろんのことアーティストさんにもしっかりこのことを理解してもらうのが重要なんです。

第1回のDÉ DÉ MOUSEチームの皆さんは電話2〜3回のやりとりにも関わらず、その点完璧でさすがだなと感動しました。 D-YAMA 新規参加の店舗や団体への説明にかかる人的・時間的コストをどうにかしたいんですが解決策は説明する以外ないので、ここのコストをカットするために今後はクラブ/ライブハウスさんの「Music Unity 2020」への関わり方を変えていく必要があると思ってます。

そもそも日本の既存クラブシーン(に限らず音楽シーン全体に言えるかも)とインターネットの相性が今見ている限り抜群に悪いので、ある程度見切りはつける必要があるなと思います。

──第1回の2週間後という異例の早さで第2回が開催されました。第1回も概要書ができてから1週間で開催したとうかがっていますが(外部リンク)、第1回の時点で第2回に向けて動き出していたのでしょうか?

D-YAMA 本当は第1回目の翌週に第2回を開催しようと考えていたんですが、出演可能なアーティスト、参加可能なクラブ・ライブハウス、そして協力いただける他業種の事業者さんの調整が間に合わず、開催を1週間後ろ倒しにしたという経緯があります。

これは先述した通り新規参加のチームへの説明にかかる人的・時間的コストも1つの要因なのですが、初回の結果を受けて「あ、これもう適当な感じでやれないやつだな」という気持ちもあって企画の練り直しに時間がかかりました(笑)。

──「エンタメだけでなく経営に苦しむ他業種も巻き込む」ことを掲げてさまざまな企業と協力していますが、協力企業はどのように選んでいるんでしょうか?

D-YAMA 業種や業態で限定はしていませんが「スピード感」「一緒にふざけてくれるか」の2点を重要視してます。

あくまで「Music Unity 2020」はエンタメなので、薄暗い雰囲気とか政治的思想は一切排除して、楽しく明るくやることを目的にしています。要するにMOGRAと仲良くやってくれることが選定の基準になっています。

その上でMOGRAや「Music Unity 2020」と関わることのストーリー性、関連性が重要になっています。たとえば、うちがいきなりサッカー関連のグッズを売りはじめたらみんな戸惑うじゃないですか。

それと資金協力を名乗り出てくれる団体や企業さんもいるんですが、その対価でこちらのコンテンツに影響が出る場合は申し訳ないですがお断りしている状況です。

クラブシーンとネット配信の現在地

──2017年からTwitchで海外への発信を目的にライブ配信を継続されていました。「Music Unity 2020」への海外からの反応はいかがでしょうか?

D-YAMA 趣旨のとおり基本的に国内ユーザーへ向けた配信企画なので海外からの反応はあまりありません。

とは言っても0ではなく、もともとMOGRAのフォロワーの海外ファンがとても多くいるのでその皆さんは見てくれてますね。第2回のユニーク数でいうと1万951名なのですが、そのうちの10%は国外からの視聴でした。

──MOGRAはネット配信でクラブカルチャーとオタクカルチャーについて積極的に発信してきましたよね。オープンからの店長として、現場に立つDJとしてこれらのカルチャーを取り巻く環境はどう変わったと感じていますか?

D-YAMA MOGRAでは2009年からUstreamを使用して場内の様子を配信し続けてきました。

その後Twitchへ移行しましたが、イベントの配信はプロモーションとして成立するようになり、MOGRAのチャンネルに登場するDJたちはロサンゼルスのANIME EXPOやデュッセルドルフのDoKomiなど海外の数万人規模のコンベンションのアフターパーティーへ出演するようになりました。

現場の価値がさらに高いものになり、MOGRA自体も来場者数を増やし続け、今では「Music Unity 2020」に繋がるなど配信とMOGRAは切っても切れない関係となりました。

一方でクラブカルチャーと配信はどうかと言うと、2009年以前から今日まで何も進展がなかったと思います。

これまで多くのクラブやライブハウスに関わる人たちが現場にこだわり続けてきた結果ですし、新型コロナウィルスの影響がなければ配信という手段を取らなくても良かったわけですから、これは誰が悪いわけでもないと思います。

──全国の、またアニクラに限らないさまざまな音楽拠点が参加していますが、どのように選定されているのでしょうか?

D-YAMA まず最初にMOGRAは「アニクラ」ではないことを明言させてください。アニソンもクラブミュージックも分け隔てなく楽しめる空間が秋葉原にあるだけですので、ここはご理解いただければと思います。

協力企業の選定についてでもお答えしましたが、「Music Unity 2020」ではMOGRAと一緒に楽しんでくれることが前提となります。内容によって譲歩し合うことが前提ですが、あまりにも非協力的な音楽拠点さんはお断りさせていただいてます。

ストリーミングで成立するDJプレイ

──DÉ DÉ MOUSEさんがベランダから配信されるなど音楽拠点に限らない場所から配信されましたが、配信設備や機材はどのように都合していますか?

D-YAMA 国内の状況がどう変わっていくか読めない以上、ミニマムの環境で配信を実現できることがマストになっています。

各自の環境をヒアリングした上で常にプランA、プランBを用意し、こちらで配信環境のサポートをしています。

技術部分については配信技研さんに協力していただいてますが、こちらも問い合わせが多い上に似たようなシステムで運用されると技研さんの仕事が減ってしまうので、詳細は非公開とさせてください。

──全国の各拠点からの映像を繋いで10時間配信するという形式にはかなりの技術的困難が想像できますが、どのように対応されたのでしょうか?

D-YAMA こちらについても技研さんの企業秘密ですので言及は控えさせてください(笑)。 ──第1回、第2回とも特に映像の部分でネット配信ならではの表現がありワクワクしました。各拠点と配信上の画作りについて、どの程度まで打ち合わせされていたんですか?

D-YAMA ありがとうございます。実はこれについてはまったく打ち合わせをしていません。

MOGRAからは各店舗さんに誰が出るか、どういう環境かの2点だけを確認したうえ、「2mix音声と映像を途切れさせない」をクリアしてれば基本的に問題ないとしています。 D-YAMA 「誰かが(やばいことを)仕掛けて来るだろうから負けないぞ」という暗黙の読み合いが功を奏してる気がします。ここについてはそれぞれのクラブやライブハウスとアーティストの信頼や関係性が現れてるなと思いました。

特に第2回のclubasia & LOUNGE NEOさんによるTEMPLIMEBatsuの演出はclubasiaの鈴木さん(スーさん)とアーティストが普段から連携をしっかり取れていることが顕著に現れていたかと思います。 D-YAMA 別の形ですがCircus Tokyoさんによるokadadaの時間はシンプルながら、okadadaというアーティストを120%理解したカメラアングルや演出だったかと思います。アーカイブを見直すたびに思いますがどちらも本当に脱帽ものでした。

「ストーリー性」と「事件性」を重視した「MU2020」

──「Music Unity 2020」は今まで配信されてきたイベントと違って、ネット限定の配信です。ご自身でもプレイされていましたが、DJとしてネット限定ならではの苦労や工夫があればお教えください。

D-YAMA 自分がDJであり経営者でありファンでもある多角的な視点からの意見になってしまうのですが、先ほどもお話しした通り、日本の既存クラブシーンとインターネットの相性が良いと思えないところですかね。

ぶっちゃけてしまえば、DJ配信って40分とか1時間とかユーザーが見続けられるコンテンツじゃないと思うんですよ。2分とか長ければ5分以上同じ曲が流れるし、DJ MIXってスムースな切り替えに魅力があったりするわけじゃないですか。

極めつけに大半の視聴者はクラブミュージックに対する(ジャンルやアーティストやレーベルなどの)基礎知識を持っていない。結果として「同じ画面で知らない曲がかかり続けている」ことにしかならないので、配信者がちょっと頑張っただけではお金を払う意味も生まれない。

今までの考え方から切り替えてストリーマーとしてDJをするという考えを持つ必要があると自分は思っています。ここに関しては言い切れないくらいの考えをもっているんですが、それはどこかで機会があればお話させてください。

とにかくこの前提を踏まえたうえで「Music Unity 2020」が心がけているのは「ストーリー性」「事件性」の2点です。この2点だけは配信とDJにおける共通項として間違いなく存在します。 ──最大同時視聴者1万人超えという数字はTwitchの国内配信では指折りのものです。この結果や収支についてどのように考えていますか?

D-YAMA これは各クラブ・ライブハウスさんをはじめアーティストの皆さんの力によるものだと思っています。「Music Unity 2020」以前に行なっていたMOGRA単体配信の最大同時視聴者アベレージが600〜1000人だったので、これは間違いないと思っています。

一方収支については少しシビアで、「Music Unity 2020」では投げ銭から利益をあげることを考えておらず、配信と絡めて商品の販売を行うことで収益を立てています。これはなぜかと言うと、現状配信に対して課金する文化が日本に根付いておらずマネタイズが難しいという背景があります。

「Music Unity 2020」の例を見ていただくと分かりやすいのですが、1万人の同時視聴者が配信に対して行なった投げ銭の総額を仮に300万円とすると、1人あたりの視聴者が払った金額は300円という計算になりますよね。実際は同時視聴者数ではなくユニーク数で計算することになるのでもっと低い金額になります。

これを客単価として設定してしまうと収益化ってまず無理なんです。ではチケット料金制にして配信するかというと、先述の通り”視聴者にとってのDJ配信への価値”と”提供する側の費用”が噛み合わないのでここは現実的ではない。

自分の考えでは投げ銭はあくまで投げ銭であり、払いたい人や払ってもいい人が払うものなので、これをあてにした商売はやりたくないんです。なので今はとにかく事例や情報を集めて、頭を使って新しい仕組みづくりをするほかないかなと。

──「Music Unity 2020」以降Twitchで配信するDJが増え、新しい文化が育ってると感じます。これについてはどう考えていますか?

D-YAMA 2010年頃に起こったUstreamのDJ配信ブームと既視感はありますが、今回は根底が違うし技術の進歩具合や状況も違いますよね。

今だからできる新しいことや楽しいことに気がつける人たちはどんどん挑戦して、自分たちの居場所をつくればいいと思います。MOGRAはそういった人たちに負けないようにしつつ、協力もしつつ楽しく競い合っていけたらなと思います。

あと1つだけ懸念があって「DJ配信はクラブや団体主体でないとしてはいけない」みたいな、前時代的な考えを持つ人たちが出てきたら本当に嫌だなと思ってます。気が向いたら配信できるのが良いところだと思っているので、そうならないことを願うばかりです。 ──最後に第3回以降の展望、そのほかにも実現に向けて動いている企画などがあれば教えてください。

D-YAMA 実は第3回に向けた動きは水面下でスタートしています。5月には開催予定ですのでお楽しみにしていただければと思います。

さらに5月2日にはMOGRA Twitchで「ANISON INDEX and MATRIX」を配信しました。こちらはMOGRAの看板イベントとして10年間続けてきた2色のイベントが合同でDJ配信を行うというものでした。 このようにMOGRAのTwitchでは「Music Unity 2020」とはまた違った試みも継続していく予定です。

そして配信に絡めた誰も真似できないようなフィジカルな企画も進行中です。こちらも遅くないうちにお知らせすると思いますので、楽しみにしていただければと思います。

カルチャーの場を守る動き

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