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エロの行方

──今のエロマンガは、様々な規制を受けて表現可能な枠が狭まっている印象もあります。昔のエロマンガと今とで、異なる点はありますか?
『エロマンガ・スタディーズ―「快楽装置」としての漫画入門』

2006年に発売された『エロマンガ・スタディーズ―「快楽装置」としての漫画入門』

永山 実は、表現としては、昔の方がソフトなんですよ。例えば16ページあったら、セックスシーンが2、3ページとかで、半分もあったら多いぐらいの配分でした。連載作品だったら、全くセックスが出てこない回もあった。そういう意味で、昔はアバウトで自由でしたね。読者側もがっつりセックスするマンガをそこまで露骨に求めてはいなかった。

けれど、時代は変わって、今はエロマンガにもノルマが存在し、例えば16ページのうち12ページはエロを入れてくださいと編集側から指示が出るようになったと聞きます。エロを増量すると短期的には数字が良いからです。だけど大体パターン化してしまうため、読者もやっぱり飽きてしまうんだと思います。

昔もやっぱり表現規制はありました。わいせつ物頒布等の罪は刑法175条 で規定されてはいますが、実際のところはその時の世間の感覚とか、表現規制を推進する団体の活動によって、ずいぶん左右されてしまうものです。

結局のところ、わいせつ性は個人の内面に関わる問題です。刑法175条にしても、表現の自由、内面の自由、そして憲法上にははっきり書かれてはいませんが、何かを楽しむ権利、これらを侵害しています。そのため、法学者の間では、刑法175条は違憲性が高いのではないかという議論もあります。児童ポルノは別にして、欧米の憲法は、日本とは違い、よほどのことがない限り自由を尊重していますよ。

──一方で、海外と比べても、なぜ日本の性風俗はここまで発展したのでしょうか?

永山 もともと日本の文化的背景がスケベなんですよ(笑)。昔は宿場ごとに売春宿があり、それから男娼、つまり男の子の体を売る茶屋もあった。それに、盆踊りの夜になると村中で乱交パーティーが起きて、あとで誰の子かわからないけど、この村の子だ、ということで収まってしまうような時代があった。

今では、そのような文化はほぼ死に絶えたでしょうね。そのきっかけは、明治維新下の日本が、先進国に野蛮な国だと思われるとかっこ悪い、国益にもならないと考え、そういった性風俗を含んだ伝統文化を廃した欧化政策が行われたことです。

また、子どもを特権化する動きも、欧米の産業革命の時に始まったそうです。貴重な労働力であるにも関わらず過酷な労働環境にさらされる子ども達を守ろうという法律が次々できて、児童ポルノ法もその延長にある。今の児童ポルノ法の世界的なすう勢としては、「子どもに見せない」「子どもを出さない」という二大原則があるそうですが、実はそれもたかだか200年ほどの歴史なんです。

──児童ポルノ法は守られるべきだと思いますが、一方でその法律を二次元の創作物にも適応させようとする動きに対して、今も反発が起きています。

永山 虚構を裁いて意味はあるのか、という疑問はありますね。別に(制作過程で)実在する子どもをモデルに使っているわけでもない。子どもをレイプする作品が犯罪を助長するという論理を持ち出されても、それではテレビで放送している定番ミステリーで起こる殺人描写は殺人を助長しないのか、という矛盾はあります。規制に関して、感情論としてはすごくわかる。わかるんだけど、あくまで創作上の架空のキャラクターですからね。

実際、ロリを題材にしたエロマンガの読者や作者の中には、恐らくペドファイル(小児愛者)の人もいるでしょう。ただ、それは確率の問題であって、エロマンガの読者に限らず、少数派は必ず一定数存在するものです。

そして、ほかの性的少数派であるゲイやレスビアンと同じく、ペドファイルであること自体は罪でも何でもない。ペドファイルの場合、欲望に忠実に行動したら犯罪になってしまいますが。

──ただ、特に近年、ロリコンコンテンツが支持されているように思いますが、その理由は何でしょうか?

永山 目立って見えるというだけで、ロリコン自体は根強く普遍的な嗜好だと思います。雑誌の種類や部数から言えば、他のエロコンテンツよりも圧倒的に少ないはずです。

ロリコン作品にはイコンイデアという性質があります。イコンは絵としての少女。イデアは概念としての少女性、処女性、小さくてかわいいという理念のようなものです。90年代以前のロリコンマンガには、イデアとしての少女性を追求したものが多かった。それが段々、絵的にかわいいイコンとしての魅力を重要視するような流れになっていきました。

──現在のメディアでは、活字より画像や動画が多く登場しますが、それがイデアよりイコンを優先させる要因、つまり、エロマンガにおいては性描写が増えた原因となっているのでしょうか?
永山薫さん

永山薫さん

永山 それも無関係ではないでしょうね。昔のロリコンマンガ家には、今よりも、キャラクターをしっかり立ててマンガを描く方が多かった。けれど、今はセックスシーンが多くなったことで、設定、ストーリー、キャラクターの幅が狭くなっている。セックスシーンのノルマを増やしている編集側も勘違いしていると思うんですが、セックスシーンのためだけにエロマンガを読む人はそこまで多くないし、そういう読者は結局長期的な消費者にはなってくれないでしょう。

──ただ、現在のエロマンガは、結局は短期的な数字のために直接的なエロを増やそうという風潮なんですよね。

永山 そうですね。実際、量的にも質的にもエロを盛り上げれば、確かに数字が出ます。というのも、マンガを読みたい読者がいる一方で、今晩どうしてもヌきたい読者も当然いるからです。80年代から両者はずーっと論争していますよ(笑)。

──結論は出るものなんですか?

永山 出ないでしょ(笑)!

国が認める!? エロマンガ

──永山さんが著書に、手塚治虫がエロマンガの元祖と書かれていました。昔は手塚作品も、悪書追放運動の対象でしたが、今では「マンガ家の神様」とされています。このような変化はどう起きたのでしょうか?

永山 今はあくまでも制度的な形で、成年コミックのマークを着けたものを仮にエロマンガと呼んでいるんだと思うんですけど、エロチックな表現はどんなマンガにだってあります。手塚治虫がエロマンガの元祖だと言うのも、エロ表現を含むマンガという意味なんです。

その手塚さんがいい作品をいっぱい描くことによって、マンガ自体の地位を上げていったのが大きいです。例えば戦前生まれの人たちの中には、「マンガはくだらない」という価値観をもっている人も多かったけれど、世間が徐々にマンガを受け入れていったという背景もあります。マンガで育った人たちが、子どもを持つ親になったことも影響しているでしょうね。

面白い話があって、明治大学の森川嘉一郎さんの持ちネタなんですが、文化庁が毎年表彰しているメディア芸術祭の大賞をとった歴代のマンガ家も、かなりの確率で過去にエロマンガを描いています。

そういう形でも、エロマンガを描いていた人たちがある意味社会的に認められてきています。エロマンガとしていい作品を描いてもなかなか認められないけれど、才能を見出されてエロではない作品を描いてようやく世間的に評価される、という状況にはなってしまっていますね。

エロマンガって、エロシーンのノルマを棚に上げれば、普通のマンガと比べたら自由な表現の場です。けれど、それはある意味ゲットー的な部分でもあるわけです。リザベーション(居留地)として、内部でだけは自由な権利を認められているけれど、外には通用しない。内部で頑張ることもできるけれど、評価も読者も、そこに閉じこもって内部で完結してしまう。だから外に出て、“一般の部”で頑張ってみようと。

──今後、エロマンガはどのような方向に進むとお考えでしょうか?

永山 マンガ全体の売上げが右肩下がりになっているので、やはり商業的には苦しい。けど、18禁マーク付きのものだけがエロマンガではない。一般のマンガ誌、青年誌、女性誌にもエロチックな作品はあるわけですから、エロマンガは総量的には変わらないんじゃないかと思います。

ただ、エロマンガ自体のジャンルはとても豊かになっているし、まだまだ何かしかけてやろう、新しい読者獲得しようと頑張っている人たちはいます。強い女の子ばかり出てくるドM向けのエロマンガ雑誌『Girls for M』みたいな、新しい需要を掘り起こそうとしている動きもある。
『Girls for M』

ドM向けの成人向けマンガ雑誌『Girls for M』

世の中的に男の立場が弱くなってきているんだったらそこを狙おうとするのは、ある意味すごく正しい。苦しい状況ではありますが、決して一般マンガに負けていないし、また何かやってくれるんじゃないかと思っています。エロマンガ業界は、結構しぶといので(笑)。
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永山 薫 // KAORU NAGAYAMA

漫画評論家、編集者、作家

1954年(昭和29)年大阪府生まれ。漫画評論家、編集者、作家。著書に本名の福本義裕名義で『殺人者の科学』(作品社)、長篇SF小説『アミューズメント・ボーイズ』(大陸書房)、永山薫名義の共著として『網状言論F改』(東浩紀編著/青土社)などがある。現在、ミニコミ誌『マンガ論争』の編集人を務め、漫画と表現規制、著作権、図書館、教育、ジェンダーなど漫画界と近接領域の取材・執筆を行う。

永山 薫

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