Interview

  • 2021.08.19

日本が生んだ成人向け漫画の可能性とは? 月100冊読んできた評論家が語る

日本が誇る「漫画」文化。中でも、あまり表立って語られることのないジャンルが「エロ漫画」こと成人向け漫画だ。

※本稿は、「KAI-YOU.net」にて2014年に配信された記事を再構成したもの

日本が生んだ成人向け漫画の可能性とは? 月100冊読んできた評論家が語る

クリエイター

この記事の制作者たち

誰しも、成人向け漫画というものを一度くらいは見かけたことがあるだろう。読んだこともあるかも知れない。

それが単なる娯楽品ではないこともご存知だろうか?

エロスとストーリーのせめぎ合い、そこから生まれた新しい表現──よく目を凝らせば、このジャンルの奥深さに圧倒されるだろう。

2006年、当時唯一の一般読者向けの成人向け漫画解説書として話題を呼んだ『エロマンガ・スタディーズ』は、そうした作品の奥行きに目を向けさせてくれる。

2014年4月に刊行された増補版では、さらに「性と政治」の関わりについて詳述された。

著者である永山薫が語る、成人向け漫画の長い歴史、さらには社会的位置付けの変化について。

目次

  1. 想像力の挑戦状 成人向け漫画の真髄
  2. 2次元の、デオドラントな側面
  3. 成人向け漫画は、新規読者を獲得できるか?
  4. 成人向け漫画には、特殊なノルマが存在する
  5. 国が認める!? 成人向け漫画

想像力の挑戦状 成人向け漫画の真髄

──永山さんが成人向け漫画に凝り始めたきっかけは何だったのでしょうか?

永山 1980年代中頃に、美少女系の成人向け漫画誌から書評の依頼があったんです。それ以前は一般書やマンガの書評を書いていたんですけど、もともと成人向け漫画が好きだったということもあり、面白そうだと思って始めました。

最初は月に10、20冊の単行本をレビューしましたが、最盛期には100冊を超えましたね。もちろん、全部が全部面白いわけではありませんでしたけど。

スタージョンの法則というのがあって、平たく言うと「どんなものでもその90%はダメだ」という意味なんですが、僕にとっての成人向け漫画も、100冊読んでそのうちの1、2割が面白いと思える作品でした。

──成人向け漫画とそうではない漫画をレビューすることに違いはありますか?

永山 私の場合はあまり変わりませんでした。ジャンルの特性としてのエロチックな表現には着目しますが、エロとして機能するかどうかは追求しません。基本的には面白いか面白くないかです。普通の漫画と同じく、ストーリーや演出、描写にも注目します。

キャラクターも立っていて、見た目的なフックとしてのアイキャッチをしっかりつくっているか。展開も面白くて、エロス面でも盛り上げていて、奇抜な構図や挑戦的なアングルで描いている、といった新鮮さがあるかどうか。

リアルだったり、リアルじゃないんだけど妄想力に長けた、例えば挿入状態の性器が横から見られる断面図とか、相手の目には見えないまま挿入される透明陰茎

さらに僕の命名ですが、同じシーンを様々な角度から捉えて、見開き2ページで構成する「マルチスクリーン・バロック」のような新しい表現を生み出しているかどうか。

優れた成人向け漫画には「想像力の中ではセックスはこう描くことができるんだ!」と気付く楽しさがあります。そういう工夫があると引き込まれますよね。

逆に、エロいものを描こうともせず、セックスシーンだけを厚くしてノルマをこなしているだけの作品は退屈ですね。

──特に印象に残っている漫画はありますか?

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