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現代人の中毒をラップした最新作『KOD』

そして、今年の4月末に発売された最新アルバム『KOD』において、J.Coleが取り組んだテーマは、現代人の中毒性という問題。

『KOD』というタイトルは3つの意味を表しています。

1つ目は「Kids on Drugs(ドラッグに溺れる子どもたち)」、2つ目は「King Overdosed(オーバードーズした王様)」、そして3つ目は「Kill Our Demons(俺たちの中にいる悪魔を殺せ)」です。

それぞれどういう意味なのでしょうか。

まず『KOD』では、お金やドラッグやスマートフォン、女性、アルコールといった様々な中毒が扱われます。「Kids on Drugs(ドラッグに溺れる子どもたち)」というのは、このように様々なものに中毒になっている人たちを示しています。

たとえば、「ATM」ではお金に取り憑かれた人間の姿が歌われます。

I want it in physical
A million dollars, I count up in intervals
Without it I'm miserable
Don't wanna fall off so I'm all in my bag

【意訳】
俺は現物の現金が欲しい
100万ドルをインターバルの間に数えあげる
お金がなけりゃ、俺は惨めなんだ
落ちぶれたくはない、だから俺はこれに夢中 J.Cole - “ATM”

また、「Once an Addict (Interlude)」では、母親がアルコール中毒に陥っていたときの様子が歌われています。

ここでは、J.Coleも家庭での居心地の悪さから大麻に手を出している様子が描かれており、家庭環境の悪循環を見てとることができます。

Lost in a cloud of marijuana
Young Carolina nigga, fish out of water
Step-daddy just had a daughter with another woman
Mama ain't recover yet
Callin' me at 12 at night
She drunk as fuck and I'm upset

【意訳】
マリファナの煙の中で我を忘れている
ノースカロライナ州の若い男(=J.Cole)は、居心地の悪さを感じている
母親の再婚相手の父親は、浮気相手の女との間で子どもをつくった
ママは、まだその傷から回復しちゃいない
俺を12時に呼びつけて、ばかみたいに酔っ払っていて、俺は動揺している J.Cole - Once an Addict (Interlude)

その他にも、SNSで写真に映っているだけの名前も知らない相手に恋をしてしまう、現代のいびつな恋愛感情を描いた「Photograph」、ドラッグ中毒を浮気に例えて表現する「Kevin’s Heart」など、中毒をテーマにした楽曲が並びます。

こうした中毒を、J.Coleは現実逃避だと考えました。そして、現実逃避に走らないためには自分の中にある嫌な原体験と向き合い、打ち勝たなければいけないと訴えます。

FRIENDS」では、野心がなくて、政治や環境のせいにするばかりの地元の人たちに対して、J.Coleがかつては苛立ちを覚えていたことが打ち明けられています。

And I hate it for my niggas 'cause they ain't got ambition
Fuck did you expect, you can blame it on condition
(中略)
What I'm tryna say is the blame can go deep as seas
Just to blame 'em all I would need like twenty CD's

【意訳】
俺は、野心のないやつらが嫌いだった
何を期待してるんだ、環境のせいにでもしてろよ
(中略)
俺が言いたいことは、何かのせいにして潜っていけば、深海にだって行けるだろうよ
何かのせいにするだけで、アルバムが20枚だってできるだろう J.Cole - “FRIENDS”

しかし、そうした野心の無さや後ろ向きな態度をいったん横に置いて、愛する友人たちに伝えたいことがあると述べるJ.Cole。

彼が薦めるのは、瞑想をして自分と向き合うことでした。

One thing about your demons they bound to catch up one day
I'd rather see you stand up and face them than run away
I understand this message is not the coolest to say
But if you down to try it I know of a better way Meditate

【意訳】
お前の中に潜む悪魔は、必ずお前をいつか捕まえる
だから、俺はお前が悪魔から逃げるよりも、立ち向かうのを見たいと思っている
これはあまりクールなメッセージではないと分かっている
だけど、ドラッグを使いたいほどに落ち込んでいたとしても
もっといい方法がある、瞑想することだ J.Cole - “FRIENDS”

今回のアルバムでは、自らのアドバイスに違わぬよう、J.Coleは自分自身の過去のネガティブな体験とも向き合っています。

それは、母親のアルコール中毒の話もそうですし、自分の成功を妬んで嫌う人たちや自分が成功した後に利用しようと近づいてきた人たちの話であったりします。

I had to cut some people off 'cause they was using me
My heart is big, I want to give too much and usually
I send the bread and don't hear back for like two months now
You hit my phone, you need a loan, oh I'm a crutch now

【意訳】
俺を利用しようとする何人かの人間を、俺は切り捨てなければならなかった
俺は心が広いから、人に与えすぎてしまう
だから、いつもお金を送ってあげるけれど、その後は2ヶ月以上も連絡がなくなる
お金を借りたいときだけお前たちは電話をしてくる、俺は松葉杖なんだな J.Cole - “The Cut Off”

進化を続けたJ.Cole

J.Coleのつくるビートはパーティー向きではないけれども、歌詞の内容に耳を傾けやすく、ヒップホップを感じさせるものです。

そして、彼の描くストーリーは、ぶっ飛んだ経験というよりも、身近な経験をもとにした自己開示や内省に満ちているため、ストリートという枠を超えて、多くの人が共感して自分の人生に取り入れることができる教訓へと昇華されています。

J.Coleの楽曲「Crooked Smile」の歌詞を大胆にサンプリングしたことで賛否両論を呼んだWHITE JAMさんの楽曲「最高欠作」が日本人の心にも通じたということからも、J.Coleの書くリリックがいかに普遍性を持つかが伺えます。 J.Cole7 時には憧れのアーティストを失望させながらも真面目に成功を追ってきた時代を経て、本当の幸せとは何かという答えにたどり着いた『2014 Forest Hills Drive』。

ストリートで生きる男の姿と愛情を映画的に美しく描いた『4 Your Eyes Only』。そして現代人の中毒性と内面のトラウマという精神的なテーマと向き合った『KOD』。

今や33歳のJ.Coleは、自身を人間として成長させながら、それにあわせてアルバムで取り扱うテーマも進化させてきました。だからこそ、リスナーたちが歳をとって大人になっても、卒業せずに聞き続けることができるラッパーであり続けたし、気付けば稀代のラッパーとなっていたのでしょう。

ミーゴスやドレイクといったマスにアピールできるラッパーたちが快進撃を続ける中で、以前の連載で紹介したケンドリック・ラマーや今回のJ.Coleといったコンシャスなラッパーたちも負けず劣らずの黄金期を迎えている今のアメリカのヒップホップシーン。

そこには、充実した多様性が確保されており、まさに楽しみどころ満載だと言えるのではないでしょうか。

過去の連載記事や『洋楽ラップを10倍楽しむマガジン』も、よければチェックしてください。

それでは! RAqでした!

洋楽ラップを100倍楽しむ!

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RAq // ラック

ラッパー

インターネット上に公開された楽曲やミックステープにおいて、独特なフロウや言葉選び、キャッチーな曲作りなどが話題を呼び、2014年に『Lost Tapes vol.1』をリリース。iTunes HIPHOPチャートで最高2位を記録。『Lost Tapes vol.2』を経て、2017年11月に1stアルバム『アウフヘーベン』をリリースした。累計セールスが36万枚を超える『IN YA MELLOW TONE』シリーズにも継続的に参加している。
RAq公式サイト(外部リンク
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この記事へのコメント(1)

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今回は『KOD』が出る直前にRAqさんから「J.coleを総合的にきちんと書いた記事が日本語ではまだないですよね」とご提案いただいたことからはじまりました。デビュー以来5枚のアルバムがすべて全米チャートの1位を獲得している稀代のラッパーにもかかわらず、です。

実際、日本のレーベルサイトなどを見に行っても『ボーン・シナー』(2013)でリリースが止まっていることになっていたり、アーティスト写真すら掲載されていなかったりで本当に驚きます。時間があれば検索してみてください。

あとは記事を読んでいただければ一目瞭然なのですが、日記のように写実的なリリックを残すJ.coleだからこそ、どこから読んでもキュートさが溢れています。僕はこのリリックがグッときました。

When he said he was a fan it was too hard to understand
(そしたら、彼=NASは、俺の音楽のファンだって言うんだ、俺は状況を把握するのが難しかった)

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