とんねるず木梨憲武インタビュー 居場所のない“おっさん”はどう生きればいい?

木梨憲武さんにインタビュー「おっさんに共感しますか?」

──本日は、木梨憲武さんが「おっさんレンタル」サービスで“借りられるおっさん”を体験してみるという企画に同行させていただきました。

木梨憲武(以下、木梨) 今回、フジテレビの『ノンストップ』の企画でやらせてもらったんだけど、内容は『おかげでした』みたいな流れになったから、(同番組の企画「男気じゃんけん」を繰り返した結果)俺の出した金が多くなって、結局俺は1000円しか儲からなかった(笑)。 逆に「おばさんレンタル」とかがあっても面白そう。今の世の中、こんなふうになってるんだね。全然知らなかったけど、俺も今度そっちにいってみようかなー。

今回、俺もそんな「おっさんレンタル」に少し参加させていただいた気が……してないんです(笑)。だって、ロケも地元の祖師谷だったから、レンタルされてるけど、こっちがおっさんを案内する感じだったし。(木梨さん自身が取材許可を取っていく流れなどが)『おかげでした』の「アポなし旅」みたいだった。

(木梨さんをレンタルした古賀さんも)最初はアガってたけど、後半は馴染んでグイグイ来るから、危うく彼の子どもを迎えに行くところでしたよ。俺をなんだと思ってるんだ!(笑)

古賀さんに、家族写真を見せられる木梨さん

──(笑)。この企画は主演映画『いぬやしき』のPRでしたが、そもそも原作は読まれましたか?

木梨 もちろん。映画の話をもらった時は7巻くらいまで出ていたんですけど、あっという間に読んで。迫力のある画とキャラクターに日に日に興味が出てきて、(最終巻の)10巻まで単行本が出るたびに読みました。
映画『いぬやしき』【予告】4月20日(金)公開
──木梨さん演じる『いぬやしき』の主人公・犬屋敷壱郎(いぬやしき いちろう)は、家でも会社でもうだつの上がらない58歳のしがないおっさんです。壱郎に共感できる部分はありましたか?

木梨 犬屋敷は定年を前に、家庭でも会社でも「まいったな……。どうしようかな……」の連続で、世間でいう“おっさん”。

子どもが喋ってくれなかったり「お父さんと洗濯物を一緒にしないで」とか「お父さんの後のお風呂は嫌だ」って言われて、犬屋敷は家の中でおとなしく小さくなってる。俺も、やれお父さんの加齢臭だの、歯を磨けだのトイレ行ったら手を洗えだの、10代半ばに細かく言われるわけじゃないですか。だけど、木梨家の場合、娘がヒイててもグイグイいくタイプなんだよね。

「あれれ〜、お父さんにそんな口の聞き方、いいのかな〜?」なんて言ったりして。それで娘が諦めて半笑いになったら、俺の勝ち。

そういう木梨家の教育方針や「親としてそれでいいのか?」っていう審査は、妻である(安田)成美さんがやってくれていて。木梨家では、そんなふうに子どもとコミュニケーションをつくってます。

だから、正直犬屋敷も「もっとグイグイいっちゃえばいいのに」って思いますよね。

──お子さんから疎まれることに、心が折れたりはしないのですか?

木梨 しないです。だって、ついこの間まで子どもと殴り合ってましたからね。親というより兄弟みたいに、俺がどんどん小学生とかに戻っていってる(笑)。

一方で、ママは子どもに「お父さんがお金を稼いで、ご飯を食べてるんだ」って言ってくれてたりしています。演歌番組が見たい俺とバラエティを見たい子どもでチャンネル争いがあった時とかは、俺も「誰がこのテレビを買ったと思ってるんだ!」とか言いますよ。渡辺真知子さんの歌で感動してる最中に、チャンネルを勝手に回されたりしたら、それはもうね。

「野猿」の経験 おっさんも“光”を探さないといけない

──『いぬやしき』は、主人公でありヒーローである犬屋敷壱郎がおっさんという、なかなか珍しい作品です。現在、ネット上では「おっさんは、以前よりも地位が低くなった」という議論もあります。

木梨 なんでなんでしょうね? オシャレをしたおっさんは少しは歩いてる気がするけど、銀座、新宿、原宿だの渋谷だので、最近おっさんの塊って見ないですよね。俺が行く渋谷の場外馬券所とかでしか見ない(笑)。

おっさんは平日働いているってこともあると思うけど、メジャーな街で自信満々に歩いてるおっさんって確かに少なくなってる。おっさんの喜びや悲しみを取り上げる、“おっさん活動”を立ち上げたいですね。

──とんねるずは90年代末に、『とんねるずのみなさんのおかげでした』番組スタッフらと共に、音楽ユニット「野猿」を組成し、テレビ業界で働くおっさんたちにスポットを当ててアイドル的人気を博すことになりましたよね。

木梨 テレビの裏方のおっさんを選抜して、持ち曲をつくって、振り付けを全員一緒に練習するなんてこと、まずないよね(笑)。

でも、やつら(野猿のメンバー)も日に日に燃えてくるんですよ。最初は、振り付けを覚えるのもえらく時間がかかったのが、あっという間に覚えるようになっていった。ライブでも、お客さんとのコミュニケーションやサービスとかもできるようになったり。

人って、やらないよりも何かやっていたほうが動けるんですよね。それまではすげー疲れてたのに、(野猿をやるようになって)全然疲れなくなったとか。動いてるから酒も美味いとか、すべてが良い方向に向かう。あの時代はそうでした。

ただ、何かのタイミングがないと、普通のおっさんが急にジャズダンス始めよう、ヒップホップを踊ってみようって思わないよね。釣りだったりゴルフだったり、テニス、競馬……とかいろいろあるんだけど、おっさんは体力もないし、「膝が痛ぇ」「目が見えねぇ」ってなる(苦笑)。

あと一番大事なのは、やっぱり睡眠。寝ないと次の日絶対何もできなくなる。ウトウトしてコタツで寝てるうちに夜になって酒飲んだら1日が終わって……おっさんはそういう悪循環になっちゃうからね。 ──ただ、木梨さんご自身は、俳優業やアーティスト活動だったり、多趣味だったりと、かなり活動的な印象です。

木梨 いやいや、スキあらば俺もおっさんだから……飲む時も、次の日の仕事を見計らってはいるんだけど。急にテンション上がってきて馬鹿みたいに飲んじゃって、次の日に使い物にならなくてただ夕方を待つ、っていうこともある。

──生きる意味を見いだせずに日々を無気力に生きるようになってしまう、というのは、まさに犬屋敷もそういったおっさんだったのかな、と。

木梨 犬屋敷壱郎は、ある“光”からすごい力をもらうわけなんですけど。普通のおっさんも、光を探していかないといけないんですよ。その光っていうのは、ドキドキするような恋なのか、スポーツなのか、友なのか。

何か今まで出会ったことがないものと出会うと、前向きになるでしょう。自分の燃えられるものがあるおっさんは元気だし、いい方向に向かえるんだけど。

──木梨さんの場合、そういったエネルギー源としては仕事が大きいんですか?

木梨 いやいや……ただ、『いぬやしき』は二ヶ月間毎日撮影があって、規則正しい生活になったし、身体も動かして良い流れになってましたね。楽しくてしょうがなかったから、前向きなルーティーンが出来てたかな、と。

自分たちがやってきたスタイルしかできない

──(編集・新見)社会的に、おっさんが生きづらくなったという空気があるからこそ、“おっさんがヒーローになる”という『いぬやしき』という作品は成立しているのかもしれません。一昔前はおっさんが社会を回していたけれど、中間管理職のおっさんは上と下から板挟みで、何か発言するにもパワハラやセクハラに気をつけないといけない。今、おっさんの生きづらさが叫ばれている風潮もあります。

木梨 いつも「これは言っちゃダメなんだっけ?」って確認しながら、っていうのは苦しそうだね。ただ、テレビのつくり方もそうだし、時代的なものは一緒なのかな。 ──というと?

木梨 俺たちは自分たちがやってきたスタイルしかできないから、それをやり続ける。「これを言ったら怒られる」とか「こういうことをやっちゃいけない」っていう、テレビの中でのルールがあるなら、生放送じゃない限り、監督やディレクターがうまくつくればいいだけだから。そこは「ちゃんと切っておいてね」というのは言ってます。

それもしないで野放しにされて、俺が文句を言われても……「だから、言ったじゃないかよ、俺」って。

──ただ、世の中のおっさんには監督やディレクターが不在なので、言っていいかどうかの判断もつかないのではないのかな、と。

木梨 今は「パワハラ」とか「セクハラ」をテーマに、酒を飲む会が多いかも。それで別にどうなるわけじゃないけど、どうしてもそういったテーマに触れながら、日々反省と確認をし合って、同じ話ばっかりをしながら酒を飲むっていう。俺らもおっさんだから、ある意味ね。

──木梨さんご自身は生きづらさを感じたりは?

木梨 ないない。それで文句言ったってなんにもならないんだから。そこで暮らしていくしかないんだし。バラエティなのにパワハラとかセクハラだって強く言われたとか、「テレビなのにこれで捕まるの?」ってことにはなっていないからね。今のところ、そういうのはまだぼんやり穏やかだから。

結局、考え方は人に依るじゃない。だから、誰かに何か(文句を)言われた時に「いやいや、出ました〜!」なんて返す人と、少し言われただけで死んじゃいそうになってる人もいる。アドバイスってほど格好いいものじゃないけど、後者の考え方をするおっさんが横にいたら、俺なら「なんで、そうなっちゃうの?」って言うもん。「だからさ、神棚の水は毎日換えろって言ってるじゃねーか!」って言ってあげるね。

──犬屋敷壱郎は、どちらかと言うと後者かもしれません。

木梨 俺が犬屋敷壱郎と飲み仲間だったら「どうした? 2個上の先輩?」って言うね(笑)。

『いぬやしき』でも壱郎はもう58歳なのに、家族のためにローンを組んで家を買ったわけですよ。そしたら、家族は「何ここ、小さい」とか言う。俺だったら「小さくねーじゃねーのよ! 大変な思いして買ってるんだから、そんなに強く言わないでよ〜」みたいに言ったりね。壱郎はそうは言わないんだよ。俺は「言えー!」って思ってるんだけど。

テレビを見ずにYouTubeを見る子に「止めろ」って言っても無理

──壱郎は、子どもとのチャンネル争いにも負けてそうですよね。ちなみに、木梨さんのお子さんの世代となると、テレビよりもYouTubeを見るという人も多そうです。

木梨 みんな、そうだよ。うちの子どもたちもテレビは基本見なくて、さまぁ〜ずが出てる番組しか見ない。さまぁ〜ずの2人だって、おっさんなんだけどさ。でも、とんねるずと一緒にさまぁ〜ずが出てると、(その番組は)見ないんだよ。「とんねるずに気を使ってるさまぁ〜ずを見たくない」って言って。いや、見ろよって!(笑)

──木梨さんはやはり“テレビの人”というイメージが強いのですが、自身のお子さんがテレビから離れている現状をどのように見ているのですか?

木梨 俺らの時にはなかった選択肢がいっぱいあるんだから、それを「止めろ」って言っても無理に決まってるよね。流行っちゃってるんだから。

そこで自分の好きなことを見つけるとか、得意なことを探すとか。この人すげーなって人と出会ったり。これやりたい、あれやりたいとかとかを探して、その上で給料もらいながら、稼ぐ人、稼がない人、色々分かれていくと思うんだけど。俺がブツブツ言って押し付ける気はこれっぽちもない。「お好きなことをどうぞ」って。

──今を否定しても仕方がない、と。選択肢自体は増えているわけで、そういったツールを活用して、おっさんも自分が燃えられるものを探したほうがいいのかもしれません。 木梨 おっさんたちは新しいことを始めるのに、面倒くさくなっちゃうんだけどね。東京はざわついてるから、田舎に移ってみようとか。そんな選択肢もありだと思うし。家族だったり、貯金状況とか自分に残された寿命とかも考えてね。長生きしたい人はばりばり健康管理するだろうし。もういいよって人は、俺みたいに一回も検査に行かなかったり。

ただ、検査が大好きなおっさんもいるよね。そうやって、普通のおっさんは病気自慢と薬と健康の話をするのが趣味になっていく。だって、そこに一番興味があるから(笑)。長嶋一茂なんて、俺より年下なのに、ビタミンとかサプリとか医者よりも知ってるんじゃないかってレベルで詳しい。

ほかにも、(友達の藤井)フミヤもお寺と神社に関しては知らないことないくらい。フミヤはそういうのと本気で向かい合ってるから、神社でやるライブなんか見に行くと本当に鳥肌が立って、「かなわないな」って思う。

そういう「やっぱすげーな、この人」っていうおっさんはそれぞれいますよ。先輩たちにしても笑福亭鶴瓶さんや水谷豊さんだったり。所(ジョージ)さんにしても、あれだけテレビに出ながら、土日はプラモデルのサビさせ方を研究したり、YouTubeに新曲を上げ続けて、そこでは政治的なメッセージを込めていたりしてね。
所ジョージ 最近の唄92 HELMETをかぶって
──今、生きづらさを感じてるおっさんも、腐っているのではなくて、そういった部分を見習うといいかもしれない、と。最後に、『いぬやしき』を楽しみにしてる方に向けて、メッセージをお願いします。

木梨 (映画の)スタッフに聞くと、我々と同じような40〜60代のおっさんって、出不精で映画館に向かわないみたいなんだよね。面倒くさくなっちゃう気持ちは、俺もおっさんだからよくわかる(笑)。でも、『いぬやしき』は“おっさんの映画”なんで、まずはこの映画を見て何かを感じてもらって、「よし、これを始めよう」って動くことにつながっていけばいいかな、と。

ただ、『いぬやしき』を見たおっさんは、こう言うと思うんだよね。「気持ちはわかるけど、普通おっさんは空を飛べねーでしょうよ」ってさ(笑)。まぁ、そこは映画、エンターテインメント・ショーなんで。

それと、『いぬやしき』はこの前“高校生限定応援試写会”をやって、高校生が「佐藤健くんー!! 獅子神ー!」って声と一緒に、「じじい、頑張れー!」って大騒ぎして見てるわけ。これ、誰かスタッフが言わせてるでしょ、とか思ったけど(笑)。そんなふうに、ジャンル的には高校生からおっさんまで楽しめる作品です。

みんなに見ていただけたら、少しはアメリカ映画に近づけるのかな、と。まぁ、それはうちら(製作委員会の)東宝、フジテレビサイドの話なんですけどね。

──(笑)。楽しみにしています、本日はありがとうございました。

プロフェッショナルが語る社会

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