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悪魔王子にしか効かない大技

先攻のじょう君は、「フリースタイルダンジョン」で楽屋が一緒だったこともあって、「ダンジョン」での僕の不甲斐無さをディスるところから始めた。

まあ、一番言われたくないことを真っ向から言われた感じだった。彼との性格の悪さの競い合いはギリギリまで判断力を要した。

後攻の僕は覚悟を決めて、アンサーを全く返さないという結論を出した。言われたことに対して無視するというのは、ネット上で悪口を書かれたりした経験のある人ならわかると思うけど、結構なストレスである(というか、のちに動画として形になった時に「全然アンサー返してないじゃん!」って書き込んでくる奴が一番のストレスである)。

自転車盗まれた」僕が話したのはこれだけだ。これはこの日の朝、僕の身に起きたリアルな事件に対してのリアルな憎悪である。

じょう君にではなく、自転車泥棒に怒りをぶつけることによって、彼のカウンターパンチを回避する他なかったのである。 ハハノシキュウ 例えば「お前だってダンジョン全然かませてなかっただろ」なんて言っていたら、おそらく倍の倍のディスで返り討ちにされていただろう

じょう君の先攻2本目のラップも、核心を突きつつ韻も踏んでいてお客さんも大いに沸いていた。

だけど、僕が自転車の話をしたことによってその攻撃力を多少なりとも下げることができたと思った。

僕が彼の言い分に怒りを露わにしたら「じょうの攻撃がハハノシキュウに効いてるぞ!」となるのだけど、僕の怒りはあくまで自転車泥棒に向いていたため回避できたのだ。

後攻2本目も同じように自転車の話をして受け流したが、ラップのクオリティー的にこのままでは延長になってしまうし、延長だと勝てないと感じていたため確実に勝てるラインが必要だと思った。

その条件を満たすのは、じょう君にしか当てはまらないディスだ。それでいて大箱で大技に見える脚韻だ。

悪魔王子

じょう君と言えばこのフレーズである。「フリースタイルダンジョン」における彼の二つ名が「浪速の悪魔王子」であるように、彼には「悪魔王子」という言葉が浸透している。多分、彼は悪魔王子で100種類くらい韻が踏める。それくらいにお家芸にしているワードだ。

そんな彼でも思いつかない韻を1個でも吐ければ勝てると僕は直感的に思案していた。

この追い詰められた最終局面で僕が吐き出したのは、このラインだった。「俺が怖いのは、サクマタケシ(KEN THE 390さんの本名)」

相手が悪魔王子のじょう君で、ハハノシキュウが過去にKENさんに言われたラインからの引用である。その上でハハノシキュウ自身が言わないと面白くない、かつ過去の「戦極」で生まれたラインの続きという、かなり狭い発動条件の脚韻(踏み外しではあるが)だったが、これがなんとか成功したと思った。
戦極MC BATTLE 第13章(15.12.27) KEN THE 390 vs ハハノシキュウ
その結果、なんとか彼に勝つことができた。

のちにステージ裏で、じょう君と答え合わせみたいな会話をしたが、お互いに同じようなことで悩んでいたと気づく。会話をするべきか、相手にしないべきか、とか。僕はこの心理戦がどこまでお客さんに伝わったのだろう?なんて思ったりした。

そして、そこには怒りや憎しみは別になかった。

僕たちはもう友達なのかもしれない。MCバトルを続けるというのはこういうことの積み重ねなのだ。

こっちだって馴れ合いがしたいわけじゃない。表向きヘラヘラしてるけど腹黒い、それでいいと思う。

だけど、その上で「もう少し命懸けでやりたいなあ」って感じたりもしていた。

ロボットの言葉じゃ人の心は動かせない

だから、AmaterasとBATTLE手裏剣の試合によって多くの人が、それこそ試合を観てもいないTwitter等でそれを知っただけの人も含めて、数多の感情の波を揺らしてしまったってこと、それがこの大会に印象を残してしまったのは必然だったと思う。

彼は、ラウンドガールを引き連れ、アシスタントと思しき人間から縄跳びを受け取り、「韻」と書かれたパネルを床に置いた。

BATTLE手裏剣が「八っちゃん、小道具いいの?」と八文字さんに聞く。そこでの八文字さんの回答はYESだった
AmaterasとBATTLE手裏剣

AmaterasとBATTLE手裏剣

この試合での、不快感、怒り、冷笑、同情、歓喜、嘲り。多くの人間の感情が動いたのは間違いなくて、Amateras本人は絶対にそこまで見越して皮肉を用いたわけではないのだけど、結果として表向きヘラヘラしていた僕らを感情的にさせた(意図としては「韻」と書かれたパネルを縄跳びをしながら踏むという皮肉であり、ラップをしなくても韻が踏めるという表現だったと思う)。

対戦相手のBATTLE手裏剣が1番感情的だった。この日、誰よりも人間らしかったのは彼だったと思う。一言も発しないままバトル中に試合を放棄して帰っていったのだ。

彼がステージ裏でブチ切れてる様子を見て「あれが人間で、僕はロボットだったなぁ」と思った。

この試合に関しては様々な人が自分の持ってる意見を述べていて、良くも悪くも今大会の話題の中心点として位置してしまっている。 そのため、僕もこうやって描写だけに時間に割いていては無感情なレポートになりかねないこともあり、個人的な意見を少しだけ言っておく。

Amaterasのパフォーマンスは非常にナンセンスだったと思う。なぜなら、即興じゃないからだ。“用意してきた韻”を踏んでいただけ、MCバトルの文脈においてこれほど稚拙なパフォーマンスがあるだろうか? それが僕の見解だ。

ただ、Amaterasは人から“殺される”覚悟は持っていた。少なくともこの日、僕よりは命懸けだったと思う。
戦極MCBATTLE

ハハノシキュウ対SIMON JAP

そして、2回戦では僕とSIMON JAPさんとの再戦が決まっていた。はっきり言って怖かった。怖かったはずなのだが、あの人に対する信頼みたいなものがあった。

僕とSIMON JAPさんの勝負がMCバトルの枠のおさまらない喧嘩に発展することを望んでいた不誠実な観客もいたかもしれない。

だけど、僕はそういう尾を引くような試合をしたいなんて思わなかった。

ちょっと昔の自分だったら「そこまで身を削ってやってこそのバトルだ!」なんて言えたかもしれないが、今の僕はもう生理的に、普通にラップで闘って普通に勝ちたいと思っていた。

普通に勝てるように工面して、勝つこと以外の余計な情報は排除した(僕は試合の判定に一切関係ないただの悪口や、マニアックな小ネタを入れたくなる癖がある)。

“殺しに行く”ではなく、純粋に“勝ちに行く”試合をしたのだ。

だから、という接続詞が適切かどうかはわからないが「戦極17章」という大会そのものは“勝ちに行く試合”が多かったせいなのか、平均してクオリティーの高い試合が多かったと思う。

一戦一戦のレベルは間違いなく章を重ねるごとに上がっていると思う。

これはDVDで何周も楽しめるタイプの大会だ。ベストバウトの金太郎飴だ。

クジで決まったはずのトーナメント表は視聴者を飽きさせないように常に好カードが回ってくる塩梅だった。どのブロックもそこだけで一つの大会が開けてしまえるような面白いバラけ方をしていたように思う。

僕の見解では今大会の優勝を決めたのは人間臭さだったと思う。MCバトルへの参加に慣れてしまい、定石通りに“勝ちに行く”だけの試合運びでは人の心を動かしきれないってことがよくわかった。

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この記事へのコメント(2)

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匿名のユーザー

匿名のユーザー

最高に面白かった、やっぱ文才ありますねハハノシキュウさん

匿名のユーザー

匿名のユーザー

MCバトルごときで殺すは大袈裟かと

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