「CINRA.NET」の編集長に、KAI-YOU編集長と元代表が1万字インタビュー

「ロック」の括りからこぼれ落ちてしまう音楽の受け皿

──今後CINRAにとって、イベントは大きな位置付けになっていくのかなとお話をうかがっていて感じました。

柏井 そうですね。この10年間である程度の形にはなって、社員も60人ぐらいまで増え安定しようと思えばできるかもしれませんが、今の時代は動きが早いので、安定しようとすると取り残されて死んでいく。そういうモノコトヒトをこの10年間山ほど見てきたので、チャレンジすることはメディアとしても重要で、イベントはその一つです。

音楽雑誌がフェスをやる事例はありますが、ジャンルレスなWebメディアによるカルチャーフェスとなると、先行事例は多くない。

実は「NEWTOWN」とは別に、もう一つ新しいイベントもやっていくつもりです。これは有料ですが、音楽を軸に、ちょっと他では見られないものが見られるフェスにしていきます。今、「他では見れないもの / そこでしか体験できないこと」が求められていると思うので、メディアの編集的視点から、アーティスト同士の新しい出会い、新しいクリエイティブが生まれるような企画をして、CINRAがやりたい「きっかけづくり」を形にできればと思っています。

──それは楽しみですね。そして、ジャンルレスとは言え、やはり柏井さんにとって、あくまで軸は音楽であるように感じました。

柏井 僕にとって、音楽は常に柱なんですよね。「音楽を盛り上げたい」というのが1番の原動力になってメディアづくりをしてきたし、CINRAとしても今、アクションを起こすべき時期に来ている。

CINRAって音楽を扱うメディアとしては完全に後発じゃないですか。音楽メディアといえばメインはロック誌だったし、僕も好きで読んでいたけど、CINRAとしてはそことは違うメディアづくりをして、いわゆる「ロック」の括りからこぼれ落ちてしまう音楽の受け皿として、少しは機能してきたと思っているんです。

それで今、「フェスロック」的な流れが落ち着いて、逆にCINRAが取り上げてきたアーティストたちが、第一線に躍り出てきた。完全に時代が変わって、ひっくり返るタイミングが今なのかもしれないと思っています。

「緩やかなキュレーション」の重要性

──『NEWTOWN』の「DIYによる文化祭」という話も、『exPoP!!!!! Vol.100』でユーザーと一緒につくるクラウドファンディングを選んだという話も、柏井さんにとって「みんなでつくる」というのがキーワードになっているように感じました。

柏井 そうかもしれないですね。価値観やシンパシーを共有できる人たちで、回数を重ねてつくりあげるものが、今すごく力を生んでいくんじゃないかと思っているんです。日々いろんな取材をしていても感じています。SNSが誕生して10年経って、情報をフローさせる先の新しい何か──コミュニティーなのかネットワークなのか──の価値が改めて再起している。そっちの方が単純に楽しそうですしね。

シンパシーや熱量をどうやって形にするのか。その一つが、クラウドファンディングだと思っています。『exPoP!!!!! Vol.100』の優先入場券も、価格が高い順に埋まっていって、その熱量の高さがちゃんと反応として表れています。熱量が高まりやすくつながりやすい時代だからこそ、それをうまく組織する人が求められているような気がしますね。

──組織すること、まさに先ほどから出てきている「キュレーション」ですが、メディアやイベントにおける運営側の恣意性であるキュレーションと「みんなでつくろう」という理念は、噛み合うと思いますか?

柏井 そこは大丈夫だと思っています。『NEWTOWN』でも、信頼しているチームが呼んでくるフードの出店者は、絶対に僕のストライクゾーンに入るという信頼があるから成り立つ。そのストライクゾーンを狭めてガチガチにキュレーションすればするほど、コアになりすぎて、僕がやりたいものとは離れてしまう。雑多だけど新しいものに出会ってほしいというのがCINRAなので。

「exPoP!!!!!」も、アイドルにバンド、ラッパーもいて、雑然としているけどそれを楽しんでくれる人が大勢いる。受け取る方の器も広がっているし、感受性は高いのだから、僕たちが信頼できる人を経由して良いものを並べた時、どういう文脈を見つけるのかは受け手に託します。

ただ、文脈を感じさせる仕掛けは考えないといけない。「何を持ってくるのか」も重要だけど、それ以上に「どう演出するか」が重要で、フードを食べにきた人が、イベント全体のカルチャーを感じて帰っていってもらえるよう、細かくディレクションしていく必要があるのかなと。

フード出店の方々に教えてもらったんですが、重要なのはどのフードカーが来るかではなくて、いかに良い飲食スペースがあるのかだと。たとえ最高のフードカーが集結しても、いいテーブルと椅子があって、気持ちよく食べられる場所がないと、思ったように売れないそうなんです。もちろん集めるもののクオリティーは保証しますが、そこを細かく指示するより、それをどう楽しんでもらうか。それが編集だと思っています。例えば取材相手を選べなかったとしても、それをどう編集するのかによって取材した人の面白さが違って見えるように。

──同じ人でも切り口が違ったら記事の内容は全然違うものになりますよね。

柏井 だから、信頼できる人たちが集めてくれたものを演出して見せていくスキルが上っていったらすごく面白くなると思って。まだ1回目なのでそんな簡単にうまくいくとは思ってないですけど。と言うか、野外開催も含めて初めてのことだらけで、ドキドキですけどね(笑)。

──「緩やかなキュレーション」というお話は面白かったです。気になることがあったら根掘り葉掘りするつもりでしたが、イベントには普通に遊びに行きたくなりました。ありがとうございました!
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イベント情報

『exPoP!!!!! vol.100』/『NEWTOWN』

『exPoP!!!!! vol.100』
日程
2017年8月20日(日)
時間
OPEN 14:15 / START 14:45
場所
東京都 日比谷野外音楽堂
料金
入場無料(2ドリンク別)
LINE UP
相対性理論/Yogee New Waves/Chris Cohen/シャムキャッツ/YOOKs(オープニングアクト)
※当日の混雑状況によって、入場できない場合がございます。ご了承ください
※クラウドファンディングにて入手可能の「優先入場権」をお持ちの方は、必ずご入場いただけます
※日比谷公園にれのき広場内受付テントで12:00から入場券配布受付を開始いたします
『NEWTOWN』
日程
2017年8月19日(土)〜20日(日)
時間
START 11:00 CLOSE 20:30
※ 雨天決行 / 荒天中止
LINE UP
フードマーケット『Gourmet Street Food vol.3』 by FOOD CART GASTRONOMIE
音楽市『INDIPENDENT LABEL MARKET:TOKYO』
カルチャーマーケット『Anonymous Camp』
古本市『MUSICIAN’S BOOKSTORE』 Powered by Kyash
『CINRA.STORE 似顔絵マーケット』
特設ステージ『NEWTOWN STAGE』(トークイベント、ミニライブを開催予定)and more!!!!!

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柏井万作

『CINRA.NET』編集長

1981年、東京都生まれ。2006年に取締役として株式会社CINRA立ち上げに参加。創業時から現在までカルチャー情報サイト『CINRA.NET』の編集長としてサイトの運営を行っている。カルチャーECサイト『CINRA.STORE』や入場無料の音楽イベント『exPoP!!!!!』、カルチャーフェス『NEWTOWN』などの立ち上げ&運営責任者を務める。
http://www.cinra.net/

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